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ファンタジーにも当然いろんなヒトがいるよね編


 勇者王の部屋は国王の部屋というよりは実際子供部屋と言っていいものである。

 勉強等をするための机や本棚にクローゼット、ベッドも子供用にすれば広いものの一般家庭にありそうなデザインで豪華というにはほど遠い。

 そのベッドのふちに腰かけてくつろぐガオは、「……とにかくどうしようか?」と部屋の掃除を終えたメイドのアストレアに語り掛けてみた。

 何しろこの無駄に広い城には自分とアストレアしかいないのである、今までどうしてきたのだろう?という疑問は浮かぶものの、そこは気にしてもしかたないのがこの作者アホ小説セカイである。

 

 「そうですねぇ……まずは奴隷の女の子を購入するというのはどうでしょうか?」

 

 彼女の答えは予想外にも程があり、「……ナンデ?」と思わず返していた。 その主人に対し「なろうの定番ですから」と至極当然という風なアストレアである。

 

 「やはりここは獣人の子でしょうか? 奴隷やもふもふというキーワードが使えるのでアクセス数も伸びるでしょうし……」

 

 唖然となっているガオに気が付いているのかいないのか、亜麻色の髪のエルフ・メイドは続ける。

 

 「もちろん出来るだけ気弱で従順な子を選びますわ。 最初はおどおどとしつつ、ガオ君のすごいところを見せれば”さすがご主人様!”と好感度マックスで崇め奉られ、あわよくばそのままベッド・シーンに……」

 

 アストレアが最後まで言えなかったのは、「ちょっと待ったぁぁあああ!!!!」とガオが大声を上げながら立ち上がって制ししたためだ。

 

 「そんなのダメに決まってるってっ!! 奴隷だよ? 人権無視だよ?」

 「しかし、ファンタジー世界ですから……」

 「いやいやいやっ! ファンタジーでもダメなものはダメでしょうっ!!」

 

 子供ながらにやっていい事と悪い事の区別くらいはつく。

 

 「……って言うか! そもそも逆らう事の出来ない女の子を従わせて自分の思うままって、それで嬉しい? そんなの男として……いや、ニンゲンとしてダメダメじゃんっ!!?」

 

 ガオだって異性に興味を持ち始める年頃にもなってはいても、そんな情けなく堕落した大人の真似事なんて絶対にしたくはないのである。 そんな少年の言葉に「……なろう系おもいっきりディスってますねぇ……」と言うアストレアの表情は、どこか楽し気なものである。

 

 「まあ、そこまで言うのであれば……」

 「うん、そんなのやめてよ?」

 

 言いながら再びベッドに腰を下ろすガオが真面目な性格に育っているのは、からかいがいもあるという意味も含めてアストレアには良い事だと思えている。

 

 「ではさっそく、ハ□ー・ワークに募集をかけておきましょう」

 「……へ? あるの? ファンタジー世界に? ハ□ー・ワークが?」

 

 信じられない言葉を聞いたという風の勇者王に対し、アストレアは「ふふふふふ♪」という意味深な笑いをしてみせたのであった。





 勇者がいれば魔王がいるのもまた然りだ。

 某所にある不気味な黒い魔王城、その無駄に広い王座の間には、一人の少女がぶっちゃけ偉そうに座っている。


 「偉そうで悪い? あたしは魔王なのよ?」


 外見年齢は十になったかならないかくらいか、腰くらいまで伸ばした紫の髪の魔王の額には小さな角が生えている。 ガーベラという名のこの少女魔王は、かつて世界を征服しようとして勇者に敗れた魔王の子孫なのであるが、別に世界征服とかはこれっぽちも考えてはない。


 「きょうび世界征服とか時代遅れもいいとこだしねぇ?」


 ここではないどこかを見ていた金色の瞳は、次は手に持ったスマート・フォンに向けられる。 そこに映るのは、とあるアニメの炎上騒動のまとめサイトであった。

 別にアニメそのものに興味もなくても、自らも素顔を隠し顔も見えない相手に対し言いたい放題という人間たちのやり取りは、彼女にすれば滑稽だが絶好の暇つぶしなる娯楽のひとつであるのだ。


 「……とはいえ、この話題にももう飽きてきたわ……」


 呟きながら、スマート・フォンをサイド・テーブルに置いた。

  


 


 時計の針が間もなく頂点で重なろうという時刻、勇者王の城内を歩く男の姿がった。

 明りのすべて消えた廊下を、魔法による最低限の光源であっても何ら問題なさそうな動きなのは、男がこの手の事のプロだからである。


 「くっくっくっく……そうさ、このコソッド・ロゥ様は盗賊のプロだからな?」


 自信たっぷり笑ったコソッドは、次の瞬間には呆れた顔になり溜息を吐いた。


 「……しかし何なんだこの城は? 仮にも国王の城なのに門番もいなければ見回りの兵もいないだと……?」


 仕事が簡単でいいとは思う反面、これではやりがいがないと感じるのは彼のプロ意識である。 


 「……ですが、私はいますよ?」


 不意の女性の声にギョッとなって立ち止まるコソッドに、ゆっくりと足音が近づいて来た。 油断なく振り返ると、そこには自分と同じように魔法で創った光源に照らせたメイドさんの姿。

 距離は三メートルくらいの距離を開けて立ち止まったメイドは、「どうも、私はこの城のメイドでアストレアと申します」と名乗りお辞儀をする。

 不審な侵入者に対しているとは思えないくらい温和な笑みのアストレアに、「どうも、俺様はコソッド・ロゥだ」と名乗り返すのは、この世界ではそれが守るべき最低限の礼儀だからである。


 「殺しは仕事のうちじゃねえが……」


 言葉と共に短剣を抜き構えるコソッド、しっかり手入れのされている鋭そうな刃だ。


 「見られれば口封じですか……」


 アストレアの言葉を肯定するかのようにコソッドが床を蹴って跳び出した動きは速かったが、彼女はそれを難なく回避し「……せっかちですわね」と肩を竦めてみせる。


 「この間合いで回避してみせるか!?」


 驚くコソッドに、「その程度の動きでしたらね!」と言い返し跳躍したアストレアは、そのままキックを繰り出して攻撃を仕掛けた。 コソッドの方はその動きに反応しきれず顔面にもろにくらい、「あべばっ!!?」と情けない悲鳴を上げて倒れ、頭を床で強く打ち意識を失った。


 「……家事が仕事のメイドであっても、長く生きていればこのくらいの芸当も出来るというものですよ?」


 倒れ動かなくなった男ではなく、何故かまったく別の方向へと視線を向けて微笑むアストレアだった。



 その同時刻に、城の屋根に止まっていた大ガラスが「ソーユーモンカーーー!」と鳴き声を上げてどこかへと飛び去ったのは、アストレアはもちろん、熟睡中のガオが知る由もない事である。



  翌朝、頑丈そうなロープでグルグル巻きにされて廊下の隅に転がっていた男を見つけた少年勇者王ことガオが、「……何? これ?」とアストレアに尋ねれば、彼女はまるですっかり忘れていた事を思い出したかのような様子でこう答えた。

 

 「あーー……単なるコソ泥です、ガオ君の気にする事ではありませんわ」

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