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別れ、始まり

「未来……?」

確かに彩花はそう言った。


「カコスイッチって言うものがあるんだけど、それを使ってこの過去にまで戻ってきたの。でも代償に命を差し出さなければならないから、もう死んじゃうの。」


彩花は苦し紛れに笑顔を見せた。

一体どういうことなのだろう。この状況を全く理解することができなかった。

彩花が未来から来た、でも彩花は死んでいるはず。


「でも彩花、どうやって、どうやっと来たんだよ、死んでるのに……」


思い切って聞いてみる。


「え?私死んでなんかないよ、死んだのは、紅の方だよ。」

「え?!」


俺が死んだ?俺は現に未来からやってきている。

彩花が死んだ後からの記憶もちゃんとある。

覚えている。クラスの人の名前、告白してきた人たち。

彩花の葬式の日、全部覚えている。


「実は俺もカコスイッチを使って未来から来たんだ。俺の知ってる事は、学校の前で彩花と喧嘩した後、お互い別々の帰路についたんだ。それで翌朝ニュースを見たら彩花が殺されたってニュースが流れてて。」


「紅もカコスイッチを使ったんだね。でもおかしいね。私の知ってる事は、学校の前で紅と喧嘩して私は家に向かって走った。そして途中、この道であの殺人鬼と出くわした。その時に紅が追いかけてきてて、紅が私を命を貼って守ってくれて、それで紅は死んじゃったの。」


消え入りそうな細々とした声でそういった。

確かにおかしい、死んだはずの人が生きてて、未来からやってきて、頭が混乱して俺はただ彩花を抱きしめることしか出来なかった。


もう、細かいことを考えるのは辞めた。

今はもう、彩花を近くに感じていたかった。


刹那、視界がどんどん暗くなっていく。

世界がぼやけていく。意識も遠のいて、感触もなくなって。

そのぼやけた世界に俺は恐ろしいものを見た。

あの、殺人鬼の姿。さっき走り去っていった筈なのに。

また、戻ってきた。でも、その思いとは裏腹に意識はどんどん遠のいていく。

俺は理解した。目的を達成できなかったからこれから戻るんだ。

でもこのままじゃ……



俺は意識を失った。



* * *


目が覚めるとそこは見覚えのある場所。見慣れたベッドに見慣れた机、ポスター。

ここは俺の部屋だ。頭がクラクラする。起き上がって見ると、そこにはフードの女がいた。


「うわ!?」

驚いてから、そう言えばフードの女は自分の家に上がってカコスイッチを使用させたことを思い出した。


「目的は達成されませんでした。規約に従ってもらいます。」


死よりも苦しいもの、か。一体何なんだろう。


「肉体と魂を剥離します。魂だけとなったあなたは、カコスイッチを所有する権利、貸し出す権利を得られます。」


理解できない。肉体と魂の剥離。何を言っているのかさっぱりわからなかった。


「それではまず肉体と魂の剥離を行います。」


フードの女が指パッチンをした。パンッ、という音とともに、なんだか俺は体が軽くなったような気がした。

一体何をされたんだ。


「そこを見てください」

フードの女が指さす方に目をやると、そこには俺が寝ていた。

だがたしかに俺はここにいて、でもそこにもいて。


そうか、剥離とはこういうことか。幽体離脱のような、そんなイメージ。


「そしてこれを」

女は懐からカコスイッチを差し出してきた。


「あなたはカコスイッチを所有する権利と貸し出す権利を得ています。いや、義務といった方が正しいでしょうか。カコスイッチを持って、過去に未練、後悔の年を抱いている人を探し、カコスイッチを使用させてきてください。」


「一体何のために?」

「それは、私にもわかりかねます。」


よくわからない事を永遠これからさせられると言うことか。

でも、もう覚悟はできていた。やるしかないのだ。


ここでふと疑問が沸いた。カコスイッチの使用を促すこのフードの女もまた、カコスイッチによって過去に戻り失敗してきた人なのだろうか、と。


この慣れた喋り方からして、これまでも何人かにカコスイッチの使用を促し、実際に失敗してきた人たちを見てきたのだろう。

失敗した人は皆世界のどこかでカコスイッチを、勧めているのだろう。


ほんの余談のつもりでフードの女に質問をしてみた。


「あんたも、カコスイッチを使って過去に戻って、目的を達成できなかったうちの、1人なの?」

「はい、そうですよ」


読みが当たった。


「その話少し聞いてもいい?」

「何故ですか」

「これからまともに人と話すことも出来なさそうだしさ、最後にあなたの話を、聞こうかな、って。」


フードの女は数秒沈黙した後、口を開いた。


「好きだった人を助けるために、過去に戻りました。」

「俺と同じだね。でも失敗しちゃったんだ。」

「はい、結局、殺されてしまいました。」

「その人、どんな人だったの?」

「いつも教室の隅で本を読んでるような大人しい人で、とっても優しくて、そんな人です。」

「そうなんだ、それは、残念だったね。」

「はい、だけど最後に一目見れたので、喋れたので、もう、いいんです。」


フードの中の顔は今一体どんな表情をしているんだろうか。

たんたんと喋る彼女にも感情だってあるはずだ。

きっと、泣いている。


「余談はここまでです。それではカコスイッチをあなたに託します。最後にルールを説明します。」

「ルール?」

「はい、守らなればならないものです。たったひとつ、カコスイッチ使用者に肩入りしないこと。これだけを守ってください。」


「わかった。」

フードの女が俺に話してくれたカコスイッチを使用した時の話。

これは肩入りにならないのだろうかと少し心配になった。

素性を明かす事は、きっといけないことだとわかったけれど、口には出さなかった。


「それでは私は。」

そういうといとそのフードの女は、足元から段々姿が薄れていった。

足首から膝、腰まで、どんどん薄くなって消えていく。


「色々とありがとう。また、会えるかな」

「私達カコスイッチを所有するもの同士交わる事は決してとありません。これが最後です。」


肩まで消えた。

なんだかお世話になってフードの女に情でも湧いてしまったのだろうか。

そう思いながら彼女が消えゆくのを見ていると、最後フードの女は確かに言った。


「さよなら、紅…」



読んでくださった方、ありがとうございました。

実はもう1話書こうと思っていたんですが、書いている途中で、このまま終わらせた方がいいと思って、最終話とさせていただきました。

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