表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

逆襲の魔族少女テトラ編


 黒い雲が広がり始めている午後、少年勇者王のガオは城のテラスから城下の景色を眺めていた。


 「一雨きそうだな……レアさんは傘を持って行ったのかな?」


 城下町へ買い物へと出かけたメイドを心配する呟きをする、そのアストレアというのエルフのメイドさんは、物心ついた時から世話をしてくれた姉のようなヒトであった。

 その時に、ガオに「何をしていらっしゃるのです?」と声をかけたのが、新人メイドであるゼフィランサスである。 


 「ゼフィか。 いや、特に何かしてるってわけでもないんだけど……」


 十代前半という自分と年の近い少女、猫のような耳と尻尾を持つゼフィをガオは多少は異性として意識してしまっているのは、彼が勇者王であっても普通の男の子であるという事である。


 「それより……仕事には慣れたの?」

 「はい。 いきなりあんな目に合ってどうなるのかとも思いましたが……」


 ゼフィが肩を竦めたのに、ガオも「あははは……そうだね」と苦笑する。 ちなみに何があったのかは前回の”新人メイドと動き出した少女魔王編”を読んでもらえれば分かる。


 「……ちゃっかりしてるし」

 「そうですね……」


 顔を見合わせ苦笑しあう少年少女だ。


 「それにしても”魔王”か……現れたなら倒しに行くのが僕の、”勇者”の仕事なのかなぁ……?」


 ファンタジーのお約束であると分かっていても気が進まないのは、怖いからとか面倒くさいからではない。 しかし、ならばどういう理由かというのははっきりとしないガオである。

 その時である、「ところがぎっちょんっ!!!!」という某ロボアニメファンにはお約束的?なセリフが響き渡ったのは。

 ガオが声の主を探すべく見渡せば、テラス入口の所に青いツインテールの少女が大鎌を構え立っていた。


 「な!? あなたは……!!?」

 「ふふふ、我は魔王ガーベラ様の部下テトラ! あなたとは二度目ですね、ゼフィさぁん?」


 不敵な笑みを浮かべるテトラである。


 「……魔王ガーベラ……?」


 ガオがゼフィを庇う為に前に出ると、「テトラさん……」と彼女の呟きが聞こえた。


 「テトラとガーベラ?」

 「はい、ガーベラとテトラ……ですね」


 そして「「ガーベラテトラ?」」と少年と少女の声が重なったのに、テトラが慌てて大声を出した。


 「だぁあああああっ!!!! 続けて言ってはいけませんわぁぁあああああっ分かるヒトには分かっちゃうでしょうがぁあああああああっっっ!!!!!」



 リビングで寛ぐ少女魔王ガーベラは、「……勇者が魔王を倒すのではなく、魔王を倒した者が勇者と呼ばれるのよ」と、誰にともなく呟いた。

 黒を基調とした豪華なソファーやテーブル、それに最新式の大型8Gテレビと、明らかにお金のかかった部屋である。


 「……人間なんて弱い者、手向かい出来ない者に対してはいくらでも攻撃的に出来ても、己より強い者に立ち向かっていくなんてしないもの……」


 例えば、生徒に対しては何かにつけて怒鳴りつけたり教育という正義の名の元に暴力は振るえても、己より高い地位の相手ではそれが明確な悪であっても何もしない。

 他にもいろいろあるが、要するに人間は弱者を傷つける凶暴性はいくらでも発揮しても、強者に対し立ち向かう勇気を持つことが出来る者は少ないという事である。


 「だから勇者などが称えられる……誰かのために勇気を持って強者に立ち向かうという至極当たり前の事をしただけのニンゲンがねぇ?」


 ガーベラは挑戦的と思える笑いを浮かべていたのであった。



 「……というか! あなた生きてたんですか!?」

  遠くで地鳴りめいた音がした後に、驚愕の声を上げるゼフィ。

 

 「は! この私があの程度で、落とし穴の竹やりで串刺しになった程度で死ぬとでも!」

 「いや……普通は死ぬんじゃ……」

 

 ガオはその場にいたわけではないが、話を聞く限り生きているはずもないと思える。


 「まあ、そんな事はどうでもいいです。 大事なのは……」


 僅かに腰をかがめたテトラは「……このままでは主の下へ帰れない事っ!!」と地を蹴って跳び出した、彼女の青い瞳の先にあるのはピンク色の髪のメイド少女。

 ガオは反射的に〈勇者の聖剣〉を召喚すると、それで〈処刑人の鎌〉を受け止めた。 竜の翼のような装飾の施された剣は、少年にはやや大き過ぎる風に見える。


 「狙いはゼフィっ!?」

 「仕留め損ねた獲物を仕留めようというだけですわっ!!」


 勢いよく〈処刑人の鎌〉が振られガオは吹っ飛ばされた、それでも転倒はせずに済みすぐに剣を構えなおすと、そこへ再び「ですが!」とテトラが攻撃して来る。


 「邪魔をするななあなたから痛い目にあってもらいますっ!!」

 「パワー負けしたってっ!!」


 どうにか反撃しようとしたものの、相手の方がパワーもスピードも技量も上でガオは防戦で手一杯になってしまう。


 「〈勇者の聖剣〉! なろう系特有のチート剣ではないようですわねっ!!」

 「……弱い人間でも剣を持っただけで一流以上になれるってやつか……」


 振り下ろされた刃を受け止めた勢いを使い後ろに跳んだガオは、間髪入れず「そんな武器があっても!」と叫び突撃する。


 「武器に頼って、もしも武器がなくなったら何も出来なくなる……」


 鎌の鋭い刃が頬を掠め赤い線を作っても、彼は怯まない。


 「そんな男になって嬉しいかよっ!!」

 「そうですかっ!!」


 次の瞬間に〈勇者の聖剣〉が宙を舞った、テトラの一撃で弾かれたのだ。  「しまった……」と思いつつテトラを蹴り飛ばし反動で間合いを開く。 そして素早く剣を拾い構えなおした時には、そこに青いツインテール少女の姿がない。


 「消えた……」

 「上ですっ!」


 ゼフィの声に顔を上げれば、「そうですわぁっ!!」と大きく跳び上がったテトラが〈処刑人の鎌〉を振り上げた姿を見た……まさにその直後であった、視界が白くまばゆい閃光に包まれたのは……。


 「あぶばぼべぇぇええええええっっっ!!!?」


 ……テトラの悲鳴とも奇声とも付かない声は、ワンテンポ遅れ空気をも振動させた轟音に消された。

 静寂の中、ガオとゼフィは少し前まで魔族の少女であった黒い物体を呆然と見つめていたが、二人とも顔に当たった水滴によって我に返った。


 「落雷……?」

 「はい、落雷……ですね」


 まだ状況の整理が付かない二人であったが、最初はポツポツだった雨が一気に勢いを増し始めたのに彼らは慌てて城内へと戻って行ったのであった……。


 かくして、あまりにも意外過ぎる?オチで終わった襲撃騒動は、しかしこれで終わったわけではなかった。


 魔王城には、かつては捕らえた人間を苦しめて殺すのに使った地下拷問室がる。

 その拷問室の天井からロープでグルグル巻きにされて吊るされているのは青いツインテール少女ことテトラだった。


 「ひぃぃいいいいっ!? お、お許しを我が主ぃぃいいいいいいっ!!!?」


 隣の部屋からガラス窓越しに見ているガーベラに必死に懇願するが、彼女は残忍な笑いを浮かべているだけである。


 「任務失敗をした者には制裁……これが掟なのよぉ?」


 テトラの真下には大きなガラスの水槽があり、その中にあ不気味な茶色い液体に使った無数ともいえる魚の加工品のようなものが詰まっている。 それはシュール・ストレミングといわれる世界一臭い食べ物であった、しかしテトラがまだ平気そうなのは、ガスだけを通さない魔法で蓋をされた状態だからである。

 ファンタジーとはまったく便利なものであるという事だ。


 「魔法の無駄遣い乙っ!……てか、それって発酵のガスがまだ充満してるって事じゃないですかぁぁあああああっ!!!?」


 なお、当然賞味期限切れのものであるので、食べ物で遊ぶなという苦情対策も完璧である。


 「そういう問題じゃありませんわぁぁあああああっ!!」


 滝めいた涙を流しながら叫ぶ部下を、ガーベラはしばらく愉快そうに眺めていたが、やがてパチンと指を鳴らす。 すると、何をしたわけでもないのにテトラを吊るしていたロープが切れ……。


 「あひやぁぁあああああああっ!!!!?」


 ……と、シュール・ストレミングのプールに落ちて逝ったのであったとさ……。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ