吸血鬼と銀
ありえない。
むろんそれは人狼である木場大神にとっては当然。
いや。
そう言った綺羅にとっても同じ。
色々な意味で。
まず、自分が吸血鬼だと認識されていること。
隣に本物の吸血鬼がいるにもかかわらず、そう思われるというのは綺羅にとって屈辱の極み。
あり得ないことではある。
だが、嗅覚が人間の百倍はあると言われる人狼が多くの意味で自身にとって重要案件である吸血鬼の匂いを間違うなどありえないこと。
つまり、これは事実。
そうなってくると、佳和羅が話したあの話も本当ということになる。
「……吸血鬼なら銀の剣など持てるはずがない?」
綺羅の問いに佳和羅は薄い笑みで応じる。
むろん、そこには大量の嘲りの感情が含まれている。
ただし……。
自分が顕現させた銀の剣を鼻先に突き付けられても動じることなく、ポテトチップスを食べる佳和羅を見てしまってはその態度も納得できる。
「佳和羅が銀を怖がっていないのはわかります。ですが……」
「私はあなたの同族である吸血鬼をこの銀剣で倒してきました。それは末端の者だけではなくあなたを除けば最上級の吸血鬼と言われていた真祖も含まれている。彼らも銀剣を見た瞬間顔を歪め、斬りつけられるたびに力を落としていきました。つまり、吸血鬼には銀剣は有効ということでしょう」
「ですが、私はその銀剣を持っていても不快になることはない。つまり、吸血鬼の弱点であるはずの銀は私には無力。ということは、私は吸血鬼ではないということになります」
「その論理が正しければ、私も吸血鬼ではなくなってしまう」
「だから、それはあなたが吸血鬼の始祖……」
「もしかして、克服したのですか?銀を……」
「まさか」
「では……」
「もともと弱点ではないからな」
「吸血鬼が持つ弱点。それは私が与えたもの」
「なぜ?」
「決まっているだろう。僅かとはいえ私の能力を与えたのだ。それに見合う弱点を持たせるべきだろう。そうでなければ不公平というものだ」
「つまり、綺羅が銀に耐性があるのは弱点を与えられなかった者が祖であるからだ」
「では、私の同僚たちは?」
「同じような意味だろう。協会はそのような者を集めていたのだろうから。ただし、当の協会の幹部たちは違う」
「奴らの前で銀剣を出したことはあるか?」
「まあ、ないだろうな。奴らはそれを苦手としているのだから」




