元義妹、先輩とバトる。
「山姥・・・・・・?」
「あ、れみれみ~~~! あげぽよ~~~~!」
さしものれみも露骨な狼狽を隠せていない。
まりあと揃って【緊急事態】【援護求ム】と連続でメッセージを送っていたことが功を奏したが変貌した先輩に呆然と固まったまま。その正体にすら気づいていない。
「兄さん、また新しい女性を連れ込んで・・・・・・・・・」
「違う。この人小田先輩。和先輩。拳を握りしめるのやめて?」
「れみ。本当だよ。あたしも保証する」
「なにを言ってるんですか? 二人してからかってます?」
「からかってないっス。この前のあたしのことで先輩しか知らないこともこの人知ってたし」
「ああ。試しに俺も先輩との思い出話をして確信したよ。去年の飲み会で臑毛むしり大会をしたときのことも詳細に覚えていた」
「兄さんなにやってるんですか・・・・・・・・・?」
呆れられつつも、先輩に視線を注いでいる。
「あの、小田先輩?」
「ちょ、マジどしたし~~~。れみれみ。んな堅苦しくなくてパイセンでいいから~~」
「ぱ、ぱいせん?」
「パイセンしらないとかマジやばくね? ウケるんすけど~~~www」
「う、うけ?」
「なに? れみれみ。なに怒ってるの? 激おこプンプン丸じゃ~~~ん。とりまナウなヤングなんだからこんくらいノーマルで使えて当然しょ~~。おっくれてるぅ~~www」
「宇宙人ですか?」
「いやいやいや。小田和だっつぅ~~の~~」
「いや、誰だお前」
微妙に使ってる言葉古いし。
「んじゃまぁ、四人集まったしスマブラする?」
「無理だよ!」
「ちょ、しゅんしゅんマジさけぶなっつぅの~~~。MK5だよ? うち」
「そんなことより大事なことあるでしょ!?」
「ええ~~~? わかった。課金キャラは使わないし~~。ほんとテンションさげぽよ~~」
「そこじゃねぇよ!」
「ひとまず古いギャル語のほうを使わない方向性って無理スか?」
「もう三人ともどうしたんだっっぅの~~」
「それはこちらの台詞です! 人が急に言葉も通じない見た目も変わっていたら驚くでしょう!」
「あ~~~。それな?」
「どれですか!?」
「ちょ、あんたマジどうしたんスか?」
困惑している俺達とは違って、先輩はどこまでもローテンション。
「ん~~~? れみれみとまりあっちも買い物行ったとき一目でこれほしす! ってあるくね?」
「そりゃあありますけど・・・・・・・・・?」
「ええ、あるっス」
「うんうん、だよね~~~・・・・・・・・・」
先輩はペットボトルの蓋を開け、ぐびぐび飲んで少し間を空ける。俺達はどんな意味があるんだ? と固唾を飲んで先輩の次の言葉を待つ。
「とりまそれと同じでおけまる」
「「「どういうこと!?」」」
「ん~~~。気分ってあるじゃん?」
「急にキャラ転換してギャルになりたい気分ってなんスか!?」
「JDになったらわかるようになんよ~~。マジテンションアゲアゲになっから。二人もしてみる~~?」
「いや、それは――」
「ヤベ、マジウケる」
「み、乱れています・・・・・・・・・昨今のJDは乱れています・・・・・・・・・」
「あ~~~・・・・・・つぅか少し暑くね?」
「ちょ!?」
先輩はスカートとかシャツを扇ぐようにパタパタとさせる。そのせいで際どいところが見えそうになるもんだからたまったもんじゃない。
「ちょ、あんたなにやってるっスか?! 男がいるんスよ!?」
「なになに? 別にこんくらい余裕っしょ。ウチとしゅんしゅんはズッ友なんだし~~。オッケー牧場的な?」
「だからその古い言葉遣いをやめろっつってんスよ! 付いていけないっス!」
「兄さん・・・・・・・・・」
「いや、れみ! 見てない! 見てないよ!?」
底冷えのする声音。瞬間的に悪寒がはしり、鳥肌がたつ。先輩をいやらしい目で見ている俺への
「私は本当の矯正すべき人を見つけました」
だが、どうも違うらしい。普段は俺に対してむけられる鋭い視線。それを先輩に向けている。
「へ?」
「そう、本当に正すべきなのはこの人だということです!」
「れ、れみ?」
ずんずんと先輩の前までやってきたとおもったら怒気を発する。
「不健全です!! 不健全の塊です!! 言葉遣い、服装、見た目、すべてが乱れています!」
「およ? どしたし~~?」
「兄さんの不健全さもいやらしいところもずぼらなところもすべてこの人の影響があったんだと確信できました! そして先輩をこのまま放置しておけば兄さんまでギャル化してしまうと言っても過言ではありません!」
いや、そこは過言だ。
「服装の乱れは心の乱れ! 言葉の乱れは世の乱れです! 断固として許すことはできません!」
「とりま落ち着けって。カルシウム足りてる?」
「ご心配なく! 毎晩飲んでいますので! そんなことよりもです! もっと人目を気にしなさい!」
火がついたようにれみは先輩を責めたてる。その姿は日頃の俺への窘めとはレベルが違う。まりあは慣れているのか、「あちゃあ~~~」的な表情で見守っている。
「ええ~~? れみれみ的には今のうちがナシ寄りのナシ的な?」
「そのとおりです! とにかく! 個人のファッションや好みまで男を惑わせます!
「ん~~~~。やだ」
「はぁ!?」
「だって人に言われてやったわけじゃないし~~~? 自己満足だし~~~? 人からどう見られようとどうでもいいし~~? 逆に人にケチつけられて文句言われるとやめたくなくなるし~~~?」
「矯正したい人は矯正する。兄さんでも他人でも! 私が矯正するのは兄さんだけとは限らないということです!」
「落ち着けれみ! アマゾンみたいになってんぞ!」
「黙らっしゃい! 兄さんまで意味不明なこと言わないでください!」
「ちょ、れみ? 落ち着こ?」
「う~~~~ん、じゃあれみれみも一回やってみる~~~? 楽しいよ~~~?」
「けっこうです!」
「れみれみは頭が固いな~~~。そんなんじゃしゅんしゅんにも嫌われちゃうぞ?」
「な、なにを言ってるんですか。そんなことあるわけないじゃないですか。ふんっ」
れみは少し気を削がれながらも、なにふざけたことをという余裕の態度だ。
「今はそんなこと関係な―――」
「ん~~~。あたしだったら頭ごなしになんでも否定する口うるさい妹よりも仲のいい先輩選ぶけどな~~~。ねぇしゅんしゅん?」
え、俺? ここで唐突に俺?
「兄さんを巻きこまないでください。兄さんはそんな人じゃありません。山姥みたいな人よりも誰よりも理解してくれて本当に自身を大切に想っている妹を選びます。ねぇ、兄さん?」
いや、だからなんで俺?
「そうやって自分の理想を押しつけてたらストレスたまるって。ねぇしゅんしゅん?」
「先輩後輩などという数年しか思い出がない人に勝手に決められたくないです。ねぇ兄さん?」
「やべ、ムカチャッカインフェルノオオオオゥ・・・・・・なんだけど。ねぇしゅんしゅん?」
「私だって先輩に対しては怒っていますよ。ねぇ兄さん?」
「一回俺を挟むのやめない!? 二人の感情なんて同意も否定できないことじゃん!」
「それでどうなんスか瞬さん?」
「お前まで逃げ場を無くすな!」
悪ノリか、てへっとばかりに片目を瞑り舌をちょろっと出すまりあにツッコむ。まりあは二人のことに積極的に解決しようという意欲がないのか、それとも迷っているのか。二人のやりとりを乾いた笑みで眺めている。
「あたしは小田パイセンのこと嫌いだったっスけど、なんなんスかね。この気持ち・・・・・・。例えるなら、強敵だったライバルの変わり果てた姿を目撃した主人公みたいな。やるせなさを感じてるっス・・・・・・・・・」
「いや、それよりもとめようぜ?」
「無理無理。ああなっちゃったれみは絶対とめられないっス。火の粉が飛びかかって丸焼けになるっスよ?」
実感のこもった疲れた表情。今も尚バトルしているほうをちらりと覗うと、容易に想像できてしまった。
「うう~~~ん、というかこの人なにがしたいんスか?」
「俺もさっぱりだ・・・・・・・・・」
「普段一緒にいると男は慣れて飽きるんだし! そんなとき別の女性の魅力に気づいてつまみぐいしたくなるのが世の常なんだし!」
「そんな兄さんになんてさせません! それに自分自身をわかってくれる一番のかけがえのない存在の所に安心と愛しさを実感して帰ってくるんです! 私がそう矯正します!」
いや、話変わってない?




