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干支っ娘!  作者: kure
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割れた石版と後ろ向きの告白

「わっ! 私と! 付き合ってもらえますか!」

 真夏の照りつける太陽の下。見知らぬ少女の一言。それが全ての始まりだった。

 僕と彼女達。運命と言う名の――呪われた物語。




 神崎修司かんざきしゅうじ、十七歳。

 趣味特技、共にこれといったものは無し。当たり前のように学校に行って、当たり前のように帰る。もちろん登下校は一人だ。

 これだけ聞くと、随分つまらないやつだなぁと言う印象をもたれるかもしれないが仕方ない。事実なのだから。


 少しだけ弁解の余地があるとするならば、今僕が住んでるここ『時雨町』に来たのはつい先月の話。外野からして見れば転校生なわけなのだが、どうやらスタートダッシュに失敗したらしく、未だ友人と呼べる人物は出来ていない。

 さらに今日は終業式だった。つまり明日から夏休みなわけで、今までで一番静かな夏休みになることはほぼ確定している。まぁ仕方ない。

 

 町の中心部からずっと離れ、周囲から隔離するように木々が生い茂る。人はおろか、車もそんなに走らない旧道、その脇にひっそりと佇む石段。七百七十八段という、なんとも残念な段数の石段を上がった先。特に珍しい所も無い『浴宮神社あびのみやじんじゃ』が現れる。

 別に御参りに来たわけでも、たそがれに来たわけでもない。ここが僕の家――正確には実家の神社とでも言うのか。境内を抜けた先に僕の家がある。


「ただいまー」

「あら。おかえり修ちゃん」

 紅白の巫女服に身を包んだこの女性。神崎良恵、三十八歳。母である。

 誤解無きように言っておくが、僕の母はコスプレイヤーではない。罰ゲームで誰かにやらされているわけでもない。これが正装なのだ。神主だから。


「スーパー寄って来てくれた?」

 すっかり忘れていた。そう言えば何だかそんなメールが来ていたような気がする。

「ごめん、忘れてたよ。今から行って来ようか?」

「もう、しょうがないわねぇ。まぁいいわ、じゃあ罰として蔵からお漬物取って来ること!」

 指を一本ピンと立て、年齢にそぐわない仕草でそう言うと、母は皿と懐中電灯を僕に押し付けた。

 今日の夕食は寂しい献立になりそうだ。


 家のすぐ左側、『THE・蔵』というような雰囲気を全身からかもし出している、観音開きの扉を開き中に入る。電気など通っていない。懐中電灯は必須アイテムだ。

 ひんやりとした薄暗い中を、ライトを当てながら漬物樽を探す。入るのは本当に久しぶりだ。

 四~五歳の時だろうか、何をしたのかはよく分からないけど、僕は何か粗相をしたんだろう。ここに閉じ込められた事がある。

 幸いトラウマにはならなかったが、神崎家では誰もが通る道らしい。父も祖父にされた事があると笑っていたのを覚えている。


「それにしても……物が多いな」

 使わなくなった家具から。何に使うか分からない物まで。これじゃ漬物樽を探すのも一苦労だ。

 漬物樽を探している時、何気なく視界に入った物に興味を引かれた。

「これは――石版、かな?」

 乱雑に置かれた物の中で、それは一際異彩をはなっていた。円形の石版を手にとって良く見ると、不思議な文字と、動物らしき彫り物がしてある。


「修ちゃん!」

「ひっ!?」

 それは一瞬の出来事だった。予期せぬ背後からの声に全身が強張り、乾いた音が辺りに反響する。

 簡単に言おう。落とした。しかも割れた。


「あら、大丈夫? 怪我無い?」

「あ、うん……」

 どんな言い訳をしようか、それとも責任転嫁しようか。そんな事を考えていた自分が恥ずかしくなる程、息子の身を真っ先に案じる母の対応は完璧だった。

「ごめんね。驚かせちゃったね」

「いや……ごめん。壊しちゃった」

「いいのよ。どうせ大したものじゃないでしょ」

 無残にも散らばった破片を、足で蹴飛ばしながら隅に寄せている。いや、すっごく大した物っぽかったんですけど……。

 気にも留めぬ様子で漬物を皿に移す母親。便利な性格だ。



「明日から夏休みでしょ? 修ちゃんはお友達と何処か出かけたりするの?」

「いや、特に予定は無いかな」

「あら。折角の休みなのに、修ちゃんは『ぼっち』なのね」

 母の言葉に、思わず味噌汁を吹き出しそうになる。どこでそんな言葉を覚えてくるのか、そもそもそれが息子にかける言葉か?

「そっ、そんな事無いよ」

「だって、前のお家でも一回も無かったじゃない? お友達連れてくるの」

「自分の部屋に他人を入れるのが嫌なだけだよ」

 何となく、友達を家に呼ぶのは抵抗がある。自分のテリトリーを侵される気がするから。


「エッチな本隠してるから?」

「ぶふぁっ!?」

 だから何故そんな言葉をかけるんだ!? これは何だ!? 巧妙な精神攻撃なのか!? 実はさっきの事怒っているのか!? 

「いっ、いや。そう言うわけじゃないよ」

「ここは何にも無いんだから、仲の良いお友達を見つけなければ退屈よ」

「そのうち出来るよ。ごちそうさま」

 これ以上ここに居るのは危険――そう判断した僕は、脱皮のごとく逃げ出した。


「ふぅ。大変な目にあった」

 ベッドに寝転がり、部屋を見渡す。

 この部屋にも大分慣れた。この町に来て良かったのは部屋が広くなったくらいか。『戻って来た』と言った方が正しいのかもしれない。

 僕が小学生になる前、父方の祖父が亡くなった。それをきっかけに、僕と母はこの町を離れる事になるのだが。

『家に縛られず、自由に生きて欲しい』

 小さい頃から神社の跡取りとして育てられた父は、僕に同じ思いをさせたくなかったらしい。そう良く聞かされた。

 

 そんな父が先月他界。跡継ぎの居なくなった浴宮神社を守るため母親が下した決断は、『自身が神主になって神社を守る』だった。

 簡単な話じゃない――最初はそう思ったが、母も神職の資格を持っていたらしく、トントンと進んで今に至る。色々とバタバタしてたけど、やっと落ち着いた感じ。

 

 思い出したように机に向かい、夏休みの課題に目を通して――そっとしまう。

……何だこれ、めちゃくちゃ多くないか? 休ませる気が無いのか? 年々多くなってる気がするのは僕だけか!?

 再びベッドに倒れこむ。悲しい話だがどうせ予定もないし――。

「……明日は町でも散歩しようかな」

 そして、部屋の電気を消した。

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