本編-0087 関所街の昼と夜~「裏」編②
「なぁ、人間ルクよ。ここは"人間"の繁殖場か?」
「……手段は同一でも、求める結果は異なるってところかな」
「なんだそれは、わかるようなわからないような――まるで御方様みたいな物言いをしおって」
地道な情報収集活動を開始して3日目。
ルクとル・ベリは関所街ナーレフの「裏」通りの一角――"色街"と呼ばれる区域に踏み込んでいた。
それぞれに鋭敏な探知の手段を持つ二人のこと、時折、薄寂れた建物の窓や壁の向こうから誘うような蠱惑的な眼差しが送られてくるのには気付いていた。それと共に、狐のような狡さを秘めつつも、媚びるような笑みで擦り寄ってくる客引き達の存在の煩わしきことよ。
だが、春を買うためにこの区域を訪れたわけではない。
……情報収集の必要から、結局この区画を訪れたわけではあるが、そんなことをすれば、自分はミシェールに四肢を切り取られ一生監禁される未来しか見えない……しかも彼女は周到にも事前に主オーマの許可を取るだろうし、主オーマはそれを面白いと感じて認めるだろう――そんな戦慄すらルクは覚えていた。
であるから、あくまで「目的」のために【精神】魔法を己にかけてまで、心の平静を保つのに努めている。
まぁ、ここでの【明晰なる心】は、色情よりも戦慄からの恐怖を抑える方向に効果を発揮しているわけだが。
そんなことなど露知らぬル・ベリ。
彼は彼で、"色街"という場は、子を成すための手段を目的化した場であると聞いて――かつて母の身に起きた「己の誕生の経緯」を連想した。
半知性種であるゴブリンが、獣と異なり、まさに子を成す以外の理由……例えば相手への征服の"示し"として交合を使うことも知っている。なぜならば、それによって母は輪姦され、自分が生まれる原因となったのだから。
ならば、この淫靡な"臭い"の漂う界隈もまた、人間の雄どもがそうした獣欲を満たすための場であるか。
そうして虐げられる人間の雌達が「娼婦」という名の者達であるか。
だが、仮面の青年は思案気にそれを一部否定する。
「生きる糧を――"金"を得るために、己の身体を獣欲の吐き出し先として貸しているんだ。中にはル・ベリさんの言う通り、無理矢理この立場に置かれた奴隷みたいな娼婦もいるだろうけれど」
「……なるほど。この街の住民達は自由な行き来も生業も選べないのだったな。食料にせよ、日々の暮らしを支える糧を得るために、取れる手段は少ない。ならば、求める者がいるならば、己の身体を切り売りするのもやむを得ないわけだな?」
ならば、自らの母は生きるためにその身体をゴブリンに差し出したのか。
この時、ル・ベリの中に「娼婦」という者達の"生き方"に対する興味が生まれていた。
「別に哀れに思う――特に思ってないご様子、さすがル・ベリさん。まぁ、欲望の渦巻くところには人間が集まるし、人間が集まるところには商機と何より"情報"が集まる。そして、こういう場所には、意外な身分の存在が来ることも多いのさ」
そういうルクが目線で指し示す先を、ル・ベリも横目見る。
そこには確かにこの街の「大物」がいるのであった。
「ほう、あの男は確か」
ル・ベリもまた、その男のことに気づいた。
「"痩身"のサーグトル。代官ハイドリィの右腕にして元【紋章】本家仕えの侯邸魔導師、得意属性は【風】で年は45……そして、その特徴は無類の『娼館狂い』てところか」
神経質そうに客引きの男達をいなしつつ、一直線に御目当ての"店"へひた歩く男サーグトルを、二人は尾行していた。
二人はルクの【精神】魔法【霞がかる容貌】によって周囲の人間から認識されづらくなっていたが、サーグトルはかなりこの近辺に「通い慣れて」いるようで、辺りに罠のように【風】魔法の探知魔法を展開していたため、ルクは妨害魔法や対抗魔法を悟られず慎重にぶつける必要があり、人知れぬ静かな魔法戦が展開されていたのである。
元々は主オーマの『魔石を売り捌け』という命を達成するべく、その"候補"を品定めすることも兼ねた情報収集活動である。いくらかの"実弾"を「とりあえずくれ」との指示が一度あったため、ごく少量の魔石を売って金を送ったりもしている。
現在、主オーマ側の方では「一稼ぎ」の準備をしている様子であった。その過程として、いくつかの酒場であったり盛り場を押さえている様子であるという。
ただ、ひとまず合流して顔を合わせての『状況報告』は明日であり、その時に詳細は改めて聞けば良いだろう――ルクの中でいくつかの"想定"はあったが。
そうして、時にル・ベリと「生物の繁殖における性欲の役割」に関する議論をしながら静かに後をつけて、しばらくのこと。
さも、蛾の群れの中に蝶が混じるかの如く、周囲の安い売春宿とは雰囲気の異なる「高級娼館」に入っていったサーグトル。
しばらくして、中から激しい言い争いが聞こえてくるのであった。
***
「シーシェを出せ」
「本日は客を取る日ではないので……サーグトル様、代わりにこちらの娘など」
「いいや、シーシェだ! いるのはわかっているんだ――娼婦の分際で、客を選り好むだと? 無駄な邪魔などするなよ、この貧民街ですら生きていけなくしてやろうか? 貴様」
高圧的な態度で娼館の支配人に迫るサーグトルは、自身の権力的な立場を隠そうともしていない。事実、彼にはやろうと思えばそれができる力をハイドリィから与えられている。
さらには『長女国』においては、それを持つ者と持たぬ者の間に大きな社会的格差をもたらす【魔法】の力も"脅し"に使う。【風の錐刃】を支配人の顎に向けつつ、語気を荒げていた。
護衛を伴っていないが――たかだか征服された土地の新街の高級娼館程度の"用心棒"達に、実力でも遅れを取るサーグトルではない。
こうしたやり方だけ見れば、サーグトルという男はさぞ粗暴な男に見えるだろう。
だが、実際の彼は執念深いものの、決して向こう見ずな男ではない。むしろ慎重な策略家タイプであり、【紋章】本家の侯邸仕えから関所街ナーレフへ異動を希望したのも、彼なりの栄達を皮算用した上でのことである。
――だが、ルクによって『娼館狂い』と表現されたように、自身の「お気に入り」に関することとなると、このように手段を選ばない危険な男となるのである。
そして、そんな彼のお気に入りは長らく"シーシェ"という娼婦であった。
また『いつものこと』が起きて、シーシェは大きなため息を吐き、外出用の外套を控室のクローゼットから引っ張り出す。この日は「客を取らない」のは嘘ではない――この"高級娼館"の中でも、彼女はさらに特別な立場にあった。
彼女が今の立場に至った"経緯"は少々特殊であり……少なくとも、関所街ナーレフでは大きな権限を与えられて威張り散らしているサーグトルであっても、彼女から見れば「客の資格」を今は失った存在なのである。
齢は20を迎えたばかり。
栗色の瞳と淡いウェーブがかった金髪が、細身ながらも豊かさを備えた肢体にかかる姿は、美術画家が描いたかと見紛う美貌ではある。しかし、陰と憂いを隠そうともしない不機嫌気な表情は、ともすれば娼婦としての淫靡さには欠けている。
"夢"や"癒やし"だとか、同衾する相手に母性の如き慈愛を求める手合いからすれば、いくら美貌を備えていようとも、あまり相手をしてもらいたいと思えるタイプではないだろう――かといって、叩きのめされることに悦びを感じる被虐嗜好者に目をつけられるかというと、そうでもない。
彼女の表情と態度に浮かぶ"憂い"は、攻撃的なものというわけでもなく、非常に厭世的なものであった。
――瞳の奥底に秘された意思の強さをも、隠してしまうほどだ。
故に、彼女の本質的な部分など一切知りもせず、知った気になっているサーグトルの如きは、それを「言いなりにできる、好きにできる、支配できる」人形のような"弱い"存在であると考えて、モノにしようと激しく恋い焦がれているのである。
無論、それは彼女がどういう意味で「高級娼婦」たるかを、曲がりなりにも街の権力者の一人として、知る機会があったからであるが。
シーシェは誰でも客に取るわけでは無いし、金さえ持っていれば客になれるわけでもない。それを決めるのは彼女自身ではなく、事情も一部しか知らされていない雇われの支配人でもない。さらにはこの「高級娼館」の"ケツ持ち"である中級の盗賊団でもない。
ルクの予想は正しく、彼女をこの地へ送り込んだ者達こそは、魔導侯【歪夢】家の「目と耳」の役割を担う売春組織である『罪の蜜と禁断の花』であった――ただし、シーシェ自身は"目"でもなければ"耳"でもなく、『罪花』が不浄なる活動資金を得るための道具の一つとしてでしかないが。
その意味では、関所街ナーレフは、指定された「任地」でしかない。
そこで『罪花』によって案内されてくる「客」の相手をすることこそが、今の彼女にとって、生き繋ぐ道となっている。そんな「客」自体は、年でも数名しか取らないほどの"高級"さであるが、それだけでも一夜で『罪花』へ支払われる黄金は相当のものであるわけだが。
そしてサーグトル――かつての"太客"の一人は、シーシェを己のモノにしようと軽挙な暴力沙汰を起こしたことで、シーシェと夜を共にする権利を『罪花』から永久に売られなくなった。
だが、『罪花』自身は彼女の生き死にすら頓着はしないだろう。むしろサーグトルなどという"厄介事"を引き寄せた制裁であるかのように、サーグトルという問題は自分でなんとかしろという態度を崩さず、しかしこれまで通りに「客」の相手をすべきという"奉仕"は求めてくる。
仮に全てを捨てて逃げ出したとしても、雑草を切り取るかのようにその存在を忘れてしまうことだろう。サーグトルのように執拗に追いかけられるわけでもない。
ただ……少しだけシーシェにとって、元より生きにくさ最低の状況が、ほんのもう一段階酷くなるだけのことである。
それでもシーシェには、為さなければならない"目標"があって、そのためには単純に金が必要であった。その金を稼ぎ続けるためには、『罪花』からの魅力的な給金を放棄することも、サーグトルのようなどうしようもない小物に囲われてしまうことも、許容できる選択肢ではなかったのだ。
故に、自らもまたしたたかに抗わなければならない。
気が弱いように見せかけて、サーグトルのような相手ほど"はぐらかす"のが上手な雇われ支配人が時間を稼いでいる間に、シーシェは窓からカーテンやベッドシーツやらを結んだ即席のロープを放り出す――しかし、これは「以前」使った手である。執念深いサーグトルはおそらく裏口と窓の下に既に手下を配置していることなど、お見通しである。
……そこでシーシェは火の消えた暖炉へ入り、煤で汚れるのも構わずに奥の"隠し扉"を這いながら通っていく。このような時のための「避難」路の一つであったが……最後の手でもあった。
【風】魔法使いサーグトルが支配人を押し通ってシーシェの控室までやってきた時に、空気の流れから「これ」の存在に気づく可能性は非常に高いだろう。そうなった時に、もう「次」は無い。
「私も、ここまでかしらね」
全てを捨てて、大人しくサーグトルに囲われでもして、後は余生を静かに過ごすのが楽なのだろうか。
"坑道"の如き隠し通路は、このまま2軒先の空き家の暖炉に通じている。煤汚れやら擦り傷やらがつくことで「高級娼婦」としての肢体が汚れることなど、別に後で洗えば良いのだ、として気にもしない彼女であったが――珍しくそんな弱気が脳裏をよぎった。
だが、そこでシーシェは、自身と同じような「苦虫を噛み潰した」ような不機嫌な表情を浮かべる青年と出会うことになる。
***
「そんな……まさか、ここもサーグトルに読まれていたなんて!」
ルクとル・ベリが、サーグトルの動向を監視していた空き家。
元は住居であったろう、その火の消えた暖炉から、這い出してくるなり声を荒らげる女性。動揺したのか――魔法を詠唱し始め【風】魔法による刃を生み出して攻撃を仕掛けてくる。
即座にルクが対抗魔法の詠唱を始めるが、それよりも先にル・ベリが機敏な動きで前に出る。そして左腕を眼前に出して"風の刃"を受け止める。外套と分厚い服の下で、腕に巻きついた『触手』がそのまま筋肉の盾となる。
だが、風の刃はル・ベリの予想よりは切れ味が鋭かったようで、左腕を覆っていた外套などが切り裂かれ――腕に巻きついた『触手』が切れた服の合間から"顕わ"になった。
「え……!?」
息を呑んだシーシェが、目を見開いて驚愕に足を止める。
それもそうだろう。わずかな痛みと引き換えに、ル・ベリは一気にシーシェの目の前まで躍り出た。そして人目から覆い隠すことを目的としていた外套が切り裂かれたことを奇貨とし、腕を覆っていた"拘束"を解いたのである。
シーシェの目の前で『触手』が踊り、瞬く間に右太ももに巻きついて拘束。
そのままル・ベリが腕と腰を引き、後方へ身体を半回転させる要領でシーシェを引き倒した。同じタイミングでルクの対抗魔法が詠唱完了し、シーシェが続けて生み出そうとしていた新たなる風の刃がかき消される。
「ル・ベリさん、とりあえず口を塞いで」
「なるほど、"魔法使い"相手の定石というわけか」
ル・ベリが右腕の外套をまくり、予め服に仕込んでいた"切れ目"から切り離して――こちらも腕に巻き付いていた『触手』を解放。ルクの指示通り、シーシェの詠唱を阻止した。
それを見届けながら、ルクは【精神】魔法【明晰なる心】をシーシェにかけた。
「……少しは落ち着いたか?」
状況を理解したのか、敵意を収めたシーシェの様子を見て、ル・ベリに目配せをする。シーシェの拘束を解き、ル・ベリはまた両腕に巻きつけるようにして『触手』を収納していき、その上から、まくり上げていた外套の下に隠すのだった。
そして、咳をしながら体を起こすシーシェに手を貸してやる。
「ありがとう……引きずり倒したことはチャラにしてあげるわ。サーグトルの手下、じゃないみたいだしね、どう考えても」
肉体的にも精神的にも疲労が色濃く見られる、陰と憂いを帯びた不機嫌な表情でルクとル・ベリを軽く睨む。
「『罪花』の"目"――にしては弱すぎる。なんだ、男を誑かして汚い金を稼ぐ"蜜"風情だったか……無駄骨だったかな? どうする、ル・ベリさん。あなたの"正体"を見せてしまったんだから――ここで始末してしまうか?」
お前が何者であるか理解しているぞ、という警告を行間に込めた威圧。
だが、それはシーシェには「別」の含意であると受け止められた。端的に、彼女が『罪花』の"蜜"であることを知るのは、『罪花』の構成員でなければ案内された"客"に他ならないからである。合わせてルクが「仮面」で顔を隠しており、貴族の佇まいを備えていたことも誤解の原因である。
「……なに、よ。ということは、あなたは――次の『客』ってこと?」
「俺が、お前の、客だって? ――笑えない冗談に付き合う心の余裕は無いんだ。次下らないことを言ったら、その舌を氷漬けにして砕いてやる」
即座に否定しようとするあまり、少々脅しの度が過ぎてしまうルクであった。
怨敵である魔導侯が一家【歪夢】家に通じる組織『罪の蜜と禁断の花』。
その構成員ですらない"エサ"では、ルクの復讐における価値は極めて低い。
だが、このような"脅す"言い方は「悪い警官」とオーマに評された、彼の常套手段である――決して他意は無い、あくまで交渉を有利に進めるための出会い頭の一撃としての脅しなのである、とルクは心の中のミシェールの影をなだめる。
そんなルクの意を汲んだか、汲んでおらずか、ル・ベリが言葉を差し挟む。
「まぁ、待て。なにやらサーグトルに因縁があるようではないか……お前の役には立たないかもしれないが、御方様にとっては、何か使い道があるかもしれない。そうだろう?」
「……あなた達は、何者?」
「ふむ。問う前に自ら名乗ったらどうだ? お前も"娼婦"なんだろう、淫靡な臭いが鼻につく」
ル・ベリが顔をしかめながら述べた言に、シーシェがムッとして言い返す。ル・ベリは単に生物学的な意味での感想を述べたに過ぎなかったが、それを侮蔑であると誤解したのだ。
「私はシーシェ、シーシェよ。潔癖症の"坊や"には、娼婦という生き方は刺激が強すぎたかしら?」
そう言いながら、挑発的な笑みを浮かべ、全身の汚れを軽く払いながらその豪奢な金髪を振り上げる。だが、安い街娼やらがするように身体を見せつけるわけでもない、それはシーシェの流儀ではない。そんなことをせずとも、男が求めるものは分かっているつもりであった。
だが、そんな扇情的な挑発など目に入りもしないル・ベリは、まっすぐにシーシェの瞳の奥を、その本質を見据えていた。
「我が名はル・ベリ、母に与えられた名だ――シーシェとかいう人間の女。お前に一つ聞きたいことがある」
「何よ」
「見たところ、お前は子を"産んだことも無い"ようだが……どうして、そんな『目』をしているのだ?」
「いきなり、何を……」
「お前には自分が"産んだ以外"の子でもいるのか? ――お前のそれは、子を持つ母の『目』だ」
「――……ッ!」
「それだけなら珍しくもないのだがな。だが、教えてくれ、娼婦シーシェ。どうしてお前はそんなに"弱い"目をしているのだ? 『子を守る母』は"強い"はず……ならば、お前の『子供』はお前にとって望まぬ存在だったのか?」
「勝手なことを! あなたみたいな人間だか魔物だかわからないヤツが、私の何を知っているのッ!?」
「……少し静かにしろ、サーグトルに気づかれたくはないだろう」
激昂した己に驚いたかのように、はっと我に返ったシーシェの戸惑う様子をル・ベリは見て取った。
一方で、ル・ベリの言葉は、この時ルクですら未だ見抜いていなかった彼女の本質的な部分、その抱える業にかなり近い部分を直撃する一撃となっていた。
だからこそ、シーシェはこの時、ル・ベリの、初対面でありながら心の深い部分に切り込んできた無礼さも、魔物の類が人の皮を被っていたとしか思えない異様さも忘れていた。
その代わり、彼の不機嫌そうな表情でこの世を見つめつつ、外見に決して惑わされない、ただひたすらに「内なる」を見抜こうとする眼光に息を呑んでしまった。
――生まれや、美貌や、肩書きといった「外なる」によって、彼女の運命が振り回されてきたが故に。
一方のル・ベリにとっては、母リーデロットの想いを図るために、シーシェの「在り方」を彼なりに感じ取ったことについて、ふと思った疑問を口にしたに過ぎなかったのだが。
その「問い」は彼が想像するよりも遥かにシーシェに刺さるものとなった……ただし、その効果が現れてくるのは、今少し先の話となる。
話を3人のやり取りに戻せば、場の収拾役が己に移ったことを感じたルクが、敵対的な気配を煙のように消し去って、なだめるような口調で二人に語りかける。
「どうやら、お互いに聞いてみたいことがある様子だな。それは、それで良いかな? だが、混乱している今は考える時間をやったらどうだ、ル・ベリさん……それで、シーシェさん、あなたが『仮面の下』と『外套の下』について黙っていてくれるなら――こちらからは、あなたの問題を解決するのに都合の良い"交渉"を提案してやることもできる」
どうする? と問うルクに対し、ル・ベリと睨み合っていたシーシェが、肩をすくめるように深い息を吐き出すのであった。




