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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
グリーンフィールド 魅惑の森と最悪の魔獣編
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第148話 ヴァンピスとの衝突

また亀更新で頑張っていきたいです…。

 

「やってくれたわね。私のお人形ちゃんを押し返すなんて流石は勇者様ってところかしら?」


「御託はいい……お前がコイツらにした仕打ちの数十、数百倍にして返してやるっ…!!」


 リリィを守る様に大剣を構えて切先を向けるのは半人半鬼のアルバルト。

 彼に対峙するのはリリィ達の上司であり、美しさに異常な執着を見せる死霊使いのヴァンピス。


 2人の距離は約10メートル。数歩踏む出すだけでお互いの射程距離に入る近さだ。アルバルトの視界にはゆっくりと立ち上がるヴァンピスの人形を捉える。



 ーーーーそして時は動き出す。




「ウギィガァァァァアアアアア!!!!」




 アルバルトにやられた怒りから人形は全身の筋肉を膨張させ、空気が震える程の声量と共に駆け出してくる。




 その間、僅か2秒。




 瞬きをする一瞬の間で、その巨大が視界を覆う。人形から繰り出された拳は彼目掛け、風を切って進んでいく。


 結構早い。そしてその破壊力は並大抵では無いだろう。生きる屍とかしたこの人形は身体能力が高いのは分かっている。


(大丈夫、己の力を信じろ。俺の方が強い)




 ゆっくりと周りがスローモーションに動く。



 ーー分かる。


 ーー感じる。



 鬼人の力を引き出す事で強化されたこの目が奴の動きを見切り、次の一手を繰り出す為の隙を生み出す時間を与えてくれる。


 筋肉の動きや視線、奴の身体の向きから全てを予測して拳の軌道を読み解く。



「"パリィ"」



 大剣の側面で拳を滑らす様にして跳ね上げる。どんな破壊力を持っていようと当たらなければどうって事はない。

 ハルゲルが得意としたこの技は有用だ。

 ピンチをチャンスに変える。今まさに欲しかったこの瞬間をこの技は生み出してくれた。


「横っ腹がガラ空きだァァァア…!!」


 燃える炎の剣を人形の上半身目掛けて振るおうとしたその時、奴の口から赤い色が見える。


「おバカねっ!引っかかってくれたわ!」

「"火炎吐息(かえんブレス)"」


 人形から吐き出される炎を見てヴァンピスがニヤリと笑う。手を伸ばせば触れるだろう距離だ。ただの人間には避けられないし、致命的な隙だろう。

 邪悪な笑みを見せるヴァンピスはこれから起こる光景を想像するが次の瞬間、その表情は驚愕へと変わった。


 なんと焦り一つ見せることもなく、アルバルトが大剣を横に振り切ったのだ。


 防御、いや避ける仕草も皆無。相打ち覚悟かと思われる行為だった。アルバルトの剣はヴァンピスの人形へと届き、その胸を深く抉り飛ばして、斬りつける。


「…………っ!?」


 あれだけの高温の炎を喰らって無傷なアルバルトにヴァンピスはどうしてダメージがないのか!と叫ぶ。それに対してアルバルトはあっけらかんとした態度で答えた。


「俺に炎は効かねぇよ」


「い、意味わかんない!」


「そうかならいい……コイツの次はお前の番だ」


「ーーーっ!?」


 いまだに何故アルバルトに炎が効かなかったのかと騒ぐヴァンピスを尻目に人形へと目を向ける。

 まだ動き出す気配は残っている。ならば早々にトドメを刺す為に剣を構える


 今のアルバルトには火の精霊の加護と呼べる加護がある。これは火の精霊と契約を交わした影響でその力を使う際、自身の炎に焼き尽くされない為の加護だ。


 それは火という属性に対してアルバルトが獲得した強耐性。

 アルバルトにとって精霊の火よりもランクが下がる火属性の攻撃など一切のダメージすら感じない。


 まだ動き出そうとするヴァンピスの人形へその刃を向ける。



「焼き尽くせっ!"灼熱剣(しゃくねつけん)"!!」


「ピィガァァァアァア!!!!」

「そ、そんな…私の可愛い人形が…」



 魔石が眠っているであろう胸元へ大剣を突き刺し、その身体へ炎を伝える様に俺の魔力を流し込んだ。

 過剰な量の魔力が身体から抜けていく感覚に怠さを覚えるが、止める訳にはいかない。


 ヴァンピスによる擬似的な不死であった人形だが、絶え間なく送られるアルバルトの魔力の濁流と精霊の炎、そして勇者の力が全身を貪り尽くしていく。


 そして完全に沈黙するとその身を黒い炎が覆い尽くして燃えて消えていく。

 その最後を見届けたアルバルトはゆっくりと顔を上げてヴァンピスへと向き直る。


 その目は、()()()()()と物語っていた。




「何よ!何よ!何なのよ!その目……ッ!気に入らないわね!!お前はこの私の下僕になってれば良かったのよぉぉぉぉお!!!」



 ヴァンピスが腰に刺していた鞭をしならせてアルバルトに向かって振るう。それが当たる直前、彼は片手で掴んで受け止めた。




「……っ、痛ぇな。だが掴んだぞ」




 俺は左手に掴んでいる鞭を思いっきり後ろへ引き寄せる。

 武器を奪われまいと格闘したヴァンピスの努力も虚しく、腕を更に引き倒して鞭を離さなかった奴を魚の一本釣りの様に引き寄せた。


 こいつを倒す前に一発、一発でいい。

 こいつに巻き込まれたエルフ族達やリリィの苦悩、そして怒りの気持ちを乗せてぶん殴ると決めていた。

 焦りまくって恐怖に歪む奴の顔へ、炎を腕に纏わせて渾身の一撃を放つ。


 俺の、俺達の恨みをこの拳に込めてーーー。


「ファイヤーハンドォォォォォオ!!!」


 地下室に鳴り響く轟音と共にヴァンピスの身体が宙を舞う。意識をかろうじて保っていたヴァンピスは地下室を支える柱へ身動きすら取れずに衝突した。





 ◆



 ーーーカツカツと靴底を叩く音が響く。


 腰を抜かして這いずる様に逃げ出そうと後ろへ必死に腕を動かすヴァンピス、だが視線だけは前を向いていた。


 目の前には己を害そうとする鬼人がいるのだ。

 目を離す訳にはいかなかった。

 目を離してしまえば殺される。

 ヴァンピスの脳裏には惨い最後を迎えたお気に入りの人形の姿が浮かんでいた。



「私が悪かったわ!エルフ達は解放する…!もう2度と貴方の前には現れないから!ねぇ、お願い!許してぇぇ……」


「許す…?お前は何を言ってるんだ?」


 みっともなく地べたを這いずり回っているヴァンピスが発した言葉に理解が追いつかなかった。


 こいつは本当に何を言っているんだ…?


「お前は多くの人を苦しめた。エルフ族の国にいる女子供はいつまでも帰って来ない男達を待っているんだぞ!……それを散々苦しめて来たお前が、お前が言うんじゃねぇっ!!」


「それについては悪かったと思っているわ!それに私だけじゃない!あの子達だって共犯の筈よ!!なんで私ばかり責められるの!?おかしいじゃないぃぃい…!!」


「リリィ達は今回の騒動に加担したさ…アイツらにも当然だが責任はある。でもな、その過程を辿っていくと最後はお前にぶち当たるんだよ、ヴァンピス」


 敵とはいえ、その身を穢されても妹を救おうとした姉とそんな姉達を解放しようと悪事に加担した妹のリリィ。

 彼女達に責任がないとは言えないが、それを強要したのはヴァンピスだ。

 諸悪の根源はここで止めなきゃいけない。



「命を弄ぶお前だけは絶対に生かしちゃいけねぇ。これ以上アイツが、アイツらが悲しむ顔を見るのなんざ御免だ……!!」



 リリィの日記に残る文字の節々から伝わってくる悲しみや苦しみ、怒りの感情が俺の感情を爆発させる。

 仲良く暮らしたいだけであった彼女達を無理矢理従わせて、生物としての尊厳や自由を奪い、踏み躙るヴァンピスの行動は到底許せない。


(……俺が終わらせる)


 剣を握る手に力を込める。

 腰を僅かに落とすと、両手で剣を構えた。


 抜刀に近い体勢でいつでも動ける様に相手の動きを観察しているとヴァンピスは俺から距離を取ろうと必死に腕を振り回して踠いている。


 そんな無様な姿を見て心が…いや、全く傷付かないな、うん。



 どんなに離れようとこの距離は俺の間合いであり、これ以上時間を取られない為にも足に力を入れ、飛び掛かるタイミングを見計らう。


 そしてヴァンピスの背中がこの部屋の中央ぐらいに設置されていると思われる柱にぶつかった。一瞬だけ奴の動きが止まる。

 今が好機!っとその瞬間を狙い、俺は重たくて分厚い大剣を携えてそのまま横へ一閃。


 確かな手の感触とごとりと上半身と下半身が崩れる音が聞こえた。自由を失ったヴァンピスの身体はうつ伏せに倒れ、その表情は読み取れないが、これでようやく終わったのだと心を落ち着かせる。


「これで終わったのか……」


 終わった…ようやくこの馬鹿みたいな一日が終わりを告げると思うと身体の疲れがどっと出た。

 後は、ヴァンピスの核部分を破壊して囚われていたエルフ族達を解放すればお終い……そう思う頭の片隅で何かまだだ!と警告を鳴らす。


「ア、アハ、アハハハッ!!」

「……何がおかしい?」



 突如として笑い出すヴァンピスを見て一抹の不安が脳裏を過ぎる。


(王手に近いこの場面で何を企んでいる…?)


「ねぇ、知ってるぅ?……奥の手って言うのはねぇ…?最後まで取っておくものなのよ!」


 叫ぶ様な声と同時にヴァンピスの横を何かが物凄い勢いで通過する。呆気に取られて謎の物体が俺の真横を通り過ぎていく事を止められなかった。


「………っ」


 鬼人族の力で強化された目が横を通り過ぎる何者かを捉え、その物体の姿を目撃する。


 腐り落ちた肉片を撒き散らしながら、4本の足で駆けていく狼らしき生物。いや、この場合はアンデッドと呼ぶべきなのだろうか。


 真っ直ぐと怪我でまだまともに動けないリリィの元へ一目散に向かって走っていく。


「さあ、間に合うかしらぁ?」

「チィーーーッ!」


 倒れているヴァンピスの事はこの際無視だ。魔石を破壊していないにしろ、あの重傷ではそう遠くへは行けない筈だ。


 ならばと動けないリリィの元へ全力を持って駆け出す。


「逃げろっ!リリィー!!」


 足がはち切れそうなぐらい必死に動かしてはいるが、差が縮まらない。

 心にどうしようもない程の焦りの感情が広がっていく。

 距離は縮まっているのだが、まだ追いつけない。更に一歩前へ踏み出して手を伸ばすが、その手は空を掴むだけだった。


「ヒィーーっ!」


 満身創痍のリリィの元へ先に辿り着いたのはアンデッドだ。低い唸りを上げて地面を蹴り上げ、リリィを噛みちぎろうと飛び掛かる。


「聖なる結界を今ここに…!"女神の加護(プロテクション)"」


「ぎゃぅん!?」


 誰かの声と共にリリィとアンデッドの間に光の薄い膜が広がる。そして気を窺っていた彼女達はアンデッドの前へ躍り出た。


「ヴィーラには及びませんが、私も守りには定評があります!……今です、レティシアさんっ!」


「了解です。"風来(ふうらい)"!」


 マリアの合図と共にレティシアが魔物へ突撃する。その両手にはマーラットから賜った魔力剣が二振り握られ、魔物をすれ違いざまに斬り付けた。

 彼女の魔力によって伸びる短剣は魔物の首と核となる魔石を的確に破壊する。


 レティシアは何事もなかった様に短剣を振り、得物を腰に差してある革の入れ物に仕舞い込んだ。そしてこちらを警戒するリリィの元へ歩み寄る。

 治療にはマリアがリリィを見ている様だが、顔色は少し悪かった。


「………怪我は多少あるみたいですが、命に別状はありません。しかし、あの子は魔族です。闇とは正反対である私の光属性の治療魔法だと逆に苦しめてしまいますし…」


「なら、これを使いましょう。私のポーションです」


「確かにこれなら属性は関係ありませんね…」


 治療をどうしようかと悩むマリアの苦悩を聞いてレティシアが取り出したのは一本の緑色のポーションだった。

 怪我で動けないリリィの口元へ運ぶレティシアにリリィは問う。



「待って…!リリィは、貴方達の敵よ。そんな敵を助けようとなんて…バカじゃないの!?」



 リリィは叫んだ。理解が出来なかったのだ。リリィはサキュバスだ。種族特有の能力からレティシアが好いている男なんて一目見れば分かるし、奪う事も簡単だ。


 その実、リリィはアルバルトを一度洗脳していた経緯を持っている。そんな女を助けるレティシアの事がどうも引っ掛かって仕方ない。

 何かよからぬ事を考えているのではないかと悪い方向へ意識が偏り、レティシア達に探りを入れる。


 そんな疑り深い彼女を見てレティシアとマリアは顔を見合わせてふっと笑みを溢して笑い合う。


「そうですね。本当なら貴方を許すつもりはありませんでした」


「なら、どうして…!どうしてリリィを助けようとするの…っ!?あんなに酷い事して、みんなを苦しめて!お姉様達まで犠牲にして!今更助けないでよ…ひぐっ……、そんなんじゃ、わたしは、私が許せなぃ…!!」


「………この本に覚えはありませんか?」


 レティシアが取り出したのは、リリィが辛い日々を耐える為に付けていた日記だった。

 どうしてこれが…と動揺するリリィを見つめてレティシアは話し出す。


「これは貴方の物ですよね?」


「そうよ…これは私の日記。お姉様達との楽しい思い出と、それからヴァンピスへの恨みを込めた忌々しい本……」


 本の表紙を優しい手つきで撫でるリリィの手にレティシアは手を重ねる。

 驚いて目を丸くするリリィに彼女は視線を合わせる。その真剣な瞳にはサキュバスの瞳よりも人を惹きつける魅力があった。



「ここに綴られていた内容に目を通しました。辛かったですよね。貴方は私によく似ているんです。大切な人を守りたかった。私を、私達を助けて欲しかった。私も同じ経験をした事があります」


 1度目は魔王ヘリオスと対峙した母を置き去りにしてしまった時。2度目は父を、3度目はアルバルトを守れなかった自分への不甲斐無さ。


「どうすれば良いか分からなかった。だから耐え忍んで機会を伺った。でも非情にはなれなかったんですよね?」


 わざわざ倒れ伏す敵を心配して薬を置いていったリリィの弱点とも言える魔族らしからぬ優しい心。それに触れて戸惑いを感じた。


「此処に来る途中、操られているエルフ族の皆さんを解放しました。皆さん口を揃えて言ってましたよ。あの子のお陰で我々は助けられていたのだ。姉を想うあの純粋な心を持つ少女を助けて欲しいって」


 思い出されるのは、先程のエルフ族達が自分達に頭を下げてリリィの無事を懇願する姿勢だった。

 憎むべき敵である少女に対してここまでするとは流石のレティシアも驚いたが、彼らの話を聞く限り、健康状態に気を配っており、誰1人として倒れた者はいなかったと。


 ヴァンピスとエルフ族の板挟みに苦しめられている少女を見て憐れみを抱いてしまったエルフ族達をレティシアは責められない。

 自分もまた少女に同情を抱いてしまったのだから。


「鞭で打たれてもご飯を抜かれても平気だった。お姉様達の苦痛に比べたらそのくらい我慢出来たの…でも……」


「本当は痛かったですよね。苦しかったですよね。大丈夫です、此処にはもう貴方を責める人は居ません。だから我慢はもうお終いです」


「……っ、痛かった…痛かった痛かった!!私頑張ったのに…!お姉様お姉様お姉様ぁっ!!!!ああぁぁぁ!ごめんなさい!リリィが弱がったからぁぁぁぁ…」


 レティシアに抱き締められ、リリィは今まで張っていた緊張が決壊していく。そして彼女の温かい胸元で大きな声で声が掠れるぐらい泣き喚いた。

 泣いて泣いて泣いて、涙も掠れるまで目から雫が溢れ出た。



 無事に間に合って良かったと後から合流したアルバルトと温かい目で彼女達を見守っていたマリア。


 泣き崩れるリリィを抱き締めて慰めるレティシアの3人は気付かない。


 まだ脅威は過ぎ去ってはいない。


 すぐそこへ眠る悪意が再び目を覚まそうとしていた。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】を★〜★★★★★で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションに繋がりますので皆様のご感想等もよかったら聞かせて下さい!

誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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