元義妹、言いくるめられる。
起きた先輩は寝ぼけ眼を擦りながられみと対座している。
「では先輩は本当になにもなかったと?」
「うん、そうだよう? 瞬くんのビルドアップと、かたくなるでつのドリルが――」
「は?」
「でも私もしおふきとあまえるで対抗して・・・・・・・・・zzzz~」
「先輩? ポケモンの話は今はいいんですよ? バトルしたいならいつでも相手しますから」
まだ寝ぼけてるなこの人。
微妙にいやらしい勘違いをしそうな技を列挙してるのはわざとか?
怒りが鎮まったれみがまたぶり返しそうだから早く目を覚ましてほしい。
「先輩は兄さんと泊まって平気なのですか?」
「うん、平気平気~~~。昨日もなんともなかったしね~~~。瞬くんのことは信頼してるし~~」
この人は。昨日の俺がどれだけ大変だったかも知らないで。
「ですが、やはり男女が一つ屋根の下にいるというのは不健全ではないでしょうか。もし万が一もしものことがあったら」
「万が一?」
「お酒に酔った勢いと流れで関係を持つと聞いたことがあります。あと着替え中にうっかりばったり遭遇してお互いを意識してしまい・・・・・・・・・」
「ああ~~~・・・・・・・・・」
「最終的に子だくさんに恵まれて貧乏で大変だけど幸せな家族として大家族スペシャルで紹介されるようになってしまうんです」
「暴論だぞおい!?」
「ぐ、ぐぅ・・・・・・おめでとうございます・・・・・・テレビの放送日が決まったら教えてください・・・・・・」
「なに勝手に妄想して悔しがってんの!? ないない!」
「ないわよ? 大丈夫。千葉真一と舘ひろしと柴田恭兵に転生してカストロ髭を生やすくらいの奇跡がないかぎりは」
とりあえず先輩が頑なに渋めのおじさんとお髭がフェチだってことはわかったわ。
でも、れみは今悩んでいる。俺達を信じてはいるけど、不安で心配で、なにかあったら、という事態を想定せずにはいられないんだろう。
もう一つなにか一手が必要ってかんじ。
「それに瞬くんも私には興味ないみたいだし。ねぇ?」
「え?」
「そうなんですか?」
いや、いきなりなんで俺に振るの?
「あ~~~。やっぱり本人に言うのは恥ずかしいか~~~。しょうがないわね~~」
なんだ? 先輩はなにをしようとしている?
四つん這いで移動してごそごそとなにかを探り、戻ってきた。
「これを見て? これは瞬くんが私に手を出さないという証拠よ?」
「あんた・・・・・・・・・!」
ゾッとする。
先輩が持ってきて床に並べたのはエロゲだ。しかもこの人がラインナップした。
まさか。
「これは、なんですか?」
「女の子と恋人になることを目的にしたシュミレーションゲームよ。日本の男性の六割はこれを参考書にして恋愛に役立てているの」
さらっと嘘ついたよこの人。
「ちょ、先輩やめて?」
れみが露骨に不気味なものを見る目で俺とギャルゲを交互に視線を。
「そしてこのゲームは主に義妹・妹を対象にしているの。それを選んでわざわざ買ったことの意味・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・まさか!?」
「ここまで説明すればわかるわよね?」
「そ、そ、そ、」
「そう。瞬くんは私じゃなくってれみ―――」
「ダウトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
先輩の頭をおもいきりひっぱたいた。
「痛い! 瞬くんなにするの!?」
「うっせぇ! あんたなに言おうとしてんだ!! それじゃあ俺がれみを攻略しようとしてるとしか聞こえねぇだろが!!」
「まさにそう言おうとしていたのよ?」
「どういうつもりだああああ!! ほられみを見ろ!!」
れみはゲームのパッケージを手に取って赤面している。あわわわわわ、と僅かに開かれた口はぐにゃぐにゃと歪みめまぐるしく渦巻くように目が回っている。
「兄さんが私を・・・・・・・・・なななななな」
「ほら見ろ! どうしてくれんだ! 謝れ! 俺とれみに謝れ!」
「でも、こうでもしないとれみちゃん許してくれないでしょう? 私も泊まり続けることできないし」
「俺はぁ!? 社会的に死ぬんだぞ! れみとの関係が気まずくなるでしょうがああ! ってちょっと待て! 泊まり続ける!? どういうこと!?」
「え? そのままの意味だけど」
「・・・・・・・・・どれくらい?」
「まだ決めてないけど」
oh・・・・・・・・・。なんてこった。
え? 俺これからも先輩と一緒に暮らすの?
ヤバくね? 俺の理性。
「ふ、ふ、ふ、不健全!! えっち!! すけべ!! 兄さんの変態!!」
れみがぽかぽかと肩とか胸を叩いてきた。けどまだ恥ずかしさが勝っているのか力は強くない。
「わ、わ、私にこんなことを・・・・・・・・・私と!! そういうのはまだダメです見損ないました!!」
「ちょ、違う! 落ち着いて!? よく見ろ! 全年齢対象だから健全だ! えっちなシーンはない!」
「嘘です! こういうゲームはすべからく悪影響をもたらすとテレビでも言ってました! えっちだからに他なりません! お父さんもそう言っていました! このゲームをして私とのこともシュミレーションしていたのでしょう! 物語が終わったあとのことも妄想していたのでしょう!」
「なに続編を望むファンが考えた同人誌みたいな設定! ちょ、先輩助けろ! あんたが招いた悲劇だぞ!?」
「兄さんのすけべ! えっち! エロキングダム!」
ダメだ、手がつけられない。俺一人じゃ手に余る。
「【急募】現役JDだけど助けてほしいっと」
「なに2ちゃんねるに助けを求めてるんですかあああああ!」
「違うわ。Twitterよ」
「だったら#つけろおお! 状況わかってんのかあああ!! あんたの目にはなにが見えてるんだ!」
「だってお腹空いちゃったし、焼きたてのメロンパン食べたいし」
「しかも別件じゃないですかあああ! あんたこの状況わかってる!? なに後輩の死活問題無視して朝食で食べたい物教えてもらおうとしてるんですか!」
「だってお腹が減ると力が出ないし・・・・・・・・・」
「冷蔵庫にいくらでもあるから食べろ! つぅかネットを頼るな俺を頼れええ! このあたりだったら美味しいメロンパンもカレーパンもあんパンも売ってる店知ってるわ!」
「居候先の後輩が罵倒してくる(´;ω;`) っと。投稿完了」
「指全部折った上で炎上させっぞ!? なに被害者ムーブかましてんだ! あんたも俺と運命共同体なんだぞ!?」
「もうしょうがないわね~~」
あんたがそもそもの発端だろうが。
「へいSiri。催眠術の方法を教えて」
「へいSiri! まずはこの女に倫理感と危機感てものを教えてやってくれ!」
「なに和気藹々としてるんですか!」
「これが和気藹々に見えてるんだったら病院行かない!?」
「あらららうふふ。仲良しさんね」
「あんたサイコパスか!?」
収拾付かねぇよ。どうすんだこれ。
「ねぇ、れみちゃん。いいかしら。貴方はよく不健全と健全ってことを気にしているけれど」
「それがなにか関係あります?!」
「不健全って、なにかね?」
なにこの人。いきなりトーンと顔つき変わったぞ。
「ふ、不健全とは読んで字の如く! 健康と成長と心の持ち方、もののあり方が普通でなくおかしいことです!」
「うん、そのとおりよ。じゃあ瞬くんがギャルゲをしていることは不健全なの?」
「そのとおりです!」
「どうして?」
「ど、どうしてって・・・・・・・・・」
「女の子に、そしてれみちゃんに興味を持っているからよ? むしろ自然で健全な証じゃない」
頼むから俺がれみを重ねてギャルゲをプレイしてるって前提はやめてほしい。
「ぐ、ぐぬ、だ、だからといってえっちなことはダメです! 性へのモラルが下がってしまうから授かり婚や性の乱れや様々な問題が今おこっているのです!」
「うん、そういった側面もあるわね。でも、それはごく一部。モラルの低下を嘆き防ぐためになんでもかんでも不健全と定めるのは身勝手じゃないかしら。それとえっちなこととは別問題だと私はおもうの。きちんとしたデータもないでしょ?」
データ厨かあんたは。れみがなにも言えなくなっちゃったよ。
「男の人が性欲を持つのは仕方がないこと。女の人だって性欲はあるでしょ? まだ動物だったときから、知識も名前もなかったときからそうした性欲に突き動かされ、子孫を繁栄してきたの。人間もまた然りよ」
なんか壮大な話になってきた。話の展開が読めねぇよ。
「それが健全ではないというの? だったらあなたも不健全ということになるわよ?」
は?
「だってあなたもご両親がえっちなことをしたから産まれたのよ? えっちなことはすべて不健全になってしまうのでしょう?」
「な、な、そんな!」
「だってそうでしょう? えっちなことはすべて不健全。子作りはその最たるもの。つまり不健全な行為によって産まれたれみちゃん。あなたもまた不健全ということになってしまうわよ。そういう行為には必ずしも、れみちゃんが否定して嫌悪する性欲というものがなければできないのだから」
「ぐ、ううう、う?」
「れみちゃんのお父さんもお義母さんも、えっちな気持ちになって不健全な気持ちになってれみちゃんと、そして引いては瞬くんは産まれないの」
サラッと俺を巻きこむなや。
「ち、違います! だって私の両親はきちんと愛しあって、気持ちが通じてあってしたことで・・・・・・・・・でも、だから、えっと―――」
「甘――――――――――――――――――――――――――――――――い!!」
「ひ!?」
「不健全を否定するということはあなたのご両親、ひいては人類の繁栄、生命、地球、宇宙、森羅万象をすべて否定することになっているのよ! この世は性欲がなければここまで産まれなかった。不健全とはすなわち、人類の進化と発展には必要不可欠」
「な、な、な、」
れみはがっくりと肩を落とし、ぺしゃんと座りこんでしまった。
「もう一度聞くわね? れみちゃん。不健全ってなにかね?」
「ふ、ふ、不健全とは、うう・・・・・・」
「男の人がえっちなのは仕方がないことよ?」
「お、男の人が不健全なのは当たり前・・・・・・? えっちなのも当たり前? むらむらするのはせいぶつほんのう・・・・・・・・・にいさんはだれでもむらむらする・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「おいこら待て。なにしてんだ」
「お堅いれみちゃんの頭をちょこっとほぐしてあげようかなって」
「ちょこっとどころじゃねぇだろ! 価値観揺らぎそうになってんじゃねぇか!」
「にいさんがむらむらするのは当たり前? なら私もむらむらしてもいい? 私がおかしい?」
「ほら見ろ! 変なこと言ってんじゃねぇか!」
「破壊なくして創造はありえないの。既存の在り方に囚われず、常に柔軟に、ときに果断に事をなさなければ何者にもなれないのよ?」
「勝手に人の妹を壊すな! 俺は今のれみの兄貴でいられればそれで充分です!」
「ちのつながっていないにいさんがわたしにむらむらするのはしかたがない、ぎゃくもしかり、ふけんぜんばんざい、ほうりつなんてくそくらえ」
「しっかりしてれみ! 血が繋がってなくても俺達兄妹だから!」
「は!? あなた?」
「あなたって誰!? 瞬だよ瞬! お前の兄貴の上杉瞬!」
「つまりダーリン? 旦那様?」
「だめだまだ価値観バグってる!」
ガクガクと揺さぶり続けたことが功を奏したのか、虚だった目に光が戻った。
「う、うう、わ、わかりました。兄さんが先輩と一緒にいても大丈夫だと、わ、わかったので」
「ありがとうれみちゃん!」
「ごめんなれみ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
素直に喜べない。
だってこっちに答えてくれないし。視線合せないし。けどチラチラ見てくるし。れみからすれば自分を異性として意識している兄貴だって考えがこびりついたってことのなによりの証だし。
「やったね瞬くん!」
「感謝しねぇよ?」
一仕事終えたぜ! とばかりにやりきった感満載の先輩を追いだしたくなった。




