勇者ダリルの誤算①
俺の名前はダリル。
いま最もSランクに近いとされるAランクパーティー【紺碧の輪】のリーダーだ。
栄光ある勇者である俺は、ダンジョン【イム=オルムルの大滝壺】の下り坂を進んでいるところだった。
「おいダリル、なにか聞こえるぞ!」
「洞窟ゴブリンだわ!」
暗闇からあらわれた背の低い魔物たちが、俺たちの行く手をふさぐ。
緑色の肌に、とがった耳と鼻。洞窟ゴブリンの大群だ!
「「ギキイ! キキイ!」」
ボロをまとった洞窟ゴブリンたちは粗末な武器を構え、何体も束になって俺に飛び掛かってくる。
「ふん、雑魚が! 邪魔なんだよ!」
俺は聖剣エクスカリバーを奴らに向けて振るった。
ズバアッ!!
「「ギャアアアアアアアアアッ!!」」
エクスカリバーから放たれた青白い炎が、飛び掛かったゴブリンどもをまとめて焼きはらう。
まったく、こりゃひでえ断末魔の叫びだな。
洞窟の中によく響いてやがる。
残った洞窟ゴブリンめがけてボーラスが雷槌ミョルニルを振り上げた。
「へへへッ……こいつをくらいな!」
ドオン!!
ボーラスが大槌を地面に叩きつける。
激しい衝撃波と、地を這う紫色の電撃が洞窟ゴブリンたちに襲いかかった。
肉の焼けるような臭いがあたりにたちこめる。
電撃が走った後には黒焦げになった洞窟ゴブリンたちの死体があった。
俺たちを襲ってきた連中は全滅したらしい。
やれやれ、歯ごたえのない連中だな。
「ふわぁ……。ヒマねえ」
後ろでミカヤが眠そうにあくびをしてやがる。
まったく、緊張感のないやつだ。
だが、まあそれもそうだろう。
今の俺たちが苦戦するような相手なんて、まず存在しないのだからな。
わざわざこんな遠くまで来たんだから、少しは楽しませてくれる相手が出てきてほしいものだが……
「なあダリル、この洞窟ゴブリンの耳はどうする。取っていくか?」
ボーラスは洞窟ゴブリンたちの死体を指さして言った。
このゴブリンという魔物は素材としての価値はないが、倒した死体から耳を回収して冒険者ギルドに持っていけば討伐報酬をもらえるのだ。
「ああ、そうだな。一応回収しておくか……」
だが俺はそこまで言って、ある一つの疑問が浮かんだ。
そういえばゴブリンの耳は、左右どっちの耳をギルドに持っていけばよかっただろう?
たしかどちらか片方で決まっていたハズなのだが……
駄目だ。思い出せねえ。
俺は二人に聞いてみることにした。
「なあそういえば、ギルドに持っていくのはどっちの耳だったっけ?」
「うーん、たしか右耳じゃなかったか?」
「いえ、左耳じゃなかったかしら?」
くそっ、どっちだよ。
意見がまとまらねえ……いやまてよ、そうだこの手があったか。
「ふむ、では両方持っていくというのはどうだろう?」
「おっ、その手があったか!」
「さすがダリルだわ!」
俺たちはさっそく洞窟ゴブリンの耳の回収にかかった。
――しかし……
「くそっ、意外と手間取りやがる」
「おっと、やべえ。半分にちぎれちまった。なあこれでも買い取ってもらえるかな?」
「うわぁ……血で、手がべちゃべちゃなんだけど。ねえ、これやんないといけないの?」
洞窟ゴブリンたちから耳をはぎ取る作業は思った以上に難航していた。
手元の灯りは松明一つしかないので視界は悪い。
解体用のナイフが人数分なかったので、ボーラスは素手でゴブリンの耳をちぎっていた。
この数のゴブリンの両耳を回収するとなると結構な時間がかかりそうだ。
自分で言った事だったが、俺はだんだん面倒になってきた。
どうせ洞窟ゴブリンの討伐報酬なんてたかがしれてるんだ。
さっさと先に進んだ方がいいんじゃないのか?
「やっぱりやめだ。よく考えりゃこんな雑魚の討伐報酬はどうでもいいぜ。もたもたして他のパーティーの奴らに追い付かれても面倒だ。おう、さっさとサファイアクラーケンを倒すとしようぜ!」
「おう。じゃあそうするか」
「そうね。狙うのは大物だけで十分だわ」
俺たちは洞窟ゴブリンの死体をその場に残し先を急いだ。
途中何度か同じような群れが出てきたが、俺が何度か聖剣を振ると簡単に散っていった。
その様子に俺は思わずため息がもれてしまう。
やれやれ、ひどいダンジョンもあったもんだ。
この洞窟にはこんな雑魚しかいないらしい。
これでは例のサファイアクラーケンとやらも、たいした相手ではないのだろうな。
しばらく下り坂の洞窟を進むと、やがて底らしき場所についた。
「なんだここ? 水路か?」
ダンジョンの底には水が流れていて、俺たちはひざ下くらいまで水に浸かってやがる。
洞窟の道はまだ先まで続いているようだな……
「っし、たぶんこの先だろ。よし、いくぞお前ら!」
俺たち三人はそれぞれ武器を構えながら水路を進んでいた。
俺は右手に聖剣、左手で松明を持ちながら先頭を歩く。
――しばらく歩いた、その時だった。
「なあダリル、前から何か来てないか?」
「水の跳ねる音がするわね……」
「えっ? そうか?」
俺は松明を掲げ、前方に目を凝らす。
ズゥン……ズゥン……という足音。
何か大きなものが通路の前方から近づいてきた。
「ふしゅるううう……!」
水路に現れたのは、二本足で歩くトカゲ頭の魔物だ。
その手には鉄の曲剣を持っている。
身体はかなりでかい。二メートルはあるな。
「なんだただの【リザードマン】か。大した相手じゃねえな!」
「ははは、まったくだ!」
「また弱いのが来たわねえ」
また雑魚が来やがった。
リザードマンなら俺たちがまだCランクのパーティーだった頃、すでに余裕で倒してる相手だ。
いまさら相手にもならんだろうな……
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