ルナリエ
街道を歩く、俺とルナリエ。
まもなくアクトゥスの街の城壁が見えてきた。
「それにしても、よかったのか? 俺がブラッドフェンリルの素材を全部もらってしまってさ。もともとルナリエが見つけた相手だっただろ」
ブラッドフェンリルの毛皮は大変に軽く、かつ丈夫な高級素材だ。
これを素材に作られた防具は回避率を大幅に上げてくれる効果もある。
これだけの毛皮があればギルドに売っても相当な金額になるだろう。
「もちろんよ。ナガトが倒した魔物なんだから、当然よ。それにしても、ナガトって魔物の解体がとても上手いのね。この毛皮もすごく状態がいいもの。これなら素晴らしい防具になると思うわ」
「ははは、なんだか照れるなぁ。今まで、俺もパーティーであまり貢献出来てなかったからさ。魔物の解体ぐらいは役にたたなきゃなって、ずっとやってきたからかな」
すると、それを聞いたルナリエは、なにやらひどく驚いた表情をしていた。
「ええっ!? ナガトほどの冒険者が貢献出来てないって……そ、そのパーティーはある意味すごいわね。求められるものがちょっと高すぎるんじゃない!?」
「……え、そうなのかな? 俺もいくつもパーティーを経験したわけじゃないからな」
俺が冒険者になったころ、初めて入ったパーティーが【紺碧の輪】だった。
ダリルたちと出会ってからどれぐらい経つだろう。
俺は、あんなことがあるまでは彼らのことを大切な仲間だと思っていたし、他のパーティーに移ることも今までは考えてこなかった。
ダリル達からの俺への扱いも、まぁこんなものだろうと思っていた。
だが……これは今まで考えもしなかったことだが、もしかすると、他のパーティーでは治療師の扱いに何か違いがあったりするのだろうか?
「そ、それに魔物の解体って、冒険者にとってとても重要な仕事なのよ? どれだけ状態のいい素材を確保できるかでギルドの買い取り額はぜんぜん違ってくるし、解体にかかる時間次第で周回プレイの効率も大違いだわ。ナガトくらいの解体技術があれば、それだけでどのパーティーでも引っ張りだこだと思うんだけど……」
「へぇそうなのかな、ルナリエは冒険者の事にとても詳しいね。そんなこと今まで考えてこなかったなあ」
そんなことを話す内に、俺たちはアクトゥスの街の城門をくぐるのだった。
「さて、じゃあ俺は冒険者ギルドに報告に行ってくるよ」
「なら、私も一緒に行くわ。まだナガトにお礼ができてないもの」
「やれやれ、そんなに気にしなくてもいいのに……」
どうやら、ルナリエも冒険者ギルドまでついてくるらしい。
冒険者ギルドは城門をくぐって少し歩いた大通り沿いにある。
だが俺がギルドに向かおうとすると、ルナリエは何故か全く違う方向の路地裏へ入ろうとしているのだった。
「あれ、どうしたのルナリエ? 冒険者ギルドはこっちの道だけど……」
振り返ったルナリエはなぜかとても驚いた表情だった。
「あれ!? も、もしかしてナガトってあっちの冒険者ギルドの人なの?」
俺はルナリエの言っていることが理解できなかった。
あっちのギルド?
どういうことだろうか……
「あっちも何も、この街には冒険者ギルドは一つしかないだろ?」
「あ、ああ。そういえば、そうだったわね。そうそう、私もひさしぶりだったから間違えちゃったわ」
「ははは、うっかりだなぁ」
多分、彼女は別の何かと勘違いしたのだろう。
今日の戦いで疲れているのかもしれないな。
俺はルナリエを連れていつものギルドへと向かった。
ルナリエはどうしてか緊張している様子だった。
「ね、ねえナガト、今日は一人でクエストを受けて来たの?」
「え、そうだけど。急にどうしたの?」
「いえ、ナガトは今日これからパーティーの人たちと合流したりするのかしら? さっきの、ナガトほどの治療師が貢献できていないっていうなんて、そのパーティーの人たちはいったいどれぐらいとんでもない強さなのか、ちょっと想像ができなくてね。今から会うかもって思うと、緊張してたのよ」
なんだ、そんなことだったのか。
ルナリエが俺のことを妙に評価してくれているのは不思議だけど、もう俺はパーティーを役立たずだと追放された身なのだ。
彼女に幻滅されるかもしれないが、ここは、はっきり伝えておくべきだろう。
「ああ、そのことなんだが……今日、そのパーティーからは追い出されてしまってね。俺みたいな治療師は、どうやらもう必要ないらしいんだ。ずっと頑張ってきてこれさ。はぁ……まったく、情けないよなあ」
自分で言っていて情けなくなってくる。
きっとルナリエにも失望されただろう。
だが、虚勢をはっていても仕方がない。
俺は役立たずだからパーティーを追放された。
それだけがまぎれもない事実なのだから……
俺の言葉を聞いたルナリエはしばし、凍り付いたように動かなかった。
信じられない、といった表情で固まっている。
おそらく、情けない俺の姿に呆れ果て、哀れみの視線を向けているのだろう。
「え……ええっ!!?? パーティーから治療師を、つ、追放!? ど、どういうことなのかしら……理解が追い付かないわ!」
ルナリエは周りの目もはばからず大声をあげた。
急にどうしたのだろうか……
「ど、どうしたんだ、ルナリエ。俺、そんな変なこと言ったか?」
「そ、それはそうでしょ。パーティーに治療師を入れないなんて、とても考えられないわ。治療師無しで冒険に行くなんて、想像するだけでも恐ろしい。そんなの自殺行為だわ」
「落ち着けよ。治療師無しのパーティーも見てると結構いるぞ。そんな変なことだとは思わないけど」
「それは、一撃で狩れる相手とか、簡単なクエストならそういうこともあるけど。ある程度、高難易度の相手になれば治療師は絶対に必須だわ。ナガトもそう思うでしょ?」
「俺も今日までそう思ってたんだけどね。でもパーティーのあいつらがいうには、ポーションがあればいいとかで、とにかく話を聞いてくれないんだよ」
「ひどい……まったくあきれはてた連中ね。うっ! なんだか頭が痛くなってきたわ」
「お、おい大丈夫か」
「はぁはぁ、ちょっと取り乱したわ。じゃ、じゃあナガトは、今パーティーを組んでいないフリーっていうわけ?」
「そうだけど……って、ルナリエ。口からヨダレが垂れてるぞ」
「おっと、失礼。じゃあ、とにかく今、ナガトはパーティー組んでないの? 治療師なのに!?」
「治療師だから、じゃないの? とにかく組んでないさ。まったく、これからどうしようかと思ってたところだ」
「フリーの治療師!! や、やったぁ!! ああ、なんてツイているのかしら……」
ルナリエは人目も気にせずガッツポーズを決め、こぶしを天に突きあげていた。
彼女はいったいどうしたのだろう。
とくに悪い人ではなさそうだけれども……
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