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9-4. 美男子たちの密談 4


本日は4話更新しています。こちらは4話目です。




 そんな沙良の腰をさりげなく元の位置に戻し、王子は沙良の左手を取る。


「たしか現代のプロポーズには、指輪がセットなのですよね。左手薬指は心臓にもっとも近いと考えられているとか。サラ、どんな指輪をご希望ですか?」


「どっ、どんな指輪?」


「ダイヤモンドが定番のようですが、色石カラーストーンでもいいとか。サラは水・風・土・木の祝福を受けていますから、火の祝福の貴石はいかがでしょう。――イルク」


 傍でにやにやしていたイルクが手品のように、空中にいくつもの宝石を浮かび上がらせる。

 無造作にそれらをつかみ、アルは次々と沙良の左手の薬指に当てていった。


「ファイヤーオパール。火の精霊自身が閉じ込められている貴石です。ああ、サラは炎の色も似合いますね。――こちらはルビー。ピジョンブラッドの28カラット。まさに鳩の心臓の形です。同じ性質で、サファイアでもいいですね。コーンフラワーブルーならば水の加護も加わりますし、オレンジやピンクサファイアなら土の加護になります。希少価値の高いレッドサファイアなら、火の加護が二重になりますよ。どれがお好みですか?」


 お好みもなにも、沙良は赤いサファイアなんて物があることすら知らなかった。そして、ルビーと全然見分けがつかない。

 あわあわしている沙良に、王子は微笑みかける。


「やはりダイヤモンドがいいですか? 日本人の婚約指輪の98%はダイヤだそうですからね。ダイヤモンドも、火と土の加護が強い石ですよ」


 すべての石をイルクに返し、手品のように透明な石が宙に表れる。


「こちらは完全に透明な1,000カラット。200gですね。重さはいかがですか。大丈夫そうなら、もう少し大きい物を用意します」


「え、1,000カラット!? いえ、ていうか、カラットって重さなんですか?!」


「重さの単位ですよ?」


 知らなかった。200gなどと言われたら大したことなさそうだけれど、計量カップ1杯分である。物理的にも心理的にもそんな重い物を指に着けていたくはない。


「少しお待ちいただければ、5,000カラットも用意できますが、指輪としては重いでしょう?」


「1カラットって0.2gなんだあ。……って、1㎏!? 無理無理無理っ、ムリです!」


「そうですよね」


「重さの問題じゃなくてっ」


 うなずく王子にかみついたら哀しそうな顔をされて、思わず怯んでしまった。


「サラ。否定ばかりされたら、私も少しは傷つきます」


「う。そ、それは、おっしゃるとおりですね……。すみません……」


「私との結婚は同意いただいたのですから、指輪は受け取っていただけませんか。人間の婚姻では普通のことなのでしょう?」


「はっ、はいっ。ありがとう、ございます……」


 たしかに、ヤダヤダばかり言って代替案を出さないなんて、子どものダダと同じだ。

 少し反省した沙良の耳に、イルクと王子のナイショ話が届いた。


「な、やっぱり参考文献って頼りになんだろ? スパダリがちょっと弱ったところを見せると、女は弱いらしんだよ」


「サラは素直な性格なのですね、重畳です」


 ドヤ顔の公爵子息と、顔をほころばせている王子殿下に、沙良はぷるぷると震えた。


「だから、スパダリ劇場は禁止って言ったでしょ―――――っ!!」


 どうにもズレたアプローチを受けつつも、周囲は王子の味方だし、たいていはアルフレード王子の要望の何割かが通ることとなる。今回も、婚約指輪を受け取ることを承諾させられた。


「き、希望の宝石いしですか……? えーっと、あっ、火も水も、五大精霊全部の加護を受けられる石、とか、あるんでしょうか……っ?」


 ダイヤモンドなどねだろうものなら、とんでもないサイズが贈られてしまうだろう。この際ものすごく希少な宝石を頼んで、なるべく小さくなることを願うしかない。というか、見つからなければいっそう素晴らしい。


(わたしったらかぐや姫か? なんて贅沢な悩み……。でも切実なんだよ~っ)


 沙良としては、時間を稼いでいるうちに日本に帰る方法を身に着けて、アルには立派な王妃を迎えてもらうことがベストだと考えている。

 ただでさえゴージャスな衣食住をお世話になっていて心苦しいのに、地球に存在しないような宝石をもらっても困るのだ。


(ん? 日本に帰るとき、宝石も返せばいいのか? たしかに、婚約不履行となったら指輪は返すよね。……あれ? じゃあ、とにかくもらっとけばいいのか?)


 アルフレード王子のプロポーズを何度も受けるくらいなら、くれるという物はすべて受け取っておいてもいいのかもしれない。

 なかなか不遜なことを悩んでいる沙良に、イルクが不機嫌な声で呼びかけた。


「おい」


「…………」


「サラ。おまえなあ」


 くいっと頤に指を添えられ、強めに上向かせられた。


「アルがどんだけ努力してると思ってんだ。もうちょい真剣に恋に落ちろよ」


「は?! あのねぇ、そもそもそーいう考えが……っ」


 ムキになって振り仰げば、先ほどのアルよりもっと近く、お互いの唇が触れそうなところにイルクの顔があった。


(……う、わ……っ!)


 アルフレード王子の正統派美貌に気を取られがちだけれど、イルクとてそうとうの美男子だ。

 黒銀色ダークシルバーの髪は無造作に肩のあたりでひとつに束ねられ、背中に垂れている。暗い髪色との対比で、おもてはぞっとするほど白く、鼻筋も唇も細く端正に整っている。

 その繊細な印象を裏切るのは、常に揺らめき、燃え上がっているオレンジ色の双眸だ。


(キレイ……)


 自覚すると、急にどぎまぎしてきた。

 慌ててイルクを突き飛ばし、距離を取る。


いってぇな、なんだよ急に? ホント、もう少し品ってモンを身に着けたほーがいいぞ、おまえ……」


 いつも皮肉っぽく楽しげな声と雑な口調。感情に合わせて光り方を変える眼。


(ああ。イルクは、この声と目で、生きてる、って感じがする……)


 そんなふうに思って、やっと分かった。


(そうだ。アルフレード王子は、生きてるって感じがしないんだ……)


 もちろん、アルフレード王子は生きている。

 抱きしめられた腕も身体も温かいし、彫像のような顔も氷のような瞳も、以前よりはよく笑い、和らぐようになった。彼は、沙良の安全面も結婚についても、真剣に考えてくれている。

 それでも、沙良には、王子が遠く感じるのだ。

 しっかり抱きしめられていても、2人の間には必ず薄い膜がある気がする。

 その膜のせいで、沙良はいつまでも王子に近づけない。


(なんだろ。種族のちがい? でも、イルクには感じないのに……)


 そして、もうひとつ、大事なことに気づいてしまった。

 アルフレード王子は、いつも沙良に愛を求める。けれど自分は一度も、沙良のことを「愛している」と言ったことがないのだ。




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