第132話 土の精霊ノームの試練
日常パートはなかなか書くのが難しい…早く戦闘面を書きたい。
エルフの広場から再びミドルウッドの書斎へと移動したアルバルト達は現状、どういう状態になっているのかを擦り合わせていた。
度重なる問題に疲労が溜まるが、あの広場での惨状を前に泣き言も言ってられない。
あの場に集まっていたエルフ族の女性達にとって大切な夫や恋人が奪われたのだ。
今はミドルウッドが主導の元、彼女達を抑えているが、いつまでも保つとは思えない。
事態は一刻を争うかもしれないからだ。言いつけを破って男を取り戻す為に古城へ襲撃を仕掛けてしまうやも知れない。
そんな事が起きたら、魔族との戦闘は避けられず、大勢の被害が出るだろう。
それは絶対に避けるべきだ。
だから情報収集をし、作戦を立てた後で迅速に乗り込み、囚われているエルフ族を奪還、そして魔族を討つ。
これが最低条件となる。
………はぁ、めっちゃくちゃ大変な最低条件だ。ゲームでいう所の難易度ハードよりも上だぞこれ。
「それで分かっている事から纏めると…魅了を使う魔族にそれで手下にした男を操れる事と、崩れかけの古城に住んでいるだけと」
「あまりに情報が少な過ぎますね…」
レティシアの言う通り、情報が少ない。相手の能力は分かったが、まだまだ心元無さすぎる。
「そういえば…あの崩れかけの城って元々何があったんだ?遠目からでもなんとなく古びた感じだし、いつからあんな感じになったんだ?」
アルバルトが呟いた言葉にミドルウッドが反応した。
「ーーー今から20年前。あの地には元々我々エルフ族と交流のあった龍人族が住んでいた。雷の精霊を信仰する彼らの人柄は穏やかでとても優しかったが、戦闘面でも引けを取らず、我らエルフ族にとってありがたい存在だった…」
「だったって事は…もう今は…」
「……あぁ、彼らは滅びたよ。あの日は一度たりとも忘れた事はない。一夜にしてあの古城にあった全てが崩壊した。城は半壊し、大地は血で染まり、沢山の命が失われてしまったのだ」
(一夜にして全てが滅びる…。一体、何があったらそうなるんだ)
ミドルウッドが窓の外にある景色を見て目を薄く顰める。口元に手を置いて隠しているがきっと唇を噛み締めているのだろう。
辛い過去の記憶を掘り返すのは気が引けるが今は些細な事でも情報が欲しいのは事実。
俺の顔を覗き込んだレティシアが俺の考えを見抜き、代わりにミドルウッドへ詳細を聞き出す。
その気遣いが嬉しくて小さな声で「ありがとう」とレティシアに伝える。そのお礼を聞いて一瞬はにかんだ彼女はミドルウッドへすぐに顔を向けた。
窓から目を離したミドルウッドが俺達に語りかけたのは想像も出来なかった事だった。
「……魔物の行進。普段は統率の取れない様々な魔物が一団となって攻めくる事を言う。エルフの国にも奴らは牙を剥き、襲い掛かって来た。魔物共は私と同胞達で殲滅したが、龍人族の方まで気が回す事が出来なかった…駆けつけた時にはもう既に手遅れ。私はただ自分の無力さに嘆いていたよ」
ハハハと力無く笑うミドルウッドに俺は声を掛けられない。
誰しもがある後悔という念。
俺だってあの日の夜は忘れた事はない。
親父が暴走し、お袋が血溜まりに倒れ、無力な自分を嘆く事しか出来なかった。
…………いや、俺の場合は幼馴染のリサーナがいた。
彼女が発破を掛けてくれたからこそ、今の自分がいる。嘆く事で止まってしまった足を再び前へ動かせる様になったじゃないか。
今のミドルウッドはどこか憂いと迷いを感じ取れる。
何故かは分からないが、放っておく事は出来そうにない。
(今の俺に出来る事はただ一つ。リサがやってくれた事を、背中を押して前へ動かしてあげる事なんだ)
「ミドルウッドさん。貴方がやった事は誇るべき事だ。エルフ族を守る事で手一杯だったんだろ?彼らを守り切ってなお、増援として駆けつけたんだ。それは胸を張っても良いと俺は思う」
「君は…」
「どんなに力があったって俺達の手で守れる範囲には限界がある。俺だってそうさ、ヒガリヤでの魔族襲撃だって1人で何も解決なんて出来なかった」
アルバルトがゆっくりと話す言葉をミドルウッドは静かに目を閉じて聞いている。
マリア達も真剣にアルバルトの言葉に耳を澄ましていた。
「仲間の協力もあってやっと倒せたんだ。貴方もエルフ族と協力して魔物を殲滅したと言っていたが他のエルフが何か文句を言っていたのか?違うだろ?絶対に貴方に感謝をしていた筈だ」
ミドルウッドの信頼は絶大だ。エルフ族がああして洗脳されている時もそうだ。夫や恋人を奪われた彼女達の怒りは激しい筈。居場所がわかっているなら、なりふり構わず突撃している者もいるだろう。
なのにそれがない。
ミドルウッドが言い聞かせて統率しているからこそだと思う。それは信頼というミドルウッドが築き上げてきた証なのだ。
「仮に龍人族の事で思い詰めているのなら同胞に相談して意見を聞いてもいいと思う。それが難しいなら俺、俺達が聞くよ。何もかもを1人で抱え込もうなんてしない方がいい…人ってのはそこまで強い生き物じゃないんだからさ」
「勇者殿…そうか、そう言ってくれるのか…私は…罪を犯した。許されざる罪だ。引き返す事などもう出来ない。彼らは絶対に私を許してはくれないだろう」
ミドルウッドから一筋の涙が流れた。
頬を伝い、顎の下で雫を作り、床に落ちる。
ミドルウッドが言う許されざる罪とは…きっと龍人族の事だろう。その罪の意識が晴れるまで、ミドルウッドが自分の中で解決出来るまで時間が掛かるかも知れない。
だが、きっとこれで前へ向くきっかけは出来た筈だ。
親身になってくれる仲間がミドルウッドには数多くいる。
だから大丈夫だ。
「流石ですね、アルバルトさん。素敵な言葉だと思います……が、よく1人で抱え込むのはアルバルトさんも同じですので私に相談して下さいね…?」
うぇ、レティシアからそれブーメラン発言ですよと鋭いツッコミが入った。
あ〜、なんか顔周りが熱い…。
「な、なははは…!参ったな…これじゃあ俺、説得力がねえよな!……マジで話して恥ずかしいっ!」
「えぇ〜、カッコ良かったわよ。ねっ、ヴィーラさん!」
「そうだな。ミリア殿の言う通りだ。貴殿の想いはきっと伝わっている。だからそう落ち込まなくともいい」
トクンッ。思わずその男前に心を揺さぶられた。
全く誰だよ。こんな良い女放っておくの。
顔に傷があるぐらいで美人だし優しいのになんでモテないんだろうか。きっと男よりも男前だから男側が惨めに見えるんだろう。
(そんなプライドへし折っちまえばいいのに…)
アルバルトの言葉を一つ一つ、消化したミドルウッドは目元を手拭いで拭って目頭を赤らめて笑う。
その笑みを初めて久しぶりに見たと側にいてアルバルト達のお茶汲みをしてくれたエルフ族の女性は心の中でホッと息を吐く。
偉大な恩方に長年仕えながらも時折、ひどく弱った様子のミドルウッドの姿を見ていたが、それがどうだ。
「よいお顔になられて……」
旅人の言葉によって何十年ぶりに見た事だったか。その子供みたいな微笑みを見て自分の目頭が熱くなってしまった。そっと指で目元を押さえて涙を堪える。
いつも側で気丈に振る舞っていたエルフ族の女性の様子を見たミドルウッドは彼らに感謝を含めて精霊の事を教える事に決めた。元よりも教えるつもりではあったが、早く教えよう。感謝の意を込めて口が話したくて仕方ない。
「……っ、すまない。君達が聞きたい事はもう一つあるのだったね。このグリーンフィールドで信仰されている精霊様は2体…私が力を賜った土の精霊ノームと先程も言ったがあの古城で祀られている雷の精霊トール。彼らに力を借りるのはある条件が必要になってくる」
「その、条件とは一体…?」
ミドルウッドが力を授かったのは土の精霊である。それはある条件が必要であり、その条件に当てはまる者にしか力を分け与えられないという。
マリアが身を乗り出してミドルウッドに問う。
「精霊にはそれぞれ試練というものがある。火の精霊イフリートは勇気を試し、水の精霊ウィンディーネは愛を、風の精霊シルフは自由を、土の精霊ノームは親和を、雷の精霊トールは覚悟を試すと言われておる」
アルバルトはミドルウッドに言われた精霊の試練についてヒガリヤで起きた事を思い出していた。
火の精霊イフリートは勇気を試す….か。
あの炎に身を焼かれる感触と痛みは何度も焼かれているうちに慣れたとはいえ、無限の苦しみを味わっていた様な気分だった。
あの苦痛を耐えきれたのは我ながら凄いと思う。何度も挫けそうになったが、心の奥底で人を守りたいという気持ちが、力を与えてくれたんだ。
あれを後4回もやるハメになるかも知れないが、力は欲しい。どんな条件であれ、俺は試練を突破してみせるぞ!
「土の精霊ノームよ。私達の前に姿を見せておくれ」
気合いが入ったアルバルトだったが次の瞬間、肩を落とす事となる。
ミドルウッドが精霊に呼びかけ、姿を見せた土の精霊ノーム。だが、それはテーブルに生えてきた手のひらサイズのキノコだった。
えっ…?キノ、コ……!?
「キノコ…」
「キノコだ」
「キノコですね」
「ブフォッ!……コホン、えっ、本当にキノコじゃん。お祖父様これってどういう事?」
「すまないね、彼は恥ずかしがり屋だからなかなか私相手でも姿を見せる事が少ないんだよ」
まさかのテーブルに生えてきたのはキノコ。
見た目はカサの部分が大きく平べったい薄い茶色。そして柄の部分は白く一般的な感じなのだが、なんか若干光っている。
ミドルウッドはミドルウッドでそのキノコを引き抜いて戸惑っているミリアに近づいて手渡した。思わず受け取ったがどうして良いか分からずに固まる。
「わ、私なの!?どうするのよこれ……」
「土の精霊は我々エルフ族にしか力を貸さない。私と同じ血を引くミリアならその資格があるだろう」
食べなくてはダメなのだろうか。気持ち表面がヌメッとしている様に思える。早く俺を食べろ。食べてくれ、食べやがれと自己主張するが如く、光も少し強くなった。
ドン引きしているミリアが助けを求めようとアルバルト達を見るが、誰も引き止める人はいない。それどころか目を合わせると興味津々とばかりに見る者、思わず目を背ける者など薄情な連中ばかりだ。
「えぇ…なんかこれ食べたくないんだけど…光ってるし…」
「大丈夫、変な味はしない。私も初めて食べた時は躊躇したものさ」
嫌々ながらミリアがミドルウッドから渡されたキノコをガブりと口の中へ放り込み、飲み込んだ。
ミリアの身体が淡く光りを放っていたがそれもすぐに止む。体調に変化はないかとユージーンが心配しているが何も問題はない様だ。
「土の精霊ノームは親和を試す。なるほど、これが…」
「エルフ族、そして水と土の魔法に適正がある者。全ての条件を満たした者にしか扱えない癖ものだが、それを満たしてしまえば試練というものはない」
「敢えて言うならその条件が試練…というものですね」
「ああ、そうだね。狼獣人のお嬢さん」
ミリアが食べたキノコは適性がある者にしか食べられない。
それを完食できたミリアは土の精霊から認められた証だ。
突然の事で戸惑うミリアとその一同。
内情を知っているミドルウッドだけがこの光景に対して微笑みを浮かべていた。
(あぁ、懐かしい……私の時もおろおろとしたものだ…)
まるで随分と昔にあった同じ様な光景を思い浮かべて…。
という訳でミリアが土の精霊ノームから力を授かった訳ですが、試練という概念が1番簡単なノームさんと比べ、何度も身を焼き尽くすイフリートって…
次の視点は魔族の3姉妹へ!
引き続き、応援よろしくお願いします!




