9-5. 美男子たちの密談 5
本日は行けるところまで、1時間ずつ更新します。こちらは1話目です。
3日後、ファーニア姫がお茶会という名の診察に現れた。
部屋もすっかり乾き、リーナもカナトもすっかり元気だけれど、念のため診てもらう。
ファーニア姫から優しく体調を訊かれ、手を握られていることに2人とも興奮し、真っ赤になっていた。
(うーん。診察というより、アイドルとの握手会みたいだな~。ま、いっか、2人とも嬉しそうだから)
ファーニア姫がもっとも時間をかけたのは、スズシロ様だった。
スズシロ様は濡れた身体が戻らず、まだなんとなくぶよぶよしているのだ。
「窓際に干したんですけど……」
「大根ですから……。一度濡れてしまうと、簡単に元通りとはいきませんわ」
「んだなぃ、サラ殿。そがん気にせんとよか。儂ゃ大丈夫じゃけん」
スズシロ様の口調は元気だけれど、やはり身体が重たいらしく、ぐてーっとごろごろしている時間が増えた。
ファーニア姫がスズシロ様を抱き上げ、しばらくの間2人きりで話す。
その後ファーニア姫がひとつ大きくうなずき、姫の手から淡いピンク色の光が出て、スズシロ様の身体から水が抜けた。
「おお~。すごかね~、身体が軽くなった気ぃするだでなぁ」
「うわ、ホントに軽くなってるよ、スズシロ様! よかったぁ~」
沙良の膝の上、定位置に座らせる。さらっと乾いた白い肌も馴染みのある触感だ。シワが増えたけれど、いったん水に浸かって脱水したのだ。少しくらいは仕方がないと思う。
(よかった、ファーニア姫に相談できて)
スズシロ様のことも心配だったし、それとは別に、沙良の動揺はまだ収まっていない。
あれから何度思い出してみても、アルフレード王子から愛を請われたことはあっても、愛を告白された記憶は出てこなかった。
つまり、アルフレード王子は、沙良を愛する気はない、のだろうか。
(え、なんかアンフェアじゃない? いや待てよ、もしかして妖精王の結婚ってそういうものなのかも……?)
人間の常識が通用しない世界なので、どうにも判断がしづらい。
ぐるぐる考えている沙良の前に座り、ファーニア姫が右手を軽く振った。ファーニア姫のお従きの侍女たちが焦った声を出す。
「姫様? あの……?」
「見えなかったの? おまえたち、みな下がりなさい。ヴァリューズ侍女長、私はお妃君とお2人でお話したいの。人払いを」
「ファーニア姫様、それは……っ」
「安心なさい。いま、私は医師としてこちらの棟に参っています。王妃様に女医が付くのは当然のことでしょう? 問題があれば、もちろんあなたにも報告します。今は下がりなさい」
厳然と、けれど優雅に命じられ、ファーニア姫の侍女たちは全員姿を消した。
ヴァリューズ侍女長は固い表情で沙良を見やったけれど、沙良もうなずいた。沙良にとっても、願ってもない機会だ。
ヴァリューズ侍女長も、意を決して頭を下げた。何度も振り返るカナトとリーナ、キリエを連れて退室していった。
少し混乱した空気を残して、広い応接室には、沙良とスズシロ様、ファーニア姫だけが残った。
「失礼いたしました、お妃君。少し強引でしたけど、根菜の精霊が、お妃君にはご心痛がおありのようだと、心配していましたから」
膝の上のスズシロ様と、ファーニア姫を交互に見て、沙良は、ファーニア姫に深く頭を下げた。スズシロ様を抱きしめる。
「もー、ありがとー、スズシロ様っ。大好きっ」
沙良が落ち着くまで待っていてくれるファーニア姫に、せめてものお礼にとお茶を注ぐ。
ものすごく恐縮されてしまって、思い切って訊いてみた。
「あの……。ファーニア姫は、自分のことを好きじゃない人を、好きになれますか? あっ、えっと、恋愛的な意味で!」
「えっ……」
絶句したファーニア姫に、沙良のほうも唇を噛んだ。
やはり、失言だったろうか。
ファーニア姫は、アルフレード王子の王妃候補なのだ。それだけならまだしも、おそらく、ファーニア姫はアルのことが好きだ。
(そしてわたしは王妃(予定)! いくらいちばん話が通じそうだからって、やっぱりファーニア姫に振る話題じゃなかったか……。わたしのバカバカ!)
「ご、ごめんなさい、ファーニア姫。今の言葉は忘れて」
「私はできますわ」
「え」
罪悪感と羞恥心でおろおろ口ごもった沙良に、ファーニア姫は莞爾と微笑みかけた。
その表情には、沙良への怒りも責める色合いもなかった。ただとても誇らしげだった。
「――お妃君は、番となる方に、愛を求めるのでしょうか」
沙良は見とれてしまって、静かなその問いかけにもしばらく答えられない。
「……番っ? あ、えっと、愛を、求める? そっ、そうですね、結婚するなら、できれば両想いがいいですねっ」
「そうなのですね……。あの、それは、人間にとっては普通のことなのでしょうか」
「え? えーっと、どっちかというと、そうなんじゃないかなあ、と。あ、いえ、国や立場によっても、違うとは思いますけどっ」
「ええ。私達の国でも同じです。高位精霊になるほど、そういう感情以外の事情が優先になります」
静かに言われて、沙良はうつむいた。
ファーニア姫は上品だから、庶民丸出しの沙良の意見を非難がましくならないように注意してくれているのだと、思った。
けれど、ファーニア姫の声はどこまでも優しい。
「最高位である王族の方々は、そもそも、そういった感情をお持ちではありません」
「――え?」




