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元義妹、逃げる。そして親友が終わる

「まあぁ? 結果オーライやん? うん………」

「「「………」」」


 なさかこんなときにれみと遭遇してしまうなんて完全に予想外だ。健は動揺しまくっているし、まりあちゃんは気まずそうに俯いて誰も喋りだそうとしない。


「なにをしているのですか?」


 沈黙を破ったのはれみだった。既に冷静さを取り戻し、感情がないいつもの表情と雰囲気が、今は悲しい。それでも意を決して対話を試みる。


「れみ、あの――」

「ですから、なにをなさっているのですか健さん」

「え?」

「俺? え?」


 まさかの健への問いかけで三人顔を見合わせる。


「いや、れみ。あのな?」

「もしや騒ぎをおこしたのは貴方ですか? やめてください」

「いや、俺は付き添いで――」

「話がしたいんだけど――」

「貴方ももう二十歳を越えているのでしょう。それならばだらしのないおかしな行動は慎んでください。こちらが迷惑を被ります」


 完全スルー。

 

 俺が見えていないかのようなれみに、唖然とするしかない。


「なぁれみちゃん? 君が瞬に腹をたてているのは知ってるよ? まりあちゃんとも喧嘩したって」

「瞬? 誰ですかその人。知らない人ですが」

「「「………」」」


 どうすんの? 健の顔がそう語っている。


 いや、俺もどうすればいい?


「どこの上杉さんちの兄さんかは知りませんが、健さんの知り合いの名前を出されても私が知るわけないではありませんか」


 いや、言っちゃってんじゃん。


 苗字とか兄とか。


 なんてこった。


 この子は完全に俺をいない者扱いする気だ。例え目の前にいるとしても、俺の存在を完全に無き者にしている。


「れみ、ごめん! 本当にごめん!」


 慌てて俺はれみに頭を下げた。土下座でもせんばかりの勢いで。


「まりあちゃんと喧嘩するきっかけを作っただけじゃなくってれみに嘘をついちゃったこと! 本当にごめん!」

「……………」


 刺されていると錯覚するほどの冷たく鋭い視線が頭上からなみなみと注がれている。軽蔑、怒り、憤怒。徹底した負の感情を一身に浴びるほど厚く重く肩にのしかかる。


「なぁ、れみちゃん。瞬のことはこの際置いておくとしてさ。まりあちゃんとは話しないか?」

「どうしてですか?」

「なんでってさ」

「その人がどうおもっていようと私には関係ないのですから」

「ッ」

「おいおい………」

「だってもう他人です」

「っっっ」

「そんなこと言ってると――」

「れみ! 俺からも頼むよ! この際俺は許さなくてもいい! まりあちゃんと仲直りしてくれ!」


 れみに近づいて、叫んだ。


 ぴくりと、眉尻が反応を示した。


「まりあちゃんはお前と仲直りしたいとおもってるんだ! ただきっかけがなかっただけで意地になってるんだ! なぁまりあちゃん!?」

「え、それは………」

「本当はまりあちゃんだって


 ぴくぴく。連続で眉毛がしきりに動く。皮膚の下でなにかが蠢ているようだ。


「さっきの君を見てたらわかるよ! 後悔してるだろ!?」


 がっしりとまりあちゃんの肩を押さえてしまうほど必死になっていた。


「そ、それはそうっスけど………でも、心の準備が。それになにを話せばいいのか――」

「当たって砕けろダメで元々明日は明日の風が吹く! ネヴァギブだ!」

「私は帰ります」

「ちょ、待ってくれ!」


 れみを追いかける。このまま行かせてはだめだ。


「話を聞いてくれ!」

「聞くことなんてなにもありません。なにも聞きたくありません」

「じゃあ俺はいいからまりあちゃんと――」

「いい加減にしてくださいっっっっ!!!!」


 パンッッッ!!! 


 乾いた音が響き渡った。


 ヒリヒリする痛みと暑さ。いきなり頬が吹き飛ばされた衝撃。れみに引っ叩かれたのだとややあってから気づく。


「なんなんですか………どうしてこんなときにまで………」

「れみ?」


 れみは今にも泣きそうだ。キッ、と吊り上がった瞳は威嚇する小犬の獰猛さと可愛さを兼ね備えていて、表面がプルプルと涙が浮かび上がっている。


「どうしてこんなときにまでまりあを大事にするんですか………私などどうでもよいということですか………!」

「え、ちょ――。違う。俺はれみとまりあを仲直りしてほしいんだ。俺のせいで二人が絶交なんて申し訳ないし」

「なにも違わないでしょう!」

「だってそもそもは俺のせいだし。なのに俺が先にれみに許されるなんて」

「つまり兄さんにとって私はまりあの次ということでしょう! まりあのことが一番ということでしょう! つまり本当のセカンド・リトル・シスターは私ということでです! おめでとうまりあ! 今日から貴方が兄さんの一番です! とんだ笑い話です!」

「どういうロジック!?」

「私だけではないですか! いつも兄さんはそうです! いつもいつもいつも!」


 ああ、どうすればいいんだろう。


 もう仲直りなんてできる状況じゃない。れみは勘違いしてしまっている。


「健! まりあちゃん! お前らもなんとか――」

「うわ、なに? あれ修羅場?」


 いつの間にか人が集まっていた。


 ざわざわとした騒がしさ。通り過ぎる人が立ち止まり、好奇に惹かれた関係ない人たちが俺達に注目している。健とまりあちゃんは俺より早く気づいていたのか、あわあわと慌てながら、


「いや違うんすよ。俺只の付き添いで………」

「うわ、どうしよう………」


 懸命に

 

「もういいです! 私のことは放っておいてください!」

「ちょ、待って! お願いだから!」


 れみも自覚できたのか、拘束を振りほどこうとする抵抗が強まった。


「おい瞬! もうだめだこれ! 今日は諦めよう!」

「いや、そんなこと言っても――」

「れみちゃん! 君だって大変なことに――」

「やめてください!」


 ざわめきが大きくなった。


「え、あれ竹田さんじゃない!?」

「うわ、マジだ! なんで!?」

「あ、北条院も」

「「「ちょっとあんたらなにしてんだあああああ!!」」」


 れみと同じ学校の生徒なのか。数人のJKが人だかりを掻き分けて俺達の元へとやってきた。


「ちょ、ストップ! 違うっスこの人たちは別に――」

「竹田さんから手を放せ! この変態!」

「うを!?」


 力一杯に振り上げられた爪先に身の危険を感じて、れみから手を放して避けた。


 JKの攻撃は俺を掠めて隣にいた健―――

 

「ンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウッッッ!」


 の股間にクリーンヒットした。


「おらあああ! うちらの友達になにしてんだあああああ!」

「オラオラオラアアアアアア!」


「ンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウッッッ! ンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウッッッ! ンナウンナウンナウンナウンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウ!」


 うわ、えげつな………。


 連続で股間目掛けてキックしている。JK達に人の心はないのか? 執拗な股間の攻撃は身が竦んで見ているだけで股間がひゅっと内股になっちまう。


 あれじゃあ健(男として)が死んでしまう。同じ男としてどれだけ痛いか苦しいか。想像するだけでゾッとする。


「ちょ、お兄さん! れみが行っちゃったっス! 早く追いかけないと!」

「嘘?! もうあんな遠くに!?」


 まりあちゃんに促されると、もうれみの姿は明後日の彼方。今もとんでもないスピードで背中が遠ざかりつつある。


「い、行………け! 早く!」

「健!?」

「こいつまだ生きてやがった!」

「ンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウッッッ! 早く行け! ここは俺が食い止める、ンナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウッッッ! けどそう長くはンナ、ンナ、ンナ!」


 置いていけねぇよ! 男として!


「お兄さん! 早く!」

「けど!」

「瞬、お、お願い………なのよ?」

「けえええええええええええええええええええええええええええええええええん!!! くそおおおおお!!」


 健の死(男として)を無駄にしたいためにも、俺は走った。

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