勇者ダリルの誤算②
リザードマンなら俺たちがまだCランクのパーティーだった頃、既に余裕で倒してる相手だ。
いまさら相手にもならんだろうな。
「おうダリル、ここは俺にやらせてくれよ」
「ああ。好きにしろボーラス」
ボーラスはミョルニルを構え、ニヤリと笑う。
「へへへッ……気の毒に。相手が悪かったなあ。格の違いってやつを教えてやるよ!」
ボーラスは一気に間合いを詰め、ミョルニルを上段に振り上げた。
対するリザードマンは……こちらのあまりのスピードに反応すらできていないのか、まだ剣を構えてすらいなかった。
おいおい、いくらなんでも遅すぎるぜ。
これが住んでる世界の違いってやつか? 敵ながらあわれに思えてくるな。
ボーラスが振り上げたミョルニルをリザードマンの脳天めがけて振り下ろす。
この一撃で勝負は決まっただろう。
「おらあ!!」
「ふしゅるう!」
ガキィン!!
「ぐうッ! な、なんだと!?」
金属のぶつかり合う音、飛び散る火花。
……おかしい、どういうことだ。
俺は信じられないものを見ていた。
全力で放たれたハズのボーラスの一撃――時には強大なドラゴンすら叩き潰すだろうそれは、なんとただのリザードマンに受け止められているのだった。
リザードマンはボーラスの大槌による一撃を剣で受け止め、そのまま大きくその剣を後ろに引いた。
「きしゃああ!」
「うおっ!? ぬわああああああッ!」
攻撃を受け流されたボーラスは勢い余って体勢を崩し、床をゴロゴロと転がりながら吹っ飛んでいった。
あいつ、まさか酔ってるのか? あの馬鹿が。油断しすぎなんだよ。
「くそっ情けねえ。ボーラスの野郎、ただのリザードマンになにやってやがる」
「ねえ、どうするのダリル?」
「俺が前に出る。ミカヤお前は魔法で援護だ!」
「わかったわ!」
ちっ、まあいい。
どのみちこの俺の聖剣、エクスカリバーさえあればどうにでもなる。
運がなかったな。リザードマン。
勝ち誇っているところ悪いが、最初から勝負はついているんだよ。
この圧倒的な火力のレベル200の聖剣の前では何をしようが無駄だってことだ。
まったく強すぎるってのも困ったもんだぜ。
「悪いがこいつで終わりだぜ、おらあッ!」
俺はエクスカリバーを構え、リザードマンめがけて振った。
刃の先から青白い炎が伸び、リザードマンを骨すらのこさず焼きつくす……はずだった。
スカッ……
「えっ?」
思わず気の抜けた声が出てしまう。
俺が気合を入れて振るったエクスカリバーはむなしく空を切り、その切っ先からは何も出ることはなかった。
な、なんだ、どうなってる?
なんで炎が出ねえんだ!?
だが、考えている時間はあまりなかった。
リザードマンが今度は俺に狙いを定め、迫って来たからだ。
ちっ、なめやがって。
俺を誰だと思ってる? Aランクパーティーのリーダー。勇者ダリルだぞ?
なぜかエクスカリバーから炎はでねえが、別に剣として使う分には問題ないハズ。
リザードマンふぜいが接近戦で俺のスピードについてこれるわけがないんだ。
なぜなら、リザードマンってのは魔物の中でもひどくのろまな部類だからだ。
これまで俺が戦ってきたリザードマンは皆、動きが遅かった。
ゴブリンと同じかそれ以下って感じだな。
ボーラスとの戦いを見るに多少は剣が使えるようだが、スピードはどうかな?
さあ、こいよリザードマン。一瞬でばらばらに切りさいてやるとしよう。
俺とリザードマンはたがいに剣をかまえ近づいていく。
あいつが仕掛けてきたところをかわして、反撃でずたずたにしてやるとするか。
「ふしゅうう……!」
リザードマンが低いうなり声をあげた。
――しかし、その次の瞬間だった。
リザードマンは驚くほど俊敏な動きで間合いを詰めてきた。
思っていた以上の速さに動揺する俺に向けて、リザードマンの曲剣が振り上げられる。
「うっ、は、速い!?」
「ふしゅああッ!!」
ずばあ!!
「があああああッ!?」
間一髪、背後に飛びのき致命傷は防いだが曲剣の一撃が俺を切り裂いた。
着ていた鎧のおかげで致命傷は避けられた。
だが、今の一撃で持っていた松明を落としてしまった。
水の中に浸かった松明の火が消えていく……
「おい、ミカヤ援護はどうなってる? さっさと魔法を撃て!」
「ま、まって。まだ詠唱が……」
ちっ、こんな時になにをもたもたやってるんだ。
なんとか詠唱時間を稼がねえと……
俺はふたたび剣を構え、リザードマンと打ち合う。
さっきは油断したが、冷静になれば見切れねえほどのスピードじゃねえ。
そのハズなんだが……
「くっ、ダメージのせいか? なんだか動きのキレが悪い」
このリザードマン、スピードだけじゃねえ。
パワーも相当だ……!
ぐっ、この俺が押されているのか!?
「しゃああッ!!」
どごお!!
「ぐあっ!」
左右からの曲剣のラッシュに押された俺は、リザードマンの蹴りを受け大きくよろめいてしまう。
「おい、ミカヤ! そっちに行った、よけろ!」
「え? きゃあああああ!?」
リザードマンのタックルをもろに食らったミカヤは、吹っ飛ばされて水のなかに突っ込んだ。
くそっ、魔法も駄目か。
このリザードマンはやべえ。
なんだか知らないが、相当な強敵だ。
なんでこんな奴が、こんなところに……
「ボーラス! おいボーラス、いつまで寝てる。さっさと起きろ!」
「あ、ああダリル。すまねえ!」
「こいつはやばい。見た目はリザードマンに似てるが、たぶん上位種のリザードマン・ロード、いやリザードマン・キングだ。おう、手加減はなしだ。同時にかかるぞ!」
「わ、わかった! くそっ、まさかリザードマン・キングとはな。こりゃ、強いわけだぜ」
俺はボーラスとリザードマンを挟み撃ちにし、前後から攻撃をしかけた。
――そして……
「おらあ!!」
ガキィン!!
振り下ろしたエクスカリバーの一撃に、リザードマンの曲剣が砕けた。
俺はそのまま奴の喉めがけて聖剣を突き立てる。
「ぎしゃあッ……!?」
リザードマンは断末魔とともに口から血を吹き出し、その巨体が崩れ落ちる。
水しぶきをあげてその場に倒れるのだった。
討伐成功だ。やれやれ、だいぶてこずったな。
だがリザードマン・キング相手では、まあ仕方ないだろう。
しかし、なんでこんなところにリザードマン・キングがいたのだろう。
ずいぶん珍しいことがあるもんだな……
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