元義妹と先輩、話し込む。
どえらいことになった・・・・・・・・・。
先輩とれみは現在入り口と会計場所に近い席に座っている。そして俺達が退店するには二人に接近する通路を通らなければならない。つまり、逃げることは不可能。
バレたら死ぬばれたらしぬバレタラシヌ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「どうしたんスか? いきなり」
声を出しただけでバレるかもしれない。そんな緊張感に見舞われている俺は身ぶり手ぶり、そして視線で二人に気づくよう誘導した。
「あ、お~~いれみ―――」
この馬鹿野郎!!
おもわず体の向きを変えたまりあちゃんに飛びかかり、口を塞いで遮った。
「なんで俺達がここにいるのか忘れたのか?」
「もごもご・・・・・・!?」
ひそひそと声を潜ませながら語り聞かせたことが功を奏して、抗議めいた視線を送っていた表情が和らいで、まりあちゃんは静かになった。ホッとして離れる。
「でもあたしは別に困らないッスし」
こ、この子は・・・・・・! 誰のせいでこんなことになっていると・・・・・・!
半分は俺のせいだけど!
「自分さえよければいいのか? なんて勝手な!」
「ドッロドロの嫉妬と修羅場満載の毎回血が出る昼ドラのヒロインて憧れません?」「憧れは決してなれないから尊くて素晴らしいんだよ! それからその血って間違いなく俺の血だよな?!」
「あたし甘い物食べたくなったなぁ~~」
「くぅ、良いよぉ!? 注文してえええ!」
ちゃっかりしたまりあちゃんは、ウキウキしながらボタンを押す。けどれみと先輩が気になるのか、二人に注視している。
「あの二人ってなんでいるんスかね?」
「さぁ。連絡先は交換してるらしいけど」
「どうかしたの? れみちゃん」
「いえ、別に」
そうこうしていたら、れみは店内をそわそわした様子で見渡している。俺とまりあちゃんはメニューで顔を隠したり身を縮こませたりして隠れた。
「なんだか兄さんの匂いがしたような気が・・・・・・・・・」
!?
「え、れみちゃん瞬くんの匂い嗅ぎ分けられるの!?」
「別にそういうわけでは。兄さんが使っている香水や制汗剤を使っている人がいるかもしれないので勘違いしたかもしれません」
あ、あっぶねええ・・・・・・・・・。
一瞬ヒヤッとした。
「ですが兄さんは8×4とSAMURAIを主に使っているので同じ組み合わせを使っている人がいるとは」
「あははは~~。まさかこのお店で誰か女の子と逢い引きしてたりしてね~~」
「兄さんは今日バイトなので、それはないでしょう。私に嘘をついたことはないので」
う、そこはかとない罪悪感が。
まりあちゃんはニヤニヤしながら、意地の悪い笑みで見てくる。むかつく。
二人の会話を聞くと、どうやら俺と買い物をするプランがぽしゃったので、暇だった先輩と買い物に、って流れらしい。
「バイトを優先するなんて、今度会ったら怒っちゃおうかしら」
「致し方ありません。大学生ですし、生活費は自分で賄っているそうですから」
「でも、断ることだってできたじゃない?」
「私はなにもなんでもかんでも認めないという狭量ではありませんから。それよりもっときっちりとした生活習慣を心得てほしいです」
そこからはれみが俺に直してほしいというところを列挙する時間になった。要するにダメ出し、愚痴だ。俺なりに気を付けているつもりだけど、れみからしたらまだまだ物足りないらしい。
「特に、兄さんはもっと髪型に気を付けてほしいのです」
「髪型?」
「はい。ワックスを付けて立たせていたりしてるでしょう。あんな風にしなくても良いとおもっているのです。もしくは使わない髪型にすべきです」
いや、それは俺だけじゃないし。
ただ単にれみの個人的偏見と好みなんじゃ。
「ワックスを付けて鏡に向き合う時間が無駄ですし、終わったあとあちこち触るからベタベタするのが気になります」
「なるほど・・・・・・・・・じゃあれみちゃんはどんな髪型にしてほしいの?」
「スキンヘッドです」
焼け野原にしろと?
「そうすれば髪の毛に拘る必要もなくなりますし、清潔感も出ます」
「あ、あははは・・・・・・・・・でも全部無くすのは流石に。せめて角刈りで許してあげたらどうかしら?」
先輩も先輩でひどい。一昔前の流行じゃないか。先輩は角刈りが好きなのか? 試しに健に教えてみよう。
【小田先輩、こ○亀の両さんみたいな見た目の人が好みらしい】
携帯で健に送って、また二人に。
「ああ、でもここって素敵ですね。落ち着きます」
「そうでしょ? 皆で買い出しとか遊びに行ったとき見つけてね? メニューも豊富だし」
「兄さんとも来たんですか?」
「どうだったかしら・・・・・・・・・いないんじゃなかったかな」
「そうですか」
なにはともあれ、れみと先輩のテンションの差にギャップがあるけど会話がスムーズに進んでいる。このまま二人が俺達より先に帰るのを待ってればいい。
危機感が薄れて、そんな安心感を覚えた。
「あ、まりあちゃん。パフェ来たよ?」
店員さんが運んできたパフェにテンションが上がることはなく、かじりつくように二人を眺めている。
「あ、そうだれみちゃん、聞きたいことがあったんだけど」
「なんでしょう?」
「瞬くんとどこまで進んだの?」
「!? ブフォ!?」
れみはいきなり咽せた。
「ゲホゲホ・・・・・・・・・な、なにを急に・・・・・・・・・」
「あれから二人が気になっててね? 上手くいっているのかな~~って」
先輩はきっと予行演習のことを言っているんだろう。それにしては動揺しすぎじゃないかな?
「せ、先輩そんなことを聞いてくるんですね・・・・・・意外でした・・・・・・」
「? 別に普通じゃないかしら。むしろ他の人達が同じ状況に陥ってるときよく相談されるし」
「そ、相談!?」
「そう。逆に緊張を和らげられるアドバイスもしたり」
「あ、ドバイス?」
「そう。本番のときにガチガチに固くなって失敗した男の子も、体が強ばってしまう女の子にもやり慣れれば大丈夫って。逆に達成感と充実感が得られるって教えたりね?」
「た、達成感・・・・・・・・・充実感・・・・・・・・・ヤリ慣れる・・・・・・」
「だから心配になっちゃって」
れみの様子がおかしい。
なんだか恥ずかしがっているようで、頭から湯気でも出そうだ。
「だ、大丈夫です! 私と兄さんはもうヤリまくりです! ええ、兄さんが病みつきになってしまうくらい!」
「や、病みつき!?」
「はい! もうれみは最高だ、れみさえいればいい、他の子なんて目に入らないと! 私も経験はありませんでしたが、もう気持ちがよくなってきてます!」
「二人揃ってそれはちょっと危ないんじゃない!? いけないわ! やっぱり私も今度――」
「?! ひ、必要ありません! さ、三人でなんて!」
「建くんも合わせてよ?」
「よ、四人でなんてもっとダメです! もっと経験を重ねて大丈夫だってなったら―――いえダメですやっぱり!」
「そ、そう? じゃあじゃあなんの問題もないのね?」
「はい!」
「そう。じゃあそろそろれみちゃんのご両親に会う練習ではなくて実際に会う日取りも決めたほうがいいんじゃないかしら」
「はい。なんの問題も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってえ?」
れみは一瞬ぽかんとした。
「あ、成程成程。そうですね・・・・・・・・・ええ。勿論です。ええ。私の両親に会うための予行演習の話ですよね? ええ。大丈夫です」
れみは赤くなりながらすましたかんじで早口気味になっている。
なんか二人の会話が噛みあってなかったような。なにかを勘違いしていたような気配がするけど。
「前もって両親の予定を把握しておいて、二人にはあえて心の準備をさせないようにしておいたほうがいいでしょうか?」
さらっととんでもないこと聞いてるよ俺の妹。
「そうしたほうが二人は驚きのほうが強くてこちらのペースに持って行けるとおもうのですが」
れみ、おそろしい子・・・・・・・・・!
「アタシを虐めた子に対するときもそうだったなぁ」
まりあちゃんがぼやいた。
「うう~~ん。そうねぇ・・・・・・・・・でもまずはお義母様と瞬くんとの溝をなんとかするべきじゃないかしら。今更遅いかもしれないけど」
「いえ。二人の関係改善は私と兄さんの関係を認めてもらってから。もしくは過程の間でかまいません。私達とのことを関係改善の糸口にもできますし」
「そう上手くいくかしら?」
「大丈夫です。お義母さんは変わりました。兄さんもです。理性的に話をすることができるとおもいます。感情的な思考ではなく、思考的に話ができます。二人と接していて実感できます」
「そっか~~。れみちゃんはお兄ちゃんとお義母さんを信じているのね」
「はい。大好きな人達ですから」
言って、そして少し時間が経って照れがでたのか、「勿論家族としてです」と付け加えた。
先輩はにこにこと笑いながら、そんなれみを愛おしそうに見つめている。
「良い子ね。れみちゃん。あんな瞬くんを、そんな風に想うなんて幸せ者ね。あの人も」
なでなでと頭を撫でてもきた。羨ましい。
「でもね? 無理よ。絶対」
「え?」
言葉を失った。
れみと、会話を盗み聞いていた俺も、おもわず。
「きっとれみちゃんの想像通りにはいかないわ。ううん。逆にもっと悪化するかもしれない」
先輩は諭すように、言い聞かせるように、本当に穏やかに優しげに、残酷なことを告げた。




