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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第二章
32/90

二人の共闘

続編です、よろしくおねがいします

 

 半円を描いた闘技場へと、俺は足を踏み入れた。


 長い通路には至る所に、血痕が染み付いている。それは長い年月経過しても、風化されずに残され凄惨な物語が、繰り返されてきた事を語りかけてきた。これと似た様な物を知っている気がして、考えてみた。それは直ぐに思い出せた。

 

 〝ボクサーやレスラーが、リングへと歩く道か……〟


 だが、あそこでは命のやり取りをする訳では無い、確かに不幸にして事故で死亡する事は知っている。しかし、あくまで事故であり殺し合いの結果ではない。話や映画の世界では、殺伐とした闘技場のシーンはあるが、古代の実話だとしても創作物としての意識でしか、見ることは無い。


 今、歩いている道はその殺し合いの場へ向かうやつだ。

 〝あれ、もう一つ何かあったな……〟


 それも直ぐに思い出せた、賢者に試された時だ。長い道のりを、アネスが魔物を掻き分け進み、到着した先で紅い龍を呼び出し、力を見せよとやられた時。


 「あの時は……、あれを手懐けたな……じゃ、今回もそれで」

 人相手に手懐けるも無いものだが、何か変におかしくて笑ってしまった。


 「何がおかしい?、頭でもイカレタたのか貴様は」

 「いかれてるのは、お前達だろうが」

 トラの威を借る、ヘタレと分かっているからの強気を通した。


 「なに! 、貴様ぁ」

 「おい、やめろ戦いの前に傷付けたら……」

 「チッ、じきに死ぬんだ我慢してやる」

 冗談ではない、勝って堂々と正面から帰る心算だ。


 そして、遂に決闘の場が目の前に広がった。遠く反対側にも通路が見える、あそこから今日の相手が現れる。どんな相手でも負ける訳にはいかない、だがまだその姿を見せていない。


 どうやら、先に場に姿を見せるのは、被告側の代理人の様だ。

 警吏が後ろを付いて俺を先へと進ませてくる。


 中央まで来たら、武器を並べた台が運ばれて、選べと言われる。

 「ドレでも好きなの選べ」


 まあどの武器を持っても、扱いなれていない。大して違いがあるとは想えず、見渡して一番軽そうな剣を手に取って軽く振る。


 「それで良いのか?、長物の方が良くないか?」

 「どれを使ってもどうせ熟れてない、この剣で良い」

 「ふん……、確かに何を使っても変わらんな」

 何か、含みの在る言い方に多少気に成ったが、今更感のが強かった。

 

 正面の貴賓席にロゼ達を見つけ、剣を上げ振ってみたら、アネスが立ち上がりこっちを指差し、何かを喚いている様に見えるが、多分その通りだろう、きっと馬鹿者と叫んでいるに違いない。


 「あの……馬鹿者がっ! 、こらぁ━! 、遊びじゃないぞ!」

 「アネス、落ち着いて!」

 「落ち着けるかっ、負けたら……もし、負けでもしたら、私は……」

 「貴女だけじゃない……、皆同じ気持ちよ」

 「そうだった……取り乱して済まない」


 「決闘の前に、被告人を前へ!」

 裁判官に該当する者が、宣告すると警吏がマリネを連れ出してきた。

 両手、両足に枷をはめ、動きを封じている。


 あの場に飛び込み、警吏を薙ぎ倒しマリネを救えば……。

 それが出来るなら、此の場に来ては居ない。


 警吏はマリネを貴賓席の下へ誘導し、その地面に直接座らせた。

 貴賓席を背にしている、全てを見せる心算だろう。


 執行官が出てきた、これから開始の宣言をし殺し合いが始まる。

 「これより、決闘による裁判を執り行う、その結果は神聖な物にして、如何なる結末に成ろうとも何人足りとも、その結果に異を唱える事、まかり成らん!」


 「原告、決闘代理人、でませい!」


 反対の通路から、人が姿を現し、広場へと進んでくる、腰には二本の剣をさしている、二刀使いだ。身体中に傷が見える、修羅場を何度も潜り抜け、生を成してきた。言葉で語らずとも、その身体が死線を回避し続けてきた事を、否が応でも相手に知らしめる。


 「そんなっ! 、傭兵騎士だと!」

 「アネス、知ってるの?」

 席を再び立ち上がり、前のめりの状態で話す。


 「あいつは……、プロだ、傭兵騎士……、しかも最強クラス……のな」

 「何で……そんな奴を……、大金積んで……まで」

 「何が何でも、マリネを犯人として執行したいか!」

 自らが、落ち着けとアネスを諭したロゼも、いまは平静でいられない。

 

 「正統騎士の方がまだマシだった。あいつが相手では、ユキヒトには……」

 「勝てる勝算は?、どれくらいなのアネス……」

 ロゼは、つばをゴクリと飲み込んで、返事を待った。


 「絶対と言うのは、此の世には無いが、限りなくゼロに近い……」

 絶望に近い結果を耳にして、ロゼは遠くのユキヒトに願を込めた。


 〝お願い……死なないで……〟


 決闘の二人が正面で相対した。

 〝こりゃあ……普通に勝てそうにないよな……〟


 「小僧、死ぬには今少し早いぞ、剣を置いて去れ。若い命を無駄にするな」

 「あんた……凄い強いの分かるよ、普通に勝てる気がしない」

 「何故去らぬ?、恐怖で足が動かぬか?」

 「いや……、ちゃんと動けるさ」

 「なら……去れ……生を全うする、その方が良いのではないか?」

 部屋でロゼ達に、格好着けた言葉の続きが在った。


 「成すべき時に、事を成さなかった者は、惨めな最期を向かえないか!」

 「よう吼えた小僧! 、参る」


  始め━━━ぃ!


 開始の合図と同時に、とんでもない体当たりの一撃を放ってきた。

 

 此の世界に着たばかりの時なら、確実にいまので即死した。だが、こちらも伊達に邪龍を二回も相手に、生き延びてきていない。避けれないなら飛べば良い、強烈な勢いに逆らわずそれに合わせて、後ろへ蹴り出した。

 「ほお、良く跳ねた。跳ねねば死んでいた」

 「そりゃ、どうも」


 平気な顔して返したが、ちょっと何処の勢いではない、既に脚に痛みがある。


 「ぷはぁ━、いまの良く耐えたわねぇ、普通……死ぬでしょ」

 「邪龍との戦いが無かったら、終ってたかも」

 「大丈夫……彼は勝ちますよ、黙って応援しましょ」

 「その……恐ろしいまでの確信めいた余裕は何よ?、サラト……」

 「私も……聞きたい」

 その問いにはサラトは答えず、笑って魅せた。


 開幕に過激な一撃の後も、鬼神の如き強さで俺は圧倒されている。

 手も脚も、とっくに悲鳴を挙げている、無事なのが不思議だ。


 少し見えた…次で、後方へ大きく下がる。

 直ぐに、瞬速で間を詰められ、左右同時に薙ぎ払ってくる。

 両腕が伸び切った……。


 〝此処だ……〟


 地を蹴り両腕が止った相手の間合いへ入った。

 間合いに入った瞬間に、膝蹴りをカウンターで貰う。


 突きが入った……筈だったのに、地に伏せたのは俺だった。

 そこへ、追い討ちの刃が、首を薙ぎに来た。


 剣と腕のクロスガードで辛くも防ぐが、地面へ叩き伏せられる。

 経験不足の差は簡単には埋まる物じゃなかった。


 相手の剣圧は段々と激しさが増していくのに、此方は防戦一方でやっとが正直な感想だ。此のまま推移したら、時期に制される。


 縦と横方向からの交互に、光り迫る剣閃。一方を捌き、避けた心算が脚を裂かれる。深く裂かれるのは免れているが、両腕、両脚、胴体も切り裂かれ、かなりの出血で、眼が霞み始めた。


 「お世辞抜きに、ユキヒトは善戦している。けど……アレではもう……」

 アネスは、気が気では無い。

 だが、もっと悲痛な想いを耐えて観ている者がいた。


 〝ユキヒト様……、如何か……勝って!〟

 両手首から枷をはめられ、祈る手さえ合わせられぬマリネが視界に入る。

 血だるまで戦う俺を、必死に見詰ていた。


 〝そんな眼で観るな……まだ……やれる〟


 〝この小僧……、何故諦めぬ〟

 

 此れまで数多くの者を手に掛けてきた者には、死の間際の諦めを読めた。諦めは全てを負へと導き、結果はすぐに死へと繋がってきた。だが今目の前に居る者は、斬られても、衝かれても諦めず向かってくる、歴戦の兵には到底見えないのにだ。


 そして彼は知っている、此の手の者が一番怖い事を、在り得ない事をやり遂げ、九死を脱するのを何度も観てきた。手を抜きし事は、相手に拝する事に繋がる。


 〝手は抜かんぞ! 、小僧〟


 阿修羅の如き剣閃の煌めきに、諦めはしないが自然に、こちらの動きは封じられていく。決着の時は、もうすぐ其処に迫ったと、誰の眼にも映っている筈だ…だが…。


 「何とかしろ……ユキヒト、此のままでは……」

 「死んだりしたら、絶対に許さない……」


 遂に、鬼神の刃がユキヒトの動きに、終止符を打ち始める、剣が弾かれた。

 

 「ユキヒト━━!」

 マリネが堪えきれず名を叫ぶ。

 

 まだだぁ━━!

 残された力を脚に込め、大地を蹴る。

 

 一閃目は地を斬った。その手を剣から放し、もう一振りが後方から迫る。

 腿の裏を霞め斬られたが、剣に手が届き、構えた。


 バシュ!

 構えた時の反動で裂傷から鮮血が噴出し、激痛で身体が反応出来ない。

 容赦の無い連激、一閃で剣を折られ、そのまま折った剣を弾かれた。


 〝小僧……良くやった。楽にしてやる〟


 剣が迫ってくるのが見える……、防がないと……。

 

 〝剣を…そうか折られた……剣が欲しいな〟

 右腕が剣で防御する様に、動く……。


 ユキヒトが……死ぬ?。

 いや……いや…死ぬのはダメ……嫌よ。


   嫌━━━━!

 

 マリネの身体が桜色に染まり……輝き弾け……消えた。



 キィ━━━━ン!


 「こ、小僧……何だ……この剣は?」

 「え?」

 俺の命を絶つべく、頭へと迫っていた剣を、右手に持たれた剣が防御した。


 「桜……色の剣?……」

 右手の柄から延びる刀身は、見事な薄桜色に染まった綺麗な刃。

 

 『ユキヒト様……私……剣?』

 剣が話しかけてきた、しかも聞き覚えの強い……。

 まさかと、マリネが居た場所に……その姿がそこに無い……。


 「この剣……て、嘘っ、マリネ?」

 『はい……』


 どうやら……、これがマリネに渡す力の正体らしい、何とも呆れた能力だ。ロゼ、アネスに続き今度は、マリネを剣本体に変えてしまった。しかもこの剣、持っているだけで傷が回復していく、そして紙の様に軽い。


 「おし! 、じゃ一緒にあいつを倒そうマリネ」

 『はい……、一緒に戦える……嬉しぃ』


 「おいおい……、何だ?あの剣……」

 サラトへ顔を向け、その正体を問うアネス。


 「あの剣は……、マリネさんですよ」

 「えええ! 、人が剣に?嘘っ」

 サラトの返事に、首が折れそうな勢いで広場を見た。


 さっきまでの劣勢が嘘のような展開に驚愕する。マリネの剣を手にした途端、体も軽くなった様に動き、二刀の剣閃を楽に避けている、こちらの剣閃は、そう……まるで桜の花弁が舞っている様な、煌めきを放っている。薄桜色の刀身が、光を反射する時にそう魅せている。


 気力、体力、傷も全快した。速さも圧倒している、剣技も自然と相手の先手を取り始めた。これだけ全てが冴え渡ると、もう負ける気がしない。


 〝桜色の剣を手にした後、小僧の全てが変わった?〟

 開幕から全てを圧倒して、止めの一撃を放ち防がれた時から、形勢が逆転した。底を突いていた筈の、気力も体力も戻っている。有ろう事か、傷まで回復している。


 〝この桜色の剣が、小僧の右手に現れてからだ〟

 先程まで枷で繋がれた女が居た、女の姿が消えた後、剣が現れた。

 

 刃を交える毎に修羅場を潜ってきた、その経験さえも、凌駕しつつある相手を前に、古い只の伝説と聞いていた物を、思い出した。


 〝只の伝説に有らず……か〟


 急に剣を一旦下ろした。

 「小僧……、異世界人か」

 「な! 、どうして?」

 「そうか、ならば良い土産が出来た……、次で勝負とせぬか?」


 何故、俺が異世界人と分かった?、が、もうどうでも良い。

 黙って首を縦に振って、勝負を受けた。


 「マリネ……次で終わりにしよう」

 『はい、一緒に』

 

 俺達は相対して、眼を瞑ってその時を待った。

 鼓動が聞こえるが静かな音、迷いも無い。


 ほぼ同時に、眼を開き間合いを詰めて行く、上段の相手と、居合いの俺。

 張り詰めた空気は、気圧を変えた様に鼓膜に響いた。


 上段からと居合いからの、一閃が、銀と薄紅の火花を咲かせた。

 銀の刃の欠片が地に刺さり、歴戦の騎士はその生涯を閉じ、俺は生を延ばす。


 「マリネ……、俺達が勝った、これで自由だ」

 『はい……、本当に嬉しい……』


 貴賓席に居たロゼ達も、抱き合って勝利に沸いていた。

 「凄いな……、あいつを倒したのか」

 「はぁ━、これで全部おわりだわぁ」


 

 衛兵そやつを捕らえよ━━━!。


 「ちょっと、決闘に勝ったのに、どう言う事よ!」

 「貴様……、神聖な決闘を汚す心算か?」

 ロゼとアネスが、総督に食って掛かった。


 「黙れ犯罪者共が、女が居ないではないか、逃がしたな」

 逃がしてはいない、だが姿を消したのも事実だ。


 「冗談じゃないわ、命掛けで決闘に勝ったのよ、文句言われる筋合い無い」

 「その結果に異を唱える事、まかり成らん!、そう言ったのは嘘か?」

 アネスのこれ以上無い、正論に対しても総督は、耳を貸さず。


 「黙れ、黙れ、衛兵! 、何をしておる、早くひっ捕らえよ!」

 総督の二度目の命令で一斉に、貴賓席へ警吏が雪崩れ込んできた。


 「くっ、これは流石に不味いわ……」

 ロゼ達四人を、警吏が取り囲んでしまった。

 闘技場へも、衛兵が向かっている。



   これ以上、我が国の恥を曝すか愚か者━━━!。


 後方から、聞こえてきた声の主を見た。

 派手な衣装の男と、銀の甲冑の騎士が五名程立っている。


 「どうして……、この様な場所へ?」

 遂、今し方まで、威勢が良かった総督が、借りてきたネコのように。


 「この戯け者が! 、痴れ者はどっちぞ」

 「ひぃー!」

 その余りの態度の急変に、アネスがロゼに耳打ちしている。


 「ロゼ……あれは、何者か知っているか?」

 「うん……知ってる」

 ロゼにしても意外な人物であった様で、少し呆け気味だ。 



 「マリネ……、何か、貴賓室の辺り騒いでないか?」

 『ユキヒト様……、あの方は……』


 「何か随分と、派手な服装だけど」

 『あの……オスマニア帝国皇帝陛下です』


 「はい?」


 突然、闘技場へオスマニアの皇帝が、その姿を見せた。

 

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