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2.いつもと違う彼女 伊織視点

「あの、伊織くん? どうかしたの?」


彼女――白藤 姫乃に上目遣いで見上げられ、須藤 伊織の理性は既に崩壊しつつあった。


「だ、大丈夫……?」


(……全ッ然大丈夫じゃないんですが!?)


メイクをしている。今まで全くしてこなかった、あの姫乃が!


もちろん、姫乃はおしゃれに興味はあった。メイクはしてこなかったが、髪型を凝ったりアクセサリーをつけたり――と簡単なことはやってきた。

だが、メイクをしてくるのは初めてだったのだ。


(いつもと雰囲気が違う……というか……可愛い。反則だろ)


今回は、負けた。

いつも心臓がバクバクしながら一緒にいるというのに、これでは死んでしまう。


(これは、姫乃にも照れてもらわなくては)


伊織の心に火が付いた。


「あの~、伊織くん? 大丈夫?」


あぁ、そうだった。姫乃を無視してしまっていた。

伊織は甘く微笑んで、姫乃を見た。


「大丈夫。ごめんね?」

「え、あ……うん。全然、いいけど……」


姫乃は伊織から目を逸らして俯く。姫乃は見つめられるのに弱いのだ。


(あー、可愛い)


「今日はいつもと雰囲気違うね? メイクしてるの? ……可愛い」

「へっ、あの、伊織くん?」


姫乃は顔を真っ赤にして伊織を見上げた。


(そんな顔、他の男に見せないで)


伊織はそんな独占欲じみた発言を心で押しとどめ、周りから姫乃の顔が見えないように微妙に立ち位置を変えた。


「すっごく可愛いけど……他の人には見せないでほしかったかな」


伊織が耳元で甘く囁くと、姫乃がガクンと伊織に倒れた。力が入らなくなったのだろう――だが。

今度は伊織が固まる番だった。急なボディタッチに驚いたのである。


「……ばか」


小さい口で。真っ赤な顔で。上目遣いで。ついでに、ちょっと睨んでいて(可愛い)。


(僕の理性を崩壊させる天才かもね、姫乃は。ばかはどっちだ……)


伊織は片手で顔を覆った。顔も、耳も熱い。姫乃はそんな伊織を見て、ふふっと笑った。


「じゃ、行きましょうか!」


やけに張り切った笑顔で、姫乃は伊織の手を繋いで、水族館に向かった。




「わ、わぁっ……!」


姫乃はたくさんの魚にキラキラと目を輝かせていた。一応、伊織の希望で水族館に来ているのだが、姫乃も楽しそうで何よりだ。


「すっ、すごいよ、伊織くんっ!」


姫乃は大きな水槽の中にいるジンベイザメを指差して言った。姫乃は前、伊織のことを子供みたい、と言ったが、これでは姫乃の方が子供みたいだ。

自然と笑みが零れる。


「うん、すごいねぇ」

「今、何か思ったでしょ!」


微笑ましいと思っていたのを察したのか、姫乃はむぅと頬を膨らませる。


「可愛いなぁ、と」

「こ、こんなところで言うんじゃありませんっ」


姫乃が謎に先生のような口調で注意した。そっぽ向き、髪で顔が隠れているものの、耳が真っ赤になっているのが見えた。


(こんなことで真っ赤になるもんなぁ。可愛い……)


それから、ペンギンやラッコを見たりと、楽しく過ごした。

最後はお土産コーナーである。


「わぁああ……っ。可愛いっ!」


姫乃はぬいぐるみが好きらしい。もふもふの毛並みを撫でて、ヘニャリと頬を緩めている。


「伊織くん、何か買います?」

「うーん、どうしようかな」

「記念にお揃い買わない?」


姫乃がキラキラした目で伊織を見上げる。海の生物のキーホルダーがあったらしい。


(女の子はお揃いとか好きだもんなぁ)


「いいよ。何にする?」

「うーん、めっちゃ迷う!!」


姫乃は夢中になって選び出した。


「伊織くんはどれがいい?」


姫乃は首を傾げる。正直、何でもいい――というか、姫乃とお揃いなら何であろうと大切にする。


「姫乃は何がいいの?」

「うーんとね、このクジラか、アザラシか、カメ!」

「そっか~」


どれも可愛らしい。伊織はじゃあこれ、とクジラを指差した。


「クジラね!」





そうして、クジラのキーホルダーを買い、姫乃たちは帰路についた。

もう日は落ちて、人通りが少ない道を歩いている。田舎なので仕方がないのだが、結構暗い。

帰りの――姫乃の家の目の前についたとき。

姫乃がもじもじと迷っているかのような仕草をする。


(どうしたのかな)


そうは思いつつも、姫乃が切り出してくれるまで待とう、と伊織は結論を出す。


「あの、伊織くん」

「うん、なあに、姫乃?」

「こ、これ……」


姫乃がバッグから取り出したのは、小さな包みだった。


「お、お誕生日、おめでとうございます!!」


姫乃の方を見ると、顔が真っ赤だ。付き合ってから誕生日プレゼントなど毎年交換しているのに、こんなに真っ赤になっているのは初めて見る。


「ありがと、姫乃。すっごく嬉しい」


伊織は少し首を傾け、満面の笑みを浮かべた。すると、姫乃の口がパクパクと動く。


「……かわいい」


その一言に、伊織は少しムッとした。姫乃が褒めてくれるのは嬉しいのだが、「可愛い」と言われるのは、少し複雑なのだ。それが褒め言葉だと、分かってはいても。



伊織は姫乃に近付く。色素の薄い姫乃の目が大きく見開かれているが、気にしない。


「いお――」


姫乃の言葉を、伊織は塞ぐ。唇に柔らかい感触が伝わった。


どれくらい時間が経過したのだろうか。きっと、数秒。でも、何より長い数秒だった。


少し離れて、姫乃の顔を見てみる。何をされたか分かっていない、呆然とした姫乃の顔が見えた。


「……僕なんかより、可愛いのは姫乃だから」

「……へっ?」

「じゃ、またね、姫乃」


そう言って、伊織は家の――元来た方向に戻っていく。


(あー、あの顔、絶対他の男に見せないでほしいなぁ。周りに人がいなくて良かった)


伊織は姫乃の照れた顔を思い出してふふふ、と笑う。離れていると、暗くて見えにくかったが、近いとはっきり見えた。



――二人共、家に帰ってから、顔が真っ赤になっているのを指摘されたのは、また別のお話。

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― 新着の感想 ―
一気読みさせて頂きました。甘い。とても甘い話ですね。甘いので途中ブラックコーヒーを飲んでしまいました。姫乃と伊織の関係もよくニヤニヤ(失礼)状態です。二人の周りも良い人達で。最後のメイクの話や帰り際の…
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