業火(インフェルノ)
王立騎士団は街を進んでいた。訓練で森へ向かった所で〈第弐位階〉の襲撃を告げられたのだ。
騎士団の中で一人だけ装備が軽装な者がいた。仮面を被った男で、仲間からダーヴィット、と呼ばれている従騎士だ。
貧民街に着くと、大量の土煙があがっていた。騎士団は歩みを止め、ダーヴィットは先頭へ向かう。
「誰かが足止めをしている……」騎士団長があり得ない、と言ったように呟く。
「〈祝福〉もなしに……リュディガー王太子だろうか。不甲斐ないと思っていたが、やるときはやるのかもしれんな」
〈祝福〉―それは驚異的な異能力の俗称だ。〈第弐位階〉と何らかの関係があるとされているが、研究は進んでいない。希少な性質であり、割合は数百人に一人とも言われる。その為〈祝福〉を持つ者は畏敬の対象となっている。王家(アイメルト家)はその後天発現の研究を長年続けてきた。
王立騎士団も異能者で構成されており、ダーヴィットもその一人だ。ダーヴィットの〈祝福〉は、炎を自在に操り、爆発を起こす力だ。その能力から、ダーヴィットは業火の二つ名で呼ばれている。
ダーヴィットは、怪物を足止めした者の思考を読み解き、感心する。ここならダーヴィットらの〈祝福〉を最大限に発揮できる。
「〈光撃〉はいないのか」騎士団長が部下に聞き、何かを話している。〈光撃〉とは、最強の異能力者と呼ばれている者だ。
「〈光撃〉は居ないようだ。私が足元を凍らせる。業火よ、骨も残すな」騎士団長が言う。
ダーヴィットは頷き、馬から降りる。彼の〈祝福〉も万能ではない。風が吹けば炎はかき消されるし、飛距離も限界がある。
ちらりと後ろに控える騎士たちを見る。どれもが王宮に仕える貴族たちだ。
―貴様らは安全地帯から見ているだけか
ダーヴィットは毒づきたい気持ちを抑える。呼吸を整え、気持ちを切り替える。そして、盾を構え、怪物に向かって駆けていく。
かしゃかしゃ、という音と共に怪物の姿が見える。もがき苦しみ、移動することができずにとどまっていた。
鋭い音を立て、骨が飛んでくる。咄嗟に盾で頭を守る。すぐそばに、獣の太い骨が突き刺さる。あれが頭に当たれば一撃で致命傷だ。ダーヴィットの脇に冷たい汗が伝う。
ダーヴィットは意識を怪物の頭部へと向ける。そして、精神を統一する。しかし、指が震える。
この力は、全てを焼き尽くし、大量殺戮を引き起こす。現に、何人もの敵を焼き殺してきた。彼らの絶叫が耳に木霊する。
「敵は化け物だ……」ダーヴィットは歯噛みし自分に言い聞かせる。そして、額の脂汗を拭く。そして、手に持った球状の陶器を握りしめる―中には自動で点火する装置と爆竹。手製の閃光爆弾だ。
「放て! 最大火力だ!」ふと、誰かの声が聞こえ、ダーヴィットは頭上を見る。そこには、一人の騎士―血塗れの姿。騎士にしては小柄だ。
言われなくても、やってやる―
ダーヴィットは風の流れを読み、火炎の位置を予測する。そして、閃光弾を放り、同時に鉄妖に指示を出す―陶器中の金属部分がぶつかり、火花が散る仕掛けだ。
手から丸い爆弾が離れていく中、怪物のすぐそばに倒れている子供の姿が見えた。爆弾自体は閃光しか起こさないが、ダーヴィットの〈祝福〉によって炎は大規模なものになる。
「にげ―」ダーヴィットが叫ぼうとした瞬間、誰かが子供に飛び掛かる。
爆弾が火花を散らし、周囲の空気が反応―怪物の頭部で、ぱっと蒼い光が炸裂する。まるで小さな太陽が現れたかのような光景だった。
空気が震え、衝撃波が身体を打つ。気が付くと、脚が地から離れ、風の中で身体が揺れている。耳が高周波で鳴っていた。誰かの悲鳴が聞こえるが、まるで水の中に居るかのようだった。
ダーヴィットは胃液を吐き、よろよろと立ち上がる。周囲に怪物の残骸が転がっていた。酷く血生臭い。
周囲を見るが、砕け散り、焼けた建物があるだけだ。しかし、大きな破片を誰かが押し出すのが見えた。ダーヴィットは、それを助け、破片を持ち上げる。すると一人の女性が転がり出てくる。まず見えたのは金色の長髪。
ダーヴィットは息を飲んだ。さっきの騎士―
透き通る白い肌、鼻筋の通った顔立ちと、アイスブルーの瞳は、鋭く冷たい印象を受ける。
「あなたは……」
「王太子妃様!」騎士の声に、ダーヴィットは、ハッとする。
この人がソフィア・アイメルト!
「王太子妃様……」ダーヴィットは慌ててソフィアに肩を貸し、助け出す。
ソフィアの右手は焼け、酷い火傷があった。その腕の中には一人の子供がいる。
「やり過ぎました。申し訳ありません」
「気にするな……それよりも子供を安全な所へ」そう言い、ソフィアは、気を失い、その場に崩れ落ちた。
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