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女難危行・拉致した皇女と六人の嫁  作者: 雛人形
第一章
23/90

死闘

よろしくおねがいします。

 俺達は大変な思い違いをしていた。


 一撃目で無事であったのは、偏にズグロとサラトが用意周到に、事の成り行きを見守って居てくれた御陰以外の何物でもなかった。他の六名は完全に虚を衝かれて、対処出来ずに弾き飛ばされた。


 「くっ、速い……」

 それは百戦錬磨と思われたアネスでさえ、例外じゃなかった。彼女でさえ、他の五名よりは僅かばかり早く動けた程度で、完全に回避しきれず打撃を受けてしまう。


 「何て奴なの、聞いていた以上……」

 龍の戦いを実体験で知っているのは、二名しか居ない。俺の知っているのは赤い奴と白龍ズグロ、どちらも対戦したとは言えない。こんなに速く機敏に動き回るとは、想像だにしていなかった。


 人の姿を取っている為、ズグロは間接的に結界は張ってくれているが、直接攻撃には入れない。ハルは結界に守られて致命傷こそ受けずに助かったが、まだ体勢を整えて魔法詠唱を行える余裕が無く、それを補う役をサラトがやってくれている。


 ブラッディとマリネは騎士の称号持ちだけに、初撃こそ受けたものの、見事に体勢を立て直した。二人とも剣を抜き反撃に転じているが、龍の硬い鱗に傷を入れにるに至らない。


 いや、至らなくていい、あいつの攻撃だけ避けてほしい……。

 普通の剣では、あの鱗に傷なんて……。


 「ブラッディとマリネは後へ下がって! 、普通の武器じゃ無理よ! 、アネス……ニズの眼をねらって頂戴!」

 近接二人は、波動の範囲の外へ一旦下がって、様子を、アネスは激しい打撃と呪詛を巧に避け、言われたとおり眼を狙うが、激しい動きの最中では命中は至難の技と思う、普通なら避ける行為さえ難しい。  


 ロゼは魔法を撃ちながらも、指示をだしている、詠唱が省略された事で彼女の本来の気質と合い、ニズに後退させダメージを与えている。俺の衝撃波みたいな奴は、オークや山犬には圧倒的であったが、邪龍に対しての効力と言えば、動きを少しばかり鈍らす程度にしか利いていない。


 僅かな動きの鈍りの隙を衝き、マリネが大きく跳び連激を放つが、堅牢な鱗の前にその剣が刃毀れしていく。空で詠唱を始め、着地と同時に魔法を放つ……微かに表面の鱗を焦がすが、ニズの尾と爪はマリネを連続で追撃してくる、空へ飛び反転して回避する。


  その華麗な舞の様な動きには見惚れてしまうが、心中穏やかでない。

 堪らずに叫んでしまう。

 「マリネ!下がれ━!」


 「しかし……それでは……」


 あの恐ろしい容姿の邪龍に対して誰一人として、怯んでいない。

 その勇猛な姿には、感嘆を禁じ得ない。

 なのに、俺はまだ彼女達の助けに成れていない。

 

 しかし、ラケニスの言った本来の力って、何なんだ?、腕や脚の一本でもくれてやれば姿を現すのか?、あいつの攻撃を何時までも回避し続けるのは、体力的にいつか終わりは来る。


 その前に、早く……。


 だが、無常にも最初の限界が表れ始める。

 ロゼが激しいストップ&ゴーの動きで足が縺れた。


 「しまっ……

 ニズはその隙を見逃さない、天空から鋭く速い尾激が打ち下ろされる。

 大空洞の地面を大きく穿ち、土煙が濛々と舞い上がる、が、アネスが体当たりして辛うじて難を逃れたが、アネスの方が背中に裂傷を負ってしまう。


 「アネス……、ごめんなさい」

 「ふっ、大事無い心配いらん」

 

 回復に向かうハルに爪が迫る、その腕に衝撃波で何とか軌道を逸らせた。

 二人の傍に、辿り着いたハルが話し掛け治癒を始める。

 「先に継続魔法掛けて、呪詛を払います」

 「済まんが……頼む」

 「ハル……お願いね!」

 

 ロゼは立ち上がり、再びニズに向かう。

 アネスは強がって見せてはいるが、その表情には明らかな苦痛が滲んでいる。ハルが継続治癒を掛け、アネスの呪詛を祓う治療を始め……


 〝ハル、アネス━━!!〟


  ヴオォ━━ン バシ━━!

 水平に振られた尾の一振りは、二人を遥か遠くへと弾き飛ばした…………。


 結界は解けていなかった……が、しかしまともに直撃を喰らった。

 アネスは……サラトが駆け寄ってくれた。

 ハルは、ズグロが向かっている。


 「ハル……、アネス……」

 二人を気遣って顔を向けた隙を……、ニズはやはり見逃さない。

 俺に向かって、ニズから瞬速の爪を振り下ろされた。


 だめだ……避けれ

 ニズの鋭い爪は俺ではなく……ブラッディを切裂いた。

 反応が遅れ、逃げ切れない処に彼女が飛び込み、凶爪の身代わりになった。


 「嘘……だよなぁ、おい起きろ……」

 

 爪で直撃された彼女は、身体を激しく裂かれもはや……。

 「ぐぶっ、お役に……立てました……ね」

 「ダメ!、起きなさい……ブラッディ━━」

 ロゼは有らん限りの一撃をニズに撃ち、後退させ駆けつけた。

 しかし、二度とその声を聞ける事は無くなってしまった。


 「そこを、離れなさい我が主よ」

 ハルの治療を応急で済ませ、安全域に移動させたズグロが傍に来た、何をするつもりだ?。彼女の姿が眩いばかりに光り輝いた、その姿を消した直後にプラッディが眼を開ける。

 

 「この者に一時的に憑依し、龍族の治癒力で細胞を再生させます。命は救えますがこれより先、我は戦線から離脱と成るが故、御自分でニズに立ち向いなさい、我が主よ」

 「ありがとう、ズグロ……済まない」

 

 こっちは既にジリ貧に成ってきた。まともに動けるのは……ロゼ、俺、マリネ、そしてアネスに続きハルを診ているサラトのみ……。それに対してニズは、多少の傷を負ってはいても、そのどれもがニズの攻撃を低下させ、動きを妨げに至らしめる物は無い。


 強すぎる……。


 半数が戦力を維持できない、いや瀕死の状態にまで陥っている。

 目の前に俺とロゼ二人となり、その攻撃は激しさが増す事になった


 「ちょっとやばい……処じゃないかな?」

 どんな時でも、強気な言動を通して来たロゼが初めて、それを崩した。


 「こいつ、昔は共闘して倒せたのよね?、そんなのどうやるのよ……」

 「ロゼは何か知らないのか?」

 「悪いけど、知らない」


 こっちの状況は悪く成る一方じゃないか……。

 此のままでは━━━━。


   なんじゃ?、様子を観て見れば……全滅しそうではないか、

   情けないのぉ、さっさと、倒してしまわぬか!。


   〝ラケニス?、倒せって……。俺達の攻撃なんて全然利かない〟


   利かないじゃと?…………これは、主……覚醒しとらんのか。

   おかしいのぉ、とっくに済みと見てたんじゃが……。


 今回は、俺個人に語りかけてきたが、会話の最中でもニズの攻撃が止む事は無く、爪や尾、呪詛を避けながらの会話は非常にきつい物がある。


  〝悠長に構えてないで……教えてくれよ……どうしたら良いんだ?〟

  ふむ、仕方ない、死なれては元も子もない、此れからが詰まらぬからの

  〝如何したら覚醒してくれるんだ?〟


   それは………『七人の女に愛されよ』、それだけで良い。


  〝はぁあ?、ふざけないで本当の事を早く教えてくれ! 、余裕が無い〟

  

  失礼じゃの、嘘なんぞ付いておらん、本当の(ことわり)じゃ、

  観たら、主は六名から既に受けておる、残り一人から受ければ良い。


 「ちょっとユキヒト……、動きが変よ死にたいの?」

 ロゼが俺の動きが低下してる事に気が付き、激を飛ばしてくる、彼女は俺がラケニスと会話している事には感付いていない。


 「ユキヒト様、何をして……」

 マリネも気が付いた様だ、余り長く会話を続けると。


  〝七名なんて……今更、如何しろと?〟

  ほんと鈍い奴じゃの……、そこの七名を言うておる。

  〝此処の?……まさか……、マリネはそうかもしれないけど、そんな……〟


 マリネ以外の五名が俺を?、そんな筈は……しかも残り一名って。


   ふむ、又、これは七番目の……、この気は……ロゼじゃの。

   〝ロゼが七番?〟

   そうじゃ、あとはロゼから受け取れば覚醒完了……だの、はよせい。

   〝はよせいって、七名もなんて……そんなの道理に反して〟

   戯けが、何処の道理じゃ?元の世界じゃろ……、此処にはそんな物無いわ。


 本当なら飛び上がって、感情のままに歓喜する場面だが、何処にそんな余裕があるというのか?。それが真実としても、マリネを……。


   ロゼを口説いて、早く覚醒して終らせい小僧。

   〝口説け言われても、俺は苦手なんだよ! 、この状況でどうやれと〟

  

   全く……此処の女はのぉ、主の世界の者と違って純粋で【うぶ】なんじゃ、

   元々好いておる、強引に行為に及ぶだけで、簡単に落ちるわい。


 この婆さん……、とんでもない事を淡々と吐きやがった。

 俺にそんな真似までしろと?、マリネの想いを裏切れと?。俺の気持ちを伝えて無かったら、まだましだったかもしれないが、マリネに見せているのにか。


 この現状では、全滅してしまう━━━━。

 これしか無いのか?、此れしか残されていないとしたら。


 ごめんマリネ…………。

 許せロゼ…………。


   小僧、何を躊躇っておるか、はよせんと全滅するぞ!。


 マリネを観る事は避けて、ロゼに飛び付いた。

 「え! 、何……?」

 「ごめん、許せ!」


 俺はロゼを抱き寄せ、後頭部を引き寄せて強引に奪った。

 ロゼの背筋が、硬直したのが分かる。

 

 殴られるのを覚悟した━━━━。

 しかし、ロゼはその場に崩れ落ちて呆然となり蹲るに留まった。


 異変が始まった。

 身体中が熱く焼けそうになる、叫び挙げようとするが、声が出ない。

 焼けた部分が激しく千切れ飛ぶ感覚が襲ってくる。

 千切れ飛んだ灼熱の塊が身体へと戻って来た。


 異変が収まり身体に静寂が戻った時。

 確かな変化を感じ取れた。


 「眼を覚ませ! 、ロゼ!」

 名を聞いて我に返るロゼ。


 「あれを……ニズの奴を」

 「あ……、はい」


 ロゼが、邪龍ニズへと真直ぐと見据え魔法のイメージに入る。

   

   俺の身体から霧状の紫色の揺らめきが放出された、

   それは、ロゼへと延びていき、彼女を水晶の煌めきの如く魅せる。


 〝此れは……、なんだ?〟  


 イメージが終わり、ロゼは腕を上げその手をニズへ向けていく。

   

   紫水晶の煌めきは、やがてロゼを紅蓮の姿へと変えた……。   

 

 「ニズを焼き払え! 、ロゼ!」

 「はい」


 返事の後、ロゼの紅蓮が消失。 

 刹那……、紅蓮の業火がニズの全身を焦土と化した。

 

 暴れ悶え飛び跳ねるが、着火して纏わり付いた焔はニズを逃がさない。

 激しい悶絶の後、ニズは遂に動かなくなった。


 己、またしても……、その力かぁ……。


 恨みの念を残しながら邪龍ニズは、再び次元の狭間へと消えていった。


 「終ったのか…………」


   ほらの、敵ではなかろう。

   さて、此度の件、落ち着いたらわしの元を訪ねよ、伝えねば成らぬ。

   それと、良いか今の事は、くれぐれも語るでないぞ、厳に慎め。

   待って居るぞ、小僧。


 戦闘最中で、ラケニスとの会話もニズが消えた事で終了した。

 邪龍ニズは倒れ、これで皇王に罹った呪いも消えた筈。


 終ったが……、全てが丸く収まっていない……。


 「ユキヒト様……何故?、ロゼ様と……」

 

 手で顔を抑え涙ぐんで見詰るマリネ。

 地面に(うずくま)り、呆然としているロゼ。


 全てを距離を離れて見守るサラト。


 皇王を救うという目的は達成出来た。

 が、波乱が此れから起きるのを、避ける事は出来ない。


 



ありがとうございました

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