語れぬ理由
二章はじめました、よろしくおねがいします。
戦いの最中に、深手を負ったアネス達四人の重症者は、ドアの森中継基地に運ばれ治療を受けている処だ。ニズの尾で叩き飛ばされた時から、ずっと昏睡していたハルも今は意識を取り戻し、少しなら会話が出来るまでに回復してきた。
「良かった……、皆も無事なんですね」
と、元気な顔とは言えないが、無事な声を聞けて心配の種が一つ解消された。
一時は死の淵まで行き、一番の重態に陥っていたあのブラッディも、ズグロが離れて間も無く目覚めた。しかし、殆ど体は動かない状態は今も継続している。彼女は命が助かった奇跡に、ベッドの上で涙を流し、ズグロに感謝を伝えていた。
そうアネスに至っては……。看護の眼を盗み勝手にベッドを抜け出し、武器の手入れをしている所を発見され。
「ちょっ、アリアネスさん! 、何をしてるんですか!」
連絡で掛けつけた、数名の駐屯兵に抱えられ…、
「こらっ、放せ馬鹿者共、私はもう動ける!」
早々にベッドへと帰還させられていた……。
首都から医者と患者を搬送する馬車が到着した。
重傷者達の様態も安定していると医者に診断され、移動可能となり首都へと移送され、四人は手厚い看護を受けている。
唯一心配なのは、アネスが治療中暴れないか……。
宮殿の寝室でベッドに臥せったままの皇王の様態が、罹っていた呪詛が無くなった事で、急速に回復して行き、後は体力の回復を待つばかり。ロゼは話せる状態まで回復した皇王に、一連の経緯の全てを語り伝え、又、数千年以上はニズの復活の無い事を知らせた。
「皆に感謝を伝えて欲しい……」
予想外に体力は消耗していたのだろう、ロゼの話ではそれだけを頼むと再び眼を閉じ、眠りに就いたらしい。夫である皇王が、呪詛から開放され回復を待つだけと成り、皇后からも感謝と皆の見舞いに行く旨を彼女に伝えると、看病の疲れを癒しに自室へと戻って行ったと聞かされた。
オークに占領されているドアの森の駐屯地は、奪還の派兵が決った。旧開拓村の跡地にも、同様に派遣され大空洞を含む全てを監視対象にし、調査等が行われる。あそこへ再び、ニズが現れた原因を知りたいようだ。
全ては黒衣の者が仕組んだ罠であり、恐らく無駄だと思うが……。
あの時以来、奴は姿も声も潜めている。
ニズが倒されると奴に何の利益が有ったのか、何も分かっていない。
今も何かを画策しているのだろうけど、今は鳴りを潜めている。
そして一番厄介な問題の件は……。
針の寧ろを経験する覚悟をしていた訳だが。
二人で何かを相談していたのか?……、ロゼもマリネもいたって普通に接してきた。
強いて言うとしたら、マリネは以前より俺との距離を、逆に縮めようとしてるかに見える。ロゼが皇王の寝室へ報告に離れてからは、頻繁に傍に来る様になってきた。ロゼにした行為を許してくれたのか?、それとも気にしていないフリを演じているのか?。
いずれにしても、彼女が悪戯に絡んできたり、悲しみに囚われた姿を見せない事には、内心安堵している。泣き喚かれ落ち込み、部屋から出てこない状況を想像したら、こっちがテンパりそうだ。
そして……又。
「私も……同行して宜しいですか?」
同行とは、落ち着いたらラケニスの塔へ行く、という奴を指しているが、俺以外の誰も真相を知る事はタブーらしい、その理由が分からない以上は彼女を連れては行けない。マリネの心理が分からないが、他所他所しくされて気まずく成るのは御免だ。
「ごめん……、俺一人で来いって言われてるから」
「そう……ですか……、では私は待ってますね」
サラトが次元の扉を開け、その中へと入る。
入り際にマリネを見たら、俺の姿をしっかりと見詰ている……。
その眼差しは、愛しい者を見送る眼ではなく。
〝監視されてる?〟、そんな眼をしてた気がした。
今は、とんでもない婆さんに会いに行くしかない、扉の先へと進んだ。
「やっと、きおったな小僧、待って居ったぞ」
相変わらず、背凭れの異常に高い椅子に肩肘着いての出迎えだ。
見た目だけは、サラトな癖に、五千歳の婆さん…………。
「大事な用件なんだろ?、他者へ真相を話すのを禁じたくらいだ、余程の内容と構えて来たんだけど」
「そう慌てるでない、それより……どうじゃ?、おなごに囲まれた感想は?」
「はぁあ?、勘弁してくれ……、心張り裂けそうだったのに……」
ほんっとこの婆さん、碌な者じゃない……。
思いっきり楽しんでやがる。
「あははははは、済まん……、しかし悪い気分じゃなかろ?、七人皆が揃って美女だしのぉ」
最後の一言を否定が出来ない、男の性か……。この婆さんに、正面気っての反論出来ないのが腹立たしい!。
「ってか、何で七人?、しかも話しても駄目って……何故?。七人の問題もアレだけど、他の奴に話すなが一番きつい……、何の弁解もできん……」
マリネが話しを聞いて納得するかは別としても、浮付いて取った行動ではない、理由にはなる筈だ。ロゼに対しても苦しいが、あの状況では他に手が無かった。納得出来ずとも、理解はしてもらえるかもしれない。
「七人から説明するかの?」
「頼むよ」
「この世界には存在しない物を、主らは持っておる」
「存在しない物……。俺達の世界には在るから連れて来られたのか?」
「そういう事だの、それは普通は身体の内で眠っておる。それを呼び覚ますことが出来るのは、その力と同調する気を持つ……、主の場合は女性から愛されるのが条件じゃ。七人目が主に【愛】を覚えた時に、その全ての力が開放され覚醒となる」
「七つ……、眠っている?。何か聞き覚えあるな……、チャクラ?の事か?」
「だの……、それがこの世界では絶大な影響を主に顕すのじゃ」
チャクラと聞いて彼女は疑問を示さなかった。過去に召喚された来た者に聞いたのか?、それとも……以前ラケニスに感じた、彼女も俺と同じく召喚されてきたのでは?。
だが、今はその話は避けて続きを聞きたい。
「あの時に主は感じた筈だ、身体が引き千切られる痛みを」
「確かに……、焼き千切れた感じだった」
「元々、召喚した者された者で、ロゼは他の者より結び付きが強い。最初から有る程度の力は顕れていたがの、詠唱不用に威力の上昇。覚醒の後は別格になるがの、主も見た筈じゃニズの断末魔の姿」
そう……、どれだけ攻撃を入れても、傷も付けれずに後退させる程度で殆ど、弱らせる事すら無かった。それが、あのロゼの水晶のような紫の姿から焔への輝きに変化して、ニズを焼き焦がし消滅させた……と。
「あと六つが必要な時、必要な場面で顕れるはずじゃ」
ロゼの姿を変え、一瞬でニズを焼き焦がした。それとは違う能力が六つ在り、時が来ればそれも発動する?。そんな力なら、余計に告知した方のが効率が良いのは間違いない。
「皆に真実を言うのを禁止したのは?」
「知れば……、力は喪われるだけじゃ、全部がのぉ」
「そんな……理不尽な」
「主からみれば、理不尽よの、だがまだ続きが残っておる」
ラケニスから、発現条件が七人の女性から【愛】を受ける事。それを彼女達へと伝えると、折角得た力は全てを喪うと宣告された。俺の居た世界は言えば、物質文明、それと比較したらこの世界は精神文明、とでも言うべきなのか?。魔法が普通に存在しているのも、理にしても理不尽にしか思えない……。
そしてまだ続きがあるらしい……。
「七名の内一人でも【愛】を失えば、同じく全てを喪失する」
「ちょっと……、マジかそれ……」
一度思われてしまえば良いではなく、継続し続ける……。
「死亡しても同じことぞ」
「じゃああの時……、ズグロが即、対処したのは」
「ズグロとサラトだけは特別じゃ、全部承知しておる」
ブラッディが死ぬ直前に、ズグロが憑依して命を救ったのは、この理不尽な理があった為だった。あそこで彼女が死ねば、覚醒は無かった。
しかし……だ。
「真実を隠し語らずに、七名を……愛し続ける……?」
マリネ一人でも、困惑している状態で更に六名も?。
それは、俺には無理だ……ろ。
「七名と平等に愛を育めば良い……」
「そんなのある意味地獄……だ」
世の中には確かに、そんな事が出来る男が居るのは知ってるが。
「と、言いたい処だがの! 。安心せい小僧、主が想い描いておる【愛】だけが対象ではない、それとは別の、大きく広い意味の物も含まれる、親や兄弟、への【愛】みたいにのぉ」
「はぁ━━、そんなの早く言ってくれよ……」
「いやあ……主の反応がほんと面白ろうてなぁ」
この……お、本当に性格悪い……、見た目がアレなだけに余計に性質が悪い。
「じゃが、本当に七名全員を娶っても構わんのじゃぞ?」
一瞬……、良く眼にする光景が浮かんだ……。
が、即否定する。
力の維持に必要な状況がそれなだけで、彼女達の【愛】がそれとは違う可能性は、さっきラケニスが語ったではないか、在り得ない。頭を振って否定した。
たがひとつ確信出来た事がある。
ラケニスは確実に、俺を戯れの主役にしたいらしい。
「ラケニス……、あんた俺で遊んでるだろ……」
「戯れに付き合わせようぞ、主にそう言った筈だの?」
ラケニスの妖艶な笑いが、鬼に見えて仕方ない……。
「主に、語らねば成らんのは以上で終わりじゃ」
ラケニスは、次元の扉を開いた。
何やら複雑な状況を宣告されに来ただけだが、扉を抜けようとすると。
「娶れは、半分冗談だが、守らねば成らんのは事実ぞ、大切にしてやれ」
「半分なのかよ……分かってる守るさ」
今回、この塔へラケニスに会いに来た用件は済み、扉へと向かう。
扉を抜けて宮殿へ向かう時、何か言ってたが、聞こえやしなかった。
「さて……、語っては為らんのは小僧で、わしがバラすのは問題無いが、面白いからこのまま黙っておこうかのぉ」
扉から抜けて戻ってくると、何やら凄く疲れを感じて自室へ向かった。
起きた後に、又、事が始まる…………。
ありがとうございました。