第131話 エルフの国 グリーンフィールド
ミリアの案内により、無事にグリーンフィールドに到着する事が出来た。周りを見渡せば、自然豊かでエルフ族が共生している。
樹木の間には扉が取り付けられている所もあり、中には空間がある様だ。
遠巻きにこちらを見るエルフ族の好奇な視線に耐えながらも俺達はミリアの後を追って中へと入り込んだ。
「そこの人族、とまれぇ!此処より先はミドルウッド様の書斎なるぞ!許可なき者は立ち入る事は許されぬっ!」
目の前に一際大きな樹木を目指し歩いていくと門番と思わしきエルフ族に呼び止められる。
どうしたものかとレティシアと顔を見合わせていると先導していたミリアが腰に手を置いて自信満々に話しかけた。
「あら、久しぶりね。私の顔を忘れたって言うの……パーチス?」
「あ、貴方はミリア様!……い、いまミドルウッド様に確認を取って来ますっ!」
ミリアからパーチスと呼ばれた男は敬礼をした後、急いで樹木の中へ入っていく。
あまりの急変具合に俺達はただ見る事しかできなかった。
「なぁ、ユージーン。ミリアって何者なんだよ…?」
「実はミリアって偉い人の親族なのさ。僕もあまり会ったことはないけど、感じのいい人だよ」
「そうね、ユージとは小さい頃にここで遊んでたけど、私のパパとママが出会ってからは人族が住む村に生活を移したから会ったことはないでしょうね」
コソコソとユージーンと話しているとミリアが此方に顔を向けて言い放つ。
……成る程、なら門番の慌てようは仕方ない。
そうこうしていると扉が開き、中からは先程ミリアにパーチスと呼ばれた男が出て来た。
中へ入ってもいいと言う事なのでパーチスに馬車を預けた後、俺達6人は扉を開いて中へ通される。
部屋ではカリカリと書類にサインをしているエルフが1人。動かしていた手を止めてやんわりと笑みを浮かべる。
「久しぶりのお客人だ。遠い所を遥々お越しいただき感謝するよ。今代の聖女と勇者、そしてその御一行。私はこのグリーンフィールド、エルフ族を束ねるミドルウッド・グリーンフィールドと言う。つまらない所ではあるが是非くつろいでいってくれ」
「君、彼らにお茶を」とミドルウッドが側にいる女性のエルフに申しつける。彼女は嫌な顔ひとつせずに俺達をソファーに座る様に促して淹れたてのお茶を配る。
「いい匂いですぅ〜」
「香りも良いですが、この渋味もなかなか、お茶菓子に合いますね」
「ははは、気に入ってくれて良かったよ。そのお茶はね、このグリーンフィールドで栽培している自慢の逸品さ。帰りに幾つか持たせよう」
マリアとレティシアの言う通り、お茶と一緒に置かれたお茶菓子を一口パクつく。
(成る程、お菓子の甘味とお茶の渋味が絶妙にマッチしている。これは美味いな…)
彼らのおもてなしもあり、美味しい物を食べて緊張がよく解れた。
そして本題に入る為に開口一番、ミリアが口を開く。
「……お祖父様、お久しぶり。相変わらずここの茶葉は良い味出しているわね。全然元気そうで良かったわ」
「やあ、ミリア。こうして会うのは200年振りかい?大きくなった孫の顔を見れて私は嬉しいよ。お友達も一緒なんて今日は嬉しい事だらけだ」
微笑ましいお爺ちゃんと孫の会話。
ミドルウッドとミリア以外の動きがピシャリと固まった。
見た目は完全にマーラットと同じぐらいに見えるミドルウッドに、ヴィーラよりも年齢は少し下ぐらいにしか見えないミリア。
年齢の話はアルバルト達はしないように心がけていたが、ミリアとミドルウッドの会話を聞いて思わず固まってしまったのだ。
200年越しの再会というパワーワード。その具体的な数字は彼らに衝撃を与えるのに充分な役割を果たしていた。
「………200年、ぶり…?」
「ユージーンっ!気をしっかり持て!」
「……すまない、アルバルト。少し考えが纏まらなくてね。年齢は聞かない様にしていたけど、そうだよね。ミリアはハーフとはいえ、エルフ族なんだ。そのぐらいは覚悟していたさ…」
改めてエルフ族という種族は見た目で判断してはいけないものだとアルバルト達は思うのだった。
会話を切り出してくれたミリアに続いてマリアが俺達の目的を伝える為に割って入る。マーラットから渡す様に言われた封書をミドルウッドへ渡し、ミドルウッドはその封書の中身を見る。
普段の腑抜けた様子とは違い、完全に仕事用のスーパー聖女タイムに入ったマリアは口調を正してミドルウッドに説明を開始した。
精霊の力を借りる事は出来るかどうか?
グリーンフィールドで噂されている魔族の事や他の七英雄の居場所など。
マーラットに渡せと言われた封書にも同じ事が書かれおり、俺達に力を貸して欲しいというない内容だったらしい。
今はマリアに任せれば一先ずは大丈夫そうだな。
ーーミドルウッド・グリーンフィールド。
噂では800歳を超えるというこの世で最も歳をとっている人物。
勇者ミナトと一緒に魔王と戦った七英雄の1人であり、土の精霊と契約を交わした偉大なお方だ。
樹木を操り、敵を屠るその戦闘スタイルは幾つものピンチを救って来たと物語の英雄の足跡にも描かれている。
それがミリアのお爺ちゃんだとは…これは何かの縁なのだろうか?
俺の父親といい、レティシアの父、タイラさん、そしてミリアの祖父のミドルウッド。
七英雄と繋がりがある人が次々と俺に関わりを持って来ている。誰かの作為的なものではないかと思わず身震いをしてしまう。
果たしてこれは俺の考え過ぎなのだろうか…?
今はまだ何も分からない。
「ミドルウッド様、噂によれば魔族がこのグリーンフィールドでも出現しているのだとか」
「ああ、本当だとも。これには我々も手を焼いていてね。特に男はこの戦いでは役に立てそうにないんだ」
「男…?確かにこの国に来てから男性をあまり見ませんでしたね…」
「この森を抜けた先に古城がある。その中に魔族が潜んでいるのだが、少々厄介な問題があってね」
マリアがミドルウッドと会話している内容に耳を傾けると興味深い事が聞こえてくる。
確かに俺達がこのグリーンフィールドに足を踏み入れた時、多くの視線が集まっていたが、子供を除くとほぼ女性しか見ていない。
成人男性はパーチスとミドルウッドしか俺の目には映っていなかった。
マリアとミドルウッドの会話を聞いていたアルバルト達は考えを巡らせる。ミドルウッドに詳しく話を聞こうと顔を上げた時、玄関の扉からパーチスが勢いよく現れた。
「ミドルウッド様っ!奴らがやって来ました!」
「パーチス、報告ありがとう。丁度良い…君達も一緒に来て欲しい」
ミドルウッドから言われるがまま、アルバルト達は前を歩く彼の後ろをついていく。
エルフ族が集まる憩いの場となっている広場では多くのエルフ族が集まっていた。
その中心には3人のエルフ族の男性の姿が見えるのだが、目は虚で口元では何かをぶつぶつと呟き、何処か上の空だ。
ミドルウッドが示した先では彼らの妻や恋人が一生懸命話しかけているが、彼らは応答しない。
やはり今日もダメかと女性陣は肩を落とし、足元にあった積み木を彼らに渡す。
「ミドルウッド様……彼らは一体?」
「彼らは元々私が魔族討伐に送り出したエルフの戦士だ。実力が高い者を集めて送り出したのだが…帰って来た彼らはあの状態。調べてみた所、魔族は厄介な魅了を使うらしい。命からがらの状態で帰って来た女性エルフがそう証言をしている」
「何それ許せない。私の知り合いを操って駒の様に扱っているってわけ?」
ミドルウッドが語った厄介な問題とはこれの事か。異性にしか効かないという弱点がある反面、男性にとっては最悪の敵と言っても良い。
ミリアの視線の先には顔を手で覆い、泣き崩れた女性のエルフがいる。知り合いなのだろう。その姿を見てミリアは怒りに満ち溢れていた。
「今の所、魔族の要求は食糧を求めるだけだ。操られた男達は週に2回、ああして食糧を受け取る度に此処から少し離れた所にある古城へと帰っていく。私が魔族討伐に打って出ても良いが、万が一にも操られてしまう事を考えると被害はもっと大きくなるだろう。だから打開策としてヒガリヤにいる聖女マリア・デーリアの力を貸して欲しくて手紙をマーラットに送ったって訳だ」
まさか勇者も一緒だとは思わなかったと告げるミドルウッド。
広場には未だに泣き崩れているエルフ族の女性がいる。それを見ているだけで心が押し潰されそうな感覚に陥る。
ただただやるせない。
アルバルトはその言葉を胸に秘めて拳を握る。
険しい顔をしたアルバルトに気付いたレティシアは彼の固く握った拳にそっと自分の手のひらを乗せて包んだ。
レティシアの優しさに感謝しつつ、アルバルトは彼女の頭を撫でる。サラサラと絹の様に細かく、柔らかに流れる髪は心地良く、心に余裕を持たせる事が出来た。
「ありがとうな、お陰で落ち着く事が出来たよ」
「いえ……今から力を入れると疲れてしまいます。それにアルバルトさんが良ければいつでも撫でて良いですから…」
「おっふ…そ、その時が来たらな……」
(彼女って気を抜いたら押しに来るんだよなぁ…このまま押し切られそうで怖いよぉ。だけど今はそれよりも…)
現状、今はまだ分からない事が多過ぎる。
その為には情報がいる。
まずはこの国の王であるミドルウッド・グリーンフィールドにもっと詳しい話を聞く事から始めよう。
余計な力はレティシアが抜いてくれた。
今ならどんな事でも解決できる気がする。




