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勇者王の城爆破作戦編


 我々の生きる世界とは別のセカイ、俗にいう異世界というものである。

 これはそんな異世界のひとつにある、勇者の国エテルシオンに生きる少年勇者王を中心とした人々の物語である……。


 今日も今日とて執務室で事務仕事中の勇者王ことガオは、不意に手を止めて怪訝な表情になる。


 「…………この国にエテルシオンって名前あったんだ……?」

 そんな事を驚く黒髪の少年の横に立ち書類のチェック作業をしていたエルフのメイドさんことアストレアは、見終わった数十枚ほどの束を机の上に戻す。


 「ええ……と言いますか、どうせ今頃思いつた、いわゆる後付け設定でしょうね?」

 どうでもよさそうな口調で言ったのに、「……また身も蓋もない言い方して……」と苦笑いを浮かべるガオであった。



 回収した洗濯物を入れた籠を抱えて廊下を歩いていた猫耳獣人メイドのゼフィランサスが不意に足を止めたのは、何となくヒトの気配のようなものを感じたからだ。

 顔を動かしその赤い瞳で周囲を見渡してみても、他には誰の姿もない。

 この回から読み始めた方は大勢のヒトが働いているはずの城のそれはおかしいと思うかも知れないが、実は現在この城にはここまでに登場した三人しかないのである。 そんなんで国の運営大丈夫か?と当然ツッコミたくなるであろが……。


 「……大丈夫だ、問題ない!……ですか?」


 ……まあ、そういう事である。

 とにかく、気のせいかと思ったゼフィは、ここでじっとしてても仕方ないと歩き出した。

 そのゼフィの足音が聞こえなくなった直後に、壁の一部がペロッと剥がれ床に落ちたが、それは壁と同じ色の四角い布であった。


 「くっくっくっく……忍法隠れ蓑の術……メイドごときに見破れるものでもありませんわ……」


 壁から現れ不敵に笑うのは青いツインテールの魔族少女のテトラだった。


 「……さて、この爆弾で爆破テロを起こしてこいという我が主の指令です……どこに仕掛けてやりましょうかねぇ?」


 背中にしょったリュックの中身を思い浮かべ哂うテトラ、魔王ガーベラの手によって創られたそれは、小型ながら無人在来線爆弾一両分に匹敵するという。 そんな物騒なものを魔王が仕掛けてこいと命令するのは、勇者を抹殺し世界征服を企む……からではなく単なる暇つぶしの嫌がらせだったりするが。


 「さ~~てぇ……どこを爆破してやりましょうかねぇ~~?」



 王都にあるカフェ”アーク・エンジェル”はピークの時間を終え、ウエイトレスとして働くストラも一息ついたところであった。 店内に三十はある席も今座っているのは五人程だ。


 「……ふぅ~」


 カウンター席の一つに腰掛けマスターの出してくれたオレンジ・ジュースを半分ほど飲む。


 「……今日も何だかんだ平和よねぇ……」

 「いい事じゃないか?」


 相槌を打ったのは体格の良い五十前後くらいの男だ、彼がこの店のマスターである。


 「まあ、物騒な事件とか起こっても嫌ですからね」


 ピーク時の忙しさも今では慣れた日常の光景になりつつある、この日常の繰り返しは明日も明後日もずっと続いていくんだろうなと、ストラは漠然と思うのであった。



 勇者王の城に「あじゃばぁぁああああああっ!!!?」と響き渡った悲鳴は、お尻に投擲ナイフの突き刺さったテトラの口から発せられたものだ。


 「爆弾テロリストですか、あなたは……」


 その声に振り返れば、そこには腕を下ろすアストレアの姿があった。


 「はん! 悪の権化たる魔族がテロ行為をやって何が悪い? !あっち(・・)の人間は同じ事を正義を語ってやっているじゃありませんかぁ?」


 テトラが鼻で笑うのに、「五十歩百歩と言いたいところですが……」と肩を竦める。


 「正義をかたり無関係な者達でも平気で殺すという悪行を正当化するなど魔王以下の行い……それが出来るのが人間であるとは認めねばなりませんか……」


 アストレアの言葉に、勝ち誇った様子で「そういう事ですわっ!!」と〈処刑人の鎌〉を出現させ構えるテトラは、しかし次の瞬間にはその表情が驚愕へと変わる。


 「か、身体が動かない!?」

 「ナイフに塗った強力痺れ薬、効いてきましたね?」


 そう言って歩き出したアストレアは、「……し、痺れ……?」と言うツインテール少女の後ろへ回りもう一本ナイフをポケットから取り出し、それでリュックの紐を切って奪う。


 「これは私が処分しておきましょう……あなたもお引き取り願いましょうか?」


 テトラが「何を馬鹿な事を……」と言い返すのは、彼女としてもこんな簡単に引き下がるわけにはいかないからだ。 それに対しアストレアは実際黒い笑みを浮かべて「あらあら~~?」とわざとらしく頬に手を当てて首をかしげるという仕草を見せる。


 「その痺れ薬の効果は半永久的、私の持つ解毒剤がなければ死ぬまでそのままですわよ?」

 「……へ?」

 「その場合、あなたをいつまでもこのままここに置いとくわけにも行きませんから……今日はちょうど生ゴミの日でしたね?」


 さあ、どうします?という風に迫るエルフ・メイドの顔は、テトラには実際悪魔以上に残忍な存在に見えていた。 その恐怖にしばし怯えていたテトラは、しかし次の瞬間には不敵な笑みへと表情を変えた。


 「はん! 腐っても魔族テトラ、人間ごときの脅しには屈するものですかぁっ!!!! 退かぬ! 媚びぬ!! 省みぬですわぁぁああああああっ!!!」


  

  そして、その十五分後……。


 緑茶と煎餅を持って執務室に戻って来たアストレアに、「ずいぶん遅かったね?」と顔を上げたガオが言う。


 「はい、出し忘れていたゴミがあるのを思い出しまして、急いで出しに行って来たのです」

 「レアさんが珍しいね?」


 普段の仕事を見ていれば、アストレアが小さなものであれミスをするというのは、ガオには本当に意外に感じた。


 「あらあら? 私だって失敗くらい致しますよ?」


 お盆から取った湯呑を自分の前に置きながら苦笑するの見れば、それも当然かと思えて、「まあ、そうだよねぇ」と笑うガオである。


 「ミスもしない完璧なニンゲンなんて存在しませんよ? まあ、ミスなんてしないに越したことはありませんけどね?」



 魔王城の地下拷問室、広く薄暗い部屋に「ひ、ひい……お許……しを……」と苦しそうな声を出している青いツインテール少女がいる。

 彼女は自身の体格くらいあるピラミッド型の石を頭の上で担ぎながら二十から三十段くらいありそうな階段を上っている……というか、正確に言えば足は一生懸命に動かしてはいるのだが一向に上へと昇って行けていない。

 その理由は……。


 「……この重い石を……く、下りのエスカレーターの上に運べ……だなんて……」

 ……と、いう事なのだ。

 「ほらほら? さっきから一段も昇れてないじゃない?」


 右手で自分の紫の髪を弄びながら嗤うのは、今回の失敗の罰としてこれを命じた魔王ガーベラである。 そんな彼女の足元に落ちているのは、世紀末救世主が主人公のコミックであり、表紙からするとちょうど聖帝を名乗る男との対決くらいの話だろうと分かるが、別にそれは今回のお仕置きとは何の関係もないだろう……多分。


 「さぁ~て? どうかしらねぇ? ふふふふふ……」


 実際魔王らしい残酷で冷たい笑みを浮かべるガーベラであった。

  



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