元義妹、大いに昂ぶる。そして親友と話す。
なんで隠したんですか?
「怒られるとおもったからです」
なんで行ったんですか?
「俺の意志じゃありません。本当です」
それは私の両親に会う前にするべきことですか?
「………」
セカンド・リトル・シスターってなんですか?
「………………」
兄さん?
鬼だ。鬼がいる。
親父の話を聞いているうちに、れみから感情が消えていった。
瞳には生気が宿っているとはおもえない黒く淀でいて、
そしてブレーンクローから解放された俺の目の前で仁王立ちする。氷の冷気を身に纏い、心の底から凍えるほどの圧迫感と恐怖心を発している。
「頑張ったんだ俺………頑張ったんだ………」
「合コンをして高校生とお突き合いをすることにですか?」
「違うっっっ!」
「は?」
「いや、違います!」
「では私の友達を新しい妹にすることをですか?」
「それも違うっっっ! あんな妹いらない!」
「は?」
「ご、ごめん! いえすいません!」
「瞬………」
「お、親父………」
助けてくれ。親父ならわかってくれるんじゃないか。そう期待して、涙目で懇願した。
親父は憐憫に溢れた目を俺に注ぎながら俺の肩に手を置いて、
「お前が悪い」
血縁者からも見放された。
「兄さん………最低です」
「れみ君になんてお詫びすればいいのか。我が息子ながら情けない。なんのためにれみ君に嘘をついた」
「その通りです。やましいから嘘をついたのでしょう」
「怒られるから嘘をついたらバレたときもっと怒られると小さいときに教えたことを忘れたのか」
「私もそう教わりました」
地獄だ。
まさか実夫と元妹がタッグを組むなんて。ヘル・ミッショネル×も真っ青な息の合ったコンビネーション。的確にマスクではなく心を狩ってきている。
「汚らわしい」
「仕送りは減らす。反省しろ」
「本当にずびばぜんでじたあああああああああああああああああああ!!」
泣きながら土下座するしかなかった。
「許せません」
「そこを! そこをなんとか! もうしないって誓うから!」
「信用できません」
「このとおりです!」
「私とのデートをすっぽかしてこともあろうに合コンをして私の友達とデートをして部屋に連れこむような人をどう信用しろというのですか? それも嘘をついてまでなんて。しかも―――」
そこでれみは一旦言葉を切って、すうぅぅぅ、と息をおもいきり吸いこんだ。怒りの、悲しみのボルテージが昂ぶっていくのがわかる。それだけ俺のしたことはれみを傷つけたのだという自覚が――――。
「なに私を差し置いて血の繋がらない赤の他人をセカンド・リトル・シスターなんて呼ばせているんですか!」
そっち!?
そこ!? 一番の怒りポイント!
「なんですかセカンドって! じゃあ私は何番目ですか! 他にもいるんでしょう三番目も四番目も! なんですか兄さんは年下の子だったら誰でもいいんですかいえいいんでしょうJKだったら誰でも妹にしたいんでしょうなってほしいんでしょう! 別に私自身でなくても全員が妹なんでしょう! グレートマザー気取りですか兄さんは! いえグレートマザーにも失礼です! このグレートブラザー気取りの妹狂い!」
「だって名前で呼ぶとあの子に減点されるし――」
「だからって妹呼びする必然性なんてないでしょう!」
ダンッッッ!(床を踏み抜く音)
「ひぇ………」
「ま、まぁれみ君落ち着いて?」
「お義父様は黙っていてください!」
ダンッッッ!!(床を踏み抜く音)
「ひぇ………」
修羅と化したれみは手が付けられない。親父もあまりの迫力にとめようとしても、尻込みして俺と揃って竦んでいる。よくアニメや二次元に登場するヤンデレヒロインが発狂している場面のような危うさがある。
「兄さんはいつもそうです! 本気で私の両親に会おうというつもりもないんでしょう! どうせ大学でも野球拳とかしまくってるんでしょう!」
「そんなことない! 俺も先輩にお説教されて自分が間違ってたって―――」
「また小田先輩ですか! なんなんですか兄さんは! 小田先輩が叱らなかったら意味ないということではないですか! つまり兄さんは妹ではなく姉が欲しいということですか!」
なんでそうなる。
「なら私が姉になれば満足ですか! あの無駄に大きいおっぱいになれば満足するんですか! あの人よりおっぱいが大きくなればいいんでしょ!」
「お、おっぱいがおっきくなってもれみは俺の妹――」
「気安く妹扱いしないでください! そもそも私達はもう義兄妹じゃないんですから! 赤の他人なんですから! もうお姉ちゃんでもれみともザ・モスト・スィート・ラヴァ―とでも好きに呼べばいいでしょ! 私も兄さんをもう兄さんとは呼びません!」
れみは頭に血が上りすぎている。意味不明な言葉の羅列を叫んでいて意味を介している素振りはない。
「で? どこまでしたんですか。なにをしていたんですか。結局兄さんはまりあとどこまでいったんですか。この部屋でしたんですか。それとも外でしたんですか。兄さんはお外でってシチュエーションとか恥ずかしがらせるってシチュエーションが大好きですからね。ああ、そういえばあのとき缶ジュースがありましたね。ってあれもまりあが!? どこまでいったんですか!」
「いや、あのれみ。れみさん?」
「気安く下の名前で呼ばないでください!」
「お、お姉ちゃん?」
「私はあなたのお姉ちゃんではありません!」
「ザ・モスト・スィート・ラヴァ―?」
「う、うぐ………に、兄さん反省してますか!? なにふざけた呼び方してるんですか!」
ダメだ。手が付けられない。
俺が原因で俺が偉そうなこと言えた義理なんて欠片ほどもないのは重々承知しているけど、このままじゃいつまでも終わらない。
「………お。もうこんな時間か。すまんが明日も仕事だから早めに帰るよ」
親父が逃げようとしている!
「はい! おかまいもできず申し訳ありません! またいつの日か! お仕事お疲れ様です! おやすみなさい!」
「お、親父ちょっと待ってくれ!」
「生きろ」
親父がそそくさと部屋を後にして、縋るように伸ばした手の隙間からの零れ落ちるように親父が遠ざかっていく。玄関の扉が開けられて、そして閉められた。
残ったのは俺とれみだけ。途端に蛇に睨まれた蛙のように恐怖心が倍増する。
「今日という今日は堪忍袋の緒が切れました! そもそも――」
携帯が鳴り響いた。
れみは舌打ちでもしたいかのように睨みつける。出ることも切ることもできない。
無視をしているけど、いつまで経ってもコール音がやまない。れみの顔色を窺うと、顔を背けた。
「ごめん。切るよ」
携帯を取り出し操作しようとすると、意外な人物の名前が表示されていて、つい口から漏れ出た。
「まりあちゃん?」
携帯が奪われた。
反射的に手を伸ばすが、れみにこめかみをがっしりとホールドされてギリギリと締め付けられる。
「もしもし? まりあですか?」
【え、れみ?】
しかもスピーカーモードになっているのか、相手の話し声も聞こえる。
【あ、今お義兄さんと一緒なんだ】
「まりあ、なにしてるんですか?」
【ちょっと話があって。っていうかどうしたっスか? こわいっスよ?】
「まりあ。あなた兄さんとデートしたんですよね?」
【え………】
「しかも私と兄さんとデートする日にちを知っていたのに。わざわざその日に」
【あ(察し)】
電話口のまりあちゃんの動揺が伝わった。
「どういうつもりですか?」
【いや、どうもこうも………れみはその人のこと気に入ってるのかもしれないけど。あたしはその人のことダメな奴だっておもってるから品定めしたくて】
「品定め?」
【そ、そうそう】
「それはわざわざ私のデートと被せなくてはいけない理由にはなりません」
【それは………】
「もちろん一番いけないのは兄さんですが。それにしてもひどいんじゃないですか? 第一品定めってなんですか」
【それは………】
「兄さんももちろん許せませんが。まりあにも怒っています。デートのプランの相談も聞いていたではないですか。私がすっぽかされたって相談したときも慰めたではないですか。あのときどんな気持ちだったんですか?」
【………】
一方的なれみの正論に、まりあちゃんは満足に返答はできない。同時にきっと魔のショーグンクローってこんなかんじなのかもしれないってほど、俺のこめかみに食い込むれみの握力も強まり、頭蓋骨凹みそう。
「答えてください。約束を破ったことに対しても」
や、約束?
【ねぇ、れみ】
「はい。なんですか?」
一回溜息を吐いたあと、まりあちゃんはとんでもないことを口にした。
【そもそもさぁ。れみはなんでその人にそんな拘ってるの?】




