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謝罪。そして

「謝罪文。今回の一件について」


 ぶすっと不機嫌な健の前で正座をしながら、厳かに読みあげる。先輩が注視しているおかげで落ち着いているけど、いなかったらきっと健は殴りかかってくるだろう。


「私、上杉瞬が長井健二郎氏に対して暴行をし、怪我をさせたことについてだけ、深く謝罪いたします」


 ちらりと健、次いで先輩を見た後、文面に視線を戻す。


「しかし、私見ではありますが妹である竹田れみに長井健二郎のような酔っ払いの輩がまとわりついていれば、ストーカーと勘違いしても仕方がない状況と心境であったと述べさせていただきます。また、私があのまま放置していた場合、健二郎は警察に通報されて豚箱行きであったことは必然でありました。よって結果論ではありますが、私があえて泥をかぶって暴力を振ったことで妹と親友である健二郎の人生を守ったことは明白であります」


 ぷるぷる震えている健と先輩。片方は怒り、もう片方は笑いを堪えているのは反応から自然とわかる。


「そもそも、健二郎は普段から女性に対して異常な執着をしていました。これは早いところ痛い目にあったほうがいいな、殴って止めることも、親友としての責務だなと決意していました。また、私がフルボッコにした後の健の顔はなぜか恍惚とした表情をしていたので、つい私も熱が入ってしまったのです。そもそもこの雄虫に対する学生(女子たち)側の評価は日常より――」


「もういいわぁ!!」

「あらあら」


 健が我慢できず、立ち上がりながら吠えた。


「謝罪文だとかいいながら全然謝罪してねぇじゃねぇか! 俺の馬鹿にしてんだろ! 最後の方なんか意味不明な責任転嫁してんじゃねぇか! つぅかどっかで聞いたことあんぞその謝罪文!」

「ちょっと『家でガ○の使い』のDVD見ながら添削してたら影響受けちゃって~」

「あんたかい!! 懐かしいなおい! だいぶ昔のやつでしょそれ! ヘ○ポーのやつでしょそれ!」

「だって瞬くん凄い長井くんに罪悪感持ってたのよ? 謝罪文だって自分で考えていたけど。固すぎたから」

「だからってふざけすぎでしょ! 謝罪文の体裁を守る努力をしてくださいよ!」

「え。じゃあ瞬くんの内容そのままにしててよかったの? 介錯なしで切腹するとか長井くんが指定した数だけエンコ詰めるとか」

「重い! 痛い! 引くわ!」

「じゃあちょっと待ってて。針とバーナー持ってくるから」

「なにするつもりですか!」

「私がするんじゃなくて長井くんがするのよ?」

「なにさせるつもりですか! そこまではいいですよ!」

「じゃあなにをすれば許してくれるの?」


 健は迷いながら頭をガシガシと搔きながら俺を睥睨。


「だああああ! もうわかったわ! 俺が先輩からやらされているやつのシフトとかスケジュール、あれ代わりにやれ! 研究室当番表? だっけ? お前が俺の分もあれやれ! それでいいわ!」


 プンプンと怒り調子の長井を先輩がよしよしと撫でて大人しくさせている。チラリとこちらを見ながらウインクして、苦笑いで返す。先輩には本当に頭が上がらない。こうしてあえて健から交換条件を出させることで納得させようって魂胆だったんだろう。


「本当、悪いな健」

「もういいわい。というかお前とれみちゃん本当に兄妹だったんだなぁ。安心したわ」


 先輩たちのみならず、健にも公園のとき事情を説明した。ボコボコにされた直後だったこともあって正しく認識できていなかったけど。


 結局、全部誤解だった。


 ストーカーはあの日以前に逮捕されていた。れみが俺に相談したいことというのは健のことだった。健がれみだけじゃなくて他の子を紹介してくれとしつこく連絡し続けていたらしい。


 遠回しに断り続けていたものの効果なしだったが、俺の学友だからどうしたものかと俺になんとかさせたかったらしい。


 あの日は俺に近しい関係者に相談できる相手が健しかいなかったから話をしていた。けど、女の子から呼び出しをされたのが初めてだった健は浮かれていた。


 ファミレスで有頂天になって酒を飲みまくって話どころじゃなくて終始無駄話に付き合わされて帰宅、その後公園での出来事に繋がるというわけだ。


 うん、ボコボコにしちゃった俺が言えた義理じゃないけど健の自業自得だよね。酒に酔った勢いでれみにだきついたんだから。


 悪いとはおもってるけど仕方ないよね。ある意味ストーカーよりも悪質だし。


「じゃあ本格的にれみちゃん狙ってもいいってことだよな? お・に・い・さ・ん♪」


 うわぁ、殴りたい。けど、今は引け目がある。愛想笑いにとどめて明言を避ける。


「はい、というわけでこの問題は終わり。今後一切蒸し返しちゃだめよ?」

「「は~い」」

「じゃあ長井くんはデータ整理。瞬くんは人体実験+湿度実験の環境準備+機具の移動お願いね~」

「は~い」

「ちょっと待ったすごい不穏なワード聞こえたんですけど!?」

「お姉ちゃんの女心を弄んだ罰よ?」

「それにしても犠牲大きすぎませんか? そもそもあなたが勝手に勘違いしたんですよ?」

「月~水、土日は教授の講演会の準備を代わりにやって」

「更に増えたああ! 横暴すぎるだろおお!」

「お姉ちゃんの優しさを踏みにじった罰だよ?」

「そんな姉いやだ! 優しさじゃねぇ!」

「建くん、瞬くんに全部やらせちゃってもいいよ~。優しさじゃなくて厳しさほしいみたいだから~」

「了解~」

「ぎゃああああああああああああああああああああ!」


 そんなかんじで、大学ではいつものように騒がしく忙しく過ごした。

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