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元義兄、惑い悩む。

絶望が、支配した。


「正直、複雑だ。突然のことすぎて、どうすればいいやら。けど、おもいだしたんだよ。あのとき君がいなくなってれみの悲しみようを」


 れみの泣き顔が浮かんだ。


「見ていられなかった。毎日悲しんでいた。そのうち、君のことを話題にしなくなった。なんでも泣いてばかりだったあの子が一人でなんでもするようになった。私や妻の助けを必要ないと拒んで。君がいなくても大丈夫なように」

「っ」


「また君と交流を持ったら、同じ事の繰り返しになるんじゃないかね? 君の気持ちも、わかった。しかし、あのときと今回のようにれみを悲しませて泣かせるかもしれない相手と、会わせたくはない」

「・・・・・・はい」

「君個人が好きとか嫌いだとかそういうんじゃない。君からしたら、妻のしたことは理不尽で許せていないことだろう。けど、そのことを抜きにしてもだ」

「はい」


「そもそも、君はれみとどうなりたいんだ?」


 ビシッとつきつけられた。俺自身答えを出せないでいる問い。答えられないまま、自問自答を繰り返す。おこがましいことだと自分の仲で形を定めるのを避けていた問題。いずれ会えなくなるって高を括って先延ばしにしていた。まさかここで浮上してしまうなんて。


「また昔のように兄妹に戻りたいのか? 友人になりたいのか? 恋人とか家族になりたいとか」

「それは・・・・・・・・・」


 沈黙が支配する。今頭の上にいる人が、どんな表情をしているのか。それをはっきりとたしかめることすらできないのは後ろめたいからではない。


 事ここに至るまで先延ばしにしていた自分への不甲斐なさを、ひしひしとかんじざるを得ない。ただ謝罪をして話をして、それで? それでどうすればいい?


 またれみに家に来てもらうのか? 俺から会いに来るのか? 


 どうして? 


 もう兄妹じゃない。友人でもない。恋人、家族になりたいなんて論外だ。


 俺は、れみとどうなりたいんだ?


「お願いします。れみに会わせてください」


 それでも、諦められない。ここで引き下がったら一生れみに会えなくなる。れみを泣かせたまま終わって。


「今日は帰りなさい。自分の中で整理できていないままじゃ、碌なことにならない。そもそもれみはまだ家にいないし」

「え?」

「まだ帰ってきていないんだ」


 じゃあどこに? それを聞き返そうとしたけど、黙って頭を横に振る。知らないってことだろう。もう一度頭を下げて、反対方向へ歩きだす。


「それとも妻に会うかい?」


 


「自分の母親にすら会えない、許せていない。そんな子供になにができるというんだ。自分のことすら満足に変えられていないのに、なにができるというんだ」


 いよいよ、返す言葉はない。俺はただ頭を下げたまま、かつての義父が家に戻るまで突っ立ってるしかなかった。


「れみは、隠し事ができる子に育っていたんだな」


 最後にぽつりと呟いた言葉は、どういう意味だったのか。


 どれだけれみの家の前にいただろう。頭を上げて、改めて家を視界に収めると他人の家みたいに殺風景で、とことん拒絶されているとかんじて。


 いたたまれなくなって、俺は足早に去った。


 とぼとぼと歩いているけど、行く当てなんてない。目的なんてなに一つ達成できていない情けなさ、何一つ反論できなかった悔しさでぐちゃぐちゃだ。


 ふと懐かしい風景が通り過ぎかけたので、足をとめる。


 公園だ。なんの変哲もない、ただの公園。


 昔、ここの公園で二人で遊びに来た。一緒にすごした。れみをおぶって家まで帰った。あの頃と違って遊具のすべてが小さくて古びて見えるのが悲しい。


『おにいちゃん、どうしたんですか?』


 記憶が、不意に蘇った。


 母親と上手くいかないとき。なにか嫌なことがあったとき。家にいたくないとき。俺はよくここで過ごした。


 れみはそんなとき、必ずここにいる俺を見つけたっけ。


『おにいちゃんかくれんぼですか?』

『おにいちゃんおいかけっこしましょう!』

『うわあああああん、おにいちゃん足がああああああああ!! 痛いいいいいいい!! びええええええええん!!』

『おにいちゃんおなかがすきました!』

『喉が渇きました!』


 遊びに巻きこんで。色々と怪我をして。それで世話をしているうちに、泣いている我が儘を言うれみの相手をせざるをえなくなって。


 それで俺は悩んでいる暇がなくなって。


 それで・・・・・・・・・。


『ありがとうおにいちゃんっ』


 ああ、そうだ。あのとき俺はれみに救われてたっけ。


 れみを泣き止ませたあと、ほっとしたのと同時に見せた笑顔。遊んでるときの嬉しそうな笑顔。おやつを、ジュースを飲ませたあとお礼を言うれみに、俺は癒やされていた。


 心底良かったって安心して。その都度その都度の悩みを忘れてしまうくらい。


 今と同じだ。


 だめだ。


 ここで諦めたくない。


『そもそも、君はれみとどうなりたいんだ?』

「っ」

『また昔のように兄妹に戻りたいのか? 友人になりたいのか? 恋人とか家族になりたいとか』


「知るかよ・・・・・・・・・」

 

 兄妹じゃないと会っちゃだめなのか?


 友人じゃないと側にいれないのか?


 恋人じゃないと会いたいと思っちゃだめか?


 家族じゃなかったら一緒にいたいと願っちゃだめなのか?


 やり直すことも、謝ることもできないのか?

 

 諦めたくない。


 諦められない。


「諦めてたまるかっっっ・・・・・・・・・」


 れみに拒絶されたら仕方ない。でも、それ以外の理由でこれっきりなんて。


 また俺が原因で会えなくなったら、今後一生俺自身を許せなくない。

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