元義妹の気絶。そして終息
「うう~~ん・・・・・・兄さんが二人・・・・・・兄さんが三人・・・・・・兄さんが・・・・・・」
気を失ってしまったれみをベッドで寝かせて、一息つく。
しょんぼりと肩を落とした先輩と健が正座をしているので、睥睨しながら、
「あんた達、途中からふざけてたな?」
「「・・・・・・・・・・・・はい」」
やっぱりか。
くそ、こいつら親切なフリして最初から遊ぶつもりだったんだ。人の純情弄びやがって。俺とれみの複雑な家族構成とピュアな関係をなんだとおもってんだ。
「いや、でも・・・・・・・・・」
「あ゛?」
「瞬くん。せめて話だけでも聞いてあげて? 冷静に」
冷静になれるか。
妹が今魘されてるんだぞ。
直接やらかしちゃったのは俺だけど。
そもそもの原因を作ったのは二人なんだ。
「・・・・・・まぁいい。武士の情けだ。辞世の句くらいは聞いてやる」
「死ぬの確定してんじゃん・・・・・・」
「白扇渡してもいいぞ?」
「ちょっとは肩の力抜いたほうがいいとおもったんだよ!」
「・・・・・・・・・は?」
「たしかに途中から遊んだりふざけ気分だったのは認める。けど先輩も本番では緊張して失敗することもあるって言ってたし・・・・・・。だからせめて予行演習くらいは気楽にして楽にできたほうがいいっておもったんだ!」
「実は私も・・・・・・・・・ちょびっとね?」
・・・・・・・・・ぐ、くそ。
なんだよこいつら・・・・・・・・・。
滅茶苦茶考えてくれてんじゃねぇか。
「というか瞬だって顔固すぎんだよ! モアイ像に見えたわ! そんな奴と対面してたらそりゃあこっちまで緊張して疲れるし!」
「ぐ、」
「まぁまぁ落ち着いて。それくらい瞬くんも真剣ってことよ」
「特に先輩がお袋さん役やってるとき、とんでもなくこわい顔してたからね!? お前まだお袋さんと会いたくねぇって気持ち出てんじゃん!」
「う・・・・・・・・・」
「それは瞬くんが自分でけじめをつけることよ?」
「いや、だけどさぁ先輩!」
健の指摘したとおり。まさに図星ってやつだ。
先輩の凄まじい演技力で、同一視していた。気持ちがそのまま出ていたのかもしれないと自覚できるほどに。
「でも、建くんが言ったとおりだけど。お母さんのことどうするの?」
「どうするって・・・・・・・・・そりゃあ会いますよ」
「そっか。じゃあ聞き方を変えるね。あなたはお母さんと会いたい?」
じっ、と俺の本心。隠そうとする意志さえ見抜こうとする真剣な眼差しがなんだかこわくて、改めて母親に対する認識を心の中で自問自答する。
「例えれみちゃんのため、自分のためとはいえ。酷いことをされたとおもってるお母さんのこと。あなたはどうおもっているの?」
「会わなくっちゃいけないっておもってます・・・・・・・・・」
先輩は俺の意図を察知したかのごとく、小さく笑った。健は憮然とした様子だ。
「・・・・・・・・・お兄ちゃんて大変ね」
会いたいか会いたくないかじゃなく、どうおもっているかでもなく。会わなくちゃというごまかした言い方。そのものが、今の母親に対するすべてだ。
「じゃあそうね。今後は予行演習にお母さんと会うのを想定したパターンも入れましょう。さっきのは主にお父さんを相手にしたパターンだし」
「そりゃいいや。れみちゃんにも起きたら説明しといたほうがいいぞ」
「お、おう・・・・・・」
それから、予行演習で気づいた点や今後の練習について話をしていく。
なんとなくお説教モードはもう終わり! 感が強くて釈然としないけど、母親のことでもやもやしだしたものだから流れに任せた。
「じゃあれみちゃんによろしくね? さぁ健くん。帰りましょう」
「待ってください。今れみちゃんの寝顔を写メって・・・・・・・・・ごめん瞬冗談だから許して」
やりとりを終えて、そのまま帰り支度をはじめた二人を見送ることもせず、ひらひらと手を振って俺は残った。
「そういえば先輩って、なんで協力してくれてるんすか?」
「え? 急にどうしたの?」
「俺ぁ瞬に恩売れるしれみちゃんとも近づけるし面白そうだからやってるけど。先輩は? やっぱり先輩後輩関係の延長で?」
「ん? うう~~~~ん・・・・・・・・・」
「まさか瞬のことが好きになったとか!?」
「なんでもかんでも恋愛に結びつけるのは悪い癖の一つよ?」
「・・・・・・・・・私もお姉ちゃんだからかな」
「?」
玄関を出るまでの間、先輩と健の会話が遠ざかっていく。玄関の閉まった音が聞こえて、時計をチラリと窺う。
「うう~~ん、小さい兄さんが五十四人・・・・・・・・・私の兄さんが五十五人・・・・・・・・・うう~~ん・・・・・・・・・私と兄さんの兄さんが・・・・・・・・・でへへ・・・・・・」
どんな悪夢を見てるんだろう。
さっきまで魘され気味だった寝顔が、多少和らいでいる。
子供のときと一緒なあどけない気の緩んだ顔に、つい昔の癖で頭を撫でた。
「髪サラサラやんけ・・・・・・・・・!」
癖一つないれみの髪に驚いて、手で梳くように触っていく。流れるように滑らかで触っていて気持ちがいい。こんな髪質だったっけ?
「すぅ、すぅ・・・・・・」
寝顔を具に観察してみると、あどけなくはあるけど微妙に違う。顔立ち、睫の長さに、記憶の中のれみと差異がある。
「んん・・・・・・・・・」
寝ぼけているのだろうか。俺の手をぎゅ、と握ってそのまますりすりと頬をすりつけてくる。鼻息が当たって、一瞬とまった呼吸がまた乱れていく。
ぷにぷにとした弾力とすべすべとした肌の触感が、やっぱり記憶の中のれみと違いすぎて、なんともドキドキする。
いや、れみにドキドキするなんて。なにしてんだ俺は。
いくられみが大人っぽくなってるとはいえ・・・・・・・・・!
「そうか・・・・・・・・・」
大人。つまりれみが成長し、小さい頃のままじゃなくなっているってことだと自分でおもって気づいた。子供のままじゃなくって、大人の女性になりつつある。普段のれみのしっかりとした印象と元義妹という意識から普段はわからないけど、美人だし。
そういえば予行演習のときもれみが腕を組んで来たとき、ドギマギしてしまったな。今後は適切な距離感と接し方を心がけないと心臓に悪い。
距離感。接し方。
何故だか母親のことを思い浮かべてしまった。
れみのためにも、俺自身のためにも、会うことは避けられない。
俺はあの人とどう接するのが正しいんだろう?
もし会いにいったとき、俺はまともに接することができるのか?
いや、長い間絶縁状態だった母親との適切な距離感ってそもそもなんだ?
れみと会い続けると、そんな母親とも会う機会が増えるってことなのに。
どうすればいいのかわからない。
「んぅ・・・・・・・・・兄さん・・・・・・兄さんはしょうがない人です・・・・・・」
「れみ・・・・・・・・・?」
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
なんだ寝言か。
意味もなく、力が抜けて変な笑いが込みあげる。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
・・・・・・・・・れみが起きたら相談してみよう。
寝顔を眺めていたら自然と決められた。
情けない兄貴かもしれない。妹に相談するなんて、普通逆だろう。
でも、俺一人じゃ解決策は見つけられないしなにより俺とれみのことなんだから。
盛大にお腹が鳴って、ひとまず、まっさきにすべきことは決める。
「先に夕飯作るか」
まだれみを起こさないように手をゆっくりと外し、台所へと向かった。




