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あれから 満開の桜のそばで 〜目が見えにくいあなたとの物語〜  作者: 綾瀬 桜


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特別という幸せ その3

 どれくらい、そうしていただろう。時間の感覚なんて、とっくにない。

「んっ……」

 唇が重なる度に、体の熱が上がっていく。

「ぁ……んんっ」

 深くなっていくキスに、体が跳ねる。

「……んっ、んっ」

 抱きしめられる強さに、胸が張り裂けそう。


「……奈月ちゃん」

 彼が、ゆっくりと体を離す。

「あっち、行こう」

「……」

「ね?」

「……むっ、無理、です……っ」

「え?」

「動けなっ……力が、入らっ、なくて」

「……」

「すみまっ」

「謝らなくて、いい。半分? は、僕のせいだから」

 彼が立ち上がって、私の背中と膝裏に手を差し込む。

「きゃっ」

 抱き上げられて、そのままベッドまで移動する。

「……っ」

 そっと、ベッドの上に下ろされる。

「……」

 彼が立ったまま、自分のシャツのボタンを外していく。それを、まじまじと見つめる。感覚はまだぼんやりとしているのに、目だけはしっかりと動いている。

 彼の整えられた爪が、淡い光を帯びている。滑らかに動く指。そして。

 ……すごい。

 初めて見る彼の上半身は、引き締まっていて。筋肉のつき方が、美しかった。

「あ……」

 彼と、視線が合う。内心はドギマギしているのに、視線を逸らすことができない。

 ゆっくりと、彼がベッドの淵に手を添える。


「待って!」

 急いで起き上がる。

「……どうして?」

 彼が、動きを止める。

「そのっ、まだ力が、入りにくくて……」

「待ってもいいけど、またすぐ入らなくなるよ。たぶん」

「えっ」

 彼がベッドの隅に腰を下ろして、こちらを向く。

「他にもあったら、今のうちにどうぞ。後からじゃ、受け付けられない」

「え!?」

「君よりは大人なつもりだけど、僕だって男なんだよ」

「……」

「不安なこととかあったら、言って?」

「じゃあ……」

 彼の隣に、座り直す。

「私、その……体型が」

「ん? どこが気になるの?」

「……お腹、です」

「あぁ」

 彼がクスリと笑う。

「スイーツ、よく食べるもんね」

「……っ! 河野さんだって、甘い物好きじゃないですか!」

「まぁね。でも、鍛えてるから」

「……たしかに」

 ハーッ、と溜め息がこぼれてしまう。

「まぁでも、女の子は少しくらいぽっちゃりしてても可愛いよ。あとは?」

「あと……」

 無意識に、顔が俯く。

「ちょっと、怖い、です……」

「どんな、ふうに?」

「自分が……どう、なっちゃうのか」

「……」

「いえっ、あの……」

「大丈夫」

「……え?」

 彼が、そっと抱き寄せる。

「どんなふうになっても。それは、君が。僕の気持ちに応えてくれてる証拠だから」

「……っ」

 彼の鼓動が、はっきりと届く。

「……他には?」

「……」

「ない、かな」

 こくり、と小さく頷く。


 二人でベッドに上がって、向かい合って座る。

 彼が両手で、私の頬を包み込む。そっと目を閉じると、唇が重なる。

 キスをしている間、彼の背中に、ほんの少しだけ手を回す。すべすべな肌に、指が吸い寄せられる。

「あっ」

 体が、ゆっくりと後ろへ倒れていく。思わず、彼の背中に爪を立ててしまう。

「すみっ」

「いい」

「……んっ」

 唇が、ふさがれる。でも、すぐに解放される。

 彼の指が、ブラウスのボタンにかけられる。

「外すよ」

「え?」

「前、気付いてなかったみたいだから。一応」

「……っ!」

 みるみる、顔が真っ赤になる。

「……なんか、口に出すと恥ずかしいな」

 彼の顔も、赤い。

「すみませんっ」

「いいよ。大丈夫」

 そう言って、彼が指を動かし始める。


「あのさ」

 彼が、手を止める。

「こっち、見られてると……やりにくい」

「すすっ、すみません!」

 ギュッと、強く目を閉じる。すると、彼の指が再び動く。

「……っ」

 目を閉じているせいか、感覚が研ぎ澄まされる。彼の指が、私の体の上を滑っていくのが、まざまざと分かる。ボタンが一つ外されていく度に、肌にひんやりと空気が触れる。

「ひゃっ!」

 彼の指が、鎖骨をそっとなぞる。

「……っ!」

 少しずつ、肌に触れていく。

「あっ……」

 甘い刺激に、体が勝手に反応していく。


「奈月ちゃん」

「は……いっ」

 彼が一度、体を起こす。

「僕にも、触れてほしい」

「え?」

「僕だけじゃないって、分からせて?」

「……はい」

 手を伸ばそうとするけれど、上手く力が入らない。

「……」

 彼が優しく私の手首を掴む。ゆっくりと、彼の胸の辺りに手が届く。

 支えられたまま、そっと手のひらで触れる。

「……」

 ぎこちないけれど、ゆっくりと撫でていく。

 ……あぁ。やっと。


「……奈月、ちゃん」

 しばらく夢中で撫でていると、彼の苦しそうな声が聞こえてくる。

「ありがとう。もう、十分すぎる」

 そう言って、私の手を静かにベッドへ戻す。

「河野、さん」

 彼の体が、ゆっくりと近づいてくる。

「好き、です」

「僕もだよ」

 彼の手が、再び肌に触れていく。

「んっ……あ、あっ! ……っ」

 甘すぎる刺激で、胸が苦しい。

「あっ……んんっ……」

 彼の海へと、溺れていく。どこまでも、深く。


 ゆっくりと目を開けると、布団がかけてあって暖かかった。

「……」

 隣には、彼がいて。それだけで、胸が熱くなった。

「……起きた?」

「きゃっ!」

 驚いて、勢いよく起き上がる。

「ごめん、驚かせて。……あ」

「え?」

「寒くない? 服、あっちに……」

「えっ!? わっ!!」

 自分の姿に、飛び跳ねる。

「見ないでっ!!」

「いや……さっき、散々見たし」

「……っ!」

 ボッ、と頬が一気に熱を帯びる。

「とりあえず、シャワー浴びておいで」

「はいっ」

 急いで、お風呂場へ向かう。


 どんなにシャワーで汗を洗い流しても、彼の香りは体に染み付いていて。触れられた所は全部、いまだに熱くて。さっきまでのことを思い出すと、体の芯が疼く。

 恥ずかしかったけれど、嬉しかった。

 苦しかったけれど、やめたいとは思わなかった。

 これが、幸せということ。

 これが、愛おしいということ。


 キュッ。

 シャワーを止める。


 これが、特別ということ。


 喜びを噛み締めるように、ギュッと自分の体を抱きしめた。


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