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9-6. 美男子たちの密談 6

本日は行けるところまで、1時間ずつ更新します。こちらは2話目です。




 耳に入って来た言葉の意味をつかむのに、少し時間がった。


「アルフレード王子殿下は、この世界のすべての種族のあるじです。あらゆる種族と土地に、あまねく光と愛情を届けていらっしゃる。――そういった種族に、特定の誰かを愛しく思う感情は備わりません」


 つまりアルフレード王子には、恋愛感情がない。

 ずるいとか駆け引きとかではなく、それが種族としての性質なのだ、と。

 沙良は、このとき初めて理解した。


「あー……、そう、だったんだぁ……」


 呆然とつぶやく沙良に、なぜかファーニア姫も慌てた。


「あの、お妃君……? もしかして、ご存じなかったのですか、王族のそういったご性質を」


「今初めて知りました……。なぁんだ、そっかぁ……。あっ、ファーニア姫、わたしのことはサラって呼んでくれませんか? 今日ご親切にしていただいて、本当に嬉しかったです」


「まあ、あの、では、私のことも、ファーニアと呼び捨てになさってくださいませ。――もうひとつ、失礼なことを申し上げてよろしいでしょうか、サラ様」


「や、最初に失礼な話題を持ち出しのは、むしろわたしのほうでしたし」


 とりあえず、アルに恋愛感情が備わっていないという情報より衝撃的な話題はないのではないか。

 何度かためらってから、ファーニア姫はうつむいた。


「あの……。今までサラ様がこの事をご存じなかったのなら、それは王子殿下が秘密にするよう、命じられたからですわ」


 それはそうだろう。イルクなど、おもしろがって最初にバラしそうな性格だ。少なくとも、沙良の身近には緘口令が敷かれていたのだ。


「んん? なんでだろ?」


 首を傾げてしまった。アルフレード王子は、精霊王としての自分に誇りを持っている。種族として恋慕の情がないことを恥ずかしがるとか弱みと考えるとは、思えない。

 理解していない沙良の顔を見て、ファーニア姫は一瞬弱々しい笑みを浮かべ、またすぐにうつむいた。


「人間が両想いでなければ婚姻しない種族なら、サラ様は婚姻を断るかもしれません。それを避けるためでしょう。――アルフレード殿下は、本当に、サラ様と婚姻を結ぶことを願われているのですわ」


「え」


 なぜ、とファーニア姫に訊ねるのは、さすがにためらわれる。

 とはいえ、王子が沙良にこだわる意味が分からない。

 恋愛感情でもなく、政略結婚の相手としても、沙良は唯一無二の王妃候補というわけではない。

 アルは、お妃君と王妃は同じほうがいいと言っていたけれど、それとて絶対ではない。

 それに沙良がいなくなれば、また新しいお妃君が“天”から贈られると、リーニィ姫も言っていた。お妃君は、いくらでも替えの利く存在なのだ。

 ひとつの謎が解決したら、もっと大きな謎にぶち当たってしまった。

 沙良は頭を抱えたものの、目の前の悲しそうな姫君のほうが優先だと気を取り直す。

 ファーニア姫は、恋敵に、わざわざ教えなくともよい情報をくれたのだ。


「ありがとう、ファーニア。本当に混乱していたので、教えてもらって助かっちゃった」


 あえて軽く、話し続ける。


「相手からも同じ気持ちを返してもらわなきゃ好きになれない、って、よく考えたら強欲だよね。ファーニアは、どうしてそこらへん大丈夫なの? あ、樹の一族ってそういう人が多いのかな」


「強欲だなんて、そんなっ」


 思わず顔をあげたファーニアに、沙良のほうから笑いかける。

 赤くなったファーニアは、それでもぽつぽつと話してくれた。


「あの、たしかに樹木の一族はそういう性質が強いかもしれません。基本的に植物は受け身ですし。でも、相手に愛情を注ぐことを喜びと感じる者は、多いと思います」


「あ~、ファーニアは与える恋が好きなんだね」


「すっ、好き、というか……、性に合っているのですわ。私が相手を癒すことができれば、それがいちばん幸せなのです」


 リーニィ姫よりはずっと年上の成熟した女性に見えるけれど、それでもファーニアも、人間に換算すれば20歳そこそこの見た目だ。一族の筆頭令嬢ともなれば、対等に話す相手も少ないだろう。

 ファーニアの口が滑らかになるにつれて、まるで後輩と恋バナをしているような雰囲気になってきた。

頬を染め、潤んだ瞳で自分の恋の話をするファーには、ただかわいらしかった。


(決めた。――わたし、ファーニアの恋を応援する!)


 それはすなわち、沙良はアルと結婚しないということだ。

 いろいろ前途多難だろうけれど、決心したとたん、心が軽くなった。


(ああ、わたし、アルに恋しなきゃいけないって、けっこうプレッシャーだったんだな~)


 決してアルからは愛されないと知って、ほとんどメゲた。

 けれど、国が大変なことになると聞いていたから、形だけでも王妃になってできるだけ早く時間管理をマスターして姿を消そうと思っていたのだけれど、それもまた無責任ではないかと悩んでいた。

 そりゃ、いつかは次のお妃君も決まるだろうけれど、アルは千年待ったのだ。次の人も、いつ現れるか分からない。その間、露の女王のようにツラい思いをする種族が増えてしまう。

 ファーニアは、沙良の目だけでなく、周囲のほぼすべての人間から高評価だ。はっきり言って、資質という点では、沙良よりずっと王妃にふさわしいと思う。


(んでもって、アルのことが好き。おまけに、アルからの愛情を求めない。出来過ぎじゃない?)


 癒しと愛情を与えることで幸せを感じる、という樹木の一族の性質は、恋愛が分からない王族の伴侶となるにぴったりだと思う。


(ファーニアは恋が実って、アルは名実ともにすばらしい王妃を得る。わたしは日本に帰る知識をせっせと学ぶ。これぞ三方よし、Win‐Winじゃん!)


 これからは、何とかしてファーニアを王妃に就ける方法を考えよう。

 そうして沙良は、久しぶりの恋バナを思いっきり楽しんだ。



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