叔母
続編です。よろしくおねがいします。
帝国領から戻って二週間━━━。
宮殿は息が詰まって嫌だ! 、と、言ってみたらロゼが郊外に家をくれた。
平屋だけど傍には海岸がある。
元々が公害なんか縁のない世界で、只でも空気が凄く気持ちがいい。
反対の側の風景は、遠くに林が見えて、それを抜けると首都の街へと入る。
木造建築で所謂、ログハウスという奴だ。天然素材に必要以上な金属も仕様していない、ロゼは気を利かせて新築を建ててくれた。宮殿内でもそれくらい気配りしたら、皇女殿下らしく見えると想うのだが。
住居に隣接して厩舎があり、二頭の地竜がそこに居る。
今、俺はマリネと一緒に住んでいる……。
完全にもとの世界へと帰る気持ちは消えた、此処で彼女と暮らす、何れは子供も出来て、親にもなるだろう、普通の父ではない異世界から来た英雄様だ。話して聞かせる事は、星の数程に豊富に持っている、子供が大きくなるのが今から待ち遠しい。
たが、その前に……。
子供を作る必要があるのを、忘れない様にしなくては……。
夜が訪れるとベッドの隣には、マリネが居る。一瞬だけ船内で見た彼女の肢体が、今は、柔らかな確かな感触と一緒に、腕の中に在る。俺は、毎日が夢の様な生活を手に入れている。
朝になったら、彼女は優しい声で起こしてくれる………。
そう……こんな感じに……
起きろぉ! 、馬鹿者━━━!
「がぁはあ、……此れじゃないのに!」
毎度、お馴染みのアネスの蹴り飛ばしの起床……、これは要らない!。
「じゃない……?、貴様、さてはマリネとベッドで寝てる、夢でも観てたな!」
此処にも、女の感を武器に出来る奴が居る。
「偶には……私と居る、……夢はないのか?」
「え?」
「ほらっ、急げ皆がもう、外で待ってるんだぞ」
外で?……、何か忘れている…………。
「あ━━━━!」
「貴様あ、やはり忘れてたな! 、全く……もう世話の焼ける」
何か、凄い怖い姉に怒られている、気分だ……。
帝国領から戻ってから皇王に、帝国との和平を伝え親書を手渡した。
数百年以上に亘って、帝国との睨みあいが続いていたのが一変して、和平が成り皇王と皇后の喜びようといったら無かった。尤も、正式な調印ではないので式典などは無い。
ぶっちゃげ、勝手に撤回しても公式には何も無い。しかしだ、皇帝直筆のお墨付きが在る以上、そんな事をしたら他国に恥を曝すだけだ。恥を恥と感じない奴も居るから、安心は出来ないが……。
お礼がてら全員を、皇后の実家であるアデル領へ、招待してくれた。
「私の姉、貴方の伯母が、久々に逢いたいそうよ、行ってみなさい」
皇后が、現皇王と初めて出逢った森のある土地だ。ロゼが子供時には、年に数回は訪れていたらしいが、皇王に即位してからは、二人とも公務等で時間が取れず、ほぼ五年ぶりと機嫌が良い。
「森の奥は、悪い魔女が棲んでる。とか、よく脅されたわ」
子供を脅かして寝かせるネタ、その類は何処の世界でも共通している。
「その森って魔物がいなのよ、凄い珍しいんだけどね」
通常の動物しか棲んでいない、その為に貴族達が集り狩を楽しむ事が多いらしい、皇后は狩を嫌がっていた。親の頼みで已む無く、嫌いな狩の場へと出向き、皇太子と出逢ったと言う。
そんな馴れ初め話の森だと、ロゼが話してくれた。
「ユキヒト遅すぎ! 、マリネが浮気の心配してるじゃない」
「きゃあああ……ロゼ様ぁ! 、そんな事してませ━ん」
実際の処、マリネと正式に交際をしているわけじゃないけど、帝国領でのあの一件以来、公然と恋人扱いを受けている。彼女の事は、大事に想っているが、アネスのたまに見せる拗ねた態度や、露骨な行為、ロゼは意識して隠しているが、好意を抱いてくれているのは実感できる。
他の四人も同じで、普通ならこんな態度とっていたら、皆避けていくはずが、どうにも逆に寄って来てる感がする、日本で離れて行った女に本当見せてやりたい。
こんなにも来るもの拒まずの、性格をしていたなんて……。
こっちの世界に来てから、初めて気が付いた。
道理に反せず、好意を寄せてくれる女性を、全て受容れていいのなら。
男の甲斐性の見せ所かも?。
但し、言葉通りの、命懸けの世界なのは間違いない。
アデル領への移動、今回はグリューネ大公の願いも有り、ズグロに乗って行く事になっている。何でも、本物の龍が飛んで来るのを、是が非でも観たいそうで、清楚な皇后と比べその性格は、ロゼに近いと想われる。
流石に街中から、龍が飛び立つ訳に行かず。
草原まで皆で移動した後に、龍に戻って貰い飛び立った。
実は、飛行機に乗った事が無い、だから比較が出来ないが、その眺めは壮観と言うしかない。巨大な籠に皆が入り、それを運んでもらうという意見が出たが、それにはロゼが猛反対を繰り広げた。
「ズグロの背から眺めるから、空を飛んでると実感出来るんじゃない!」
頑固に主張し、他の意見を退けた。
空を飛んで来る龍を観たい大公と、飛んで行くというロゼ。此の二人が競演したら、さぞや愉快な結果に成るんじゃないかと、期待感と面倒な事も起きる不安感の二つが入り混じった、複雑な心境になる。
肝心なズグロの方は、皆を背に乗せ運ぶ行為に、不快感起きなければと心配していたけど、途中で通過した湖では高度を下げ、水面スレスレを飛んで又、上昇。これ以上無い、と言う気分を味併せてくれた。
ハルとイリスだけは、鱗にしがみ付いていたけど……。
イリス……オスマニア皇帝の妹で、吸血鬼に命を奪われ掛けたのを救い、俺達と同行している。彼女は短い七日間を、一緒に戦ってきたサラトと同化した。常にもの静かで優しかったサラトには、もう逢う事は出来ない、もっと彼女と話をしていたら良かった。
〝顔だけなら婆さんと同じだが……〟
サラトが居なくなってから、ラケニスも何も接触してこなくなった。顔が同じだから、想い出せない様にしているのか?、いや……何か又、戯れを計画していそうで怖い……。
そう言えば、命を助けたあのハーフの吸血鬼の女は、何処へ行ったのか?、純血種は父親だけと言って筈だが、混血は居るのか?。行く場所が在るなら良いけど、無かったらハーフの吸血鬼に居場所は無いんだろうな。
「見えてきたわ、あそこが大公……伯母様の館よ」
ロゼが指差す方向に一際高い塔と、小さめの城が見えてきた。
「お……きたきた、アレねロゼの乗ってる龍って!」
塔の展望に、紫のドレスを着た女性が、飛んで来た龍を見て歓喜していた。
塔の真上を一度通過して、大きく旋回した。
「はぁ……、今の紫の……、あれ伯母様だわ」
着地しに問題が無さそうな場所を旋回中に見つけた。
「ズグロ、あの池の横に降りてくれる」
云われたとおりの場所へ降下していく、湖面が激しく風で煽られている。
ズグロは両足で大地を一度踏みしめたあと、ゆっくりと身を屈め、全員が降りたのを確認したら、人の姿へと変わった。
塔から大公が降りてきて足早に俺達の方へとやってきた。
「皆様、よくいらしたわね、大公のグリューネよ」
「伯母様、此度はお招き頂き有難うございます、それで……
「ねね、さっきの龍は、この中の何方が?」
ロゼの話しをすっ飛ばして、ズグロは誰か聞いてきた。
「くっ……、伯母様……相変わらずだわ、彼女が今の龍のズグロよ」
一番後ろのを指差した。直後、駆け出し近寄る大公グリューネ。
「貴女が今の白い龍?、私のお願い叶えてくれてありがとう!」
感謝の言葉を言うが早いか、ズグロを抱き締めた。
「私って伯母様と似てるらしいけど、そんな似てるかな?」
いや顔じゃないと想うぞ、性格の方だろ……。
マリネがこっそり寄って来た。
「ロゼ様……自覚無いみたいですね」
「似てるのは顔じゃないと言ってやれ」
アネスまで寄って来て、ロゼの自覚の無さをしてきしてきた。
更にハルが、大公の武勇伝を語る。
「二十歳前に、自分と仲の良い侍女を弄んだ騎士を、首都まで追い駆けて、ボコッコボコにした事も有るんですよ」
「何か、それお母様から昔聞いた記憶あるなぁ」
同じ様な事をやらせない為にじゃないのか?。
「皆さん何してるの?、疲れているでしょ、屋敷の中へどうぞ」
使用人とか、大勢いそうなのに、わざわざ党首自らが案内をしてくれた。
怒らすと怖そうだが、普通にしてたら優しい小母さんにしか見えない。
「そうそう、龍に会いたかったのと、貴方にも興味がね」
屋敷の中を案内しながら、俺を見て呟いた。
「ちょっ……、伯母様、ユキヒトに興味って、まさか……」
バシ━━!
「やだっ! 、何を言ってるの、そんなんじゃないわよ」
「伯母様ぁ、痛ぁあ」
「もっとも……あと十歳若かったら……私も…ね」
最期の自分を指しながらのセリフは……。
アネスもびっくりの、妖艶な顔付を魅せられ思わず凍りつく。
「勘弁してぇ、伯母様!」
〝此れ以上、増えて堪るもんですか……〟
「あははははは、冗談よ、さあここが貴方達、殿方はその隣の部屋ね」
客室の傍には、流石に使用人が待機していて、荷物を運んでくれた。
「じゃあ、昼食までゆっくりしててね」
紫のドレスを翻し、立去っていった。
女性の部屋に荷物を置くと、軽く一例してメイド達も退出していった。
それを眼で追って確認した後にロゼがマリネに擦り寄った。
「でさ……貴方達て、何処まで進んでいるの?言いなさい」
「えええ……、その、投獄中のも入れて、三度……唇を」
「何よ……それだけなの?、つまらないわね」
エルフは耳が普通の人間より耳が良いらしい。
「ふん……やはりお子様だなマリネもロゼも」
二人の会話を聞いていたアネスは、腕組みをして見下ろした。
「な、何よ……、アネスは違うというの?」
片手を伸ばし手を開いて見せた。
「ふふ……五回だ!」
「ご、いつの間に……、恐るべしエルフ」
「そ、それが何ですか……私なんかもっと、こう引っ付いて……」
回数で負けた悔しさで、その時の状況を身振りでアピールするマリネ。
「ほおぉ、こんな風にか?」
窓際のカーテンを脚と胴体、頭に見立てると。
脚を絡ませ、首を反らせ長い黒髪をダラリと垂らし、腕で抱き寄せる。
「いやああああ」
「ひやあ」
「ふふふふ」
見かねたハルが……。
「止めて下さい! 、全部聞こえてますよ、恥ずかしいなぁもう……」
真っ赤になって 縮こまる三人。
ハルが止めなかったら、三人の可愛らしい内容の女子会は、まだ続いていたかも知れない。が、それをもし現代のJKが聞いていたら、あんたら全員お子様と、きっと言われそうだ。
「ハルさんは……如何なのですか?」
「え……、私も……好きですよ当然」
ハルの笑顔で好き、の言葉は凄く自然な物だった。
イリスの頭の中で声が聞こえてきた、それはこう流れた。
『貴女もきっと、そうなりますよ』
「そうですね……、でもそうなると、私もあそこに入るのかな?」
「なに?、イリスさん何か言いました?」
「はい……サラトさんから、頑張れと」
ハルの中で、笑いに成らない笑いが生まれた。
〝私……かなり出遅れてるのかな?〟
和やかな女子会の雰囲気と代わって、隣の部屋では。
「貴女に少しお話があるのよ、いいかしら?」
立去ったに見えていた大公グリューネは俺の部屋へ現れた。
「いや、お断りします」、何て言葉は決して言わせない眼で見詰られてる。
「はい! 、何でありますか?」
「あははは、そんな硬く成らないで頂戴、取って食べたりしないから」
いや……、取って喰いそうな雰囲気が、バリバリ見えるんですが……。
「貴方……異世界人よね、力を貸してくれない?」
「なっ! 、はぁ、皇族だしバレて不思議じゃないか」
「ええ、それは構いませんが、詳しい説明は……、すいません出来ないんですが、彼女達と一緒でないと、上手く言えませんが、同行してないと駄目なんです。だから……」
「ええ勿論、後で昼食の時にでもお話するわ、先に貴方に話したかった」
まあ、何も起きないのは、もう諦めてるけど、今度はどんな面倒事だ?。
「それじゃ、又、後でねぇ」
用件を伝えて、ドアから出ようと手を掛け開ける、退出する間際に。
「そう……言い忘れてたけど、ロゼを泣かせたら、殺すわ」
さらりと恐ろしいセリフを吐き、笑顔に戻ると、じゃね、と、出て行った。ロゼに確かに性格は似てるが、まだその格が違う、大公に比べたらロゼなんて、子供いやお子ちゃま……程度だ。
ロゼも将来はああなるのか?、是非とも母親の方へと考えてみたが、如何考えても似合わない。やはり大公、姉方の血統を継いでいる。
俺の部屋とロゼ達の部屋へ、メイドが昼食の案内をしにきた。
庭に、場が設けられていた。
全員が椅子に座り終わると、大公が話を始めた。
「さて、食事の前にちょっといいかしら、彼を私に貸して頂戴」
「嫌よ伯母様!」
「却下だ」
「お断りします、大公様」
「お断り致します」
「残念ですが、ご遠慮下さいませ大公様」
「ご自重下さい大公」
「我が主は物では無い」
「ちょっと、貴女達……何を勘違いしてるの?」
さっきの女子会の雰囲気が、頭の中ではまだ続いていたようだ。
「私は、彼の異世界人の力を、貸してと言ってるのよ!」
「伯母様……、知ってらしたの……」
「当然よ、……、彼を借りるわよ」
〝さて……、今度は何をやらされる?〟
ありがとうございました