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祝福

 城の中では《第弐位階》が倒したパーティーが行われていた。


 ダーヴィットは従騎士として、参加はしていたが、貴族たちの輪に加わることはできなかった。盛り上がる貴族たちを尻目に、城のバルコニーに出ていた。


 ダーヴィットは、被っていた仮面を脱ぐ。長い無精髭と、汚れによって顔の輪郭がぼやけている。


 ダーヴィットは夜風を浴びながら、ため息をつく。


 あれはリュディガー王太子でも、俺でもなく、ソフィア・アイメルトの手柄のはずだ。それなのに、彼女は姿すら見せない。


「夜風が心地いいね」鈴が鳴るような、透き通った低い声。


 ダーヴィットのグラスの脇に、白い羽が舞い降りてくる。羽は、重さなどないかのようで、一瞬、雪に見えた。


 ダーヴィットが振り向くと、そこだけ光に満ちていた。従者たちが蝋燭ろうそくを何本も持って、何者かと一緒に居る。目を細めると、小柄な男性が立っているのが見えた。


 男性の背中からは二対の純白の翼が生えている。一対は、肩から生え、胸の前で閉じられており、ショールのようになっている。もう一対は、本人の体躯と同じくらい大きい。


「大司教様……!」ダーヴィットは慌てて膝をつく。


 目の前に、大司教であり、異能者であるエアハルトが居た。〈天恩〉の異名を持つ最強の異能者だ。


 中性的な顔には髭はない。色素の薄い瞳は、遠くを見つめているよう。滑らかで癖のない髪は耳が少し隠れる程に伸ばされている。その髪色は、穢れを知らぬかのように純白。


「かしこまらないでくれ」エアハルトは目を細め、少し困ったように微笑む。30代とは聞いていたが、若々しい顔は青年のようで、だがその表情は老年期のものだ。


「横、いいかい?」


 エアハルトは、ひょいと動き、ダーヴィットの横に来る。しかし、そのすぐそばには三人の従者が完全武装で控えていた。


 王立騎士団の行進でしか見たことがない彼が、いま目の前にいる―その事実が信じられなかった。白馬にまたがり、民衆に手を振る姿に、ダーヴィットも思わず手で十字を切り、頭を垂れてしまったものだ。


そんなダーヴィットを知ってか知らずか、エアハルトは囁くように、


「君が〈業火〉のダーヴィットだね」


 ダーヴィットは息を飲み、エアハルトの顔を見てしまう。自身が〈業火〉であることは、騎士団から内密にするように言われていた。だからこそ、髭を伸ばし、顔を汚し、その個人的な特徴を完全に消していたのだ。顔を見られても、誰か分からないレベルだ。


「大丈夫、誰にも言わないよ。秘密だ」そう言って、エアハルトは悪戯っぽく微笑む。


 ダーヴィットは静かに礼をすると、


「少し腹を割って話しても良いかな、秘密も共有したことだし」


「だ、だ、大丈夫です……」


「民の現状をどう考える?」エアハルトの視線の先では、パーティーが行われていた。


「ええと……」ダーヴィットはグラスをもてあそぶことしかできない。


 エアハルトは指を組む。その華奢な掌には、白い手袋がはめられている。


「民は、明日のパンすら苦心している。だが、我々はあらゆる贅沢を楽しめる」


「そんなことは……」


 ダーヴィットを制し、エアハルトは首を振る―まるで子供を諭すように。その胸を覆う純白の翼が、少し邪魔そうだ。


「異能者が強力な力を持っているのは事実だ。だが、その異能を研究する為の資金が財政を圧迫している」


「だが、あなた方が居るから他国は攻めてこなかった。20年に渡る平和は……」


 〈祝福〉と言う強大な力が他国を畏怖させたから、他国は攻めてこなかった―王家が流布し、民の多くが信じている定説。しかし、ダーヴィットは、それに疑問を感じることも多かった。〈祝福〉の持つ強大な力だけがこの国を平和に保っていた訳ではない、と肌感覚を覚えていた。


 だが、エアハルトを目の前にすると、そうなのかもしれない、と思えてしまう。信じ込んでしまう。疑念が消えてしまう。圧倒的な存在の前に、騎士団や王への苦言が消え、流されているプロパガンダを口にしてしまう。


 エアハルトは唇の端を上げ、


「数年前からかな……国境沿いでは、他国との戦闘が行われている。民には見えないようにしているだけだ。年々、異能者は数を減らし、そのせいで侵攻の機会は増えつつある。それが真実だ。

 教会は異能を〈祝福〉と名を付けた。そうやって我々を神格化、偶像化した。我々がいるから平和だと民に刷り込ませるために。だが、事実として、〈祝福〉だけで平和をもたらせはしない」


 狼狽しているダーヴィットを気遣ってか、エアハルトは、


「本当は君を騎士団に迎え入れたいが……それも難しい」


 ダーヴィットは、貧民街出身の元傭兵、かつ、汚れ仕事をしていた。それを騎士にさせるだけの仕組みがないのだ。〈祝福〉を持つ異能は、聖人でなければならないのだ。


「申し訳ありません……私の過去の行いが―」


「君は悪くない」エアハルトは静かに強く言い放つ。


「王が正当な評価を下せるよう、私が助言をする。新時代の騎士は君なんだ。輝く時代は君が作る、そのくらいの気持ちで行くことだ」


「ありがとうございます」


 ダーヴィットはそう言い、首を垂れる。


「話せてよかった、ダーヴィット。働きに感謝する」


 エアハルトの翼が動き、微風が生じる。エアハルトは手に持っていた花に息を吹きかける。花弁がダーヴィットを包む。


「す……凄い」花弁が自身を取り囲み、舞う姿にダーヴィットは言葉を失う。華やかな香りが身体を包んでいく。


「この国を救ってくれて、ありがとう」エアハルトは微笑み、去っていく。


 ダーヴィットは深く頭を下げた。

 読んで頂きありがとうございます。感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております!


 今作は、拙作「白銀の大剣よ、舞え」「黒の鉄腕よ、滾れ」の前日談ですが、時系列に若干の齟齬があります。

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