大公の過去
続きです、よろしくおねがいします。
俺の貸し出しとやらが決ってから、昼食が運ばれてきた。
昼食と言うより、寧ろオヤツに近い感じのパンケーキの様な物だった。女性メインの食事だから仕方が無い?、そんな事は無い。ロゼは全然足りないと、マリネが手付かずの部分を勝手に食べてしまった。
「ロゼ様ひどいー、私まだ、食べ欠けなんですよー」
「うるさい、さっさと食べない方が悪いっ!」
それを見ていた、まだ、被害者予備軍は慌て口へと、それを消し去りに入った。その余りの強欲さに、今後の食事の際には、彼女の横には座るのは止めようと思う。
更なる被害を出さない為に、俺にだけは女性達よりかなり多く運ばれていたから、それをひとつロゼにわけてやったのだが。
「う━━っ、ユキヒト様……ふん」
露骨に不服そうな顔をするマリネがいた。残りの五人も何故か俺を睨む。
何故に睨む?、昼食の被害を未然に防いだというのにだ。
「ふーん、皆、可愛いわねぇ」
大公から、全員に可愛いとと言う、お墨付きを得た。ロゼの母親フォヘネリアより、三つ年上らしいが、皇后よりも若く見えるのは、彼女が独身を通している成果?。此の世界の女性は、美人しか居ないのか?、大公も当然美女で有らせられる、年の功は差し引かねば成らないが……。
若い時は現皇后より、寧ろ、大公の方が男性受けが良くもてていたらしい。わざわざ首都から遠い、辺境の小さな貴族の領で、過去、頻繁に狩に人が集まってきていたのは、彼女に会いに来ていたと言う説も、有ったとか無かったとか、結局全ての縁談を頑なに断り続け、今も独身のまま大公の爵位を継いでいる。
和やかな?昼食も終わり、メイドが後片付けでテーブルに集まってきた。
「それでは、行きましょうか」
席を立ち、皆を手招きして歩き出した。俺を何の為に借りたいと言ってたのか?、それがこれから分かるのかも知れない。
「伯母様……、何処へ?」
「付いて来ればわかるわよ」
最初に降りた池の方角、どうやら塔へと案内したい様だ、塔に登って景色の良い眺めでも見せようというのか?、ズグロの背でもっとすごい、壮大な景色を体感している。その俺達に、今更それを見せたところで感動は薄い、その程度の事くらいの予想が、立てれない人でも無いと思うが。
第一、それだと俺は必要無い、別の目的で塔へと移動している。
塔の中へと入り終わるとロゼは先に上へと階段に脚を延ばした。
「上じゃないわよロゼ」
「へ?でも……」
そう、上に行く階段しか無い……。
大公は何処へ俺達を連れて行こうとしているのか?。
柱に手を付き移動していたが、止った、そして指先でその部分を押す。
ゴロ゛コロ゛コロ゛ゴロ
床がスライドしてた。そこに下へと延びる階段が口を開けていた。
表れた先へと、大公は入って行く。
「ついてらっしゃい」
薄暗い口を開けた時から、それまでの比較的軽い雰囲気が、何だか重苦しい空気へと取って代わった。パンケーキ争奪戦の雰囲気は掻き消された。
「ロゼ様……この先は何が?」
ブラッディが、不安げにロゼに質問をしている。
「私も……、こんな場所初めて……」
「ロゼも知らないのか……」
「こんなの在るなんて、お母様から聞いて無いし」
子供の頃から何回も、この場所を訪れている。当然、塔にも登っている筈の彼女もこの地下の穴倉はしらなかったみたいだ。
「ロゼが知らなくて当然よ、妹のフォーネリアも、この場所は知らない」
大公グリューネは、過去を語り始めた。
「私がこの場所を見つけたのは……、妹が皇太子と結婚してこの地を去った後よ、偶然この仕掛けを押してこの階段が表れた。少し、怖かったけど先を見たい衝動を抑え切れなかったわ、私はこの階段を一人で螺旋階段を降り始めた……の」
螺旋階段、下へと不気味に続く階段を経験しているのは、二人だけ。ロゼは皇王の、俺はイリスの深層へと、どちらも夢魔の討伐の為だったが、この階段沿いには扉は無い。
大公は話を続けている。
「長い階段を降りた先に、扉が在ったわ、この扉をね」
階段の行き着いた場所に、古い大きな扉、赤茶けて倒れて来そうな圧迫感が在る。その扉を大公は開けた。その先には、暗闇の空間が広がって俺達には何も見えなかった。
パチン
大公が指を鳴らすと……、空間の至る所に在った蝋燭に灯りが灯った。
「うわぁ━━!」
驚きの声ではなく、感歎の響きが空間に拡がって行った。
「これは……凄いな」
大広間が俺達の前にその姿を現した。対面したる四つの壁には巨大な絵画、床へと下りて直ぐには、古い古文書が、幾つも並んだ本棚に詰まっていた。壁際に設置された台や棚には、何かの祭事道具や装飾品が所狭しと並べてある。
本棚を抜けその先の場所へ、他の人が壁際の装飾品に気を取られている。その中で一人ロゼだけは、正面の一際蝋燭が明々と照らしている場所へと、眼を釘付けにされた。
「召喚魔法陣……どうして此処に?、伯母様……此れって」
「貴方の使ったのと場所は違うけど、同じ物よ」
召喚の魔法陣を見た事が在る者は、俺とロゼだけ。しかし、これで全員が目にした事に成る。大公は此れを俺達に見せたかっただけなのか?、違う筈だこれも特に俺を必要とはしない。
大公の目的は一体何?、俺には不安な感じが消えなくなってきた。
「仲の良かった妹が居なくなって、寂しさを紛らわすのにこの場所は、打って付けだったわ。何せ誰も此処を知らない、私ひとりが独占できる空間。毎日あの古文書を、必死で解読して読み漁った。そして、この魔法陣が異世界へ運ぶものと分かってからは、寝る魔も惜しんで解読に没頭して、遂に魔法陣を動かす呪文を見つけた。」
「嘘ッ……、召喚魔法陣は、任意では動かない筈よ?、呪文なんてある筈が」
「在ったのよ……、でも詠唱を唱えて動かせるのは、一度だけだった……」
やはり大公はこの魔法陣で異世界……、日本へと渡ったのだ、そして戻った。
異世界を堪能して戻って来ただけ?、まだ続きが在りそうだ。
「その異世界は日本と呼ばれていたわ」
「それ……ユキヒト様の国ですか?」
俺に向かって投げてきたマリネ、黙って頷いて答えた。
「異世界の雰囲気に我を忘れて、いろんな所を彷徨って、一人の男性と知り合った……、名前はカズマっていう。道に迷った私の話を真面目に聞いてくれた。カズマは不思議と私の話を全て信じてくれた。異世界人だと信じてくれた事が嬉しくて、彼をこっちの世界へと誘ったわ。勿論、後で送り返すと、約束してから彼をこちらへ連れて来た」
全てではないが、その後の顛末は大体予想が付く、だが彼女の話を最期迄聞く事にした。
「皆には内緒にして、二日ほどこの世界を案内して、日本へ帰そうと再び二人で魔法陣に入り、呪文を詠唱した……何も起こらなかったわ。何度も試したけど動かなかない。日が悪いのかと、来る日も来る日も二人で魔法陣に入り、詠唱を試みたけど無駄だった。七日目に遂に、彼は帰るのを諦めて此処へ残る、覚悟をしてくれたのよ……、正直嬉しかった」
カズマという人が知っていた筈はない、召喚された者が帰る方法は一つだけ。愛し合いされた者を、己が手で命を絶ち、その血に触れるしか……、帰る手段は無い。もし知ったら、彼はどの道を選んだのだろうか?。
昔の恋話をする為だけじゃないだろう?、まだ俺の役が回ってきては居ない、更なる続きが待っているはずだ、大公の話をやはり最期迄聞く必要がある。しかし、嫌な予感だけがどんどん強くなっているのは、俺だけなのか?。
「伯母様が結婚しなかった理由って、もしかして……」
「そうよ、カズマが居たから結婚しなかったのよ……」
「大公家なら、複数の男性とでも……その」
ブラッディは話し難そうに言葉を濁していたが、言いたい事は通じた。
「勿論、それは可能だったわ、でもカズマはそれを極端に嫌ったの。多分世界の違いは男女間の関係も大きく違ったみたいね」
大公の言葉を聞いて、全員が俺を見た。此れも何が言いたいのか分かる、気がする。複数を嫌がるのに何故?、俺は嫌がらないのか?、ってとこだろう。しかし、カズマは何処に居る?、此処に居ないなら別の場所か?、或いは既に……、死んでいる?。
「毎日此処へ経訪れて、彼と過ごしたわ、私はとても幸せだった。偶に一緒に森へ出かける位で、彼はそれ以外この場所から動かなかった、この森には魔物は棲んでは居ないけど、一度迷い込んだ奴と遭遇して、とても怯えてた。平和な世界に住んで居た人には、この世界は恐ろし過ぎたのね」
当然だろうな、俺だって怖かった……、戦う術があった俺と比べその人には、身を守るものが何も無かった。この場から離れたくないのは良く分かる気がする。大公の昔話もそろそろ、核心に近付いている。
「彼との間に……子供は出来なかったけど、それでもこの場所は私にとっての賭けが無いのない、二人だけの家だった。だけど幸せだったのも一年間だけ、その頃から急に彼の体調が悪く成り、衰弱して行ったのよ。医者に診せる訳にもいかず、薬草を煎じて飲ませていたけど、一行に良くは成ってくれなかった。そして遂に最期の日が訪れた……」
途中まで言葉を挟んでいたロゼ達も、今はただ、無言で大公の最期の顛末を聞こうとしている。この話の終わりで俺の役がどういった形で廻ってくるのか?、最期を聞こう。
「カズマは最期の言葉を残して死んだわ、【帰りたい……】と、興味本位で魔法陣を開き異世界へ行き、そこの住人を不用意に連れて来て、帰れなくして彼の人生を狂わせてしまった。カズマに申し訳なくて涙が止らなかったわ……、そして決めた。もう一度開き、彼の亡骸を元の世界へ帰してあげようと、再び私は古文書を読み漁った、何年もね……。そしてつい最近、遂にある人から、魔法陣を動かす方法を聞けたのよ、その人はこう教えてくれた……」
『皇家が呼びし、異世界の民の命を捧げよ、されば此の扉開かれん』
〝それ……俺を貸してじゃない……死んでくれじゃないか〟
「さあ! 、貴方の命、私に貸して頂戴な……」
「伯母様! 、止めてぇ━━!」
ありがとうございました。




