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元義妹との約束

「あれ、兄さん?」

「お、おはようさん」


 ちゃぶ台にできたてほやほやの料理を並べていると、れみが起きたようだ。


「どうして服を着ているんですか?」


 素っ頓狂なことを真顔で聞いてくるけど、まだ夢の影響が出ているんだろう。


 どんな夢だったのか気になるけど、スルーする。


「これは、兄さんが?」

「ああ。れみのに比べたらレベル低いけどさ」


 おかずも簡単なものだ。豚肉ともやし、キャベツを醤油と摺下ろしたニンニク、生姜で味付けして焼いた炒め物。味噌汁の具もわかめだけ。


「そんなことはないです。兄さんが初めて作ってくれた料理楽しみです」

「大袈裟だって。料理のときも手際悪くて大変な有様なんだぜ?」

「では食べ終わったらご指導します。そちらも楽しみです」


 はは、また墓穴掘っちゃった。


 れみはベッドから降りてほっこりとしたかんじでちゃぶ台の前で正座して、「いただきます」と行儀良く食べ始めた。


「美味しいです。美味しいですよ兄さん。見栄えはともかく」

「そ、そうか・・・・・・」

「ええ。お肉もお野菜も火がきちんと通っていますし」

「ねぇれみ」

「はい?」

「反対側に座らないの?」


 普通だったらちゃぶ台を挟んで向こう側、俺の対面する位置に座るとおもっていた。けどれみは俺の隣、それも太腿が当たるくらいの超至近距離だ。


「・・・・・・これくらい普通でしょう」

「いや、普通って・・・・・・」

「小さいときは兄さんの膝の上に座って食べていたこともありますし」

「あ~~。あったなぁ」


 俺もそうしてれみに慕われてくっついて食べれて嬉しかったけど、行儀が悪いしいつまで経っても食べ終わらないからって母親と義父に叱られたっけ。


「食べさせあいっこもしてたっけ。はは、れみが嫌いな野菜俺に食べさせようとしてくるからちゃんと食べないとダメだって言うと泣きそうになって・・・・・・」

「・・・・・・・・・兄さんの記憶違いでは?」


 都合のいい記憶力だなぁ。


「でも流石にな? れみも食べ辛くないか?」

「平気です。それとも兄さんは嫌なんですか?」

「お前は嫌じゃないのかよ?」

「・・・・・・・・・しかし料理のレパートリーを増やしてはいかがです?」


 明言を避けてスルーされた。


 まぁそれくらいれみも心を許してるって証ってことで納得しよう。


「今度ポテトサラダを教えます。ホットサンドにもコロッケにも応用できますし」

「え、できんの?」

「ええ、できます。ポテトサラダの可能性は無限大です。私はそのうちおにぎりにもハンバーガーにもラーメンにもカレーにも応用できるはずです」

「ポテトサラダの可能性信じすぎてない?」


 そこまで信じられたらポテトサラダだって困るわ。


「むぅ、私にとっては思い入れがあるのに・・・・・・そこまで言われるのは心外です」

「思い入れ?」

「初めて作れるようになったのがポテトサラダなんです」

「・・・・・・まじか」


 おもわず箸が止まった。初耳だし、俺が一緒に暮らしてたときは作ってる光景も食べたこともないぞ。


「そうか・・・・・・」

「食べてみたいな。れみのポテトサラダ」

「おだてなくてももういいです」

「いや、マジで」

「ポテトサラダを笑う人はポテトサラダに泣けばよいのです」


 笑った覚えないんだけど。


「いや、マジだって。おだててないし。本心本心」

「・・・・・・・・・では条件があります」


 え、条件?


「今度私と出かけてください」


 れみが妙に恥ずかしがっているけど、なんでそこまで? 恥ずかしがる条件じゃないのに。


「なにか買う物あったっけ?」

「スーパーではありません。ショッピングです。あと映画も観たいです」


 ・・・・・・・・・そんなことでいいのか? 簡単すぎて拍子抜けする。


「わかった。じゃあいつ出掛ける?」

「え、いいんですか?」

「ああ。それくらいいつでも付き合うよ」

「う、うう・・・・・・そんなあっさりとなんて・・・・・・初めてのデートなのに・・・・・・」


 ? 後半聞き取れなかったけど。


 でも、れみとそうやって出掛けるのなんて初めてだな。


「では金曜日はどうでしょうか。今週の」

「ん、いいぞ」


 なんだかんだで楽しみになってきたな。れみとの買い物。


「まぁ、俺はれみのポテトサラダのほうが楽しみだけどな」

「ハードルが高くなっているかもしれませんが、大丈夫です。得意料理でもありますから。お母さんのお墨付きですし」

「・・・・・・・・・もしかしてあの人に教わったのか?」

「はい、そうですがなにか・・・・・・・・・あ・・・・・・」


 やらかした。


 きっと二人が考えたのは同じだったんだろう。あからさますぎるほど、上がっていたテンションが沈んで気まずくなり、もそもそと食べ進める音だけしか聞こえなくなった。


「兄さんはやっぱりお母さんのこと、許せていないんですね」

「・・・・・・・・・許せないっていうのは、あるよ。だけどそれ以上に―――」


 正直なところ、俺が母親に対する感情は複雑だ。


 母親が父親のことで嘘をついていたことは、子供の俺に対する裏切り行為でしかなかったし、エゴでしかない。


 欺瞞。自己満足。自分勝手な都合で振り回す


 けど、怒りと憎しみは昔ほどない。父親と一緒に暮らして、そこそこ楽しい生活を送っていたのもある。れみと再会してから母親のしたことをおもいだしても当時ほどの激しさはない。


 だから、もう一つ会うのを躊躇う理由を形容するなら。


「こわい、かな」

「なにがですか?」

「あの人と会ったときが」


 れみとの関係のために、会わないといけないしいつまでもこのままじゃいけない、前に進まないといけない。


 でも、実際に会って、なにも話せなかったら。


 逆になにを話せばいいのか。なにを話してくるか。


 あの人が変わっていなかったら。変わっていたら。


 想像ができない。しようとしただけでモヤモヤする。


 イメージができなくて、こわい。


「兄さんは、優しいですね」

「は? 優しい? どこが?」

「だって兄さんがそうやってこわがっているということは、許せないって感情だけではなくなっているからでは? お母さんを許したい、許す努力をしたいからではないですか?」

「・・・・・・・・・」

「それは自分本位ではなくって相手の事情を汲もうとしているからではないですか? お母さんのしたことの経緯と事情が理解できているからでしょう。兄さんが優しいからこわくなってしまうのですよ」


 そうなん、だろうか・・・・・・・・・・・・。


「なるほど。わかりました。ですが大丈夫です。私もいますから。兄さん一人ではお母さんに会うのがこわくても、私も一緒ですから。フォローしましょう」

「れみ・・・・・・・・・ごめんな」

「本当です。妹にフォローさせるなんてまったく兄さんはしょうがない人です。小さいときと逆ではないですか」

「はは、たしかにな」

「でも、聞けてよかったです」

「れみ・・・・・・・・・俺もれみに話せてよかったよ」


 少し気が楽になった。れみは照れたのか、頬を赤らめて居ずまいを直した。


「さぁ、食べてしまいましょう」

「おう」


 そうだ。一人じゃない。


 


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