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8-2. リーニィ姫とのお茶会 2

本日は6話を、12時から1時間ずつ更新いたします。こちらは2話目です。




(わっかりやすいなあ、この子)


「あなた、分かっていらっしゃるの? 私、いまのお妃君と申し上げたのよ。あなたがいなくなれば、また次のお妃君が“天”から授けられるわ。いくらでも替えなど利くのですから」


(おっとっと。へえ、そうなんだ。まあ、王中心の世界みたいだから、そういうシステムもありか)


 それなら、沙良の気はよりラクになる。時間管理さえマスターすれば、後顧の憂いなく日本の帰れるというものだ。

 思わず口元のゆるんだ沙良を見て、リーニィ姫はいっそうカッとなった。


「アルお兄様は、誰にだってお優しいのよ。お妃君は国の重要なお役目だもの。義務感からあなたを大切に扱っているだけだわっ。愛されるなんて思っているのなら、大まちがいよ!」


「貴重なご忠告をありがとうございます。今のところ、わたしが王妃になることが“天の意思”のようですね。たかが人間風情には逆らうことは難しいようですわ」


 リーニィ姫は、沙良の挑発におもしろいほどノってきた。蒼褪め、掌のなかの扇をぱちんと閉じて、カフェテーブルに叩きつける。


「あ、あなたなんて……っ。なんの力もないくせに。毎日庭をどんくさく歩き回っていて、物の残留思念も読めない、お粗末な影絵しか作れない。触れも貧相だし、アルお兄様やイルクに守られていないと何にもできない者がこの国の王妃だなんて、私は絶対に認めないわ!!」


 ごもっとも、と沙良自身も思う。事実なので反論できないけれど、それとはべつに、これほど自分についての情報が流れていることには驚いた。

 背後のヴァリューズ侍女長とキリエも、息を飲んでいる。


(それにしても……。このお姫様は、オンナっぽくはあるけど、ずいぶん幼い感じだなあ)


 もっと怖いオンナを、沙良はいくらでも知っている。

 業務のメールをわざと一人にだけ流さなかったり、完成したレポートを上司が見る前に勝手に破棄したり、考えナシの男性社員を焚きつけてセクハラをさせたり。

 チンピラも顔負けの陰湿ないじめを行うのは、「女」の醜悪な部分を進化させた女性たちだ。

 目の前のリーニィ姫は感情をむき出しにし、ターゲットに直接文句を言うぶん、かわいげがあるくらいである。


「そうですね。わたしは知らないことだらけなので、いまアルからいろいろ教えてもらって、猛勉強中です」


「ムダな努力だわ。下等動物がいくらがんばっても、その血に力が根付くはずがないのよ。人間だもの!」


 どうやら話の切り上げ時だ。リーニィ姫の御付きはともかく、沙良の後ろからもうろたえた気配が漂ってくる。

 けれど、興奮したリーニィ姫は止まらなかった。


「下賤の者と同じテーブルで同じものを食すなんて、高貴な身分にはあるまじき行いですわ!」


 なるほど、だからリーニィ姫は、最初から紅茶にも菓子にも手を付けなかったのだ。

 今さらながら沙良にも、ヴァリューズ侍女長が念入りに整えたお茶と菓子を見て「もったいない……」とつぶやいた理由が分かった。

 それでも顔合わせに茶会を選ぶとは、固定観念が強すぎるのか、貴族特有の皮肉なのか。


「まあ、この国で人間より下等な種族など、辺境でさえも見つけられませんもの。城の下働きにかしずかれて悦に入るのも致し方ないかもしれませんわね。私には、道化にしか見えませんけれど!」


 リーニィ姫が言い放つ。

 怒りのオーラを隠し切れずに、カナトが一歩前に進み出た。人間よりは猫に近い指に、普段は引っ込めている爪が出ている。リーニィ姫はともかく、御付きのウサギを怯えさせるには、じゅうぶんだった。

 沙良は、カナトの手の甲を軽く叩いて、落ち着かせる。

 キレてくれたカナトには申し訳ないけれど、リーニィ姫の憎まれ口は的外れすぎて、沙良にはさっぱり堪えない。

 正直、身分が高貴だの血統がどうとか言う前に、ヒステリーを起こして他人ひとに扇を叩きつけるほうがどうかと思う。

 けれど、こういう相手にもっとも効果がある方法は、身分を笠に着ることなのだ。


「わたしのお茶会を認めてくださったのは、リーニィ姫の敬愛なさっているアル王子殿下です。最近ではすっかりわたしのお茶会のご常連になられて、わたしも嬉しく思っているんです」


 実際には、王子はあまりおやつには来ない。むしろイルクのほうがよくお茶を飲みに来る。

 リーニィ姫の情報力を確かめたかったのだけれど、


「アルお兄様が、そのようなことをなさるなんて……っ。王族として、わずかも道を外れるようなことはなさらなかったのに……っ。あなたのせいですわ! あなたに合わせて、食事まで一緒に摂られていると聞きましたっ。貴族たちの反対にもお耳を貸さず、お妃君ばかりに過保護になられて! おかしいですわ、あのようなアルお兄様、私のお兄様ではありません。なにもかも、あなたのせいです!!」


リーニィ姫は沙良の罠にまるっと引っかかった。

 叫んでいるあいだに感極まってきたらしく、黄金きん色が乱反射する瞳から涙がひと粒こぼれ落ちる。

 しずく型の涙はそのまま固まり、音を立ててテーブルに転がった。

 さっと扇を開き、顔を隠した姫が、それでもあくまで優雅に身をひるがえしたとき、沙良はつい本心から呼びかけていた。


「リーニィ姫、よかったら、またお茶に来てください!」





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