紺碧の輪
やれやれ、まいったな……
どうにかダリルに考えを改めてもらわねば。
「いや、俺を追い出したらこのパーティーは弱体効果役がいなくなるじゃないか。魔物の攻撃力と防御力を下げる手段がないと戦闘効率は大きく下がるよ。他に誰かが弱体魔法を習得する予定があるの? 今、俺が抜けたらバランスが悪くなると思うんだけど……」
数を頼みに襲って来るような魔物はともかく、ある程度強力な魔物となれば弱体効果が複数かかっている状態でなければほとんど勝負にならないだろう。
一応、魔法使いのミカヤは習得可能ではあるのだが魔法使いのクラスは火力の高さが求められるため防具のスキルを【弱体成功率アップ】に割いている余裕がないのが普通だ。
パーティーのダメージ効率を考えるなら俺が弱体効果を担当した方がいいと思うのだが……
俺の話を聞いたダリルたちは、顔を見合わせて笑い出した。
「おいおい、聞いたか? 弱体効果だってよ。ナガトがいつからそんなもの使っていたっていうんだ?」
「おい、ナガト。お前こんなしょうもない嘘をついてまで俺たちのパーティーに寄生したいのか? 恥ずかしくないのかよ」
「あーあ、情けないわねえ。現実と妄想の区別もつかなくなったのかしら?」
「そういえばよ、いつも俺たちが戦っているときナガトが後ろでぶつぶつ言っているのは何だ? 俺たちの悪口でも言ってんのか」
「ちげえねえ、こいつは陰険な野郎だからな。陰で何言ってるかわかったもんじゃないぜ」
「ナガトって戦闘中いつもひとりごと言ってるよね。ああいうの本当に気持ち悪いんだけど」
仲間たちはまったく取り付く島もない。
俺は人目も気にせず声を荒げた。
「ま、待ってくれ! たまたま俺がサマーキャンペーンで四等だっただけじゃないか。それまでは仲良くやってこれたじゃないか。サマーキャンペーンの景品がなくても俺はまだまだ戦えるよ。荷物持ちでも魔物の解体でも雑用はなんでもするから、いらないなんて言わないでくれよ」
「ふーん、たまたま四等だっただけ、ね。なあナガト本当にそうか?」
「な、ダリル? どういう事だよ」
「俺はよ、最近こう思うんだ。ナガトが前からガチャで散々周りを煽ってきただろう? だから今回そのバチがあたったんじゃないかってね」
「因果応報ってやつだ。あれは俺もやりすぎだと思ったね」
「前も新人の冒険者をいじめて泣かせていたし、さすがに引くわ。人間として最低ね」
「口では立派な事はいくらでも言える。だが本質はどうだ? ガチャの女神もさすがに目に余ると思ったんじゃないのか?」
「お前のようなのは男の中で最も下等な部類に入るだろうな。とても仲間として信用できないぜ」
「今思えばナガトが荷物持ちや魔物の解体にそこまで執着するのも怪しいものね。ガチャの資金を得るために私たちの荷物や素材をちょろまかすぐらいあなたならやりそうだわ」
かつての仲間たちに浴びせられる容赦のない罵倒。
俺はたまらず膝から床に崩れ落ちた。
「違う! 俺はそんなことしない! 頼む、信じてくれ!!」
「黙れよ、ナガト。いや、このうす汚い劣等民め。二度とは言わねえ。お前はこの紺碧の輪にふさわしくねえ。今すぐ俺たちの前から消えるんだな!」
「さっさと失せろ、この劣等民が!」
「永遠にさよなら。二度とその顔を見せないで」
「……ああ忘れてたぜ。こいつはお前の退職金がわりだ!」
ドゴオ!!
「ぐはっ!!」
突如、ダリルが俺の腹を蹴りつけた。
たまらず俺は床を転げまわる。
「お前みたいなゴミは床を舐めて寝ているのがお似合いなんだよ。自分の立場がわかったか?」
「ごほっ……ま、待ってくれダリル。どうか考えなおしてくれないか? 俺のことを悪く言うのは構わない。だが、このまま俺を追い出せばひどいことになるぞ。俺は君たちを死なせたくないんだ」
ボーラスは俺の襟元を掴むと強引に引き起こした。
「おいおい、ゴミがなにか喋ってるぜ? うるさいから殴っておくか」
ガンッ!!
ボーラスは力任せに俺の頬を殴りつける。
ふたたび床に倒される俺。
手にしていた杖が床に転がって音を立てた。
ダリルは俺の杖を拾い上げると下卑た笑みを浮かべながら言った。
「くくくっお前にはこの古臭い杖も、もういらないだろ?」
ダリルは両の手で杖を握り力を込める。
メリメリ……という嫌な音が聞こえてきた。
「や、やめろ……!」
俺は声を上げるがすでに手遅れだった。
バキイッ!!
俺の杖は目の前でまっぷたつにへし折れてしまった。
「あ、ああ……何てことを!」
「くははははっ! こいつは傑作だな!!」
「ぷっ……くくく、ざまあないわねぇ。これは燃えるゴミに出しておいてあげるわ!」
ーーかつての仲間たちは去って行った。
俺はこの日、長く冒険を共にした紺碧の輪を追放されたのだ。
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