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本編-0089 関所街の昼と夜~仕上げ編②

己の腕っ節一つと経験的な処世によって街を渡る者達は、カッコつければ"アウトロー"だし、侮蔑を込めれば"ゴロツキ"である。そんな連中同士が、酒場でも道端でも何でも良いが、肩をぶつけたり腰に引っさげた剣の先がぶつかった、とそういう理由で喧嘩が起きることがある。

それが酒場の「華」であるし、盛り場の「華」である。そうした場で突っ張ることや、敵対者を暴力的に屈服させることを"(おとこ)"の象徴として尊ぶ文化である。


――だから、酒場の聴衆の面前で馬鹿にされたならば、対決と決闘を拒む理由も動機もならず者(こいつら)には存在しえない。


「なんだぁ? おい、この負け犬っころのガキが、なんでお前がここにいるんだ? ここには、ママのおっぱいはねぇぜぇ!」


ソルファイドに合図させて、酒場の外で身を潜め、待機させていたラシェットを入ってこさせた。

当然、それを見咎めた『三本短剣』のならず者バイルが、肉食獣の舌なめずりのような笑みを浮かべ、取り巻き達が野次を飛ばし始める。まぁ、少年の闖入自体が珍しい出来事ではあるとしても、この程度であればまだ"よくあること"程度ではあるのだろう。

女店主ベネリーも「まぁ、まぁ」と宥めながら強めの酒を注ぎつつ、様子を静観するにとどめている様子。実際、彼女のタフさは相当のもので、粗暴なバイルでさえ威勢が良かったのは店に入ってきた最初の時だけで、すっかり手綱を握られ骨を抜かれているようであった。


だが、それも、続くラシェット少年の言葉で一気に酔いが覚めるだろうよ。


「今日こそは今までの借りを返しに来たぞ、バイル。てめぇのハゲ面を見るのも今日で最後だ――親父とお袋のカタキだ!」


「……おいおい、こいつは驚いた。お前、本気かよ? 自分が何言ってるか分かってんのか?」


酒場の良い意味でも悪い意味でも粗暴な空気の中で、乱暴者とはいえまだバイルは女店主ベネリーの顔を立てて、脅して追い返すつもりでいたのだろう。気持ちよく酒が飲めないのは確かだが、いつだって暴れたい気分じゃないだろうからな。

だが、ここまで公衆の面前で言われちゃあ、メンツによって他者を脅して飯食ってる"盗賊団員"としては、捨て置けないだろうよ。


「やめとけ、ラシェット。どうしたってんだお前」


「殺されるぞ、ジャニアンが死んでお前まで死んだら」


などと有象無象、ラシェット少年にとっては街の顔見知り連中が口々に止めようと割って入ってくるが、ラシェットは意に介さない。少年の"覚悟"の強さは、鍛えた俺達こそが、よくよく知っているからなぁ。

――とはいえ、止めてくれるような「心ある」客自体はごく少数に過ぎないが、な。


武装商人。傭兵。海賊。不良衛兵。

喧嘩と闘争に飢えた連中が、不穏な気配とちと暴力のにおいを感じ取って、どちらに与するでもなく、激しく囃し立て始めている。それを得意のカリスマでなんとか宥めてまわろうとし始めるベネリーだったが……残念だったな、妙齢の美熟女おばさん。

既にルクが【精神】魔法【昂りの共鳴】によって、酒場の熱気は、彼女がこれまで経験したことのないほどの危険な盛り上がり方をしようとしていた。


「はいはい、あんた達……ッ!?」


ベネリーが一か八か声を荒げ、強引に事態を収集しようとした時には、ちょっと"目"で脅して止めてくれとソルファイドには伝えていた。

そして今、その気配を察知したソルファイドが――【心眼】によってベネリーを真っ直ぐに見据え、殺気にも近い無言の闘気によって、その全身を竦ませたのである。そして、このタイミングこそが俺の好機だ。


「ははっ! 威勢のいいガキだなぁ、お前、名前はなんて言うんだ?」


陽気さと相手を小馬鹿にするような調子を織り交ぜて、何かを言おうとしたベネリーに被せるように、思いっきり酒場によく通るような声を上げ、俺は席を立った。

そして野次に混じり、手を叩きながらラシェット少年の傍らまで歩き、その肩をポンポンと叩きながら悪漢バイルを真っ直ぐに見据えてやる。


「なんだぁ? てめぇは、この辺りのヤツじゃねぇなぁ……はっ! 事情も知らないよそ者が、なんの用だよ?」


「いいねぇ! ハゲのおっさんも元気で、()る気に満ち満ちている!」


「おい、人の話を――」


「酒場の飢えた獣ども! 俺はこのガキに賭けるぜ、嘘じゃあない、こいつを見な!」


そういって銀貨数十枚に金貨が数枚入った袋をル・ベリから受け取り、それをお手玉のように放って――チャリチャリと、嫌いな者は少ないであろう"音"を聞かせてやる。

すると、俺に集まっていた酒場の注目の眼差しが、次々に目の色を変えていく。

この俺の"趣向"を理解したのか、口々にああでもない、こうでもない、俺はいくら賭けるぞ、と騒ぎ始める。

こうなってくると、もはや辣腕の女店主ベネリーであっても、酒場の空気を止めることは難しい。俺の口上をものすごい目で見つつも、口を結んで腕を組み、ただ成り行きを諦めて静観するようだ。


興奮した酒場の酔漢達が机をどかし始め、即席の「決闘場」が形成され始める。

……この手の「決闘」と、それを賭けの肴にする酒場は存在しないわけではないが――女店主ベネリーの『木陰の白馬亭』はそうではなかったのだ。それを強制的に決闘場に変えてしまうのだから、申し訳ないっちゃ申し訳ないが、まぁその分今まで以上に稼がせてやろうとも。

飯の味が気に入った。俺の『エイリアン酒』の卸先第一号にしてやってもいいぞ? まぁ、その相談はまたおいおい……ルクが「拒否権無いんですよね、それ多分」とか言いそうな目でこっちを見ている。


「ひょろい兄ちゃんよぉ……意味はわからねぇが、喧嘩は買ってやるぜ。この糞ガキを捻り潰したら、お前の番だ」


咆えるのは勝手だが、あまり足元を見ないと、すくわれてしまうぜ?

――頭に血が登った屈強にして乱暴者として恐れられる傭兵くずれと、こそ泥として名を知られていた少年。二人を因縁を知る者も多少はいるが、誰の目にも、対戦カードとしてはオッズが傾きすぎて成立が危ぶまれるレベルであったことだろう。そこに俺が大量の金を賭けたことで、途端に皆が、好機をもぎ取らんとする狐の顔を隠そうともしなくなる。

誰もが……俺達以外の誰もが、30秒でラシェットが良くて"半殺し"状態にされることを想像したことだろうよ。


中には、バイルに賭けた連中同士でラシェット少年が『何秒持つか』で賭けている始末だ。

……酔わすには、まず一気に醒めさせてやらないとなぁ。

その後で、もっと強い酒を飲ませるのだ。まぁ、見ていてくれ。

俺とソルファイドが「世界の法則」をも利用して鍛えた成果が、どの程度のものなのか、俺も楽しみなのだ――今後の【構想】にこの知見を取り入れる、その先行試験としても、な。


そして上着を脱ぎ、いくつもの傷の付いた"歴戦の強者"といった風を晒すバイルが、残虐な笑みを浮かべる。


「踏み越えちゃいけねぇ一線を越えちまったなぁ、糞ガキ……もうてめぇを虐められないかと思うと悲しいが、ここらでてめぇの一家との因縁も終わりにしてやるよ。まずは、床とキスさせてやるぜ」


――そして、その10分後。

宣言通り、床に這いつくばってキスする結果となったのは、当のバイル自身だった。


   ***


「もうお寝んねか? こんなんで威張り散らしてたのかよ、今までよくもやってくれたもんだ! 思い知ったか、"傭兵"さんよぉ!」


ラシェット少年の勇戦を観戦しつつ、特等席の座席に陣取ってちびちびと安酒を飲む……んむ。強さが足りないな、【魔人】の身体の意外な利点かもしれないし、あるいは【疲れ得ぬ肉体】のゼロスキル効果か。ベネリーにもっと強い酒を頼むか、こっそり持ってきた『エイリアン酒』を、ここで飲んでしまうか――。

俺の両脇をソルファイドとル・ベリが固めて、バイルの仲間や取り巻き達が妙な行動を起こさないように監視している。ルクはアシェイリと共に、もう一つ後ろの丸机に陣取り、酒場全体の様子に目を光らせていた。


この日の主役のラシェットは、事前にセコンド役のソルファイドから伝えられた"助言"を忠実に守っていた。「大振りさせて疲れさせろ」の言に従い、ド根性と天性的な「受け身」のセンスで序盤は守りに徹した。だが、小賢しく立ち回り、体格差すら利用してバイルに大きな動きを強制し、徐々に疲れさせることに成功していた。

挑発によって頭に血を上らせて翻弄し、鍛え上げられた"打たれ強さ"と――職業【重装戦士】の数々のパッシブ技能のゼロスキルの微恩恵を受け、過去にバイルに叩きのめされた時からは、見違えるほど逞しくなったことだろう。


そして、それを眺める"観客"達の「興奮」も、時が経つに連れてその「興奮」の内実も微妙に変化していて面白い。


始めは、頭のおかしい馬鹿(俺)から無償で大金を巻き上げられると喜んで。

ラシェットが善戦し始めてからは、純粋な決闘モノとして楽しむことができ。

――バイルが崩れ落ちそうな現在は、予想外の"負け"を悟って悲鳴を上げて。


最後には、耐えて耐えてひたすら亀のように耐えたラシェットが、疲れ、油断したところを顔面に渾身の全身バネで頭突きを見舞う。

衝撃が顎から脳にまで突き抜けたか、激しく脳を揺さぶられ、バイルの屈強な大柄の身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「マジかよ、本当に勝っちまいやがった!?」


「あああああ、俺の金がああああ!」


「すげぇ……あぁ、畜生! こんなことなら、もっと賭けときゃ良かった!」


「信じられない、あのこそ泥のガキが……ウーバルさん、あんたの息子は立派になりやがったぜ」


そのタイミングを見逃さず、俺はすっと席を立ち上がる。ル・ベリとソルファイドがそれぞれ、頭に血を上らせたバイルの取り巻き達を牽制させつつ、ラシェットの側まで歩いて、今にもフラフラで倒れそうなその腕を取り、半ば強引に立たせてやった。

そして小声で「よくやった、死んでいった連中もお前を誇るだろうし、お前が連中の分まで"意志"を継いでやらなきゃあなぁ」と声をかけてやる。

それがラシェット少年に、自分が成し遂げたことのある種の現実感を一気に実感させたのか、沸き起こる涙に顔をクシャクシャにし始めるのだった。だが、その様子すら酒場の興奮を盛り上げる材料とするために――俺はラシェットの片腕を掴み、格闘技の勝利選手かのように高く掲げてやる。


「この世界」でも同じような文化があるかどうかは知らないが……勝者を称えるという意図は通じるだろうよ。


「さあ、さあ! 『白馬の木陰亭』の飢えた荒くれどもの諸君! 金を失ってご傷心の連中も多いかもしれないが――新しい街の英雄(ヒーロー)の誕生を祝おうじゃないか! お前らから巻き上げた金は、きっちり還元するとも……今日から3日間、この酒場は俺の"奢り"で貸し切りだ!」


「ちょ、オーマ様!?」


ルクがなんか声を上げた気がしたが、聞かなかったことにする。

それだって、途端に口笛吹いたり叫んだり、歓声を上げる酒場の陽気な荒くれ者達の熱気に飲み込まれてしまう。だが、安心したまえよ。

こうして注目を集めれば――いろいろと釣れるだろうからな。


「……しょうがありませんね、全く」


と、感極まって泣き顔になっていたラシェットが、いくらかは落ち着きを取り戻したのか、俺に対して感謝の言葉を投げかけてくる。


「すげぇぜ、オーマ、オーマ先生! 俺、自分でもこんな力があったなんて、知らなかった。先生や師匠達と出会えて本当に良かった――あのクソ野郎、バイルの野郎をぶっ飛ばせるなんて、思っても見なかった!」


あぁ、なんだ。

熱くて、根は真っ直ぐな少年じゃあないか。

――いかんな。

こいつは「真っ直ぐ」過ぎる、いろいろ思い出して(・・・・・)しまう。

それ以上は、今の俺にはちとしんどい……いろいろ上手く行っているのだが、こればかりは、想像外だったともさ。


「それは良かった。せいぜい俺のことを"すげぇ先生"だって宣伝して回ってくれ」


「シャリー達にも、これでやっと顔向けできる。本当にありがとう、先生!」


酒場を3日貸し切りにしたことで、それなりの金が出ていくだろう。

あるいは、この一戦で稼いだ金も吐き出して赤字になってしまうかもしれないが……更に"名"も稼ぐのはここからだ。これは投資であり、呼び水なのだ。

――何もラシェット少年だけで終わらせる、なんてもったいないことをするわけがあるまい?


ところで。

おう、ラシェット少年よ。お前、5~6人はいる「おチビ」達を食わせていくには、たかだかオッズ差のついた酒場の賭け決闘での一時的な"稼ぎ"ぐらいじゃ、到底足りないに決まってんじゃねぇか。そのあたりに思いが至らない以上、子供ということなわけだがなぁ――また"盗賊"的な生き方に逆戻りしてしまうぞ?

せっかく【重装戦士】とかいう珍しい『職業』になった以上、それは逆にマイナス要因になっちまうんだよなぁ。


だから、ここからが本題。

俺の"本領"を発揮させてもらうとしようかね。


口々に少年の健闘を称え合う荒くれ者達の間で、俺はここぞとばかり両手で拍手しながら、暗に注目を促す。そして、この展開のために用意していた口上を吐き出す。


「はっはっは! 金を失っても、商機には敏感なゴロツキども、あんた達だったら――このラシェット少年の"才能"とド根性の価値が、わかるんじゃないか? "仕込み"だってさっき野次ってたのもいたが、その通り! この俺が! 数日鍛え上げただけで、ただの街のこそ泥の『隠された才能』ってぇ奴が! 明らかになったってわけだ。どうだ、そこの【傭兵隊長】さんよ、ここに鍛え甲斐のある優秀な新人兼使い走りがいるんだが、あんたならいくら出す?」


こういう場面では、ソルファイドの【心眼】よりもシンプルに俺の【情報閲覧】が便利である。

"職業"を見て、それが相手の「社会的身分」を兼ねている場合は、非常にわかりやすい――相手からすれば初対面で自らの素性を言い当てられるあたり、俺の『鑑定士』としての実力を信じやすくなるだろうよ。

事実、酒場に腹心の部下であろう数名を連れて、この喧騒の中でも落ち着いて"大人の楽しみ方"をしていた【傭兵隊長】が、ニヤリと笑って指を三本立てる。それが『金貨三枚』――貧民ではない平民の平均的な年収(乱暴な計算ではあるが)であることを理解して、酒場の聴衆からどよめきが上がる。


「おっと、いきなり良い額がついたなぁ! 喜べ、ラシェット少年。あの虎みたいなおっさんは、お前のことを金貨三枚で雇いたいとよ! それだけの価値が、こいつにはある! どうだ、そこの"熟練"商人の爺さんよ、傭兵団が新人に欲しがる小僧を小間使い兼専属の用心棒見習いとして、さらに高値をつける気は無いかな?」


今度は、ゴリラの屈強さと狐の老獪さを併せ持つ【武装商人】の一団を指差す。

ほれ、ホクホク顔の商人達が獣の笑みを浮かべ、酒の勢いもあるのか、傭兵団への対抗意識もあるようで「金貨4枚、いや、5枚だ!」などと言い出している。

なに、自分だけで親友の弟と妹達を食わせるために、多少危険なことでも厭わずに金を稼ぎたいという決意を俺は知っている。突然の「就職斡旋」とかいうサプライズのプレゼントだが、なに、ラシェット本人の承諾は後で取れば良い。

――こういう連中は、わかりやすい。

拳で解決することを好むため、粗暴ではあるが、勇敢な者に好意的である側面も持っている。

そして何より、ラシェット少年はほどよく「磨かれていない」のであるから、才能に嫉妬するよりも舎弟的可愛がりという見下し対象という意味で先輩風を吹かせたがるものである。


……もう一名、「後で本人の承諾を取る」べき相手がいたな、そういえば。

仕方ない。酒場のヒーローになったラシェットをならず者どもの好意的な"可愛がり"の渦中に放り込み、俺は女店主ベネリーの下まで歩いた。

その途中でル・ベリに目配せするのを忘れない――熱狂の中で、バイルとその取り巻き達の姿が消えていたことに気づいたからだ。頷き、俺に向けて一礼した後に、ソルファイドやルクに「次の動き」の準備を促していく……そう、この酒場にはもう長居する理由がないのだ。


「やらかしてくれたね、あんた……名前は?」


「オーマと言う。あそこにいるのは、ル・ベリ、ソルファイド、ルク、アシェイリ――どいつも信頼できる、俺の愉快な"仲間"達さ。後から承諾取る形にはなってしまったが、なに、宣言通り金は払うとも。三日三晩、ここの陽気な連中に騒がせてやってくれや」


「一体、何を企んでいるんだか。でも――少なくとも、もううちの店であんな"決闘"騒ぎはよしてくれよ? 場所に困ってるってんなら」


「『黒い角突きウサギ亭』、『雑草刈りの鎌磨き亭』、『喉の潰れたガチョウ亭』あたりでやれってか? 頼まれなくとも、そうしてやるさ。ここの飯は気に入ったからな、今日だけだ。迷惑料だと思って、まぁ今後ともひいきにさせてくれや」


「……ラシェットのことは、素直にあんたに感謝しなきゃならないね」


「なんだ? 無敵の"女店主"さんにも、どうにもならないことってのがあったわけだ、意外だなぁ?」


「オーマさん、あんたはどこまで――いや、気にしないでおくれ」


応ともよ。

「今」は気にしないでおいてやろうよ。

"女店主"ベネリーねぇ。何度か試した【情報閲覧】でようやくちら見できた「身分」の項目に『幹部(・・)連絡員(森の兄弟団)』とかいう、愉快過ぎる文字が踊っているんだよなぁ。

これもまた、ここを俺の活動拠点に選んだ決め手の一つである。


……ともあれ、そっち(・・・)側だったか、という思いではある。

この手の「酒場」は、どちらかというと情報を「政府」側に売り渡す"目"となっていることの方が、一般的であるからだ。情報が集まる割に、営業許可とかそういう文脈で「政府」からは虐められやすい立場にもあるからな、まして旧ワルセィレ出身の貧民窟に近い女性の店主、なんて"弱い"立場じゃなぁ。

てっきりハイドリィに至る『階段』になるかと思ったが、回り道になるかもしれない。だが、亡国の民により近い立場であるならば、彼女の周辺を通じてそちら側の"事情"を探るのも一興ではあるか。


「御方様、お話中で真に申し訳ありませんが――」


「主殿。ルクの準備が整ったようだ」


「――あぁ、分かってるとも。釣れたってわけだな?」


わざとベネリーに聞かせるように、気持ち程度の小声で配下達とやり取りする。

そして、意味深にベネリーをじろりと一瞥してから、俺達は『木陰の白馬亭』を後にした。


   ***


「公衆の面前でメンツを潰され、しかもそれを酒の肴にされて大恥を掻いた……ああいうヤクザ者達にとって、そいつは死活問題なのさ。となりゃあ、次は手段を(・・・)選ばず(・・・)に名誉を回復しようとするだろうよ」


「愚かですな、それが張られた罠であるとも気づかずに」


「全くだ。釣り針はデカくて、食い込んだら痛くって、命に関わるってことを知らしめてやらないとな」


人通りの少ない、深夜の路地裏を連れ立って行く。アシェイリは外で待っており、合流した。

やがて入り組んでいて、廃屋が並ぶ街の一角にまで足を踏み入れていく――"表通り"に戻るには最短なルートに差し掛かった。


「――よぉ。詐欺師野郎、お前のことを待っていたぜ?」


やがて周囲の小道という小道から、袋のネズミを囲い込んだつもりの"賊"達が一人また一人現れてきた。

盗賊団『三本の口裂き短剣』の構成員達が、ラシェット少年に土をつけられ、報復に燃える傭兵くずれのハゲ男バイルが残酷な笑みを浮かべる。

ひい、ふう、みいと――おお、約30人もいる。構成員の大部分を連れてきたってわけか……可哀想(・・・)に。


数の暴力で以って、俺達を威圧し始めたつもりなんだろう?

だが、待ち伏せというのは"不意討ち"であるから効果的なのであって、最初から予期されていたならば、効果は半減である。それでも正面切って30人もの得物を持ったならず者を相手にするのは、いくら俺達であっても被害は免れないが……。


どよめきと騒ぎ、そして叫び声が『三本短剣』達の後方から上がり、動揺が広がった。


「なんだ!? 何が起きやがった!?」


ルクがやってくれたようだな。屑どもを罠にかけるのはいつだって心が躍ります、とかなんとか意気揚々と出かけていったのが印象的だったが。

――バイル君や。"待ち伏せ"や"不意討ち"の類とは、このようにやるのだよ。

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