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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第三章
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つづきです、よろしくー


  「此れから……貴方の命を借りる事にするわ」


 大公グリューネは俺の首筋に短剣を当て、ゆっくりと魔法陣へとその身体を移動させていく。途中、陳列棚の中から壷を取り出して大事そうに持っている。此のときに刃が首から離されたが、振り切ることが不能だった。


 昼食の時の飲み物に、痺れ薬でも入れられていたか?。食べ物の方に入っていたのなら、ロゼにも効果が出ている筈、彼女が動ける処から察したら、やはり飲み物に入れられていた?。


 俺達二人の影が今、魔法陣へと入った。


 「伯母様、お願いだから止めて……」

 「ロゼ……ごめんなさい……これでやっとあの人を帰してやれるのよ」

 

 大公が昔の恋人の遺灰だけでも、帰してやりたい気持ちは分かる。しかし、その為に俺が命を渡さねばならない義理も道理も無い。今直ぐ、この拘束を振り切って離れたいが、身体が言う事を聞かない。俺は動けないが、方法は在る。イリスが能力開放した後、俺を引き離せば良い、五秒程度だが状況を変えるには十分すぎる時間だ。


 「知ってるわ、貴女達……、とても強いのよね、でも邪魔はさせない」

 「無理よ伯母様……、イリスやって頂戴」

 「分かりました……」

 

 ズズ━━━ン!


 七人が全員床に張り付いていた。


 「此れは……、重力魔法?、こんな魔法を如何して……」

 「ロ……ゼ様、……今使っても……もう意味が無い……です」

  

 時間を止める策は、全員を重力を掛け封じられた。痺れて無かったらマリネを呼び寄せ、短剣を弾けるのだが、それは最初に断念した。残り三人の能力が不明だが、発動しないと言う事実から見て、この状況で使えるシロモノでは無いのだろう。


 魔法陣のエリアと、完全に俺達二人の身体が重なった。

 地面に描かれた陣が、薄い輝きを放ち始めた……。


 大公はもう俺の身体を放している、必要なかった。

 俺の身体が、陣の中で宙に浮いている。


 大公が短剣を振りかざした。

 「伯母様、やめてぇ━━━!」

 「止めて下さい! 、大公!」


 グリューネ大公は、己が目的を達する事以外は、もう……何も判断出来ては居ない。自分がやろうとしている行為の、正否は如何でも良かった。過去に自分が犯してしまった罪の償い?、気紛れで異世界から人を連れ出し、帰せずに一人男性の人生を狂わせ、この世界で命を亡くした。その死の間際での願いを叶えたい、大公の頭にはそれしか見えてはいない。


 魔法陣で人生を大きく歪められた者が、いや者達が此処にも居た。


 大公が俺の胸に短剣を突きたて、裂いていく……、麻痺している為声が出ない、痛みだけは感じている。声が出ない分、余計に表情に苦痛が重なった。


 「いや、いや、止めて……もう、止めてぇー殺さないでぇ!」

 「ユキヒト様ぁ! 、嫌━━ぁ!」

 「大公! 、貴様ぁ━っ、殺す!」

 「大公様ぁ、ユキヒトさんを、殺さないでぇ!」

 「主殿を……よくも、大公許さんぞ!」

 「グリューネ大公、もうお止めくださーい!」

 「………………」


 ロゼ達の懇願、罵声が聞こえる……。


 短剣で切り裂かれた俺の身体は、宙に浮いたまま回転し、陣を下に見る位置で止った。真下へ降る流血は陣へと届くと、それは描かれた魔法陣に沿って流れるように紅く縁取っていく。出血の多さと痛みで意識が遠のいていく、眼も既に霞んでいる。


 これまで何度も命の危険に曝されてきたが、今回は違う。


 死━━━。


 それが今、現実に迫った━━━。


 「さあ魔法陣よ……異界の血を捧げたのよ、私をあそこへ運んで!」


 魔法陣を縁取る血液と同じ輝きが、渦を巻いた。

 紅い渦は中央へと集まっていき、一つの形を取る。


 「なに……何よ此れ?、違う、違うわ……、私を異世界へ……

 

 大公の言葉は……そこで途切れた。

 紅い塊から延ばされた巨大な槍が、彼女の胸から下の大部分を貫いて、戻る。大公は口からも鮮血を吹き上げ、床へと倒れた。彼女の呪縛は解け、俺も床へと落ち崩れロゼ達は重力の束縛から解放された。


 「「ユキヒトー!」」


 俺の名を呼ぶ声が、同時に幾つも重なって耳に届いた。ズグロは憑依し、ハルは必死に回復を掛けてくれている、マリネは剣に変化出来なかった様だ。それでも微かに見えている彼女の涙は、十分に俺を癒してくれている。


 どうやら……又、死に損ねた。

 喜ぶべき誤算だった。


 大公の傍で蹲るロゼ……。

 「如何して伯母様……、他に……何か他に手が……」

 ロゼは、悲しみの涙で言葉を続けられない。

 大公の今際の際の言葉は……。


 「ロゼ……ごめんなさい……ね、これであの人を連れて……帰れ……る」

 大公の口からは鮮血が流れ続け、やがて止った。


 「伯母様ぁ━━!」

 「立て、ロゼ! 、まだ終ってない!」

 アネスがロゼを叱咤して立たせた。


 魔法陣に顕れた紅い塊は、いまだそこに在る。即、臨戦態勢に入れたのは、三人だけ。その目の前で、紅い塊は、徐々に人の形を取っていく。


 ローブ姿の女性の姿がそこに顕現した。

 

    我……異界の血を得……復活せり!


 その言葉を残し、霧と成って赤い姿は消えた。

 

   随分と厄介な奴が、復活したもんだのぉ

 

 「ラケニス……貴女なの?」

 「ロゼ様……、如何されました、ラケニスって今……」

  力の抜けてた手を握り締めていたマリネが、ロゼに言った。

 

 「彼女が私に話しかけているわ」

   ふむ、小僧が動ける様に成ったら、此処へ皆で訪れよ

   

 〝皆で、行けばいいのね?〟

   小僧が動ける様に成ったら、イリスに次元の扉を開いて貰えばよい


 〝分かった、必ず行くわ〟

   それまで、小僧をしっかり看てやる事じゃ

   話はそれだけじゃ……


 血の海となった魔法陣の中、横たわる大公の亡骸。

 その周りには、割れた壷から灰が毀れ、彼女を覆っていた。


 〝伯母様……その人とあちらへと行けたの?〟



 その後……、俺に憑依しているズグロが離れるまで、その場で治療は続いた。彼女が離れるまでの時間ロゼは、この悲しい知らせを首都へ、妹である母の皇后へと伝えなければ成らなかった。姉の言葉で皆を休養がてら、実家へと赴かせた結果が悲報を聞く事に成るとは、皇后も全く想像だにしておらず、ロゼからの一報を受け先ず、泣き崩れていた。


 「姉上の過去に……そんな悲しい出来事が在ったなんて……」

 「フォー……ネリア……姉上の罪は、その死を持って消えた……」

 「あなた……」

 「今は、心行くまで泣くが良い……」


 皇后の実家であるラグス家への処分は、特に成されなかった。過去に犯した罪も当人が死亡している以上、直接罪にも問えず。今回の件も、皇女を巻き込んだと言えるがロゼの強い不問に付すべしの意と、やはり当人が居ない。そして、皇王の配慮により厳しい処断は無く、大公の権限とその他の地位を凍結されたに留まり、ラグス家の取り潰しは無くなった。


 裏事情を言うと、大臣達が皇王の採決を強硬に反対しなかった本当の理由は、ロゼが異界の民を炊きつけ、その仲間を連れて反旗を企てられると、勝ちようが無い。最悪、帝国へと亡命し、此方を攻めてくるのでは?、と、在り得ない可能性を本気で恐れた為である。


 ズグロが憑依を解いて離れた為、地下から運び出された俺は、屋敷へと移され治療の続きと、看病を受けていた。短剣による裂傷は、ズグロの治癒力で無くなっているが、出血が酷かったせいで中々意識を戻せなかった。その間彼女達はズグロの常駐の他、交代で様子を看ていてくれた。


 意識を取り戻したのは翌日だった。


 眼を覚ました先に、マリネの姿が見える、彼女はすぐ気が付いた。

 

 「ユキヒト……良かった……眼を開けてくれたぁ」

 マリネは何時も泣いている気がする……。


 「大公は……

 「皆を呼んできます!」

 マリネは話を聞かず部屋を跳び出て行き、俺は傍に居たズグロの顔を見つけ、彼女に顔を向けると、ゆっくりと首を振るだけだったが、意味は理解できた。


 〝あの人……、死んだのか〟


 感傷に浸っている処へ、ドタドタと足音を響かせロゼ達が入ってきた。


 「ユキヒト……、本当に起きてる良かったー」

 「本当に……どれだけ心配したか、この馬鹿者がっ」

 

 死にかけから戻ってもアネスは、やはり俺を馬鹿者とぶ、これは何時になったら止るのか?、皆が傍で命が助かった事に喜びを表しているが、その眼は濡れていた。


 それは大公が流した物とは違った。彼女の涙は絶望に満ちた悲しみの涙であったであろう、あと少しで俺も彼女達に同じ涙を流させたかもしれない。ロゼが言っていたのを思い出す、召喚の儀を行える者は稀だと、呪文があったとしても大公は強力な魔法を使えた。


 もしかしたら、宮殿の魔法陣も反応してたかも?、そしたらカズマと言う人と、違った運命を辿っていた可能性もある。この様な悲劇を生み出す事も、無かったかもしれない。可能性であり、誰もその答えを知る由は無い。只、大公にはその悲しい運命だけが彼女を待っていた。


 「ユキヒトが動ける様になれば、来いとラケニスが言ってたわ」

 「あの婆さんが?……、今度は何だろ?」

 

 ベッドの横の椅子に座り、ロゼの果物を剥いてくれている姿を観ていたら、恋人が入院患者の見舞いに来て、横で同じ様な事をしている映像が浮かんできた。何時も表情と違う横顔が、やけに綺麗に見えるのは、俺がロゼに対して好意以上の気持ちが在るせい?。


 だが、勢いに飲まれて行動は厳禁だ。

 こういう場合、対外は……。

 俺は、ドアの入り口へと顔を向けた。


 「ロゼ……入り口」

 「あ!、ははは……マリネの気持ち分かった気がする」


 彼女が、入り口のドアへと手をかけ一気に開けた。

 既に逃げていた……。


 この女達の御陰で、俺は生きていられる……。


 翌日、俺は全快とは言えないが普通に動けるまでに戻った。

 ラケニスに会わねば成らない。


 「イリス……扉を開けてくれる?」

 「初めて……私に本当にそんな力が?」

 〝心配要りません、両手を上へ……〟


 イリスは眼を瞑り、両手を上げそして空を裂いた。

 空間に裂け目が現れ、次元の扉が開いた。



 俺達はその扉からラケニスの塔へと入った。


 「来たか……、守るどころか……守られとるのぉ」


 事実だけに言い返せなかった。



 

有難う御座います

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