1.教えてあげない
何も見えなくて、暗いの。明日なんてこないけど、今があるとも思えないのは、いただけないなあ。
「先生」
愛せなかった時間が、今し方意味を持ってる。あの日に何を置き去りにしたんだろう? 俺にはそれが今更ながらに虚しい事だと分かった。 大好きな人がいた。誰でもいるでしょう?
「今日だって昨日だって一昨日だって好きだったんだよ?俺」
「明日も明後日もね」
「そー分かってるじゃん」
愛していると言うには程遠かったかもしれないけど。
「ちゃんと言ったんだよ?先生が好きって」
先生は、その時なんて言ったんだったかな?
「はいはい。そんなに好きなら会いにいけよ。まだ居るんだろ?母校に」
「でもさ、やっぱり迷惑だよね。そりゃーこんなに可愛いからさ、俺。その点は心配してないんだけれどね。ただ、歳の差がね?」
「......え?あぁ、お互い好きなら関係無いぞ。それは」
「でもさ!やっぱり7つも離れてたら」
「はあ。全然自覚無いじゃん」
「何が?可愛いよ?俺」
「なんでそんな自信持ってるかだなー」
「可愛いからだよ?」
「ふ。とりあえず今日行ってこいよ。卒業生なんだから、大丈夫だよ。明日休みだし良いんじゃない?」
「え!?ごはんのチャンスじゃん!?」
「具体的だなー」
そんな会話を大学でしてから帰りに降りる俺が通っていた高校の最寄り駅。何か差し入れを買おうと在学中によく利用していたコンビニに入る。
「あれ?すず先生?」
「え!?小鳥遊きゅ 小鳥遊くん!久しぶりね〜」
「わ〜!お元気ですかー?」
「いつぶりかしら〜?3ヶ月と10日かしら〜!?」
「たぶんそれくらいですー」
相変わらずにこにこと可愛らしい。生徒の間では大人気だ。なぜかと言うと、雰囲気に品があって優しく、眼鏡の奥の瞳も和らいでいて、服装も女子の間で話題に上がるくらいセンスが良いからだ。今日の着こなしも落ち着いているけど、地味ではない。黒と白のギンガムチェックのブラウスは首元でリボンデザインになっており、黒のタックパンツ、靴も黒のローファーで統一感がある。そんなに黒好きだったかな?ベージュとかミントグリーンとか柔らかい色のイメージだったけど、イメージチェンジ? そう言えばメイクも色味がない。は!もしかして、失恋とか!?他人事じゃないからなー俺。大丈夫かな?聴いちゃおっかな?でもなー、そんな突っ込んで良い話題じゃないかあ。友達でも無いし、でも、決定的なポイントが、
「髪切ったんですね?」
声が裏返るけど、心配だしワンクッション置きつつ聴いてみる。
「そー気分変えたくて」
なんだか泣きそうだ!やっぱやっぱ!?
「し、し、失恋?大丈夫?すずちゃん!」
「あはは。失恋したのはおま。あ、うん、自分がじゃないんだけどね。」
「? 感情移入しちゃった?」
「そー。自分の事以上に気にしちゃってたから」
優しいなあ。大切なのか。そんなに想う量が多いってきっとかけがえない事をしてくれたんだろうなー。
「でも、なんか大丈夫みたい。」
ちょっと嫌らしく笑うすずちゃんを見て、
「元気なった?」
「うん!!」
安心すると共に無邪気な返事が来て、やっぱり可愛いなと思った。恋してたんだよなーだいぶね。




