最凶のヴァンパイアハンター日本に降臨す
成田空港。
「……久しぶりの日本。とは言えないわね。やはり」
それがどれほどの独裁国家であってもフリーパスとなる特別な紋章入りのパスポートによる入国手続きが終わったところで、そう言って苦笑したのは九家月綺羅、十六歳。
一応国籍は日本となっているものの、これまでの人生の大部分を北イギリスで過ごしてきた者である。
その彼女が今回こうして日本に戻ってきた理由を説明するためには、大雑把でも彼女の素性と彼女を取り巻く環境を話さなければならないだろう。
まず、彼女、九家月綺羅は一見するとどこにでもいるかわいい女の子であるのだが、その中身は外見とは大きく異なり異様さだけで出来上がったもの。
その古風さを感じさせる奇妙な名前と同じくらいに。
そして、彼女を語るうえで絶対に言わねばならないこと。
それは彼女がいわゆるヴァンパイアハンターであることであろう。
つまり、吸血鬼狩人であり、そのような者がいるということは当然彼女たちの獲物となる吸血鬼もこの世界に存在するということになる。
むろん、多くの者はそのようなものの存在を信じない。
当然である。
吸血鬼が関わったことを思わせる事件などテレビ、新聞、その他どこを見ても載っていないのだから。
だが、実際に吸血鬼は存在し、彼らが関わったものも多数ある。
それが知られていないのはそう仕向けているからなのだ。
ただし、その数は減っていると言っていい。
いや。
激減している。
とくにヨーロッパではこの十年の間に「真祖」と呼ばれる吸血鬼の主要一族はすべて消え、残された者たちは二流以下のはぐれものばかりとなった。
それが人知れず彼らを狩り続けていた「ヴァンパイアハンター協会」の成果となる。
そして、その中で特質すべき活躍を見せていたのが、九家月綺羅だった。
ヴァンパイアハンター。
むろん、この世界の理を無視するような者である吸血鬼を倒す者たちであるのだから、人間にはないはずの特別な能力と様々な武器を完璧に扱えなければならない。
さらに、吸血鬼に関する多くの知識も必要となる。
だが、ヴァンパイアハンターにとって本当の意味で最も重要なスキルはそれでない。
では、そのスキルとは何か?
それは……。
吸血鬼を見つけること。
「ヴァンパイアハンター協会」の用語を使えば「嗅覚」となるのだが、吸血鬼が発する独特の匂いを察知できるかどうかということだ。
九家月綺羅はその能力が最高位のヴァンパイアハンターたちよりもさらに数段上をいく。
偶然やってきた日本でヴァンパイアハンターとしての才を持つ赤子に出会った「ヴァンパイアハンター協会」会長マクシミリアン・オックスリーは「どれだけ言葉を飾っても正当とはいえない方法と手続き」で彼女を日本からイギリスへ連れ出し、徹底した教育をおこなった。
そして、その成果といえばオックスリーが、「彼女を発見したことこそ協会が人類に対して誇るべき歴史上最高の業績」と自身の犯罪を堂々と正当化するに十分なものとなる。
「むろんあの時その赤子に才があることはわかっていた。だが、現在の彼女になると予想していたのかといえば、イエスとは言えない」
「対吸血鬼戦に必要なすべての戦闘技術と知識。さらに容赦のなさ。そして、誰もが気づかぬほどのわずか痕跡から吸血鬼を見つけ出す嗅覚。そのすべてがこれまで存在したヴァンパイアハンターの頂点といえる」
さて、そんな彼女が日本行きを命じられたのは三週間ほど前のこととなる。
「日本へ?」
「ああ」
自身の言葉に綺羅は首を傾げ、呟くように問いの言葉を口にすると、オックスリーは短い言葉で応じる。
「もしかして、最後の真祖バートリ・イマーラと彼の一族を狩った褒美ですか?」
「そのとおり」
「と言いたいところだが、違う」
「日本にいるらしい吸血鬼を狩ってきてもらいたいからだ」
「……日本にいる吸血鬼ですか」
綺羅はその言葉とともに疑いの色を濃くした表情を浮かべる。
「もちろん日本にだって吸血鬼はいるでしょう。ですが、そのような辺境の地にいる者など現地のハンターに任せればいいでしょう。それに……」
「先日クラス・ワンのハンターがふたり極東に派遣されたと聞きました。そういうことなら、ついでに……」
「そうしたいところなのだが、それができないから君に命じているのだよ」
「ふたりの仕事が捗っていないと?」
「いや。仕事ができなくなったのだ。ふたりとも」
「……どういうことですか?」
オックスリーの言葉から起こった胸騒ぎを抑え込みながら綺羅はそう問う。
そして、やってきた言葉はそれが正しかったことを証明する。
「ふたりともやられた」
「そして、彼らが向かっていたのは日本。現地のハンターが怪しいと目した者を狩るために」
「真祖級。下手をすればこれまで我々が狩ってきた真祖以上の存在かもしれないというのがふたりからの最後の情報」
「その後すぐにふたりを含むその吸血鬼に関わっていた者全員が狩られたのだ。まあ、正確には痕跡が完全に消えたのだが」
「つまり、その吸血鬼は特定されていないということなのですか?」
「そうなるな」
「いることだけはわかっている。だが、どこにいるかもわからない。だから、探しだし見つけ次第狩る」
「君にしかできないことなのだよ。どうかな?」
「承知しました」




