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8-4. リーニィ姫とのお茶会 4

本日は6話を、12時から1時間ずつ更新いたします。こちらは4話目です。




「ヴァリューズ侍女長でさえキリエの態度を改めさせようとしなかったことといい、今のみんなの焦りようといい、つまり、キリエには人間を嫌ってしかるべき理由があるってことでしょ?」


 誰もが息を詰めて、沙良の口元を見つめている。


「それなのに、王子はキリエをわたしの護衛役に任命した。忠実なキリエは、必死でその勤めを果たしてる。じゃあさ、とりあえずリーニィ姫が王家の反対派に利用されてるかもしれない、という事態について働いてみたらどうかな? そっちのほうが、わたしを守る仕事よりはストレス減るんじゃないかなーと思って」


 沙良としては、機会があればいつか話そうと考えていたことだったので、すらすら説明できたのだけれど、沙良以外の全員にとって予想外の内容だったらしい。


「あとね。リーニィ姫が情報の受け手とは、まだ断定できないでしょ。今日の話しぶりだと、彼女も、誰かから聞いているだけだと思う。だからポイントは」


 反応のないキリエに、人差し指を立てて見せる。


「リーニィ姫のニュースソースは、元をたどれば一人かもしれない。傍若無人なお姫様なんてめちゃくちゃ利用されやすそうじゃない? うまく調べれば、黒幕の大物が釣れる可能性は高いと思う」


「――サラは意外に政治センスがあるんだな」


 イルクが本当に感心したような声を出した。


「このくらいサラリーマンなら普通だってば。あ、それでね、探索って2人態勢が基本だから、イルク、キリエと組んでもらえないかな?」


「はん?」

「……!」


 苦笑いで肩をすくめるイルクに対して、キリエは声もなく固まった。

 もしキリエが情報を流しているのなら、これでキリエがどう動くかを見極めればいい。自分が調査係になったこと、イルクの相棒バディになったことをどう扱うかでいろいろ分かってくるし、次の一手も決められる。

 王子には忠実なキリエが、アルフレード王子の側近を害するとは思えない。ついでに、この曲者クセモノの目をごまかすのは難しいとあきらめて、告白すべきことがあるならさっさとあきらめてしゃべってくれれば、なおいい。


「ヴァリューズ侍女長、キリエを下がらせてあげてよ」


 誰もが身動きできずにいたので、仕方なく沙良はキリエの腕を取り、ヴァリューズに引き渡す。

 部屋を出ようとするキリエに、沙良の声が追いかけた。


「わたしはキリエのこと嫌いじゃないから。気が向いたら、感じたことさっきみたいに言ってね。あ、でも、黒幕がものすごく大物だったら、まず自分の安全を優先にして。無事帰ってきて、わたしに報告するまでが仕事なんだからね? 健闘を祈る!」


 ヴァリューズ侍女長は、動揺しているリーナとカナトも連れて出て行った。


「あ――――っ、疲れた疲れたっ」


 沙良は心おきなくソファに寝っ転がり、スズシロ様を抱きしめた。


「ね。――言いすぎたかなあ、わたし」


「あ。ああ、いや? そうは思わないが。――ったく!」


 すぐそばにどかっとイルクが腰を下ろし、沙良は飛び跳ねた。


「えっ? えっ、イルク、まだいたの!?」


「……なんだよ、俺の存在感の薄さ」


 今のイルクは、いつもの何でも皮肉っぽくおもしろがる彼ではなかった。銀鋼シロガネの髪をぐしゃぐしゃにかき回しながら、乱暴にメノウ石の応接テーブルに両足を乗せた。

 さすがにそこまで行儀の悪い姿は初めてだったので、沙良はまた驚く。


「えっ。なに、わたし、また、ものすごい失敗をしでかしたとか……?」


「ちがう」


 きっぱり言い切った後、イルクは自信なげに微笑んだ。こんな表情も見たことがない。


「サラの言葉があまりに的確だったから、ちとショックで。キリエもそうだろうぜ」


 キリエもって、沙良はキリエに対してしか発言していないのだけれど、イルクには何が思い当たったというのだろう。

 沙良が首を傾げていると、イルクもようやく落ち着いた口調に戻った。


「――たいしたもんだ。俺はどちらかというと、サラの順応性や耐久性を評価していたんだが。読みも鋭かったんだな」


 しみじみと話すイルクに、沙良のほうが面映ゆくなってしまう。

 どうも、沙良の周囲はお妃君を過剰評価しすぎるきらいがある。キリエは反対に過少評価な気もするけれど、とそこまで考えて沙良はハッとした。


「もしかして、人間が下等生物だから? わたしが何か予想外にできちゃうとみんながオーバーに驚くのって、最初の期待値が低いからなの?」


だとしたら失礼千万である。けれど、イルクはあっさりとうなずいた。なんだそれ。


「だから~! わたしくらいの日本人、普通なんだってば! いつも言ってるじゃないっ」


 少しムキになった沙良に、


「――そうだな……。たぶん、俺たちが知っている人間像ってのが、偏っていたのかもしれないな……」


 恐ろしく真面目な顔で考え込んだまま、イルクは暇乞いとまごいを告げる。沙良は慌てて引き止めた。教えてもらいたいことがあったのだ。


「ね、なんで人間は嫌われてるの?」


「それを知る権利があるのは、王と王妃だけだ。正真正銘のタブーだな。アルに聞いてみろよ、今日は晩飯食えると言ってたぞ」


 いつもの皮肉な笑いを浮かべて、イルクも出て行った。

 沙良は黙ってスズシロ様を抱きしめ、そのまま眠ってしまった。




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