散歩
ボーダーコリーの小結と暮らし始め数週間
佳文は、毎日朝と夜に散歩に出かけた。
散歩の距離は、徐々に増やした。
小結との楽しい生活の中、散歩の途中忘れた事を思いだした。
「あっ…公園で会った少女の事忘れてた…」
佳文は、その少女を見つけた公園の横を、小結と散歩途中だった。
「交通量の多い大通りを散歩する練習がてら、あの子の家の前を歩いてみようか」
小結を見て話しかけた。
小結が、「うん」と返事をしたように見えたのは、気のせいだった。
公園の横を通り過ぎ、交通量の多い大通りに出た。
大通りの歩道を歩き、住宅地へ向かう道路に入り歩くと、
公園で会った少女を送り届けた家が見えて来た。
そのまま歩き、少女の家の前に来た時、家の玄関が開いた。
開いた玄関ドアを見ると、少女の母親がドアを開けて出てきた。
お互いの目が合い、少女の母親が「あっ!!」と声を上げ、
「こんにちは、お久しぶりです。」と挨拶をした。
「こんにちは、お久しぶりですね」と返し佳文は、
「お変わりはありませんか?」と続けた。
「はい…」少女の母親は少し間を置き、
「最近、外から…おかしな音がするんですよね…関係はないですが…」
その事には、反応しずに流した佳文だった。
「あらっ…可愛い犬ですね!!この子は、ボーダーコリーですか?」
少女の母親も、犬が好きな様子だった。
「この子のお名前は?」と少女の母親が聞いた。
「小結です」「女の子ですよ」
佳文がボーダーコリーの名前と性別を話すと、
「小結ちゃんね…可愛い…触っていいですか?」と許可を得て来たので、
佳文は、
「どうぞ」「この子は、人が大好きなんで」と答え、
小結は、少女の母親に、されるがまま触られ続けた。
触り続け気が済んだ少女の母親は、
「お茶でも如何ですか?」と
しかし、佳文は、小結が居るので躊躇していると、
少女の母親は、
「小結ちゃんも喉が渇いてるわよね~」と言い出し
「タオルを濡らしてくるから玄関で待っててくださる?」と言い
佳文と小結を玄関まで招いた。
「あなた、愛子の時の方が、来てくれましたよ」
大きな声で、少女の父親を呼んだ。
すると家の中から少女の父親が出てきて、
「お久しぶりですね、どうぞ上がってください」と促す。
「小結ちゃん…わんちゃんが居るから、足拭きを用意してるのよ」
濡れたタオルを手に持ち、少女の母親は戻って来た。
「はいっ」と濡れたタオルを佳文に渡し、佳文は受け取り、
小結の足を濡れたタオルで拭き、小結を連れて玄関をあがった。
「おじゃまします」と言う佳文に、少女の父親は、
「どうぞ」と言ってから
「あれから…もうすぐ1年ですか…」と話を繰り出した。
「もう1年が経つんですね」と佳文は答えた。
「実は…」少女の父親が話そうとした時、母親が言葉を遮り
「実はね、この度、私達に子供ができまして」と
母親が笑顔で話し出した。
「それはそれは、おめでとうございます」
佳文は、心から祝福した。
「この歳で、子供なんて…お恥ずかしいですが…」
恥ずかしそうだが嬉しそうに父親が言った。
「本当に、おめでとうございます」と佳文の言葉に夫婦は、
「ありがとうございます。」と答えた。
「愛子が亡くなってから、暗い雰囲気の家の中でしたが…」
少女の母親が言葉を詰まらせそうになった。
「愛子ちゃんも、きっと喜んでますよ」
そう佳文が言うと、両親は、
「そうだといいですね」夫婦の声は重なった。
「あらっ…小結ちゃんごめんなさい…お水持って来てなかったわ」
そう言い、少女の母親は、ペットボトルに入った水と器を持ち戻って、
小結に、ペットボトルに入った水を器に注いだ、
小結は、無我夢中で、注がれた水を飲んだ。
「ご仏壇に手を合わせて、よろしいですか?」
少女の両親伝えると、
「愛子も喜びます」
佳文は、仏壇の前に座り手を合わせた。
「愛子ちゃんの部屋を見てもいいですか?」と聞くと
両親は、どうぞと快諾した。
一人で部屋へ行きたかった佳文は、
「小結、二人と遊んでてね」と言い、立ち上がろうとした両親を止めた。
両親にリードを預け、一人で愛子ちゃんの部屋に向かい階段を上がった。
一度来た部屋なので、部屋のドアは知っていた。
佳文は、愛子ちゃんの部屋のドアを開けた。
一年程前の部屋と同じ状態でキレイに掃除も行届き整理整頓もされていた。
ベットの上には、ちょこんと愛子ちゃんが座っていた。
その横には、薄く半透明の少年が座っていた。
「あれっ…この男の子は…家の前に来ていた男の子だな…」
男の子を見た佳文は、その男の子だと直ぐに解った。
「もしかして…愛子ちゃんが、その男の子を俺ん家へ案内したの?」
そう言うと、愛子ちゃんは、コクリと頷いた。
「なんだ…そうか…この子を導て欲しいのかな?」
愛子ちゃんに話しかけると、二人とも頷いた。
「そうか…今…長居をすると変に思われるから、次に来た時にね」
愛子ちゃんと男の子に話すと二人は、コクリと頷いた。
佳文は、愛子ちゃんの部屋を出て、愛子ちゃんの両親と小結が待つ居間に戻った。
「以前来た時と変わらず、愛子ちゃんの部屋をキレイにしてますね」
そう言いながら居間に入り、両親から小結のリードを受け取った。
「あれから…もうすぐ1年でしたね」
佳文が話すと愛子ちゃんの両親は、
「もうすぐ、あの子の命日です」
「もし…もしご迷惑でなかったら、その日にお邪魔してもよろしいですか?」
佳文の言葉に両親は喜び、
「どうぞ、来てあげてください、愛子も喜ぶでしょう」
そう答えた。
「ありがとうございます。それでは、その日に参ります」
佳文は、法事の日と時間を聞き、小結を連れて、愛子ちゃんの家を出た。
「まさか…愛子ちゃんの部屋に、あの男の子が居るとは…
本当にびっくりしたよ」
なぜ、あの男の子が愛子ちゃんの部屋に来たのか経緯を知りたかったが、
知る術は無いのだった。
「ともあれ、小結が家に来たから、分かったんだよな~小結は、結んでくれるね」
家に着いた佳文は、玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し、抜いた髪の毛を貼り付け、
玄関で小結の足をタオルで拭き玄関を上がった。
リードと首輪を外し小結をフリーで部屋に離した。
佳文がソファに座ると、小結はソファに飛び上がり、
佳文の足の上に身体を乗せて、寝転がった。
「お前は、可愛いな~」
「しかし…どうやって…あの男の子を導く…」
佳文は、悩んだ…悩んだが小結の可愛さに負けて、悩むのを止めた。
「まぁいいか…いつも通りでいいか!!」
悩んでも結局は、いつも通りの導きになりそうだった。
数日が過ぎ
愛子ちゃんの法事が行われる日が来た。
親戚も集まると聞いていた佳文は、午前中の法事の時間には行かず、
午後の親戚が帰った後に、お邪魔すると伝えたいた。
もちろん小結と同伴で向かった。
愛子ちゃんの家に着き、佳文は、インターホンのボタンを押そうとしたら、
玄関が開き、愛子ちゃんの父親が出迎えてくれた。
「こんにちは、お邪魔します」
佳文は、父親と挨拶を交わし、玄関に入り、小結の足を持って来たタオルで拭き、
玄関から上がった。
「あらっ、小結ちゃんいらっしゃい」
愛子ちゃんの母親は、わりと明るかった。
「これ…お供えで作ったオムライスです」
佳文は、作って持って来たオムライスを見せた。
「ありがとうございます。覚えてくれてたんですね」
父親は、笑顔でオムライスを受け取り、佳文と一緒に仏壇の前に座った。
オムライスの入ったタッパーを仏壇に供えロウソクに火を灯し、お線香に火を入れた。
愛子ちゃんの父親と佳文は、仏壇に手を合わせ、二人は居間に戻った。
母親は、佳文と父親と入れ違いで仏壇の前に座り手を合わせ居間に戻って来た。
「それじゃあ~小結ちゃんは、おやつの時間ね」と
ニコニコしながら、犬用のおやつの袋を破き、
「小結ちゃんにおやつを、あげてもいい?」
愛子ちゃんの母親が聞いた。
佳文は、「どうぞ」と言い
「愛子ちゃんにも、おやつを買ってきたんだ」と言い
ミルキーとチョコレートを袋から取り出し聞いた。
「これを、愛子ちゃんの部屋に置いて来ていいですか?」
愛子ちゃんの両親は、「どうぞ」と言ったが
立ち上がろうとしなかったので、佳文は、一人で階段を上がり、
愛子ちゃんの部屋へ入った。
愛子ちゃんは、やっぱりベットの上に、ちょこんと座っていた。
その横には、半透明になった少年が座っていた。
「少年…君を導くからねと」
佳文は、ベットの上に座る少年の横に立ち、自分の髪の毛を1本抜き
少年の髪に付けようとした時、少年の横に座っていた愛子ちゃんは、
佳文の手に自分の頭に寄せて来た。
「ん?どうした?」なんだろうと思ったが、
愛子ちゃんも、この男の子と一緒に行くと言ってる様に思えた佳文は、
「愛子ちゃんも一緒に?」と言葉をかけると愛子ちゃんは、
コクっと頷いた。
「そうか…いいの?」と念を押すと、コクっともう一度頷いた。
佳文は、二人の前に立ち自分の髪の毛を2本抜き、
愛子ちゃんと少年の髪の毛に付けた。
二人の手を取り、大きく手を上げると、愛子ちゃんと半透明の少年は、
ふわっと浮き上がり、淡い光に包まれて消えた。
「愛子ちゃんは、子供なりに両親の行く末を心配してたのかな…
お母さんに、子供ができ安堵したのかもな…
それより…あの少年は…」
佳文は、愛子ちゃんの部屋を見渡し、机の上にチョコレートを置き
ベットの上にミルキーを置いて、ドアを開け、1階へ下りて行った。
1階に下りると小結が尻尾をブンブン振り回し、佳文を見上げ待っていた。
「小結も居る事ですし、帰ります」
「あら…もう少し小結ちゃんと遊びたかったわ…残念ね」
愛子ちゃんの母親と父親は、残念がったが、
佳文は、早く帰ってビールでも飲んで眠りたかった。
「それでは、お邪魔しました」佳文は玄関へ歩いた。
愛子ちゃんの両親は、佳文を玄関から見送った。
愛子ちゃんの家から出た佳文は、道路から愛子ちゃんが居た部屋を見上げた。
その見上げた窓には、愛子ちゃんの姿は、もう無かった。




