元義妹、元義兄とすれ違う。
一日が終わろうとしている。
いつもより長く感じたのは、色々とありすぎたから。
けど、まだ終わりじゃない。
先輩との約束を果たさないといけない。
【今大丈夫か?】
時間が遅いから、もう起きてはいない可能性が高い。メッセージを送って、
ものの数分で電話がかかってきた。
『もしもし兄さん。どうしたのですか?』
れみに嘘をついたこと。合コンに行ったこと。まりあちゃんと会っていたこと。先輩に指摘されて、これ以上れみに隠し事をすることは、れみを裏切ることだと改めて思い知らされた。
「大事な話があるんだ………」
『………』
罵倒されるかもしれない。説教されるかもしれない。これ以上ないってくらい嫌われるかもしれない。
けど、それもこれも俺が全部自業自得なんだ。
覚悟は決まっているのに、中々喋りだすことができない。そんな自分にイライラするけど、ついに意を決して告げようとした。
「実はれみに伝えたいことが―――」
『いえ。わかっています。兄さんが私になにを伝えたいのか』
「え?」
「………聞いたので」
聞いた?
一体誰に?
先輩が教えたとはおもえない。だって先輩は俺に話すよう促していたんだし、妨げるようなことをするはずがない。
だとしたら?
そこである一人の女の子が浮かんだ。
俺を敵視していて、れみと連絡をとれる唯一の存在、北条院まりあちゃん。
『本当なんですか? 兄さんが……その………』
「うん………そうだ………」
『そうですか………』
れみはショックを受けているのか、黙り込んでしまって感情が読み取れない。罪悪感だけが募っていく。
『あ、謝らないでください。私のせいでもあるのですから』
「な、なんでれみのせいになるんだ」
『だって、私との関係のせいでそんな風になってしまったんでしょう?』
私との関係?
合コンに行ったのは俺の意志だし、まりあちゃんに口止めするために買い物に行ったのが、れみの中ではどういう解釈になっているんだろう。
『私が厳しくしすぎてしまったせいで、兄さんはそこまで歪んでしまったんだと、今は後悔しているのです』
「そこまで!?」
『強いストレスを抱えると………その、男の人は特に溜まってしまうものだと聞いたこともあります』
強いストレス。
両親に会う前の合コンの予行演習。母親への感情、葛藤。そしてれみの矯正。それがストレスになっていて、溜まっていた鬱憤を晴らすために行ったとれみはおもってるのか?
だとしたら、それは違う。
「でも………な? 違うよ、れみ。俺が悪いんだ。正直に言えば、れみと再会するまではよくやってたんだ」
『よ、よく?!』
「ああ。一年前までは月一くらいで」
『つ、月一で!? どういうことですか!?』
「そりゃ、お前………誘われてさ。段々と楽しくなっていって。それで、皆で食べたり飲んだりしていると空気っていうのかな」
『み、皆で食べたり飲んだり………』
「そりゃあ話して意気投合して盛り上がってたら、食べるのだって美味しく感じるだろ?」
『ひ………今までどれくらい食べたり飲んだりしていたのですか………?』
「それは数えきれないくらいかな」
『ひぃ……………兄さんが遠いです………』
少し過剰反応気味だけど、少し堅い考えのれみからすれば当然かもしれない。
『盛り上がるって、具体的には?』
「えっと。ゲームをしたりお酒を飲んだり。それで皆が笑ったり共感できたりする話題で』
『え、ええ………』
「その合間に食べたり(料理を)」
『合間にですか!?』
「そりゃあ話してたら(空腹的に)食べたくなるだろ?」
『り、理解ができません………』
もしかしてマナー的に食事しながら話をするのが下品って考えているんだろうか?
いつもなら最低ですとか見損ないました、って言われるところだけど。
『こわいです………』
恐怖心を抱かれるほどに嫌悪感を抱かれてしまった。
「出会いが欲しかったんだ。それに、ただ単純に興味があって……」
『出会いというと、ごにょごにょ、私と(小声)………共通している人との出会いということですか?』
「ああ。そうじゃないと意味がないし」
『う、』
「むしろそれしか考えてなかったな」
『うう………』
合コンっていうのは男女関係なく交友を広げ、深め、友人や恋人を探すためのものだし。
『さ、誘われたって。兄さんの他にもそういうのに興味がある人がたくさんいるってことですか? 男女ともに?』
「ああ。そうだけど」
『だ、大学ってなんなんですか? 神聖な学び舎じゃないんですか?』
れみの声が震えてる。
『いえ。兄さんは悪くありません。たしかに最初は驚いたし、不潔だとおもいました。兄さんはそういう人ではないと信じていたのに、こわくなりました』
………そこまで?
『ですが、私もある意味そこまで追い詰めてしまったのは、仕方がないと思い定めました。男の人には、じょ、女性には理解できない心理があって………それで、追い詰められてしまえばとんでもない犯罪を起こしてしまうことに繋がると』
おいおい。なんだか壮大な話になってるぞ。
『なので、わ、私も、う、受け入れます。に、兄さんの、そういう厭らしくて不潔で汚らわしい特殊なところも』
れみの中では合コンに行っただけで厭らしくて不潔で汚らわしい人たちが集う会になってるのか? お前の友達のまりあちゃんも行ってるんだぞ?
『ですが、いくらなんでも今のままではいけないとおもうのです。ですから、今度からは私が相手をします』
「え? どういうこと?」
『で、ですから兄さんが今まで他の人としてきたことを、す、少しだけですが……わ、私にして良いということです』
それは最早合コンじゃなくって、只の食事じゃないか? もしくは日常だよ。
『そ、そうでないと、兄さんが心配です。いつかとんでもないことになってしまいそうで』
「れみは、嫌じゃないのか? こんな俺で………」
『兄さんがしょうがない人というのはわかりきっていますから。ですが、それもまた兄さんだとわかったのです。そんな兄さんだから、私はまた一緒にいたいとおもったんです」
それに、と。れみは一旦言葉を切った。
『私は、兄さんを受け入れます。どんな兄さんであっても兄さんですから』
「!」
こんな俺を………(兄として)受け入れてくれるのか………? 許してくれるのか……? 元はといえば、嫌われても、自業自得だって………。
「れみ………う、うう……ありがとう………」
『兄さん、泣いているのですか? ごめんなさい………私がもっと早く気づいてあげていれば………そこまで追い詰められていたなんて………』
「ごめん、れみ……ごめん………れみは悪くないのに………」
『いえ。やっぱり私のせいなのです………兄さんをそこまで狂わせてしまったのは私への気持ちのせいなのですから………』
れみへの気持ち。
やり直したい。れみを大切にしたい。昔とは違うけど、新しくやり直す元兄と元妹としての関係性。それがストレスになっていているとれみも責任を感じてしまっている。
でも、違うんだ。全部俺が情けないからなんだ。
れみが謝る必要はない。
俺もう、れみに足を向けて寝られない。
『なので、早速。いえ、私にも準備があるので。来週の水曜日にそちらに伺います。そ、そのときに………』
「来週の水曜日………あ、その日はダメだ」
『ど、どうしてですか!? その日以外では予定が合いませんし………そ、それに……私の覚悟はどうなるのですか!』
「実はその日、親父が来るんだ」
「親父………兄さんのお父さん。いえ。お義父様ですか?」
お父様って、そこまで畏まらなくっていいんだけど。
「そうだ。だから――」
「いえ。その日にしましょう」
「ええ!?」
親父が来る日にれみ(元妹)と合コンを俺の部屋でするなんてどういうことだ!?
頭おかしいんじゃないか!?
『な、なにもお義父様の目の前でするということではありません………。そこまで私も恥知らずではありませんし、兄さんとは違って経験が足りません』
「流石の俺も親父と(合コンを)した経験なんてねぇよ!?」
『お義父様に会って、まず私達の関係を説明するのです。そ、そのあと、認めてもらった後の………その………すっきりとした気持ちでいたほうが私も兄さんも、り、リラックスして、臨めるのではないかと』
………れみなりにきちんと理路整然とした考えをしていたのか。
けど、いい考えなのかもしれない。
れみの両親に会う前に、俺の親父に認めてもらうということは親父にも味方になってもらえるということだ。
心理的にも物理的にも、これほど心強いことはない。
れみが俺と二人で合コンをするなんていうのは、ある意味ついで。二人ともリラックスして軽い気持ちでできるということか?
『い、言っておきますが激しいのなんてダメですからね? 最初は優しく、いえ。穏やかなかんじで』
激しい合コンってなんだろう。酒と王様ゲーム以外でってことかな?
でも、元妹とする合コンでできることなんてあるだろうか?
れみを落ち着かせつつ、拒絶反応を示さないものなんて。
『た、食べちゃうのも、軽めにでお願いします………それに、私も兄さんのお義父様に会ってみたいのです……末長い関係になるのですから』
「れみ………ありがとう………」
紆余曲折を経て、打ち明けて良かったと実感できた。
電話で話しているれみと、以前にも増して心を開きあって、もう隠すことなんてなにもない、本当に晴れやかな気持ちだった。
だからこそ、れみに許してもらったという事実も、そして嘘をついてしまっていたことも、今後は忘れちゃいけない。




