元義妹の誤解
「兄さん・・・・・・・・・これは一体どういうことですか?」
我が家にやってきたれみがわなわなと震えている。
玄関でもじもじと恥ずかしがっていたかとおもえば、リビングに足を踏み入れる刹那、石像のように硬直し感情が読めない表情を俺に向け続けている。
「あ、れみちゃんだ。ちっす~~」
「こんにちは~~」
「どういうことですか?」
どういうって、なにがだろう。
れみが来る前に家は掃除をして、きちんと片付けをしているし、そもそも普段から気を付けるようになった。だかられみがこんな風な反応を示すのがわからない。まるで怒りだす直前の雰囲気だ。
「私はどうして小田先輩と健さんがいるのかと聞いているんです」
「なんでって、二人もいないとできないからだ」
先輩と健も、れみの反応に首を捻っている。
「二人もいないとできない・・・・・・・・・? 成程そういうことですか」
「? まだなにも説明していないけど」
「いいえ。兄さんの単純な思考とこれまでの生活態度を鑑みれば想像できます。見下げ果てた変態に成り果てたということを!」
「はぁ!?」
「私と兄さんと健さんと小田先輩の四人でえっちなことをするおつもりなのでしょう!?」
「なにをどう想像したらそうなるんだ! 頭にエロ本詰まってんのか!?」
「じゃあ他にどんな理由で男女四人密室という空間を演出するというんですか! この間の兄さんが隠していたDVDでもそういう系統の奴あったじゃないですか!」
「ぎゃあああ! どうしてそれををををを!」
「偶然です! いつもの義務として兄さんの部屋をすべてチェックしているとき偶然見つけただけです!」
だからあの日れみの態度がおかしかったのか!
くそ、厳重に隠していたのに!
「はっ!? じゃあ昼間電話してきたのも私がこうして覚悟を決めてくるということを見越して!? そうして私が拒否できない流れを構築したということですか!」
「勝手に妄想して勝手に納得するな!」
「兄さんの策士! 世が戦国なら天下統一できていたくらいの作戦です! 江戸時代なら悪代官です! 最低!」
「戦国乱世舐めんな! ひとまず落ち着け! お前が妄想してることなんてしないから! 勘違いだから!」
「許せない許せない許せない許せない!! 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない・・・・・・・・・・! 私の心を弄んで!!」
「いやぁ、楽しいですね先輩」
「そうね、見ているだけで楽しいわね。リアルにヤンデレがいたらこんな風なんだなって勉強にもなるわね」
そこの二人。ニヤニヤしてないで少しは手伝ってくれ。
数分して、先輩達の協力もあってスムーズにれみに説明をすることができた。
「え、ではお昼に電話をしてきたのは?」
「そのときれみに先輩達にも協力してもらっても良いかって相談したかったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「れみ?」
れみがフリーズしている。
どこか遠くを眺めているような目で、魂が抜けてしまった抜け殻ってな具合だ。
「あ、ふぅ~~ん(察し)」
納得してくれたか。よかった。
「とりあえず兄さんは正座をしてください」
「なんで!?」
「今後一生です。寝るときもお風呂のときもトイレのときもです」
「できないよ!? 不可能を可能になんて!」
トイレで正座していたら用を足せないし。
「人の乙女心を踏みにじった罰です」
「お前が勝手に勘違いしたんだろ!?」
「いえ、それはしょうがないわよ瞬くん」
「嘘! まさか先輩も俺を責めるの!? 味方からの裏切り!?」
「だって私も瞬くんに乙女心傷つけられたしね、最近」
「先輩の? え、いつですか?」
「・・・・・・・・・女の敵はお姉ちゃん許せないなぁ~」
「ええ。そのとおりです。許せませんね」
「まさかの団結!?」
どういうこと? なんで女性陣がいつの間にか俺を糾弾する側に!? 俺そんなにひどいことした!?
「まぁでも瞬。お前が悪いんじゃね?」
「なんでだあああ!」
ここでまさか健さえも裏切るとは。なんだよ四面楚歌かよ! 味方ゼロかよ! 泣くぞ!
「だってお前が昼間のときさっさと用件告げとけばよかったじゃねぇか」
「う・・・・・・・・・」
核心を突かれた。
「俺と先輩が急かしたのに結局話さないで終わったし」
「うう・・・・・・・・・」
「それか携帯のメールかメッセージでも送っておけばよかったんじゃないかしら?」
「うう・・・・・・・・・」
あれ? どうしよう。俺自身も俺が悪いっておもえて仕方なくなってきたぞ?
「ふぅ~~ん(察し)。あのとき二人もいたのですか・・・・・・・・・なるほど(静かなる憤怒)」
「えっと、れみ?」
「なるほどなるほどなるほどなるほど・・・・・・・兄さんはいつもそうです私の気持ちを弄んで期待だけさせて私だけが喜んで結局私を許せない許せない許せない許せない・・・・・・・・・・」
ああ、まずい。れみの怒りが静かに増していくのがわかる。
「そうねぇ、いくられみちゃんと話すのが楽しくて夢中になったからって」
いや、別に夢中になってたってわけじゃないけど。
大学にいるときも言ってたっけ。恋人みたいだったって。いやいや、たしかにれみと電話で話していたのも楽しかったっていう側面はあるけど。
今はそれどころじゃない。
「どういうことですか?」
あれ? れみが意外にも食いついてきたぞ?
俺のことを無視して二人に詳しく話を聞いているくらいだけど、れみにそれを直接知られるのは恥ずかしい。
「二人がいるのに、私と話すのに夢中になって用件を忘れていたのですか?」
「そ、それは・・・・・・・・・」
「「そうそう、そういうこと」」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ジッとれみに見つめられて、更に恥ずかしくなって答えられなくなる。
「大学で仲の良い人達がいる目の前で、時間も忘れて?」
「「そうそう」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いや、もうやめてくれ。
俺を集中砲火するのはもうやめてくれ。
全身を掻き毟りたくなるくらい、羞恥心がやばい。心臓までむず痒くなってきたぞ。
恥ずかしくなったことでできた沈黙が、ある意味認めたっていう答えになってしまったようで、れみの視線が強くなる。
「・・・・・・・・・まったく兄さんは。お二人ともすいません。私の兄さんが」
「そうね。瞬くんは自分勝手なおもいこみで物事を自分の都合のいい方向に考える癖があるのよね~~。ポジティブだといえなくもないけど、ある意味勝手な人ってみえなくもないし」
「本当にそうだ。そのとおり。お前少しは反省しろこのやろう」
うう、最悪な事態は免れたけど俺が責められるという流れは変えられなかった。
大変な事態は免れたけど、なんだか納得いかない。
「あ、そうだ。お菓子買ってきたの。食べながら相談しましょ?」
「そうですね」
「そうだ。れみちゃんその袋の中はなに?」
「・・・・・・・・・いえなんでもありませんのであしからず。兄さんもこちらに来ては?」
「・・・・・・・・・おう」
「まったく、兄さんは」
ぽつり、と独り言のように漏れた言葉。声のかんじに、あれ? と違和感を抱いてチラッと横目で窺う。でもれみの横顔は、つんとしていてもうそこからはなにも読みとれない。
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
少し慌てて、そして馬鹿な勘違いをしそうになった俺を自嘲する意味もあって、曖昧な笑みを返す。
・・・・・・・・・気のせいか。
いつものれみの口癖、情けない俺に呆れるときに出る台詞だしな。だからついいつもの癖で出ただけだ。
どこか声が弾んでいて喜んでいるように聞こえたけど、そんなことあるはずない。




