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勇者城の人々と魔王城の人々編


 広く緑豊かなこの小説セカイはファンタジー世界である、なので世界を支配しようとした魔王を勇者が打ち倒すというテンプレな出来事が大昔にあった。

 勇者はその後に王位を譲られ、エテルシオンの国王なり、勇者王と呼ばれるようになった。 そして時は流れ、勇者の血を引くガオ・レオンハートは”勇者王”の称号と聖剣を受け継いだ少年勇者王として、日々の仕事をこなしていた。

 勇者王の城は実際一般的なファンタジーの王城同様に広いのだが、現在のところガオ以外に二人のメイドさんしかいない。 そのメイドさんの一人であるゼフィランサスが扉をノックすると、「どうぞ」という少年の声が返ってくる。

 紺色のワンピースに白い振り付きのエプロン、ボリューム感のあるピンク色の髪の上にはメイド・プリムの他に、実際猫めいた耳が生えてる。 そう、アクセサリーではなくそれが彼女の耳なのだ。

 腰から尻尾も生えたゼフィランサスは、普通の人間ではなく獣人という種族なのである。


 「……失礼いたします」


 扉を開けると事務作業用の机に向かっていた黒髪の少年が顔を向けてくる、まだ多少幼さも感じさえるこの十代前半の少年が勇者王のガオだ。


 「どうしたのゼフィ?」

 「アストレアさんから、これを渡すように言われました」


 ゼフィが手に持っていた書類の束を渡すと、「ありがとう」と受け取ったガオはすぐの書類に目を通す。 そんな様子に、自分と同じぐらいの歳なのにすごくしっかりしている、それとも人間の男の子はこういうものなのだろうかと、ゼフィはそんな風に思う。


 「……そう言えばさ、ゼフィは何で自分の事を”ボク”って呼ぶの?」


 その質問は単に好奇心からであったが、ゼフィはまるで咎められでもしたかのように「ん~~? 変ですか?」と表情を僅かに曇らせた。


 「変って言うか、女の子で”ボク”って聞いたことないからね?」

 「……多分、兄さん達の影響でしょうね。 兄妹で女の子はボクだけでしたから……」


 特別何かの理由があったわけでもなく、気が付いたらそう言っていたというだけの事なのである。 兄達はもちろん、両親からも変だと言われたこともなくずっとこれが普通なのだと思っていた。


 「そっか、そういうものなんだね」


 そう言ったガオの顔は、何か新しい発見をして嬉しく感じている男の子のそれなのだと、ゼフィには分かった。 勇者王だとか少年王とか呼ばれしっかりしているガオだが、やはり年相応の子供でもあるのだと思え親近感を感じるゼフィであった。



 長く尖った耳と亜麻色の髪が特徴的なアストレアは、二十代前半くらいの外見を持ったエルフ・メイドさんである。 そのアストレアが両腕に白く輝く〈精霊の双刃〉を展開させているのは、城の厨房であった。

 一般家庭のそれより大きな冷蔵庫を始め、ガス・コンロや電子レンジといった設備が整っているこのセカイは、間違いなくファンタジーである。


 「……どう考えてもファンタジーっぽくないんですが……」


 この場にはいない誰かにツッコミをしながらも、彼女の水色の瞳は壁の一点を凝視している。 そこのあるのは、三センチ程の楕円形で黒くテカテカしや身体を持った虫であった。


 「ファンタジー世界にもゴキブリはいる……嫌な事実ですわね」


 忌々し気に言いながら振られた右腕のブレードは、壁に傷をつけずゴキブリの身体だけを真っ二つに斬り裂き、フローリングの床へと落とした。


 

 カフェ”アーク・エンジェル”の店員であるストラ・イクが白とピンク色を基調とした制服で商店街を歩いているのは、切れた食材の買い出しのためであった。 

 そのストラが「イッポーソノコロ~~~」という声に空を見上げれば、黒く大きな鳥が飛び去って行ったのが見えた。


 「大ガラスのフラッグ? いつもながら変な鳴き声する……」


 しばし空を見上げたままのストラの顔は、実際UFOでも見たかのようにポカンとした表情となっていた。




 深い森の中に魔王城がそびえているのは、魔王の城とは勇者が到達困難な場所に建てるべしというファンタジーの伝統のためである。 

 その魔王城に最近住み込み始めたエルメスという魔族の部屋には、本棚が五つは置かれている。 符術魔法を使うエルメスだけに魔術書の類だと思うのだが、それにしては一冊一冊が薄すぎる。


 「……うふふふふ、だいたい整理は終わったわね?」


 見た目十代前半くらいの、短い藍色の髪のエルメスが本棚を眺めながら不気味に笑った後、ベッドまで歩いて行き腰掛ける。


 「さて……いつまでも何もせずってわけにもいかないわよね」


 少女魔王ガーベラの幼馴染みで親友である彼女は、ガーベラが勇者王にちょっかいをかけ始めたと聞いて手伝いにやって来たのだ。


 「魔王と勇者……どこのセカイのいつの時代も宿敵同士……なんてね? そんな大袈裟な小説セカイじゃないもんね、ここ・・


 勇者が魔王を打倒するのではなく、魔王が勇者に嫌がらせのちょっかいを仕掛けるというのが、とてもガーベラらしいと彼女には思えた。 ファンタジーの魔王として悪であろうとしていても、救いようもない人間のような邪悪にはなり切れない子なのだ。


 「まあ、どうせなら、あたしも楽しませてもらいましょっかねぇ~♪」


 天井を見上げながら、いたずらっぽい笑い顔になるエルメスである。


 その同時刻に「……勇者王ガオ・レオンハートか……」と、自室のソファに深く持たれながら少女魔王のガーベラが呟く。 彼女が金色の瞳で眺めていた黒髪の少年の写真であった。


 「はい、弱虫の子供……という事もないですが、ガーベラ様の足元に及ばないかと……」


 後ろに控える青いツインテール魔族少女のテトラの言葉に、「……まあ、そうでしょうね」と言いながら写真をテーブルに置き、代わりにブラック・コーヒーの入ったカップに手を伸ばした。

 とりあえずちょっかいをかけ始めたはいいが、その相手の顔すらも知らないままであったと気が付けば、少しは調べておくべきだとは思う。 最初から子供であるのは知っていたものの、写真の姿は勇者というイメージとは遠い普通の少年という風だというのが、ガーベラには当然であるようにも意外であるとも感じられていた。

 それに比べれば、ファンタジーの世界に写真がどうしてあるかなどは些細な問題でしかない。


 「……まあ、あの作者アホだしねぇ……気にするだけ無駄ね」


 つまらなそうにつぶやくと、コーヒーを一口啜った。

  


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