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あれから 満開の桜のそばで 〜目が見えにくいあなたとの物語〜  作者: 綾瀬 桜


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過去のヒト その4

「やっぱりそうだ! 久しぶり」

 栗色のショートボブの髪を揺らしながら、女の人がこちらへ駆けてくる。

「そんなに走らなくても」

 彼が、微笑んでいる。

「だって、こんな所で会うなんて珍しいじゃない。元気にしてた?」

「うん。花織は?」


 えっ!?

 心臓が大きく跳ねて、血流が逆流しそうになる。


「ずっと仕事忙しくて。今日も休日出勤だったんだから」

「そうなんだ。お疲れ」

「ありがと」


 にこっと笑う彼女の頬は、肌のキメが細かくて。

 触れたらすべすべで気持ちいいんだろうなあ、なんて。つい、眺めてしまう。


「そうそう。来月、同窓会やるんだって。圭太郎くんも来る?」

「また? 去年やったばっかじゃん。同窓会ってそんな頻繁にやるもん?」

「そういう文句は幹事に言ってくれる?」

「それもそうか」

 二人で、楽しそうに笑う。


 どうして、こんなにも。

 この場にいるのが……

 

 どこからか転がってきた小石が、つま先にぶつかる。

 それだけで、足元から崩れてしまいそうだ。


「僕、今圏外に住んでるから。参加するか分からないよ」

「そうなの? じゃあ今日はなんで?」

「彼女とデート」

「やっぱり。可愛い子連れてるなって思った」

 言いながら、初めて彼女が私の方を向く。


「こんにちは」

「こっ……こんにちは」


 こんな時、どうするのが正解なのだろう。

 そう思っている間に、彼女はサッと彼に向き直る。


「ねぇ、これから三人でお茶でもしない? 彼女のこと、ゆっくり紹介してよ」

 体が、金縛りにあったかのように動かなくなる。


 無理、そんなの……

 何か、言わなくちゃ。


「悪いけど」

 先に口を開いたのは彼だった。


「もう帰らないといけないから」

「そっか。じゃあ、また今度ね」

「うん。あ、仕事もほどほどにしないと体壊すよ」

「はーい、気をつけます」

 またね、と彼女がくるりと背を向けて歩き出す。コツコツ。規則正しい足音が聞こえなくなるまで、彼女のスラッとした白い足を眺めることしかできなかった。


「ごめんね。急に驚かせて」

「いえっ」

 彼の声で、ようやく体が動き始める。


「行こうか」

「はい……」

 手を引かれて歩き始めるけれど、足の動きはぎこちない。いつものように彼の顔を見上げるけれど、いつもより遠く感じる。

「あの……」

「ん?」

 彼の声は普段と変わらないはずなのに。少し単調な音に聞こえる。

「……さっきの、人って」

「大学の時の友達」

 温度を感じ取れない風が、真横から吹いてくる。


「昔、一年だけ付き合ってた」

 その風に乗せるように。彼はさらりと言い放った。


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