元義妹の親友、事情を話す。そして遭遇する。
鉄板ハンバーグをもりもり食べているまりあちゃんを眺めながら、先程のことを想起する。二人の間に会話はなく、ただ食器と食器が触れあう金属音が時折虚しく鳴るだけ。
「あ~~、美味しかった~~。パフェ注文していいスか?」
「いいよ。その代り聞かせてほしいことがある」
食べ終わったのがいいタイミングになった。窺っていたわけじゃないけど、このままじゃいつまでもモヤモヤしたままだ。
「ん? なんスか? スリーサイズッスか?」
「それは別のときに教えてくれ。さっきの子となにがあったんだ?」
「女の過去を無遠慮で聞こうとする男は減点するッスよ」
「ああ。減点していいよ。れみにも関連していることなんだろ?」
映画館の子は、間違いなくまりあちゃんのことを憎んでいる。それも尋常じゃないほどに。最初は踏み入っていい話題なのかどうか悩んだけど、駅での会話にれみも出ていた。もしもあの子の悪感情がれみにまで向けられてしまったら。
「つまんない話っス」
コップの中に少しだけ融けた氷を転がすように揺らしている。
「アタシが前いろんなグループに適当に合わせていたらハブられたって話覚えてるっスか?」
「ああ」
「そんとき、れみだけが普通に接してくれたんス。遠巻きに様子見してた子達は躊躇ってたけど。そんでそれが気に入らないグループがアタシに嫌がらせしてきたんス」
「どんな?」
「物を隠されたりわざと変な噂を流したり。それで余計孤立したんス。けどれみはそんなことおかまいなしに分け隔てなく接してきて。そんでれみにも被害が出るようになっちゃって・・・・・・」
「成程な。もしかして、あの子がそのとき嫌がらせしてた子なのか?」
「そうッス。里見希咲姫って名前なんスけど。ただ本人がやってたわけじゃなくって、取り巻きの子達にやらせてて、本人はなんも関係ありません~ってかんじで。女子グループのボスポジションだったんで」
「れみと君は大丈夫だったのか?」
たはは、とまりあちゃんは小さく笑った。
「あたしは自業自得かなって。でもれみは叱ってたんスよ。出会ったときから。適当にしているとか調子がいいだけなんじゃないか、それじゃあいつか痛いめにあうかもしれませんよ? って」
言いそうなのが想像できて、苦笑してしまう。
「そんで、エスカレートしたとき、このままじゃダメだって、れみは証拠集めをしたんス。それで里見が嫌がらせを指示していたっていう証言を携帯で録音したり、証拠を集めたり」
「れみ強いな」
「実際に里見に呼びだされたときに携帯をこっそり通話モードにして得意げに自白するように誘導して会話内容を先生に聞かせてたり」
「れみ凄いな!?」
「そんで里見は停学・自宅謹慎になったんスけど、その後クラスで浮くようになって自主退学したんス」
そういう事情があったのか。
「一回聞いてみたことがあるんスよ。れみに。どうしてアタシにそこまでするのかって。あんなに注意してたじゃない? って。そうしたら別に理不尽が許せないだけだし、間違ったことが嫌いなだけです。それに―――」
そこで一旦、言葉を切った。俺の瞳の奥まで覗くような真剣でまっすぐに目を見つめさせてきた。
「昔の私だったらきっとできなかった。けど、昔大切な人と離ればなれになったからって」
「・・・・・・・・・」
「そんときのれみが気になって、根堀葉堀聞いてみたんス。そんときはきっと好きな人のことなんだろうなって。あとその人のことを語ってるときのれみは・・・・・・滅茶苦茶面白かったんスよ。いつもはクールなのに昔こうしてくれた、ああしてくれた、このとき悲しかった、怒られた、とか。本当に楽しそうに喋ってたんス」
「それって・・・・・・・・・」
「あんたのことっス」
うん、なんとなくわかってたけど、照れくさい。
俺は、過去にれみに酷いことをしてしまった。れみを捨ててしまった。勿論それを肯定なんてできないし、正当化しちゃいけない。
けど、れみは俺との思い出を本当に大切にしてくれていて、そしてそれを強さに変えた。それが本当に、不謹慎かもしれないけど、言葉にできないほど嬉しい・・・・・・。
「それかられみと話したり一緒に過ごしたいって気持ちが芽生えて、本心から面白かったんスよ。楽しかったんス。ああ、友達ってこういうことなのかって初めて実感できたんス」
よっぽど大切なんだろう。れみのことを語るまりあちゃんは、仄かに微笑んでいる。だからなのか。まりあちゃんが俺に対して特別敵愾心を抱いているのも納得ができた。
「だから、最初あんたに会ったとき幻滅したっス。よっぽどかっこよくて素敵な男なんだろうなっておもってたけど普通だし。イケメンじゃないし」
「え、君初対面のときそんなことおもってたの?」
「合コンのとき女子がトイレにいくとき男子のこと話すのってあるっスよね? あれと一緒っス」
凄まじくショック。知りたくなかったわそんな残酷な真実。
「それにあんたのことが許せないっス。れみのこと泣かせて傷つけて」
「いや、でもそれはれみが見栄を張ったってことにも発端の原因があるだろ?」
「それは・・・・・・・・・そうっスけど。でもあたしが勝手に勘違いして恋人って体で話をしたのが悪いんスから」
「じゃあ君のせいってことでおけ?」
「・・・・・・・・・」
それはプライドが許さないのか、眉を八の字に曲げて不快の意を示している。
「でも、そうか。じゃあ心配だな。あの子、里見だったっけ? あの様子じゃあまだ恨んでいるんじゃないのか?」
「そうかもしれないっスね。でも大丈夫っス。今更れみに
「いや、れみにじゃなくてさ。君だよ」
「え?」
ぽかん、と呆けたかんじで目が点になっている。
「なんであんたあたしの心配してんスか」
「れみの友達だからさ。きっと君があの子に恨まれ続けたりまた嫌な思いをしたら、れみも嫌だろうし」
「な、」
「れみは正直だよ。友達だって自分のことを大切にしてる君を蔑ろになんてしない子だ。誰かに恨まれているってわかったらきっと助けようとする」
「・・・・・・・・・」
「それに、君も良い子じゃないか。俺を今日付き合わせたのだって、れみと俺の関係が不安だったからだろ? さっきも自分のことじゃなくってれみが憎まれているって真っ先に考えた。そんな子がまた誰かに傷つけられたらっておもうと俺も嫌だし」
れみの友達が、れみを大切におもってる人が嫌な気持ちになったらって不安になるのは兄だったらきっと普通だろう。
「て、点数はあげないっスよ?」
「そんなこと期待してないって」
まりあちゃんはコップの氷を一気に口に流しこんで、「まったく」「なんなんスか調子狂う」とぶつくさ不平を漏らしてる。
まりあちゃんを見守りながらコーヒーを一口啜る。
「でも、れみがあんたのこと好きなのもなんだかわか――」
「ブウウウウウウ!?」
「ちょ、なんスか!? いきなり毒霧みたいにコーヒー吐いて!」
「ゲホゲホ!」
俺達の席は、店の入り口から近くて、ちょうどまりあちゃんの後方にある。だから頭越しに新しく入店した二人の客が目に入ってしまい、動転のあまり咽せてしまったんだ。
なんで、どうして!?
「もうなにしてるんスか。すいません店員さん、布巾かなにか――」
「い、いやダメだ、動かないで・・・・・・・・・!」
見通しのいい狭い店内だと、声の大きさと動きは、人目を引いてしまう。反射的にまりあちゃんの手を押さえて座らせる。
「ひゃ!? な、なんスか?!」
「し、静かに!」
俺はまりあちゃんのことなんておざなりになって、入ってきた二人に注視することで精一杯だった。メニュー表で隠れながらこっそりと。
まさか、嫌だ嘘だ見間違いだどうかそうであってくれお願いだ五百円あげるから、と心臓が爆発しそうなほどの緊張感。じんわりと嫌な汗がとまらない。
「でも、今日は良かったの? 付き合ってもらっちゃって」
「いいのです。どうで暇でしたし」
ああ、やっぱり、と体中から力が抜けていく。
「じゃあ今日はお姉ちゃんが奢ってあげるね?」
「いえ、大丈夫です。兄さんとの買い物に備えてお小遣いを節約していたので」
絶対に、今ここにいてほしくない人達、小田先輩とれみだった。




