故郷
読んでください、お願いします!
悲劇の続いた地を離れるのに当って、その場所を相談していた俺達は、ラミカが子供の頃を過ごした村を、その行き先に決めた。一度首都へと足を運び、ブラッディと両親に別れを言った後、再び草原からズグロの背に乗って飛び立った。
俺達が龍に背に乗るのは二度目だが、ラミカは初めての体験となった。彼女自身にも自分の翼が在る為、空を飛ぶ経験は何度も有ったのだが。
「凄い……、こんな高度まで、しかも速っ!」
他の翼で空を移動する事は無かったようで、随分と気に入っていた。
「でも、ラミカも飛べるじゃない?」
「飛べますが……夜だけですよ、こんなに高く早く飛べません……」
ラミカ達ハーフは、純血種に比べ人間に近いが存在だけど、その特殊な人外の能力は夜限定の純血種と同じだった。つまり昼でも動け血を吸う必要も無いハーフも、やっぱり昼間が弱点だと暴露した様なもので、今でも彼女達の存在も許せない者に知れると、ハーフ達は非常に危険な状況に陥る。
「いいじゃない、飛べるだけマシよぉ」
ロゼは自分は飛べない為、夜限定とはいえ自由に飛べる彼女が羨ましく、少し僻んだ様だ。
「ロゼだって魔法で飛べるだろ……、同じじゃないのか?」
「違う! 、魔法で飛ぶのと自分の翼で飛ぶのとは、全く違う!」
同じ様に思うがロゼの力説する、その違いが良く分からない……。
「つまり、魔法は運ばれてる感じだけど、翼だと自分で風を切って飛んでると、ロゼ様は言いたいのではありませんか?」
「そう! 、それ! 、やっぱ自分で飛びたいじゃない?」
「あ━━っ 、それ私も分かります」
ハルがロゼの心境を語ると、即ロゼが肯定しマリネも賛同した。
更に、アネスとイリスも参入してきた。
「確かに……、空を自由に飛べると、色々と便利になる……か、いいなそれ」
いや……空中から飛び蹴りで起こされるのは、アネスには飛んで欲しくない。
「自由に飛べたら……、きっと素敵でしょうね、普通行けない場所にも……」
イリスには、何やら行きたい場所が具体的に在るみたいな言い方をしてる。
「本当に夜だけ……、あ、でも満月を見ながらの浮遊は、好きかなぁ」
ラミカがその状況を思い出してうっとりしていると……。
「いいなぁ……、何か腹立ってきたわ、ちょっと、その羽をよこしなさい!」
ロゼがいきなりラミカに襲い掛かり、押し倒して馬乗りに成った。
下に組み敷かれたラミカが抵抗を試みる姿は、どうにも……。
「ちょっ……やめ、皇女様変なとこさわら……、いや………………あっ」
「ロゼ様……、それ、とってもイヤラシイ動きに成ってます」
主の艶姿を魅せられて、マリネが顔を紅く染めている。
俺のほうでも、ラミカの無い羽を捥ぎ取ろうと、ロゼが抑え付けている格好を眼にしてしまい、妙な気分が身体をむず痒くさせ、あの時の事を思い出して、又、身体が熱くなって来た。
〝主殿、皇女を止めてくれぬか、背中が……、落としてしまいそうに〟
ロゼとラミカの動きが、ズクロに変な刺激を与えて、落下し兼ねない。
ズグロが止めて欲しいと、俺の頭に語りかけてきた。
「ロゼ! 、ズグロが落としそうだ、止めてくれと言って来たぞ」
「ふぅ……、仕方ないわね!勘弁してあげるわ」
「良かった……もう……」
起き上がったラミカの顔は、恥ずかしさで紅葉していた。そんな調子ではしゃぐから、この俺を移動途中に落すような真似をするんだろ、と、腹の中でロゼに文句を言う。
〝主殿、じきに着くがそろそろ降りた方が〟
いきなり巨大な龍が村の傍に降りると、要らぬ警戒をされかねない、早めに地上へとズグロは舞い降り、此処からは村まで歩きで進む事になる。ラミカの案内で山道を迷わず進んでいける、最後に居たのは随分と昔のはずなのに、その記憶はしっかりとしていた。
村が近付いてくるとラミカは、急に歩く速度を速め、とうとう走り始めた。
山道の途中から丘陵へと延びる道が現れたら、彼女が指を指し示した。
「あそこです、あの丘の辺りに村が在るんです」
懐かしい故郷の村が、その眼に映るとラミカは少女の様にはしゃいだ。
俺達は彼女の後に続き、村へと足を踏み入れた。
「あー懐かしい……、皆どうしているかな」
村の中をキョロキョロ見回しながら、懐かしがっているラミネを眺めているのも良いが、村の中を観察してみる。なだらかな丘に、平屋の建物が並び建てられている。よそ者が村に入ってくるのを、何処の世界でも、閉鎖的な村では歓迎される事は無い。此処もその例に違わず、道を進む俺達はチラチラと横目で見られている。
予想通りな展開で、一番大きな屋敷から五人程が、此方へと向かって歩いて来る。こっちが歩いている道へと入り、俺達の前を塞ぐように立ちはだかる。
「旅の人、此処を通過するだけなら……良いが?」
「あ……、村長さん?、私……
「む…………、おおお、ラミカか?、よう来たなぁ、そっちは友人かね?」
ラミカの事を、この村の責任者が覚えていたみたいで助かった。
「えっと友人というより……恩人かな」
「そうか、彼女の恩人なら歓迎しよう、どうぞ私の家へ」
村長に着いてきた他の四人も、彼女が昔の住人と分かり、連れて来たのは恩人だと言われ警戒を解いてくれた。険しい顔が一変して、歓迎の様相へと変わり、村長より先に屋敷へ走っていった。
屋敷の前に行くと中から、大勢が出迎えてくれている。どうやらラミカの御陰らしい、兎角半分が吸血鬼と言う事で、歴史の中で忌み嫌われ差別や討伐の対象にされた。頑な態度と反感しか持たれないかと、心配していたが取り越し苦労となった。
「父上は御健在かな?、どんなに礼を言っても足りない、もし……
ラミカには父親の話は辛いだろうが、しっかりとした声で顛末を伝えた。
但し、真実を伝えるのは控えた様だ。
「父は……、昨年亡くなりました……此処と同じ村が強い魔物に襲われ、相打ちに……、その時、この方達が、殺されそうになった私を救ってくれたんです」
殺されそうなのを助けた以外は、彼女の創作だが、まぁ嘘も方便で誰かを騙して何かをするでなし、これで上手く村に馴染めるなら、嘘も有りかと思った。
「もう亡くなったか……、それでラミカは此処へ何をしに?」
ラミカは此処へ来た理由を村長達に語り始めた。
此処に来ている他に仲間が居たけど、暴漢から助けようとして殺され、その他にも辛い出来事が重なり、それを忘れる為の旅行を計画し、その際にこの村を思い出して来たと、詳細は伏せていたが大まかには、その通りの説明をしていた。
「そういう理由でなくても、ラミカなら歓迎だ、好きなだけ居てくれ」
村長は快く俺達を受容れる事を認めてくれた。此れまではラミカに任せた方が、話が通りやすいと黙っていたロゼが、ラミカの横へ立ち村長へ挨拶と礼を述べた。
「滞在を快く受容れて下さり、感謝します」
「いえ、ただ……、この村もちょっと問題が起きてまして、それに巻き込まれない様に注意をして貰えれば、折角来られたのに妙な事に、巻き込まれては申し訳ない」
問題と言うのが又、耳に痛いが……まあ、こんな場所で問題なら大した事では無いと思うし、皆が休めるなら良しとしようか。
「そうそう……、昔ラミカ達が住んでいた家を、又、使うと良い」
「有難う村長さん」
村長やこの村の雰囲気が、何処にでも在る村と大差が無い。遂、この村の住人達が人では無かった事を、忘れ村に溶け込もうとしていた。それ自体は悪い事でも無かったが、ちょっとした問題と言われた物を、その言葉通り受け取っていた。人外が棲む場所で起きる問題が、ちょっとした事で済んでいる筈が無い。
そんな事に気が付かない程、この村は穏やかな雰囲気で、俺達はそれに良い意味で飲み込まれていた。夜に成るまで、村中を歩き散策して、無邪気な子供達を眼にしては、心癒されていた。
「これで……どうよっ!」
「おお、金髪のねぇちゃん! 、かっけぇー!」
「花火みたあーい」
ロゼは掌から連続で火球を天空へ飛ばし、子供連中に喝采を浴び悦に浸っている。成る程、宮廷内での重鎮達からは、睨まれているが庶民に人気有るのは頷ける。
「はぁ……、魔法を玩具代わり使用するなんて……ロゼ様らしいですけど」
「いんじゃない?火球を玩具に、長閑が一番だよ」
子供と戯れているロゼを眺めていた時、ハルが横に来た。
ロゼに嘆いたあと、何か戸惑っていたが話し始めた。
「ユキヒトさん、皇女様と進展があったんじゃない?」
如何して、女ってこう感が鋭いのか……?
しかも、正直に言えるわけ無いのに。
「俺達って、ハルからはそんな感じに、見られてるの?」
ハルが俺達を詮索している気がして、横目でチラ見しながら会話をしながら、その態度を確認している、姑息な自分が、若干情けない。
「あの翌日から、やけに艶が増してる感じがするんだけど……」
「そうかな、変わらない気がするけど?」
悪い事をやった心算は無い、が、後ろめたい気持ちが、俺を恍けさせる。
そして、ハルは最後に俺を惑わす言葉で〆た。
「私じゃ、物足りないのかな?」
女にそんな台詞言われて、はいそうてすっと言える程に、はっきりと態度を決めきらない。っと以前の俺ならそう思うのだが、最近俺の性格というか人間性が変わってきている。普通の恋愛で満足出来ない自分を、はっきりと自覚している。
「そんな事無いよ……、ハルは凄く可愛くて、魅力的だけど?」
好意を持って寄って来る女性を、選ばず愛で様としている。
日本では許されない行為が、この世界ではお咎め無しときている。
「嘘なんて言わない……、本当にそう感じてるよ」
これだ、嘘を付いてはいない、本気でそう言っている。
頬を染めるハルが、その身体を寄せてくる。
「皆━━━! 、部屋の掃除終ったから来てねっ!」
子供の時に、ラミカ親子が住んでいた家屋、それを皆で使えるよう掃除していた三人が、終って部屋に入れる事を伝えに来た。ロゼは最後にでかい花火を打ち上げ、手を振る子供達から離れて戻って来た。
「あーぁ、残念……」
ハルは皆の前で抱き着き、喜ぶ様を平気で見せる、厚顔さは持っていない。
俺から離れ、皆に続いて家屋へ向かって行った。
家の中に入ると、掃除中に村人が運んでくれたベッドが七台。
「あれ?……俺の寝る場所は?」
皆、上を指差す。
綱を引いて屋根裏へ上る階段が表れた。まさか、床で寝ろは無いと思っていたが、屋根裏へ行けと成った。階段を上って寝床を見に行くと、大きな窓の横にベッドが在り、これなら寝る時に月夜を楽しめる。思いの外に良い感じな寝床が、いたく気に入ってしまった。
食事に関しては、女性が七名も居るから、安心したのは甘かった。
ハル以外は、殆ど料理が作れない……とは。
「え?……皆、料理作ったことが無いんですか?」
「いや……な、森の中なら得意なんだが」
アネスは料理と言うか、焼く?、焼けば食えるという理屈の物で、家の中で食べる食事には遠い。
「あはは、料理なんて……道具も触ったことがないっ」
「すみません……、私も、手伝いはしてましたが……」
ロゼとイリスは全くの問題外、だが、仕方ない面も有る、皇女と皇帝の妹だ。料理を作る必要がある筈も無く、二人に作れと言う方が無理だ。
「済まぬ主殿、料理を作るのが分からない……」
ズグロに至っては料理を作るという、行為が分からない。
「私も母が死んでからは、父と二人で……」
ラミカは、母親と死に別れた後は父親と二人、その食性を問うのは……。
一番以外だったのはマリネだっ、料理しそうな雰囲気有るのに、手伝い程度にしか分かっていなかった。
「御免なさい……ユキヒト様、私も作れません」
六名が、ハルから指示され悪戦苦闘の末、夕食にと相成った。
作る時の時間の数倍の速さで、料理は消え失せ、片付けを始めた。
食事の後は、女性七名が女子会よろしくやっていた。
俺はというと、早々に二階へと上がり一人月夜を見ながらベッドに居た。
何を盛り上がっているのか?、楽しそうな声が聞こえているが、聞き耳立てるほど野暮でもない。今日も昼からの強行軍で、何時の間にやらウトウトし始めた。彼女達が傍に来ていたが、寝そうな姿を確認したら、笑いながら下へ戻って行った。
女性陣は、結構浮かれている様子だ、此れなら本来の目的も果たせよう。
此処なら、安穏な時間が過ごせそうだ。
そう思えたのは、着いた初日の夜だけだった。
翌朝、村人の死体が見付かる。
俺達は又、面倒な一件に、巻き込まれていく。
有難うございました