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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
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夢の跡

これで一章を完とします。よろしくおねがいします。


 邪龍ニズを倒した、皇王は救われた……筈。

 なのだが……。


 大空洞の地面にはニズの断末魔の痕が、黒々と地面を焦がし巨大な影となって残っている。その黒い痕にはいまだに熱が残り近寄りづらい、それは灼熱の焔の激しさを物語っていた。

 

 俺達は、苦闘の末に、奴を再び次元の果てへと追い返すのに成功し、皇王に罹った呪いを絶ち切り、その命を救った。この事実は確かな物だが、それを果たすために覚醒とやらが必要だった。


 『七人の女に愛されよ』。


 この条件を完遂する為、まだその気持ちを示していない残り一名から、それを受け取り事を成せとラケニスは言った。

 

 最後の一人、七番目の女は……皇女ローゼス。


 互いの気持ちを顕にして、互いを確かめているマリネが直ぐ傍で戦っている。俺は苦渋の決断を迫られた末に、全滅の憂き目を払拭する為の、強引な行為をロゼに執ってしまった。


 元々、好いている。

 ラケニスの告知の通り、ロゼも七番目の女の証を示し、覚醒は成った。

 しかし……、強引な行為に及んだその真相を語れない。


 マリネは俺を許してくれるだろうか?。



 

 殲滅(せんめつ)の必要は無かったが、駐屯地兵達の士気は想像以上の効果を見せていた様だ。勢いに任せ、旧開拓村周辺の魔物は一掃されていた。それは、駐屯地兵が隊長の指揮の下、大空洞へと雪崩れ込んで来た事で分かった。この急な人数の増加の御陰で、重傷者達を速やかに運ぶことが可能となり、功を奏した形と成る。


 本当なら死亡していた筈のブラッディは、ズグロの再生力で重態ではあるが命は危ぶまれなくなっていった。ハルも全身を激しく強打されていたが、結界とその後の二人の治癒魔法で、数箇所の骨折で済んでいる。アリアネスは、大きな裂傷と呪詛が残っていたが、命に別状も無く意識もあった。


 「馬鹿者が、倒すのが遅い!」

 俺に向かって、何時もの口調で憎まれ口を叩き、運ばれていった。


 重傷者達を中継基地へと搬送する兵が居なくなると、四人だけが残った。

 予想通り、最初にマリネが近付いて来た……。


 「ユキヒト様……何か理由……有りますよね?」

 涙の跡が残る顔で問われる、黙って頷くしか出来ない。胸が張り裂けそうな感じと言うのを、初めて経験した。全てを語れば少しは罪悪感も消えるのかも知れないが、禁じられている。何か大きな意味が有っての事だと確信出来るし、真実を彼女に伝えるに適わない。


 そしてもう一人の……。

 

 「貴方……、どういう心算?……。あんな事して

 そこまで言葉にして、顔を赤くして立去った、間違い無く激怒させた。

 俺には立去る後姿に、彼女が怒りを覚えているとしか推測出来なかった。


 《もぅ、どんな顔してマリネに逢えば良いのよおぉ~!、恥ずかしぃ》

 ロゼが負い目を感じている、その本人が眼前に立った。


 「いやっ、あのねマリネ……これは違うから!私は……」

 《ほらああ、マリネ泣いてるじゃないっ、どうすんのよ~》


 「いんです……、理由が有る……筈」

 立去った兵達の後に続いて掛けて行く。


 「あ!、待って絶対間違いだ……って、もう聞こえてないか」

 

 〝本当に……何て事してくれたのよぉ、敵と戦闘中にあんな事するなんてもぅ、想い出すだけでも恥ずかしい! 、私だって……初め……てなのに。……如何してくれようかぁ! 〟


 この時、ロゼが何を想ったか、俺は知る由もない。

 只、睨まれたのだけが見えていた。


 「でも……、この人が遊びで、理由無しにあんな事……する筈は」

 再びその情景が浮かんできて、更に真っ赤に頬を染めた。

 

 〝もうやだっ! 、私も帰るっ〟

 

 階段目掛けて、一目散で走り去るロゼの鼓動が高鳴っていたのは。

 急に走り出したせいでは、無かった。


 一人残された傍に、サラトが近付いて声をかけてきた。

 苦渋な選択をした俺に、慰めの言葉をくれるのかと。


 「ユキヒト様…………、頑張って下さいねっ」

 その姿は模写(コピー)と分かっていても、ラケニス本人その者に見えた!。


 「サラト……、それ慰めに成ってない」


 最後の二人が大空洞を引き上げると、完全に静寂の空間となった。

 死闘の末、邪龍ニズを倒した喜びと安堵、件の問題による苦悶。

 完全に忘れた物があった。


 

 ━━━ やっと最初の門が開いたか……ははは






 首都、ハイデ宮殿内の皇王の寝室は、騒がしくなっていた。

 一向に回復の目途が立たなかった物が、急に回復の兆しを見せた。


 「これは……、一体どういう事じゃ?」

 

 自分達の知識しか信用しない者達には、これの意味が分からなかったが。

 聡明な皇后には、此れが誰の仕業か確信を持っていた。


 数時間後、ドア森林中継基地からの伝令が宮殿に齎(もたら)された。

 その内容は。

  

  我ら八名、呪いの元凶たる邪龍を討ち果たしたり。

  その禍根、次元の狭間へと滅した事を報告す。

       ハインデリア皇女 フォア・ローゼス・ハインデリア


 〝ありがとうロゼ……、そして七名の方々〟

 

 皇后は言葉にはしないが、浮べた涙。その意は、どれ程深いか。

 推して知るべしであろうか。



 ━━━ ドア森林中継基地。


 基地内を通っている小川の岸、一際目立つ大岩にロゼは座している。

 その後ろから、マリネがロゼに向かって砂利道を進んでいた。


 「ロゼ様、わざわざ伝令でなく、魔法便の方が早かったのでは?」

 

 マリネが傍に立って、話し掛けてきた。どちらも顔を逢わせるのは、気まずい想いが有る訳だが、何時までもそれを引き摺るのは、更に気まずさを生み良い結果には繋がらない。


 「伝令のが……、格好付くじゃない! 、それだけよ」

 「いかにもロゼ様らしいです」

 

 話の切っ掛けは、伝令を方便に始まったが、マリネが岩を見て気が付く。

 ロゼの居座った岩、それは図らずもあの夜に、マリネ達が座った物だった。

 マリネはロゼと背を向けて、同じ岩に座った。


 「ロゼ様、この岩覚えてますか?」

 ロゼは全くの無頓着に、この岩へと腰を下ろしていた。


 「へ?…………、あ! 、わわわ。此処って、ひょっとして」

 「そうです、私達が座ってたら、ロゼ様達に覗かれた所です」


 「げぇ!」

 〝うひゃあ、これはバツが悪過ぎる……! 〟

 

 夜、マリネ達の気持ちが高まっている処を、不貞にも六人で覗いていた。

 ロゼが一人冷や汗を掻いて、焦り倒しているとマリネが質問してきた。

 

 「ロゼ様……、聴いて良いですか?」

 「な、何か、なぁ?」

 

 その予想される内容もさる事ながら、自らの主君に対して質問する行為。非常に話し辛いのは、ロゼにも見て取れた。このまま黙って待つのもの良いけど、此処は切り出し易い様に一声掛けるのが、主の度量を示す機会であろうと、ロゼが察して動いた。


 「マリネ、言いたい事はスパッと言う!」

 「はい!、ロゼ様は……ゆ、ユキヒト様を……あ、…ああい、愛してらっしゃいますかぁ?」


 〝やっぱそれよねぇ…………〟

 

 此れ以上は無い! 、という程に、マリネが身を縮ませて両手を握り締めている。その姿を観たロゼは、嘘や誤魔化しは無しにして、今の気持ちを正直に答える事にした。


 「うん、愛してる」

 

 直後、マリネは全身をビク付かせ、震えている。

 最悪の答えを聴いたと、立去る挙動のマリネを、咄嗟に彼女の腕を掴みその場におし留めた。

 

 「何故止めるんですか……ロゼ様」

 その声は困惑と嫉妬、怒り?、彼女の心境を映し出していた。

 

 「ちゃんと最後まで聴きなさいマリネ」

 その言葉に立去る体勢を戻し、座り直す。


 「私の愛しているは、マリネの愛とは違うわ。使命持って異世界へと赴き苦労の末、やっと見つけたあの人を、私の失態で行方不明にしてしまったでしょ。途中で色々遭ったけど、最後は全部チャラにして受容れ、残ってくれた。この国の皇女として、最大の敬意を払うのは当然じゃない?。私の言った愛って、自らの境遇を認めこの世界の為に、高潔な意思を持って尽くす厚意への愛。マリネ……貴女の想いとは違うわ」


 「ロゼ様…………話、長過ぎです」

 「あ! 、でも今のが真実よ」

 「無理して、理論付けてません?」

  〝こ、この子て……意外と……〟

 「でも、ロゼ様がそう言って下さるなら、それで納得します」


 ロゼの長い釈明はマリネが一切の疑心無く、とは言えなかった。

 だが、その気遣いを無碍にする様な事はマリネには出来ない。

 二人は背中越しに、互いの心中を探り想い描くが、沈黙を崩さなかった。


 ロゼはふと、以前に聞かれた言葉を思い返していた。

 【あの時、あの道を通らなかったら如何した?】

    

    〝本当……私どうしてたんだろ?〟


 それ以前に、もし違う人があっさりと見付かっていたら?、その場合あそこまでの歓喜はしなかった。移動中迂闊にも突き落とすといった、大失態を引き起こす筈も無かった。皇王、皇后の前、大臣達に大見得切った行為に、及ぶ事も有り得なかった。


 当然、捜索にでる事も無くなっている。


 〝そしたら、今の皆ともこうした形では逢ってないのか……〟


 他の人だったら?、きっとこんな感慨に浸る事は無かった。

 やはり、出会うべき運命の人だった……から?。


 その想いに至った時、ロゼは息苦しく胸詰まる鼓動の高鳴りを覚えた。

 〝……私は、やっぱり?〟


 

 昔の厄災の再来であった邪龍は、辛くも討伐した。

 だが、全てを終らせては居ない。

 皆、思考の外へと忘れているが、黒衣の者の存在。

 裏で暗躍している企ては、まだ判明してはいなかった。

 

   まだ厄災は終っていない。


 そして、ロゼは。

 

   私は、嘘をついている━━━。






 

ありがとうございました。

読んでくれるかたが居る限り続けたいと思います。

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