元義妹、元義兄と仲直りする。
「今後、合コンは禁止です」
二人で人気のないところへと移動して、ようやく落ち着いた頃。れみの怒りがぶり返してきた。 プリプリと怒りながら改めて説教と開始し、禁則事項を述べていく。
「うん――いや、はい」
「お酒も禁止します」
「・・・・・・・・・はい」
「ゲームも遊ぶのも私以外とはダメです」
「どれくらい? でしょうか?」
「私の気が済むまでです。お義父様にまともな挨拶もできなかったではないですか。兄さんのせいで」
それは、正直俺だけのせいじゃないような・・・・・・・・・。
心の中で呟いただけのつもりだったけど、俺の邪な考えを察知したのか、ギロリと睨まれて為す術がない。なにより、今回だけだとれみに言われてしまった。だったらもう裏切れない。
「それから私以外の女性との連絡も禁止します」
「え!?」
「なにか?」
「そ、それは流石に困るというか・・・・・・・・・」
小田先輩をはじめとした同じ大学の人達も、なにかと連絡を取り合わないと実験や講義についてなにかと不便になる。中には学科全体で協力してする実験も試験もある。グループワークというもので、
「では携帯の中身を見させてもらいます。特に先輩とまりあのは重点的に。兄さんがまた女性と変なことをしないか」
「・・・・・・・・・はい」
なんか浮気した男ってこんなかんじなのかな?
ひたすら肩身が狭くて、自分にとってのプライバシーや権利や自由が失われていくのに反論の術がない。
けど、仕方がないとひたすら受け入れるしかない。
「それとデートも禁止です」
「いや、デートって。そもそもまりあちゃんとのあれだってデートなんて生易しいものじゃなかったよ」
今思い出しても、肝が冷える。
「それ以前にもしたことないし」
「したことない・・・・・・・・・?」
「ああ」
「ですが、女性と二人で出掛けたことが一度も?」
「それはあるけど、でもデートなんて色っぽいもんじゃないし。お互いになんともおもってない相手とただゲーセンいったり遊んだり」
「ではデートではないですか・・・・・・・・・」
「え、なんで?」
「異性と二人で出掛けているのなら総じてデートでしょう」
「ええ~~? 流石にそれは・・・・・・・・・」
「学校の友達もそう話していますが」
「え、そうなるの?」
男と女の認識の違いか? それとも高校生と意識している相手でも恋人でもない友達と出掛けたのもデートに含まれるの? 異性同士だとほぼすべてデートってことになるぞ。
れみだけの考えにしては、変に確信している言い方だ。
「じゃあ大学の子と買い出し帰りにファミレスに立ち寄ったときとか講義終わりに一緒にご飯食べたこととかも、休日の予定が合って他に遊び相手がいなくて一緒に遊んだことも、観たかった映画を先輩と観に行ったのもデートになる?」
「場合によりけりですが、嫌に具体的ではないですか?」
ギクリ。
「・・・・・・・・・今までしたことあるのですか? まりあと私以外の人と」
「・・・・・・・・・・・・」
「したんですね?」
「いえ、それは認識の違いといいますか只の友達としてって――」
「 し た ん で す ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・」
ひい、れみがこわい。
「なにをしたのですか?」
「え?」
「まりあと出掛けたときです」
「えっと、まず待ち合わせして買い物して映画観て。それで飯食って」
「買い物はどれくらいしましたか?」
「二~三時間くらい?」
「映画は?」
「二時間半だけど」
「食べたご飯の種類は? 値段は」
なんでそんなに細かく知ろうとするの?
「では今度私とデートするとき買い物は六時間付き合ってもらいます」
「ええ!?」
「映画も三本、いえ四本観ます」
「目が悪くならない!?」
「食事は朝、昼、夜とすべて兄さんに食べさせてもらいます」
「ちょっと待った待ってください!」
「なにか文句でも?」
「文句じゃなくって物理的に不可能じゃない!? 一日じゃ到底賄えないスケジュールだよそれ!」
「いたいけなJKを部屋に連れ込む人が今更常識を語るのですか?」
「連れ込んでないよ! いや、です! あの子がいつの間にか着いてきてて――」
「というかあのときまりあとどこにいたのですか」
「どこって押し入れだけど・・・・・・・・・あ。そういえばあの日れみもウチに来てたよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なにしてたんだ? よくわからなかったけど。俺の生活を採点してただけじゃなかったんじゃ?」
「こほん。そんな粗末な問題はどうでもよいとして、兄さんに拒否権はありません」
スルーされた。
「なにか?」
「いえ、なんでもありません・・・・・・・・・」
いまいち納得ができなかったけど、嫌にこわい圧力を放つれみに為す術がない。
「そうだ、まりあちゃんといえばどうする?」
「どうするとは?」
「仲直りしないのか?」
「私からは頭を下げるつもりはありません」
「ちょ、それは――」
「元はといえばまりあが悪いのです。それに普段から腹をたてていたのも本当です。メッセージを送ったのに何時間も返信がこないし心配していたのに、翌日寝てたとかお風呂に入ってたと笑って流しますし。なのに私が逆にやると拗ねますし。やたらと記念日を作りたがりますし。機嫌が悪いからどうしたのかと聞くとなんでもない! と怒りますし」
なんかめんどくさいカップルみたいだな。話聞いてると。
「それに、私と兄さんのことを否定されたのが一番嫌でした。一番のお友達だったのに、あんな風におもっていたのかってショックで」
「でも、それもあの子なりに心配で。元々俺のせいだし」
「いえ。いい機会です。これでまりあの悪いところを己自身で見つめ直してもらいます」
「まりあちゃんと一緒だな」
「まりあが? どういうことですか?」
「あの子、最初は意地になってたんだ。強がってたけど、仲直りしたがってた。れみも本当はこのままじゃ嫌なんじゃないか?」
だって、本当にもう知らん! ってなっていたら、まりあちゃんが謝ってきたら仲直りするなんて言わない。
まるで自分は悪くない! という子供っぽい主張だけど、裏を返せばれみも絶交したのは本位じゃないんだろう。謝ってきたら、なんて条件は付けない。
ただ意地になっているだけ。まだ頭に血がのぼっていて相手の悪いところが前面に出ているから拘りざるをえない。
客観的にだけど、俺にはれみとまりあちゃんがそう見える。
「・・・・・・・・・・・・・・・兄さんはどうおもいますか?」
「まずは、会うべきじゃないかな。会わないときっかけすら作れないし」
「それはそうですけど・・・・・・・・・」
「あ・・・・・・・・・・・・」
なんとなく。なんとなくだけど。自分で言ったことがそのまま俺に当て嵌まった。
今まりあちゃんとれみの二人は、俺と母親にそのまましっかりと重なる。
友達と家族。友情と家族愛。事情は違うけど、
母親との過去に拘りすぎていたんじゃないかって。母親の悪いところしか頭になくて、それで許せていない自分に。
「・・・・・・・・・そうか。そういうことか」
「兄さん?」
俺は健や先輩、そして他人からは今のれみみたいに見えていたのか?
こわがって、怯えていて、そして不安になっているれみのように?
「とにかく一度会おう」
だったら、余計このままじゃだめだろう。
俺が言えた義理じゃないけど。
「い、今からですか?」
「ああ。そうすべきだとおもう。れみが迷うのもわかるけど」
だって俺も一緒だから。
「大丈夫だ。なにがあっても俺が側にいる」
れみはそれから逡巡して、小さく頷いた。
まりあちゃんは俺と一緒にれみを追いかけていたけど、いつの間にか側にはいなかった。きっと体力が尽きて早々にダウンしてしまったのか。どこか別の場所で待っているのか。
でも、電話をしてどこにいるか伝えれば―――――
「って無理じゃないか・・・・・・・・・」
あの子には着拒されてた。連絡のしようがない。
それに、今のれみに自分から電話させるなんてできない。
「そうだ、健」
すっかり忘れていた健の安否確認と、それからまりあちゃんと連絡先を交換していたことを思い出して再び携帯を操作した。




